ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「へぇ……なかなか広いわね」
いいじゃない、と俺は言う。ひょっとしたら閉じ込められたりとか罠にかけられたりするかなとも思ったのだが、そんなことはなく俺の申し出を受けたアポロは兵士の練武場と思しき所へ普通に俺を連れて来て、周囲を見回しての感想だった。そのまま俺は推定練武場の中央に移動し。
「さてと、それじゃ、始めましょうか」
アポロ達の方を振り返って言い。
「回数以外は制限するつもりはないから、不意打ちとかも構わないし、攻撃回数を守るなら十人以上で挑んできても一向に構わないわよ?」
「くそっ舐めやがって!」
「いかん、待て!」
続けた補足に激昂した騎士らしい人物が剣を抜き斬りかかって来て、それを見たアポロが制止の声をかけるも少々遅かった。
「はい、一回」
「ぐっ」
振り下ろされた剣が折れ残った柄を取り落とした推定騎士が呻く。
「ばっ、バカな」
「剣の方が折れるなんて」
ここに来るまでに途中で合流した賢者っぽい女性と別の騎士が驚愕しつつこっちを見るが、アポロは想定の範囲内だったのだろう。驚いた様子は殆どなく。
「物理面の防御に自信があったから敢えて挑発したのだろう」
「アポロはそれで待てと」
「そうだ。だが、これで同じ手は二度と食わない。いくぞ、マリン!」
こちらの言動の理由を推測したアポロは女賢者の名を呼んでから人差し指をこっちに向け。
「メラゾーマ!!」
「ヒャダイン!!!」
僅かにタイミングをずらして放たれた二つの呪文は俺に向けて飛来し、先に到達したメラゾーマの炎が俺の視界を遮ったかと思えば、遅れて到達した冷気が一気に炎を冷やし。
「やったぞ……っ?!」
「残念賞、これで合わせて三回ねぇん?」
炎が消えて俺が平然としているのを見たのだろう、晴れた視界の先でアポロが引きつった顔をしていたので、俺は指を三本立て。
「効いてない?!」
「だっ、だが、メラゾーマとヒャダインの温度差を受ければあのローブが鎧の様に固くとも――」
「あー」
驚く女賢者とは違って、悔し気だが呪文が無駄になったわけではないと主張するアポロを見て、俺はポンと手を打った。原作でフレイザードがパプニカの騎士の鎧を温度差で砕いていたのを流用して剣も効かない防具を破壊しようと考えたのだろう。
「非常に申し訳ないんだけど、この衣……そもそも炎や吹雪、呪文が効かない遠距離で呪文を撃ち合う魔法使い用のモノなのよね」
「は?」
「だから、温度差も意味ないと思うわよぉん? 呪文自体効いてないと思うから」
例外があるとすればデイン系の呪文だが、ここにダイは居ない。
「じゅ、呪文が効かず剣も効かない?!」
「そんなの、どうすれば?!」
「流石に聞かれても答えるわけにはいかないわよ。こっちに聞いてる訳じゃないと思うけど」
と言うか、俺があちらの立場だったとしても有効打は思いつけない。ヒュンケルと違って今の俺には竜闘気があるので、向こうにクロコダインが居たとしてもやけつく息は効かないだろうし。
「あーそうそう、降参なら降参でいいわよ? 今日は挨拶だけのつもりだったからこのまま帰るし」
「なっ」
「あら、それも不満? だったら、今は居ないお姫様とかダイちゃん達を助っ人に連れてきたかったりする? それなら、日を改めて続きをしてあげてもいいけど」
全力でふざけてる上に相手をなめ切った発言だが、むろん俺も考えなしにこんなことを言ってるわけではない。相手が何をしても全く倒せないどころか手傷さえ負わせられなければ、格の違いにたいていの相手は絶望する。バーンを始めとした魔王軍側にはとりあえず心から殺してみようと思いましてと言う言い訳ができるし、アポロがどうしようもなくなってダイ達を頼れば、目論見通りテランからダイ達を引きはがしこっちにおびき出すことが出来る。
「ぐっ、ぐううっ」
「どうするのぉん? アタシも暇って訳じゃないし、そろそろ決めて欲しいんだけどぉん」
こう凄い顔をしてるアポロを見るとかなり申し訳ない気がして来るが、煽るのはやめない。モシャスの効果時間と言うタイムリミットのある俺としても、パプニカサイドの長考に付き合う訳にはいかないのだ。
「ふわぁ……んっ、あらやだ、寝不足かしら? けど、流石にここに寝っ転がる訳にはいかないわよねぇ」
生存には睡眠も不要なはずだが、敢えて欠伸をするふりをして目をこすり。
「ジャンケンぽん」
一人じゃんけんをし。
「んー、アタシ遊び人じゃないし、一人遊びって他にどんなのがあったかしら?」
「おい」
真剣に考えて居たところで、声をかけられ振り向けば、今にも憤死しそうな表情の三賢者筆頭が居て。
「……本当に何もせず帰るんだな?」
「アポロ!」
「アポロさま!」
周りが口々に窘めるよう声をかけるが、当人とて断腸の思いだろう。
「もちろんよ。アタシ、約束は割と守る方だし」
必ずと言いきれないのは、師匠の正義の魔法使いになってくださいと言う約束を果たせていないからだが。
「ともあれ、そういうことならアタシ帰るわ。あ、助っ人呼んで再戦とかするなら、バルジ塔の天辺にでも日付を指定した看板か何かを置いておいてちょうだい。賢者って言うくらいだし、ルーラの呪文くらいは使えるんでしょ?」
確か原作でアポロと女性賢者の姉の方はルーラを使っていた気がしたのでそう確認し。
「ああ」
「じゃあ、いいわね。お騒がせしたわ」
俺は片手を上げるとその場を後にした。
今回のパプニカの被害、アポロの頭の血管、パプニカの騎士や兵士の士気他。
ちなみに勇者サイドの分体が数人でてきて調子に乗ってた主人公が頭抱える(わからせ? ざまあ?)という没展開も考えてました。
次回、二十話「勇者、動く」に続くメラ。