ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「ディーノやあの魔法使いの小僧はどうした?」
俺が発した問はバランならばまずしたであろうと思われるモノ。もっともポップに関しては当人に申し訳ないが、ついで程度のものだったが。
「……さてな」
「ふむ」
クロコダインはこれにとぼけて見せた。あちらの立場としては、それしかなかったのであろう。テランに居ると嘘をついたところでそれならここに駆けつけてこないことでこちらは疑いを持ったであろうし、本当のことを口にしたなら、バランが自分たちを無視してパプニカに向かいかねないとも思っていただろうから。
「白を切ると言うなら、それでもいい。貴様らの思惑など私にはどうでもよいことでもあるしな」
「なに?」
「貴様らでは私をどうこうすることなど出来ん。そして私としても貴様らをここで倒すことなど容易いが、そんなことよりもディーノのことの方がはるかに重要だ」
実際は偽ヒュンケルが味方であるからここで戦闘は拙いと言うだけだが、本物のバランであってもこの場面ならまず間違いなくダイのことを優先する筈。だからこそここで去ろうとしても不思議はなく。俺は踵を返し。
「待て、バラン!!」
「スカラ」
呼び止めようとするクロコダインの声に被せ、あちらには聞き取れない程度の声で防御力上昇呪文を唱える。ヒュンケルに化けた分体なら、俺の言動でここが離脱に都合の良いタイミングだと察してくれるだろうが、声以外でクロコダインが俺を止めようとする可能性は否めない。
「待たんか! くっ」
敢えてトベルーラで飛び立つことはせず、歩み去ろうとすれば偽ヒュンケルの足音がこちらを追いかけてきて。
「クロコダイン、すまんがオレはバランを追う。おまえはこのことをダイ達に――」
冷静になって考えれば、空を飛べないヒュンケルが俺を追うのはおかしいことにクロコダインだって気づけただろう。だが、悠長に考える時間も与えられていないこの状況下、味方だと思っている相手の言葉をすぐ疑うということが獣王にできる筈もなかったらしく。
「わかった。おまえも無理はするな」
偽ヒュンケルの言葉に頷いたクロコダインの肩を鳥の魔物が掴む。マトリフを呼びに行てから戻ってくるか、バランがダイの元に向かうことを懸念しパプニカへ向かうか、獣王がこのあとどちらをとるかはわからないが、採る行動があるとすればおそらくそのどちらかの筈で。
「ああ。待て、バラン!」
小さく応じた偽ヒュンケルの声はそのまま俺を追ってくる。しかし、うまく行って本当に良かったと思う。そう密かに胸をなで下ろそうとした直後のこと。後方のことを微かに気にしたのは、ホンの偶然。だが、それが幸いした。
「っ、横に飛べ!」
振り返った俺が叫べば、反射的にだろうが偽ヒュンケルはこれに従い、咄嗟に身を守った俺を闘気の渦が襲った。
「獣王痛恨撃、、か」
幸いにもモシャスが解けるようなダメージとはならず、闘気の渦が消え去った向こうには、片手を突き出したクロコダインの姿があり。
「ばか、な……」
分体からすれば信じられないことだろう。自身ごとクロコダインが俺を攻撃したというのだから。
「上手く騙したつもりだったろうが、生憎オレは人間より鼻がいい」
「っ、なるほどな……」
そう言えばワニは嗅覚の方もかなり良いと聞いたことがある。
「ヒュンケルの従えていた不死族には、動く腐乱死体のような魔物も存在した……」
そんな腐臭漂う魔物との付き合いが長ければ、当人が清潔を保っていようが、クロコダインの鼻が誤魔化せない程度に臭いが移っていたということだろう。原作ではバルジ島でザボエラに化けたザボエラの部下を本人だと思って斧を投げる描写があった気がするが、あちらは同じ軍団上司と部下だ。同じようにヒュンケルの部下であるBの誰かがヒュンケルに化けていたなら誤魔化しおおせていた可能性もあるが。
「……いつ気が付いた?」
「気づいたのは、おまえが現れる少し前だ」
「そうか」
マイボから得たこちらが本来知りえない情報を口にして本人に成り済ますというのは、それなりに良いところまでは行っていたのだろう。獣王の嗅覚に引っ掛かるということさえなければ、あのまま騙しおおせていたはずだ。
「止むを得ん。獣王は私が相手をする。おまえは先に行け」
ヒュンケルに化けた分体ならばクロコダインと戦ってもいい勝負どころか、勝つことも可能かもしれないが、戦いの中でモシャスが解けてメラゴーストになってしまっては拙い。だからこそ俺は偽ヒュンケルにそう指示を出すと身構えた。
次回、番外49「パプニカでの再会(ポップ視点)」に続くメラ。