ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「ルーラッ!」
呪文を唱え飛び立つ先は、パプニカで二度目の戦場となった城下町の外だ。
「っ、こんなことになるなら――」
水入らずなどと気を遣わず、所在をしっかり確認しておくべきだった。悔みながらも俺がそこに向かった理由は、ダイを連れ去ったバランが必ず立ち寄る場所だからだ。直接見た訳ではないものの、あそこには竜騎衆の亡骸があったのだから。
「バランなら、部下の遺体を放棄はしない。ただ」
そのあとでルーラを使って移動された場合、追跡は困難だ。原作でバランが魔王軍から離反してキルバーンに襲われた場所も思い出せたのは、どこかの山地の洞窟ってことだけなのだから。
「間に合うはずがない」
心のどこかでわかっていながらも祈るようにして空を飛び、たどり着いた先にあったのは、死体も武器や防具の残骸もない、ただの荒れ地。いや、周辺の荒れ具合はここで行われた激闘の名残ではあるのだろう。
「はぁ、わかってたけど」
バランはここで竜騎衆二人の亡骸を回収してどこかに去ったのだろう。
「ヒム、シグマ、フェンブレン、ブロック、アルビナス……ここは手分けしてバラン殿の居場所を」
『トゥース様ぁ』
探すよと続けようとした時だった、空からメラゴーストが降ってきたのは。
「え」
『バラン殿の居場所を探してるんでしょ? 悪魔の目玉に命じて探しておきました』
何故このタイミングでと、一瞬思うも、相手が自分の分体なら答えは簡単だった。同じことを考えながらも慌てた俺とは違って冷静にどうすべきかを考えたのだろう。
「ひょっとして、そこにルーラは可能?」
『もちろん、悪魔の目玉越しですけど光景はしっかり覚えてきたので』
「じゃあ、お願い」
一秒でも無駄にしたくない。俺はすぐさま連れて行ってくれるよう頼み。
「待て」
「っ」
背後から聞こえた声へ振り返れば、そこに立っていたのは修復の終わらぬボロボロの鎧を着込んだクロコダインだった。
「獣王……」
「まさかそちらから姿を現すと……なっ?!」
「あ」
こちらと戦うつもりだったのか、身構えた獣王の表情が驚愕に変わったのは、きっと分体を見たからだろう。
「だああっ、もう、めんどくさいわねぇん。もう、いいわ。こいつも一緒でいいからルーラを」
『えっ』
説明してる時間が惜しい。分体は一瞬真意を問う様にこっちを見るが、間に合わなくなったらどうしようもない。
『ルーラ』
無言で頷いた俺を見て分体が呪文を唱え。
「っ、どういう」
「質問は後! ダイちゃんとバラン殿が危ないかもしれないのよ!」
着地したところで投げられそうだったクロコダインの問いに先回りで雑に叫ぶと俺は駆け出した。
「拙い」
駆け出しつつ洞窟の中に入れば反響して聞こえてきたのは、バランとキルバーンの声の一部。どうやら原作よろしくバーンはキルバーンをバランへ差し向けたらしい。
「今ならダイちゃんを庇ってバラン殿もまともに戦えないものね」
将来的に敵になることを考えれば、討つには絶好のタイミングだ。同時に仕損じれば確実にバランを敵に回してしまうはずだが、それでもこの機会は逃せなかったのか。
「……あの約束は嘘だったのか……?」
「……ウッフッフッフッ……!!」
静かに問う声に死神が笑い、風切り音が続いた。
「みんな、耳を塞いで!」
聞いた者の動きを封じる死神の笛、キルバーンが何をするかを察した俺は指示を出し、自分も耳を塞ぎつつ足を速める。耳を塞いだことでキルバーンとバランの会話も聞こえなくなるが、やむを得ない。ただ、急いで。
「あ」
見えたのは蹲るダイの姿と、その前で剣を振るうバラン、そして腰から上下に両断されたキルバーンの姿。
「間に合わなかったどころか、普通に大丈夫だったっぽいわねぇん」
足を止め嘆息した俺は、衣の魔杖を構える。
「ブラッディスクライドォ!」
「な」
バランの驚いた声が上がるが、今はスルーだ。俺の放った技は前方右手にあった岩をそこに隠れていた者ごと容赦なく粉砕し。
「ふぅ、終わったわねぇん」
衣服とぐずぐずに崩れてゆくキルバーンの本体だったモノの一部を見て安堵の息をつく。
「トゥースか、今のはいったい何の真似だ?」
「何の真似も何も、死神の本体が健在だったのに気づかないみたいだったからちょっと手を出したの」
「な、に?」
「しっかり確認すればわかると思うけど、そっちのそれ、人形よぉん? しかも物騒なことに黒の核晶が仕込まれた、ね」
こういう時原作知識って本当に卑怯だなと思いつつも俺は上半身と下半身の泣き別れた人形を示し。
「だから――」
炎の闘気にマヒャドの呪文を唱えさせ、人形の頭部を凍てつかせる。
「加えて血のかわりに魔界のマグマを使ってるんだったかしら? 放っておくと引火して大爆発とか本当に物騒よねぇん」
「……何故そんなことを知っている?」
一瞬間を開けてそう問うたのは、思念会話が俺達だけの秘密だからだろう。
「いいじゃない、そんなこと。ただ」
これでもはや、どちらも後には引けないだろう。俺もバーンも。
「アタシは親衛隊とバーンパレスに突入するわよ。時間をかければ次の刺客が来るもの。それよりそっちはどうするつもり? ダイちゃんを守ってお留守番してる?」
「いや」
俺が問えばバランは首を横に振り俺の肩越しに俺の後ろへ視線を向け。
「クロコダイン、身勝手なのは百も承知だが……ディーノを頼む」
「なっ」
訳も分からず連れてこられて、いきなり言われれば、獣王もそれは面を喰らうだろう。だが、その驚愕に付き合う余裕を俺は持ち合わせていなかった。
キルバーン、まさかの退場。
次回。番外51C「プレイハード(ポップ視点)」に続くメラ。