ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「なんだか原作を思い出すなあ」
なんてとても口には出せないが、注意していなければ視線が遠くなりそうな状況の中、傅いたままの俺の前の大魔王は無言で独りチェスを指し続けていた。時折考えて手を止めつつ視線をチェス盤にのみ向けるこの光景を見て、原作のハドラーは目前に居る老体の大魔王も今の自分ならあっさり殺せるのではないかと思ってしまうのを俺は知っている。ただ、原作と同様にチェスに興じる大魔王の側にはキルバーンとミストバーンが控えており。
「……ためしてみるか? トゥース……」
「あ」
たぶん、原作ハドラーのことを思い出してあの時大魔王に挑みかかるなら、ミストバーンとキルバーンをどうするつもりだったんだろうと二人に一瞬注意を向けたのが仇となったのだろう。
「いえ、お手合わせでしたら、こう、周りのモノを破壊しないような場所でお願いしたいかと」
ニヤリと笑う大魔王にテンパった俺はつい、そう答え。
「くっ、ふふふっ、ふはははは……そう来るか、ならば近々機会を設けよう。余もお主の強さには興味があってな」
「バーン様?!」
「ミストバーン、案ずるのはわかるが……余とてただ座すばかりでは腕も鈍ろうというものよ」
たまにはよかろうと愉快そうに笑う大魔王を見て、俺は胸中で叫ぶ、どうしてこうなったと。
「しかし、お主も食えぬヤツよな。並みの者であれば先の言でただひれ伏し許しを請うだけであったろうが……」
「ええと、キルバーン殿辺りは似たような反応しそうだと思うのですが」
実際原作ハドラーも平身低頭して許しを請うていたよなと思いつつ、俺は視界の端に認めた死神を苦し紛れに道づれにしようとするも。
「いやいや、ボクにそんな恐れ多い真似はとてもできないよ」
キルバーンはあっさり首を横に振り。
「まぁ、よい。日時は後に詰めるとして――」
俺とキルバーンのやり取りをさらりと流した大魔王は再びチェスの駒を動かしつつ、俺への報償の件に話を戻し。
「おまえが分裂によって戦力を自身で増やせることは既に聞き置いている。だが、分裂して増やせるのは己と同じメラゴーストのみであろう? モシャスの呪文を用いれば一時的に弱点を補えるとしても、それだけでは困ることもあろう」
「っ」
そう指摘されると、俺としては言葉がない。例えば、このバーンパレスの入り口は海中に没しており、そこを守るには俺も分体のメラゴーストも不適当だ。炎の身体で海に入るという時点でもう自殺行為でしかないのだから。
「……このチェスという遊び……なかなかに奥深い」
俺が沈黙する中、チェスについて大魔王が語り始めたことで、俺のほぼ確信だった予感は気のせいだったという逃げ場を失ってゆく。原作でハドラーに同じことを語った大魔王は、オリハルコン製のチェスの駒を下賜し、ハドラーはその駒から自身の親衛隊を作った。このままだと、そのオリハルコン製の駒は俺が下賜されることになる。
「良し、ロン・ベルクのところに持ち込んで装備にしてもらおう」
そう、俺が心の中で呟いたってきっと仕方ないと思う。
「チェスの面白さは5種類の能力の違う駒を駆使して王を守り抜くことにある。前進し敵を倒す兵士――」
俺が現実逃避する間に大魔王の解説は各々の駒へのものへと移行しつつあり。
◇◆◇
「……はぁ」
俺は禁呪法は使えない。故に駒を貰っても使い道はないのではと指摘してみたのだが、結局俺の抵抗は無駄に終わって、嘆息する俺の腕の中にはオリハルコン製のチェスの駒が五つ抱かれていた。
「おまえには使えぬ? ならばハドラーにモシャスし、当人から指導を受ければよいではないか」
なんて、俺さえ気づいてなかった打開策まで与えられてしまったのだ。確かに、禁呪法が技術ならモシャスでハドラーに変身すれば使用できるかもしれず。
「『これ』抱えたままザボエラのところに行くわけにもいかないしなあ」
結果として俺はザボエラのところへ向かうのを後回しにして、ハドラーの元を訪れる途中だった。
「うーん」
気が重い。ただでさえハドラーから魔軍司令の座を奪って、引継ぎ業務までさせてるって言うのに、大魔王様からご褒美貰っちゃったから活用するのに協力してとかどの面下げて言えるというのだって思う。
「やはり装備の方が……」
原作だとオリハルコン製の魔法生命体だという割にはこの駒から作られる奴らはバカバカ身体の一部を破壊されてた気がして、俺はどうしても迷いが生じてしまっていた。
「模擬戦もあるだろうから強い装備はあって困るモノじゃない。……だからって今更に覇者の剣を返して貰いに行くこともできないし……うん?」
そこまで口にして、俺はあっと声を漏らす。
「そうだ、覇者の剣!」
ホルキンスさんに預けたままであったことを俺は今更ながらに思い出したのだった。
次回、八話「信賞必罰6」に続くメラ。
「ハドラーの天才禁呪法教室」という血迷ったタイトルと迷いかけたのは秘密。