ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね   作:闇谷 紅

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番外48「新たな脅威との遭遇(ヒュンケル視点)」

「っ、海破斬」

 

 油断したつもりなどなかった。刀工の村でマイボと別れカール王国を目指していたオレが道中で襲われたのは一度や二度ではきかず、飛んできた攻撃呪文を断ち切ると、即座に鎧の魔剣を身に纏う。

 

「悪いがこれでもはや呪文は効かんッ!」

 

 遠距離から呪文で攻めて来るモンスターからすれば呪文の効かない鎧を身に纏ったオレは最悪の相手であろう。とはいえ油断は禁物。一気に距離を詰めて片をつけるつもりで呪文の飛んできた方へ駆け出し、茂みをかき分ければ。

 

「なっ、きとうし?!」

 

 想像していなかった敵の姿に驚く。敵の姿を目視するまで、相手は呪文を使う獣か何かの系統の野生のモンスターかとオレは思っていた。

 

「何故ここに妖魔士団が」

 

 魔王軍を抜けたのだ、裏切者を始末するために刺客が差し向けられることぐらいは覚悟していたが、呪文を得意とする妖魔士団は呪文の通じぬ鎧を持つオレへ差し向ける刺客として人選ミスと思わざるを得ない。

 

「オレの鎧に呪文が効かぬことぐらいザボエラならば承知しているだろうに……っ」

 

 そこまで考えて、オレはその場を飛び退く。呪文の効かぬ者に呪文使いを差し向ける、そこに理由があるとしたら。

 

「ぬっ」

 

 飛び退いて着地した足が、ぬかるみに滑る。

 

「ぬかるみ?! 雨など」

 

 降った覚えはないと続けようとして一瞥した足元に溜まっていたのは、水ではなくぬめりとした何かの油。

 

「キーッヒッヒッヒッヒ、今じゃ、やれい!」

 

 どこかから個性的なヤツの笑い声が聞こえたかと思った直後。

 

「ギラ!」

「メラゾーマ!」

 

 複数の呪文がオレの周囲に放たれた。

 

「しまった――」

 

 最初のきとうしがまず囮だったのだろう。オレを油をまいた場所に誘いこみ、呪文で着火する。

 

「火攻めか」

 

 たちまち周囲が燃え上がり、油のついたオレの足も燃え始める。

 

「迂闊だった、呪文が通じぬなら、普通の炎で焼き払おうということか――」

 

 呪文がこの鎧に通じぬことなどザボエラは百も承知だったのだ。

 

「気づくのが遅れたのう、ヒュンケル。その通り、ワシが呪文の通じぬ相手を直接呪文でどうこうするなどアホなことをする訳がなかろう」

 

 燃え上がった炎がオレの行く手を遮ったことに気を大きくしたのか、炎の向こうに姿を現したのは有翼の悪魔や術士系のモンスターを従えたザボエラ当人だった。

 

「ざ、ザボエラ様、私は――」

 

 その一方で、声をあげた者も居る。声にちらりとオレが視線をやれば、囮としてオレに攻撃呪文を放ったきとうしが炎に囲まれていた。

 

「あの時後ろに飛びのいたのも全く不正解という訳ではなかったということか」

 

 かまわず斬り捨てていたらいたで、あのきとうしのように炎に囲まれていたという訳だ。

 

「キーッヒッヒッ、おお、ご苦労じゃったな。何、心配はいらぬ」

「お、おお、お助け下さるのですね」

 

 ザボエラのねぎらいにきとうしの声が喜色を帯びるも。

 

「そこの裏切り者が一緒に地獄に行ってくれるでな、少なくとも寂しくはなかろう」

「え、そ、そんな……お助け下さい! ザボエラ様っ!」

 

 非情な発言にきとうしはうろたえ縋ろうとするが、ザボエラとの間は炎の壁が隔てており。

 

「やれやれ……」

 

 ただ、見くびられたモノだと思った。

 

「アバン流刀殺法、海破斬ッ!」

 

 形のないモノを斬るその技は、オレを包囲する炎すら断ち切る、そして。

 

「な、なんじゃと?!」

「しくじったな、ザボエラ! オレの鎧は呪文だけでなく、炎も吹雪も効かん!」

 

 故に些少炎が残っていようとも、切り裂いた場所からの突破は可能。

 

「お、おまえたち! ワシを守るんじゃああ!」

「え」

「あ」

 

 慌てふためきザボエラは部下に指示を飛ばすが、たった今部下の一人を捨て駒として見捨てた直後だ。守れと言われてすぐさま行く手を立ちふさがる気にはなれなかろう。

 

「その一瞬の迷いで充分だ! 喰らえ、ブラッディ―スクライドォ!」

「ひっ」

「ぎゃああっ」

「ぐわあああっ」

 

 ある程度固まっていたザボエラとその取り巻き達をオレの一撃がなぎ倒し。

 

「さて……覚悟、は……な」

 

 倒れ伏すザボエラ達の方に向かうオレを不意に眠気が襲う。

 

「なん、だ……こ」

「キーッヒッヒッヒッ、はぁ、はぁ、危ういところじゃったわい」

 

 立っていられなくなり膝をついたところで、耳障りな笑い声をあげてザボエラが身を起こす。

 

「おまえは火計で自分をワシがこんがり焼こうとしたと思ったようじゃが、あれもおまえの目と鼻を欺くための見せ札、本命はワシが放出した眠りの魔香気じゃ。空気に魔香気のみが混じっておれば気取られるやもと思っての、炎と煙でそれを誤魔化した訳じゃな」

「ぐ、う、ぬかっ……た」

 

 よもやこんな手にかかろうとは。そう思ったが、もはや瞼を開けていることも出来ず。

 

「おの、れ」

 

 最後の力を振り絞って刃を振るが。

 

「あらぁん、あぶないわねぇ」

 

 ザボエラでもその部下でもない声とともに割り込んできた気配に、おそらくオレの最後の一撃は防がれた。

 




ザボエラ、まともに計略練れば普通に強いという。

詰めが甘かったですけどね、今回は。

次回、二話「きわどいところ」に続くメラ。

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