ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「もっと騒々しい、というか混乱のただ中にあるかと思ったけど」
ヤケに静かだと思いつつ、俺は足早に牢へと向かう。
「戦いが起こってるなら、こんな静かなはずはないのに」
胸騒ぎがした。まずミストバーンを牢に差し向け、そのあとで文官の手伝いをさせている分体達を始末しようとするなら、牢以外が静かなのは不思議じゃない。現状では魔王軍最強であるミストバーンを欠いた戦力で俺でさえ実数を把握できてない文官手伝いの分体達に襲い掛かる愚行を大魔王が許すとも思えないからだ。
「確かに。やけに静かだねェ。急いだほうがいいよ」
そして俺の言葉に同意し、ただと続けたのは、この場に居る親衛隊でもバランでもないもう一人。
「ここからは、ボクが先頭を行こう。相手がミストなら、なおのことね」
使い魔のフリをした本体に操られていた元人形はそう言って俺を追い越し、先頭を往く。
「えっと」
「キルバーンでいいさ、創造主さま」
どう呼ぶかに迷った人形は振り返りもせず、俺の言葉を先取りした。創造主と呼ぶのは、キルバーン本体である一つ目のピエロを倒したことで残った人形に俺は禁呪法を用いて命を吹き込んだからだ。出発が遅れた理由はここにあり、新キルバーンとでもいうべき彼こそが俺が新たに用意した切り札でもある。
「悪いわね、できれば修理した上で頭のソレ取り除いてから作ってあげたかったんだけど」
「ンフフ、気持ちはありがたいけど、今はなりふり構ってられなかったんだろう? ボクとしては危険物として処分されなかっただけでも十分さ。それに」
まだ生まれてすぐ死ぬことになると決まったわけではないからねとだけ言って人形は口をつぐんだ。牢が近づいてきたからだ。やたら静かな理由もこれで明らかになる。そう思った矢先。
「団長、光の闘気をあの暗黒闘気の塊――ミストバーンへ!」
通路の先から聞こえたのは、あのドラゴンキラーに分体を注入して誕生したラゴウの声。
「暗黒闘気の塊?!」
確かにミストバーンの正体はバーンの若さを封じた分体を操る生きた暗黒闘気ではあった筈だ。だが、それなら、操られていた身体はどこに行ったのか。
「まさか」
バーンの元に移動して一つになった後だというのか。
「いや、それはおかしい」
暗黒闘気には物理攻撃こそ効かないが大魔王の身体を返してしまえばミストバーンの戦闘力は大きく落ちる。そんな状態でプレイハードとラゴウ、そして俺のフリをした分体まで相手にするのは厳しい筈なのだ。身体を返却するなら、タイミングがおかしく。
「説明は後です、今のうちに!」
『モシャス』
攻撃を促すラゴウの声に、続くおそらくは分体の呪文を唱えた声を聞きつつ俺は新キルバーンの肩越しに通路の先を見て。
「な」
思わず声を漏らしたのは、辺りの壁がチーズの様に穴だらけになっていたから、そして。遠目にラゴウの姿は確認できたにも拘わらず、プレイハードの姿がどこにもなかったから。
「これは……」
「っ、キルバーン! このタイミングで現れるなんて……」
なにがどうなってこうなったのか、わからない。そんな中、俺の前に居たキルバーンの姿にラゴウが気づく。プレイハードはどこに、そんな言葉は声にならず。
「あ」
視線を彷徨わせて、ふいに気づく。ひょっとして、目の前のキルバーンは敵だと思われているのではと。
「ちょっと待」
「グランドクルス!」
すぐにでも問いたい気持ちを堪えて、制止の言葉をかけようとした俺の視界を十字の闘気が横切り。
「ウギャアア~ッ!!!!」
それが動きを止めていた暗黒闘気の塊へ直撃する。
「えっ」
放ったのは先ほどモシャスでヒュンケルに変じた分体だろう。
「そうだ……まだ――」
ミストバーンは滅んでいない。これでは話をするどころではないと気づいた俺は額に闘気を収束させ。
「紋章閃ッ!!」
キルバーンの脇からミストバーン目掛け閃光と化した竜闘気を撃ち込み。
「ガアアッ」
貫かれた暗黒闘気の塊が床でのたうつ。
「オ、オォォォ……う、あ……バーン、さ……ま」
「ミストバーン……」
身を守ることすらできず茫然としていたところに受けた分体と俺の闘気は余程堪えたのか床に伏して手を伸ばそうとするかつての師の姿に、ヒュンケルがポツリとその名を呼び。
「ミスト……なのかい?」
「き、キル……」
キルバーンのフリをして呼びかけた人形がちらりとこちらを見て頷いてから、ミストバーンの元にしゃがみ込む。何を言うつもりかはわからない、ただ、意図だけはわかって。
「紋章閃」
人形が立ち上がろうとしたタイミングで、俺の撃ち出した竜闘気が暗黒闘気の塊を貫いた。
次回、二十五話C「逝く者、逝った者」に続くメラ。