ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「……よい、二人とも。余はお主を誘った時に姿を見せてもよいと考えておったのでな」
前者は振り返ったミストバーン及びキルバーンに向けたもの、後者は俺に向けたものだろう。まるで座るのに飽きたから立ち上がった程度の気軽さで人影が薄布の間をくぐり。
「おまえたち二人にしか見せた事のない余の素顔であるが、この者ならば余が素顔を見せるには充分値しよう」
姿を現したのは、原作知識ですでに知っている老魔王の姿そのもので。
「……どうした? あまり驚いてはおらぬようだが……」
俺にかけられた声が原作のハドラーに向けたものと違うのは、実際俺の驚きはこのタイミングで姿を見せるのというたぐいのモノだったからだ。
「いえ、おれは新参者でバーンさまのことはあまり知りませんから。こう、前情報で『こういうお方だ』とお聞きしているなら『想像通りだ』とか『思っていたのと違う』のような反応も出来たかもしれませんけど」
部下になってから日の浅い俺では、へぇこんな姿だったんだ程度の驚きにしかならないという建前を口にし。
「ハドラー殿や古参の部下の方ならもっと反応も違ったかもしれませんが」
「ふむ、言われてみればそうよな」
俺の説明で納得はしてもらえたのだろう。
「しかし、ハドラーか……」
ただ、俺は余計なことも言ったのかもしれない。原作で二人の次に大魔王の素顔を見たのがハドラーだったためにうっかり名前を出してしまったが、この世界のハドラーはバルジ島でダイ達に負けてから俺への引継ぎ業務くらいしかしていないのだ。
「ザボエラ主体の作戦をとるのは良い、だが、ハドラーがそれに納得すると思うのか?」
と問われれば、俺はまず間違いなく言葉に詰まる。実際それを聞いたら、なぜ自分を使わずザボエラなのかと抗議してくるのは明らかだからだ。
「トゥース、お主は今のハドラーをどう見る?」
「は?」
しかし、大魔王が口にしたのは俺の想定からは外れた問いであり。
「ハドラー殿ですか?」
オウム返しに問うことで考える時間を稼ぎつつ、俺は大魔王の質問の真意を考える。裏もなしに考えてこたえると言われたなら、今はビミョーだが成長する可能性はあるとか答えるところだが。
「過去に魔王として君臨していた訳ですし、指揮官としても政務者としても一定以上の能力は持ち得ているかと」
俺が口にしたのは、最近失敗続きだったとか人格面でアレだとかのマイナス評価を取っ払った、純粋な人材としての評価。そも、ああ見えてハドラーは魔王をやっていた訳で、部下への指示やら立案された作戦への採用不採用の判断とか上に立つ者として相応のことはこなしてきている筈なのだ。人間より自分の命の方が何百万倍も価値があるとか口にしてたあたり、為政者として見るならアレすぎるが。戦闘面では無双できるかもしれないが、勝負が料理対決とか絵画対決みたいなモノであれば百万人の人間の方がよりうまい料理や素晴らしい絵を作り上げるに違いないと思うので、戦闘力だけが評価基準になってる時点で王としては原作でマトリフさんの言ってた三流魔王は優しめの評価だったと思う。
「あ」
ただ、そこまで考えてから、気づいたことがある。
「なんだ?」
「あの、ひょっとしてですが、ハドラー殿を文官……内政担当に異動されるおつもりですか?」
だとしたら、それはやめた方がいいと思う。戦闘力優先主義をはびこらせた結果があの文官たちの修羅場だったのだから。あそこに身を置いて書類仕事の大変さとそれを鑑みない他の連中の様を思い知らされれば、文官面で覚醒する可能性もあるかもしれないが、そこに至るまでにせっかく人員増やして少しは楽になったはずのあそこが地獄に何歩か逆戻りしかねない。
「お主がそれを勧めるというなら、余も考えてはみるが」
「いえ、それはないです。ハドラー殿には別にやって貰いたいことを考えておりますので」
実際はそんなモノはないのだが、ここでじゃあ内政担当に異動ねとなったら今度こそハドラーが暴走したって俺は驚かない。この時点であの爆弾を仕込まれてるハドラーに好き勝手動かれるとか割と悪夢でしかない。ザボエラメインの作戦の時かバランのダイ達との再戦のときにどこかで役目を作って目の届く範囲でガス抜きするしかないだろう。
「そうか、ならば良い」
ともあれ、その場しのぎの言で大魔王は納得してくれたようで、薄布に覆われた玉座の前から徐に歩き出すと、バルコニーに向かいながらついてまいれと一言口にし。そして謁見の場は移された。
◇◆◇
「……たまにはこうして外で飲むのもよいものよな」
バルコニーに設置された椅子に大魔王が座った時点で、俺は嫌な予感がし始めていたが、そんな俺に気づいてか気づかずか、ただ大魔王は傍らのテーブルにいくらか中身を減らした酒杯を置く。
「トゥースよ。お主は自身の分体とはいえ、我が軍へ優秀な人材を齎してくれた」
「は」
大魔王の言うそれは、まごうことなき事実だ。今のところ成果をあげているのはほぼ書類仕事のみではあるものの、文官からは感謝の言葉も貰っている。
「そんなお主の功績にどう報いるかを余は考えた……」
言いつつ手を伸ばす先にあったのは、一つのチェス盤。
「あっ」
声には出さず胸中で俺は声を漏らす。原作知識のある俺としては何故チェス盤なんて思うことはなく、この後の展開がもうわかり始めていた。
ハドラーの災難はきっとまだ終わらない。
次回、七話「信賞必罰5」に続くメラ。