ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「たぶんですけど、おれが招待に応じれば、ここをすぐに再攻撃することはないと思うんです」
時折、あの時の彼の言葉をおれは思い出す。メラゴーストの彼が去って、嘘の様に魔王軍の攻撃は止まった。魔王軍への勝利だと国内は沸き返るが、それはすべて彼のおかげだということをおれだけが知っていた、そう、あの時までは。
「防いだのも魔王軍の複数ある軍団の一つに過ぎず、犠牲も多々出ている。総力を結集して攻めてくるようなことがあれば、いかにカール騎士団でももたない」
再攻撃の可能性を口にし憂いていた彼の献身に応えるべく逃げることも視野に入れるべきだとした上で、おれは女王陛下にだけは彼のことを伝えていた。全てを秘してただ逃げてくれでは誰にも納得されないからだ。
「アレックス、おれはいつまで君を待てばいい」
時折、彼がのこした剣につい、語りかけてしまう。戻らなければロモスに返すように、その言葉は覚えているし、違うつもりはない。ただ、戻ってこなかったと断じることがおれはまだできずにいた。
「わかっている、このままではいけないことは、だが」
もし、明日にでもひょっこり姿を見せるのでは、と考えると剣を返しに行くのがはばかられ、今に至っている。時折彼を寝かせた民家に足を運んでしまうのも、それゆえに。
「度し難い、とも女々しい、とも思うがな」
君はこんなおれのことを知ったら、笑うだろうか。だが、独言に答えなど返ってくるはずもなく、ただため息が続き。おれは登城の支度をする。塞ぎこむことも騎士団長としての仕事を放り出すこともできないのだ。回復呪文や薬草で怪我から復帰した者もそれなりに居るとは言え、まだまだ人手は足りているとは言い難い。
「おれはおれの責務を果たさねば」
散っていった者の為にそして彼の為にも。
◇◆◇
「マトリフ? ああ、アバンの仲間の――」
訪ねてきた者がいると聞いたのは、疲労に肩を貸しながら自宅に戻ったあとのことだった。少しだけの期待と共に誰であるかを問うたおれが得た答えに記憶を掘り起こし、おれはそこでふと思う。
「アバンの仲間が何故」
アバンの故郷を守るためにと言うなら遅すぎる。理由が解からず、困惑しつつも会う気になったのは、彼がアバンの剣術を扱っていたからだ。その時は、わずかながらに共闘し、大きな代償を払ってこの国を救ってくれた英雄のことを少しでも知れたらと言う思いだったが。
「彼がここで何をしていたか、その後どうしたかを知りたいと?」
「ああ。オレの弟子がそいつの兄弟子でもあってな」
気にかけているといった理由まで明かされて、おれはようやく気づいた。彼が言い残した言葉の本当の意味を。
「忘れてくれ」
とはまさに今こういう事態になったときに向けてのものだったのだ。身内が気にかけ、場合によっては危険を冒してまで探しに来るのではないかと、それを危惧しての忘れて、だったのだと。
「悪いが話せることは大してない。魔王軍のカールの侵攻の時この国に居合わせて、たまたま共闘しただけの間柄だ。世話にはなったと思うが、その後については特に聞いていない」
故におれはその魔法使いには言葉少なく答えて引き取ってもらうことにした。
「本当か? 共闘したって割にゃずいぶんさっぱりしてるもんだが」
疑わし気な目でこちらを見てきて、嘘をついたことを見透かされたようにも感じたが、そう言われても知らないものは知らないと突っぱねて押し通した。
「これで、いいのだな?」
聞こえるはずもないことを承知でおれは剣に問うた。
「これまでにしよう」
そして決断する。この彼に預かった剣をロモスへ返しに行こう、と。魔王軍の攻撃が止まったままの今なら、ルーラの呪文が使える者の手を借りれば短時間で戻ってこられる筈だ。
「彼の思いに応えるためにも」
女王陛下と国民は守り抜く。それが一時国を捨てることとなろうとも。おれは決意を胸におれをロモスに連れていってくれる人材を脳内のリストから選び始め。
「しかし、彼の兄弟子か。出来ることなら言葉を交わしてみたかった」
感謝と謝罪とそして、語ることならきっと尽きないことだろう、だが、彼のことは話さない。彼自身がそう望んだのだから。
と言う訳で、ホルキンスさんは口を割ってません。
それでもマトリフさんが主人公の消息についての情報を半端に持ち帰れたのは、ホルキンスさんの独り言の方を幾らか盗み聞きしたからとかそんな感じ。
次回、番外37「男二人(ヒュンケル視点)」に続くメラ。