ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「クロコダイン!」
俺達の視界の中で空を見上げ手を振ったヒュンケルが叫ぶ。上手く気を引いてくれることを祈りつつ俺達はその光景を見守り。
「ヒュンケル、戻ってきたのか」
これに気づいた獣王が鳥の魔物に肩を掴まれたまま下降してくる。俺達が待つのは、クロコダインが地に降り、鳥の魔物が離れたタイミングだ。すぐに飛び立てなければ、こちらに気づき慌てて追いかけようとしたとしても、追い付くどころか空に上がってきた時にはこちらの姿は飛び去ってない筈。
「ああ。ところで、あいつの分体がこちらに来なかったか?」
「分体?」
「そうだ。偶然出会ってな。オレには他にも気になることがあってドラゴンキラーを託して先に戻るよう言ったんだが――」
偽ヒュンケルの問いへ着地した本物ダインがオウム返しに聞き返し、頷いた偽ヒュンケルがそんなことを言う。アドリブが効き過ぎではと思わないでもなかったが、頃合いかとも思った。
「オレの方が先につく……途中で何かあったか? クロコダイン、オレは来た道を引き返してみる。ダイ達には」
だから、偽ヒュンケルの言葉を聞けたのは途中までだったが、なる程そう言う名目で離脱するつもりなのかと感心し。
「ルーラ」
獣王が偽物のヒュンケルとの会話に気をとられている間に、俺達は瞬間移動呪文でその場を去る。
「……危なかった、まさかあんなタイミングでクロコダインが飛んでくるなんて」
いずれにしてももう過去形ではあるが。景色は飛ぶように流れ、海が見え始めて、やがてたどり着いたのはあの漁村。
「その内誰かが気づきそうな場所に転がしておこう」
「そうねぇん」
出来れば起こされるか起きるかしてテランに戻ってくるとしてもそれまでにある程度時間を稼いでおきたい。そんな打算からすぐ村人の目につくところにはマイボを置けず。
「じゃあ、ここで」
俺達が選んだのは、一日に何度かは足を運ぶであろう薪置き場だった。ちょうど薪の束を枕にする形でマイボを横たわらせ。
「これでよし、っと。後はテランに一度戻るかな」
テランの面々にバランの姿を目撃させることは叶わなかったが、マイボはテランから姿を消し、偽ヒュンケルの虚言をクロコダインが持ち帰ればテランに残留した面々を混乱させることもできるかもしれないが、それでも偽ヒュンケルは回収せざるを得ない。マイボに見破られた件もある、バレてクロコダインと戦闘になっていることだってあるかもしれない訳だし。
「パプニカも気にはなるんだけどね」
再戦を約束もしているので、バルジ島の塔には足を運ばねばならないが、そちらは偽ヒュンケルを回収してからでも遅くはない。
「偽ヒュンケルの方、見破られてマトリフまで参戦したら詰むからなぁ」
クロコダインには自身を運ばせた鳥の魔物が居る。助けを呼びに行く人員は居るのだ。
「あ、ヒュンケルの話を真に受けてマトリフを呼びに行かせるってパターンもありうるか」
となるとやはり偽ヒュンケルと合流しないと拙い。
◇◆◇
「……そう思ってたんだけど」
戻ってきた俺達が見せられたのは、クロコダインに連れられる形でテランの方へ向かう偽ヒュンケルの背中だった。
「たぶん、『おまえの口から見聞きしたことを話していってくれ』とか言われたんじゃなぁい? それで立ち去るタイミングを見失った、とか」
「あー。つまり、あれをどうにかするにはおれが姿を見せて報告しに行く流れを止めなきゃダメか」
その上で二人を撒いて、偽ヒュンケルは俺を追いかける名目でそのままフェードアウトする流れだ。
「けどそれって、大魔導士が現れるかもしれない……よね?」
「そこはまぁ、気づかれない方にかけましょ。ぐずぐずしてあっちがテランに到着しちゃうと更に不味いことになるわぁん」
「はぁ」
オネエ口調の分体の言うことも一理あって、嘆息した俺は透明化呪文が切れたのを確認し、わざと足音をさせつつ歩き出す。
「っ、バラン?!」
「なにッ?!」
最初に気付いたのは偽ヒュンケルな分体の方だった。その声でクロコダインも振り返り。
「ヒュンケル、それにクロコダインか……」
バランの口調を思い出しつつ、俺は口を開いた。
次回、二十四話「獣王」に続くメラ。