ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「悪いわねぇん」
ミストバーンはヒュンケルにとって暗黒闘気の扱いを教えてくれたもう一人の師。だが、その自分の憑依するスペアボディとしてキープしようとしていただけと言う目的と肉体を乗っ取って操ることができるという特性を知っている俺としては、呆然自失だろうが大ダメージを負っていようが生かしてはおけなかった。新キルバーンと言葉を交わすだけの時間を餞とするにも抵抗があったぐらいだ。それより、何より。
「プレイハードは、どこかしら?」
周囲を見回し、とりあえずラゴウに視線を向けて、問う。
「トゥース様、その……プレイハードは」
震える声と、逸らされた視線。
「……冗談じゃないわよ」
その意味が分からない程度に鈍かったら良かったのに。左右の壁にマンガで見るチーズのような穴が開きまくってる時点で、予感はあった。穴の表面はなめらかで、あんなに綺麗に消失させる方法として消滅呪文系の痕跡以外思いつかなかったから。性格こそ変質していても元は俺の分体。ミストバーンを打倒する方法について俺が思いついたのは、消滅呪文を当てることのみ。だから、プレイハードもそうだったのだ、おそらく。
「消失呪文すら弾く、高速の手刀……単発なら弾かれる」
それを防ぐ為に複数の消失呪文を放つ。原作のポップには不可能だがプレイハードはそれをやってのけたのだろう。そして消失呪文を弾けるのは手刀の一撃、腕を消滅させてしまえば消滅呪文は防げない。
「理屈の上ではその通りでしょうけど……待ってなさいよ」
あと少し、あと少し粘っていてくれれば、俺達が間に合ったというのに。生命を賭す必要なんてどこにもなかったというのに。
「ラゴウ、蘇生呪文は?」
一縷の望みを口の端に載せてもう一度見れば、金の角を持つ緑の頭は左右に振れる。
「すみ……ません。プレイハードは、『満足した』……と」
「……あの、バカ」
強く、強く拳を握りしめた。亡骸すらないのでは、無理やり合体することも出来ない。
「はあああッ!」
怒りに任せて殴りつけた牢の壁が粉砕され、それだけのことをしても闘気に守られた俺の手は血の一滴すら流れ出ず。
「「トゥース様……」」
「……いき、ましょ。ニュンケル、たち、と……合流、しなきゃ」
泣くことも嘆くことも、後で出来る。だから、今は、これ以上犠牲が出ないようにしなきゃ、駄目だ。重なる親衛隊の声にすんなり返すつもりが、声は明らかに震えて。
「ラゴウ、事情説明は……お願い」
今の俺にはポップ達に経緯を説明する心の余裕なんてなくて。
「……キルバーン」
「大丈夫、仕掛けてあるトラップはボクを通じたアイツの魔力で作動するモノだからね。ボクなら作動させることも可能だけど――」
かかる方の心配はしなくて大丈夫さ、と少し前まで人形だった死神は言う。
「ありがと」
これで、今は、ただニュンケル達と合流することを考えて居ればいい。前に進みながら、一人のドMのことを思い出す。
「……プレイハード」
ラゴウは俺に伝えた。あいつが満足したと言っていたと、それはつまり、バーンの若さを封じた分体をプレイハードが完全に破壊した、と言うことだろう。それなら、ミストバーンの態度にも納得はいく。これで、大魔王バーンが完全体になることは事実上不可能となったわけだが。
「おれは……そんなこと望んでないのに」
大魔王が完全体で左右にキルバーンとミストバーンが控えていたとしても、俺には勝算があった。もちろんこちらにもプレイハードにニュンケル、そして文官手伝いに回していた分体達が揃っていればと言う前提ではあったが。その為の準備はしてきたのだ。
「……おまえたちは、死ぬなよ」
つい、肩越しに後ろにいる親衛隊へそんな言葉を投げてしまう。
「おーっほっほっほ、お心づかいはありがたく」
「と言うか、その言自体がフラグになるのでは?」
「あ」
アルビナスの高笑いに続いたシグマの指摘に俺は思わず声を漏らし。
「とりあえず、アルビナスはアルビナスだよな」
誤魔化すように振り返って魔改造女王を見る。原作とはかけ離れてしまっているがキャラがぶれないというところはどことなくプレイハードと近いモノがあって。
「べ、別に褒めてもなにも出なくてよ」
ぷいと顔を背ける女王を見て少しだけ気持ちは紛れ。
「おお、トゥース様! 探しましたじゃ!」
「ザボエラ殿――」
移動を再開して暫したった後のことだった、こちらの姿を見つけて足早に近寄ってくる妖魔司教とエンカウントしたのは。
次回、二十六話C「選択」に続くメラ。