ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「失敗した」
おいらは心の中で頭を抱えていた。強い人を探して父ちゃん達に内緒でベンガーナまで出かけたけど、太陽が一番高いところに来るまで、おいらの村を助けてくれるような人には出会わなかった。
「はぁ」
冷静になって考えてみれば、大したお礼をすることもできないのに恐ろしい魔物をやっつけてくれるような強くていい人なんてそうそういる筈もないのに、考えが浅かったというか、なんと言うか。そんな中、運がいいことに港で見かけた強そうな兄ちゃんに魔物のことを引き受けてもらえて、少々浮かれてたんだと思う。どちらかと言えばあまりしゃべらない人だったこともあって、おいらの方が多くしゃべってはいたけど、まさか兄ちゃんがパプニカの人だったなんて。浮かれていた自分をひっぱたきたいけど、そんなことをしてもさっきの発言はなくならない。話題を変えたらあからさまなのに乗ってきてくれた辺り、ヒュンケル兄ちゃんはいい人なのだろう。いや、おいらのお願いを聞いてついてきてくれるってだけでもいい人なのは間違いないだろうけど。
「もうすぐ着くよ」
その後は魔物の話や前に村の人が見たって話してたメラゴーストのことを話したりしながら歩き続け、道が森へと突っ込んだあたりでおいらにもなじみの多い景色が見えてきて、振り返って言う。
「そうか」
「うん。もうちょっと遅い季節なら野イチゴとか摘んでこられるんだけど」
さっきの失敗を埋められそうなモノが、思いつかない。お隣のユタ姉ちゃんみたいにおっぱいが大きい大人の女の人なら話は別なんだろう。男の人の機嫌をとるなんて簡単よとか言ってたし。けど、おいらの胸はぺったんこで、ベンガーナに行くからって今は男の子みたいな格好をしてる。
「気にしなくていい」
「う」
おいらが悩んでること見抜かれちゃったのか、ヒュンケル兄ちゃんにそう言われるとどうしようもなくて。
「あ」
モヤモヤしてるうちに見えてきたのは、村の入り口のアーチだった。魔物が凶暴になったことでぐるりと村の周りを柵で囲うようになってしまったから、あのアーチのあるところが村に唯一の出入り口で。
「ヒュンケル兄ちゃん、あそこが村の入り口だよ……って、げっ」
示してからアーチの影に槍を持って立ってるおじさんを見つけて、おいらの顔は引きつった。魔物を見たって話があってから、ああやって交代で村の大人が門番をしてるんだけど、おいらはその門番の交代の間をついて村を抜け出してきたんだ。
「どうした?」
「あ、えっと、おいら勝手に村を脱けだしてきちゃったから……その」
まず間違いなく怒られる。ヒュンケル兄ちゃんに見られて、おいらは仕方なくそう白状した。もっとも、おいら一人なら柵の目の大きいところをくぐって村に入るのもできるけど、おいらが村を抜け出したことを隠してちゃ、ヒュンケル兄ちゃんを村の人に紹介なんて出来ない。
「ごめん、ちょっと先に行って怒られてくる」
せっかくヒュンケル兄ちゃんが魔物を何とかしてくれるかもしれないんだ。ここでげんこつの一つや二つから逃げるために、これまでのことをなしにしたくない。
「お、おじさん」
「ん? おま、マイナン?! 何で外に」
「実は――」
覚悟して話しかけると、おじさんは槍を落としそうなくらい驚いたけど、説明するとモンスターより怖い顔になって。
「この阿呆が」
「うぎっ」
頭に落ちたげんこつはおいらの想像より痛かった。
「ただでさえ魔物がいるかもしれねえってこうして見張ってんのに外に出てたぁ?! 何かあったらおふくろさんとあいつがどんな顔すると思ってんだ!」
「う、うぅ」
頭の痛みに響くような大声へ思わず耳を塞ぎたくなるけど、そんなことをしたらげんこつの数が増えるだけだろう。おいらはただ、耐え。
「っと、あんたがこいつの言ってた剣士様か。わざわざこんな辺鄙な村まで来てもらって、すまねぇ。俺はタッカー、こいつの家の隣に住んでてってそんなのどうでもいいわな、狩人をやってる」
ヒュンケル兄ちゃんに気付いたおじさんは、頭を下げちらりとこっちを見る。
「こいつがどんな話をしたかは一応聞いたが、今この村は目撃された魔物へ警戒態勢をとっている。ここにきての助っ人は正直ありがたいが、いいのか? こいつが約束できるモノってなるとどう考えてもアンタみたいな強そうな剣士様への報酬には見合わねえが」
「構わん、約束を反故にするつもりもないしな。ただ」
大人から今回のことについて色々聞かせてもらえればありがたい、とだけヒュンケル兄ちゃんは答え。
「そうか。すまねえ。それから、ようこそ森と生きる村サガサへ」
笑顔を作っておじさんはヒュンケル兄ちゃんへ言ったのだった。
実は女の子というよくあるパターン。
次回、番外34「村にて(マイナン視点)」に続くメラ。