ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
『バーンさまへの報告前じゃなかったら殴ってた』
モシャスをし直すための部屋に向かう途中で偶々会った文官の手伝いに回ってる分体の表情を言語化するとしたら、そんな感じだろうか。こう、笑顔なのに謎の圧があると言う感じで、原因を鑑みれば俺の自業自得でもある訳だが。
「伝えたいことは分裂合体で知らされてるって思っていいかな?」
などと確認するわけにもいかない。どこに魔王軍の目や耳があるかわからないのだから。それでもまったくだんまりなのは不自然だと思い、魔王軍に聞かれても良い範囲での最近有ったことを明かしつつ俺達はモシャスの為の部屋に向かう。部屋の方にも分体はいるかもしれないし、居るならニュンケルと合体させてマホプラウスの使い手も増やしておきたい。
「ふぅ」
それはそれとして、合体と分裂でマホプラウスの使い手を増やしたら俺はニュンケルと魔改造女王を連れて大魔王の元に赴かないといけない。戦勝報告とだけ考えれば気負う必要なんてない筈なのだが。
「どうかされまして?」
「何でもない、と言いたいけどぉ……ちょっとねぇん。ここまで、いろいろあったなぁって」
このタイミングで回想シーンを挟むとかちょっと死亡フラグっぽい気もするが、他者の目のあるかもしれない廊下で「始末される可能性を考慮して緊張してました」だなんて言えるはずもない。
「モシャス用の部屋まで、もう結構近くに来たわよねぇん」
「ええ、そうですわね」
『にゅん』
二人分の返事を聞きながら進む廊下は、薄暗い。これはまだバーンパレスが死の大地の地中にあり、明り取りできる場所が少ないからだが、地下にある魔界の出身者からすればむしろこの暗さの方が過ごしやすかったりするんだろうかと酷くどうでもいいことをつい考える。
「あ、あそこだ」
足を運ぶのも最初ではないので、すぐにモシャス用の部屋の入り口を見つけた俺は先ほどあった分体とニュンケルを伴って部屋の中へ足を踏み入れる。アルビナスは部屋の前で待機を命じた。そもそも、モシャスするだけの部屋なので耐火性と数人が変身できるぐらいに一定の広さがあれば他に求めるモノはない部屋なのだ。
「モシャスで変身する分には良くてもねぇ」
ぺしぺしして分裂してゆくには流石に手狭な感が否めない。派手な攻防にはならなくても分裂で増えればすぐ狭くなってしまうのだから。それでも俺も入っていったのは中でモシャスしてる分体が居た場合、軽く事情説明するためだ。
「あ、トゥース様」
『あ、トゥース様』
「突然ごめんなさいねぇん。実は――」
案の定というべきか、中には変身前と変身後で合わせて二人ほど分体が居て、俺へすぐに気づいた二人に軽く謝罪した上で俺はニュンケルがマホプラウスを会得したことと、合体分裂で使い手を増やすためにここへ足を運んだことをまず説明する。
「なるほど、それじゃ俺はモシャス切れるまでお預けですね。ので、モシャスが切れそうな仲間に声をかけてきます」
『じゃ、俺はニュンケルと合体しますね』
使える呪文が増える有用性については説明するまでもなく、すんなりとこちらの指示に分体達は従って。
「けど、本当にモシャスって便利よねぇ」
俺が部屋を出て大魔王の元へ向かうのにそれほど時間はかからなかった。スカラで防御力を高めた上でのどつきあいで分体は前より数を増やし、受けたダメージもモシャスで回復呪文の使える人物に分体のだれかがなればあっさり癒せる。
「とりあえず、マホプラウスについてはあれでいいとして――」
バーンと謁見する間へ歩きつつ俺は考える。やり残したことはないか、と。
「どうしたにゅん?」
「いや、なんでもない」
流石に大魔王の前でまでオネエ口調はあれだと、ただ口調だけを戻し。
◇◆◇
「そうか、勇者はバランに敗れたか」
バーンの前へ至った俺は、報告を聞いて口を開いた大魔王にはいと肯定を返した。片膝をつき控えた状態ではあるが気になるキルバーンとミストバーンの姿はバーンの左右にあり、戦いになったとしても挟み撃ちされると言うことはないと思う。
「記憶を失った勇者ダイはバラン殿の元に。親子水入らずの方が良いかと思い、こうしておれだけが報告に来ました」
加えてポップも捕まえて牢へ入れてきたこと、ヒュンケルと合わせ両者の身柄は次の作戦で利用しようと考えていること、マホプラウスの伝授が終わったことなど俺は更に報告を続け。
「トゥースよ、大儀であった。お主の言う次の作戦が終われば、もはや余の行いに水を差す者は誰も現れまい」
「はっ」
ここに一人居るんですけどなどとは言わず、畏まって俺は次の反応を待ち。
「ザボエラにはお主から伝えておくがよい。秘呪文のお披露目とやら、余もいささか興味をいだいているとな」
「は、はい」
「さて、準備もあろう。退出を許す」
「はっ」
すんなりと下がることを許され、反射的に応じたものの、実際大魔王の元を後にすると、拍子抜けすると同時に何故と疑問を覚えたのだった。
次回、十七話C「反逆の下準備」に続くメラ。