ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
『はぁ』
来てしまった。魔王軍幹部がではなく太陽が、だが。
(今日が襲来の日だとしたら、もう時間がない)
だというのに俺はノープラン。倒すわけにも阻止するわけにもいかなくて、奥の手は使用禁止なくせに何もしない訳にはいかないという八方ふさがりな事態が迫ってこようとしている。
(一か八かであの高等呪文をやるしかないか)
本来俺が使えるようなレベルの呪文ではないが、その無理を通せれば活路は見いだせる。
(おかしいなぁ、俺ってこんな綱渡り、柄じゃないんだけど)
他に方法もないのだから、仕方ない。ネックになるのは呪文を扱えるかと、タイミングだけ。
(口実ならちょうどいいモノがあるし、まずは呪文の会得だ。幸いにも契約には成功しているし、足りないのは術者の力量だけ、だから――)
俺はブラスの家の裏手に回ると周囲を確認してから成功してくれと祈りつつ呪文を唱える。
「……っ、成功した?!」
若干信じられなかったが、これまでのポカを鑑みればきっと無理はない。
「あー、あー、よしっ。これで首の皮一枚でここは切り抜けられそうだ」
俺はぎゅっと拳を握ると自分を殴りつけ、衝撃で呪文を解く。
『痛ぅ。けど、これしか解き方知らないもんなぁ』
ともあれ、後は時間との勝負だ。俺はすぐにブラスの元に向かった。
「魔法の筒を譲ってほしい、じゃと?」
『ええ。俺の筒は村に置いてきてしまいましたし、予備があると今後何かと重宝するのではないかと。ほら、怪我人を運搬するのにも筒なら体格を無視して小柄な人間や腕力のない魔法使いでも大柄なひとを運べそうですし』
原作を思い返すと魔法の筒の出番は俺が覚えてる限り序盤に集中してる気がするのだが、この便利アイテムを有効活用しない手はないとも思う。
『貸していただけるだけでいいんです』
「むぅ、確かに言っていることはもっともじゃな。よいじゃろう」
『ありがとうございます。あ、そうだ。ついでと言っては何ですが』
メラメラ言ってるだけでも筒は使えるのか確認したいと俺は提案し、受け取った筒をすぐに目の前のブラスに向ける。
『イルイル』
「っ」
流石に吸い込まれるとわかって居れば原作の様に悲鳴は上げないのか。ブラスは筒に吸い込まれ。
『俺でも使えた……ありがとうございます。これなら、俺でも……え?』
喜色を浮かべた俺は筒に語りかけると呆然とした表情を作り。
「どうしたんじゃ?」
『すみませんが、ブラスさん。暫くその筒の中で黙って居てください』
真剣な声色を務めて作り、俺は呪文を唱える。
『モシャス』
本来なら俺はまだ使えない他者に変身する高等呪文。だが、この世界では術者の力量次第で相手の能力までコピーする呪文でもあり。
(逆に言うなら、姿だけ真似るという劣化版で妥協するなら今の俺でも辛うじて使える)
こじつけの様な理由だが、これがうまく行ったのは本当にありがたかった。ひょっとしたら他のナンバリングで色違いのモンスターが得意とした呪文だったので、適性があったりもしたのかもしれないが。
「今のは……」
ともあれ、ブラスの姿というガワを纏って変身したことで下げていたアバンのしるしも隠れ。落ち着きなく周囲を見回した俺の背に寒気が走る。
「っ……な、なんじゃ、このすさまじい妖気は?!」
うろ覚えな原作のブラスのセリフを口にしつつ。落ち着きなく周囲を見回せばどこからともなくキヒヒヒヒと言う笑い声が聞こえ。
「お前がブラスとかいう鬼面導士じゃな」
「な、何奴じゃ?!」
声の主を探すと霧の様な濃いモヤ、おそらく妖気であろうものの中から小柄な影が浮かび上がり。
「ワシの名は妖魔司教ザボエラ!! 大魔王六軍団のひとつ……妖魔士団の軍団長よ!!!」
「魔王軍?! バカな……この島はアバン殿が残してくれた魔法陣で守られている筈」
あのハドラーですら結界を抜けるのに派手な登場をせざる得なかったと言うのに目の前の相手は前触れもなく現れたのだ。原作知識のある俺はやってくることを知ってはいたが、前触れが無いっていうのは正直心臓に悪い。
(間に合うかどうかってこっちはハラハラしどおしだったってのに)
「ヒッヒッヒ、あの結界を抜けることなぞ、造作もないことよ……このワシの……妖魔力をもってすればな……!!」
得意げに笑うザボエラに俺は内心で妖魔力って何だとツッコミたくて仕方なかったが、流石にギリギリで作ったこの流れをぶち壊すわけにもいかない。こうして俺はブラスの身代わりの形でザボエラに連れ去られることとなり。
(A3、後は任せた)
昨晩の内にちゃっかり分裂して潜ませておいた俺へ声には出さず事後を託すのだった。
次回、五話「筒ん中ブルース」に続くメラ。
そう言えばここハーメルンでしたよね。(ハーメルン違い)