ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
『さてと……モシャス」
去っていったばかりのバランの姿に俺はモシャスの呪文で変身すると衣の魔杖を脱ぎ、ブーケの様な形状へと戻す。
「最初にあのマイボって人をどうにかしないとだしな」
おびき出すなら、バランの格好が一番であり。
『モシャス』
炎の闘気をメラゴーストの形に分離変身させれば外見上バランと見分けはつかなくなる。
「あとは残ってる連中をどうやって引き離すかだけど――」
『そこは』
『任せておいてくれ』
俺の独言に応じたのは昨日俺をボコボコにした分体達だ。
『現状ヒュンケルが捕まってることはあちらは知らないんだろう? それなら、ヒュンケルに化ければいい』
「なるほど」
『そもそもヒュンケルも元魔王軍。バランとは面識がある訳だしな。バランの目撃情報をねつ造して案内するという名目で連れ出した上で、魔軍司令さまがその格好をチラ見せすればいい』
それだけのことだと分体は続け。
「口先だけじゃなく実際に当人まで姿を見せれば信じるってことか」
穴らしい穴もなさそうだったので、俺はその分体の案を採用し。
『モシャス』
呪文を唱えた分体の一人が、ヒュンケルそっくりの姿に変わり。
『トゥース様、その杖をこちらに。俺が適当な人物に化けてそれを纏おう』
「なる程。それじゃよろしく」
バランが魔軍司令の装備を持っていては確かに不自然だと思った俺はもう一人の分体へ手にしていた杖を預け。
『モシャス』
「ちょ」
杖を受け取った分体が変身した姿を見た俺は思わず顔を引きつらせたのだった。
◇◆◇
「さ、まずは同胞のお手並み拝見と行きましょ」
衣の魔杖を身にまとったそいつは微妙そうな表情の俺に俺が使っていたオネエ口調でそう言うと、様子を見守るよう促した。モシャスの効果時間にも限りはある、故に姿を変じたならさっさと動く必要があるのもわかってはいた。
「ダイ達とおれたちのこれまでだけど――」
袋叩きにされた前後で、分体たちにはこれまでの経緯についてはそう前置きして説明してある。いや、説明しなければ力づくで吐き出させられただろうが。ともあれ、バランがダイ達と二度戦ったこと、二度目は俺も一緒に居てマトリフを引っぺがすため途中で別行動になったこと、マイボと言う以前俺が重傷を負わせたバランを助け今もバランを説得すべく行方を探しているバランの恩人で原作にいなかったイレギュラーが存在してることなど、色々話はした。
「……まぁ、そうだよね」
もう変身呪文でヒュンケルに扮した分体は動き始めているのだ。レムオルで透明になったまま様子を見守る以外の選択肢などなく。
「そろそろ『ヒュンケル』がいつ見つかってもおかしくないところまでテランに近づくわぁん。ここからはおしゃべり中止よぉん」
透明のまま、俺は分体の言葉に頷くと様子を見守り。テランへ向けて歩んでいた分体の前にやがて特徴的なフォルムの頭部をした人影が現れる。
「ヒュンケル、ヒュンケルじゃねえか」
「お前は」
どたまかなづちを被った男の名はマイボ。テランの入り口にこのオッサンが立っていたのは見張りかそれともバランの再訪を予期して待ち構えていたのか。明らかに人外であるクロコダインや老齢のマトリフを外に立たせるのは問題があると考えれば、このオッサンが外に居るのは理に適っているとは思うが、マイボがこれ程親し気にヒュンケルの名を呼ぶことが俺には想定外であり。
「カールの様子を見に行くって言ってたもんな。何かあったから戻ってきたんだろ?」
「あ、ああ」
俺の記憶にないからこそ、分体も二人の関係がわからず、どうしても反応は後手に回る形で探らざるを得ない。穴がないとあの時思っていたが、ヒュンケルに化けて接触するという策はいきなり雲行きが怪しくなり始め。
「それで、おまえは何者だ?」
「は?」
親し気な雰囲気のままマイボの投げた問いに、ヒュンケルに化けた分体は固まった。
「ドラゴンキラーを持ってないくせにそのことについて一切触れねぇ。その一点が不自然すぎるんだよな。本物のヒュンケルなら、そこにまったく触れねぇってのがまずありえねぇ」
「っ」
マイボの続けた指摘で俺は偽ヒュンケルな分体とシンクロするように顔を歪める。しくじった、ヒュンケルが何故かドラゴンキラーを持っていたことは知っていたが、俺が見たヒュンケルはザボエラの策によって眠る直前。ドラゴンキラーを得た経緯については聞き出せなかったのだ。まさか、そこからニセモノと見破られるなんて想像もしていなかった。
次回、二十二話「想定の外」に続くメラ。