ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「どうした?! 早く殺れっ!! 勝利は目の前なんじゃぞ!!」
早くそのガキを殺してしまわんかと喚くザボエラが、目玉のモンスター越しにクロコダインを嗾け。
「くだらん情けにとらわれて軍団長の座を失ってもいいのか!?」
続けた言葉がクロコダインに決断をさせる。無言のままに斧を握り直した獣王がじりじりとポップに近寄り始め。
『ポップッ』
「……出るな、メラ公!」
思わず前に進みいくらかはみ出した俺を大声でもないのにはっきり聞こえたポップの声が止める。
「お前がそこから出たら俺のせっかくの努力がパアになっちまう……」
『っ、けど』
「そんなちっぽけな魔法陣でもよ……おれの全魔法力がこもってるんだぜ……」
『全、魔法力?』
かすれたポップの言葉を俺は反芻し。
「ピィ~ッ!」
視界の端にダイを見つけて何とか起こそうと飛び込んでゆくゴメちゃんが見えた。時間はもうない。
『そうか、全魔法力か?』
「メラ……公?」
「ぬッ?!」
俺の呟きにクロコダインが振り返る。
『そういえば魔法力を扱うのは、前にやった』
あの時は失敗した、だけどあれからかなりの時間を瞑想に費やし、そして間近に身の丈に合わない呪文でも全魔法力をもってすれば発動させられる実例を見せつけられた。
『足りない分? アテはある』
「貴様……何を?」
クロコダインが訝しむ中、俺はあの時自身をプラスの魔法力の代わりとした要領で、合わない身の丈のかわりとする。
『受けてみろ、これが俺の――』
「メラ公、まさ」
「え」
『極大閃熱呪文ッ!』
両腕をぶつけ、生じたモノをできるだけ収束させながらクロコダインに向けて放つ。
「なん、クオオオッ!!」
意表を突かれつつも、クロコダインは斧を翳し、生じた真空のバリアーが俺の呪文とぶつかり合う。やがて俺の呪文は真空の壁ともいうべきものを貫くも、まだその向こうのシルエットは立っており。
(たり、ない?)
自分の一部を魔法力に変換したことで身体は縮み身体を構成する人魂の明るさ、火勢は弱まり、倦怠感と脱力感に襲われる俺の視界で、クロコダインはまだ倒れず。
『なら……ポップ、ごめん』
「メラ公?!」
俺は足りない分の魔法力を足元の魔法陣に求めた。
(少しで、いい)
必要なのはクロコダインを殺す威力ではなく、倒す威力。そして。
『メラ、ゾーマッ!』
魔法陣の魔力を注ぎ込んだ呪文を放ち終えた俺はもう少々魔法力を失敬して別方向に呪文を放つ。
「ギョエエエ~ッ!!」
あがった絶叫はマァムを拘束していた悪魔の目玉のもの。
『……魔王の意思に……操られる? なら……起き上がれないくらいに疲弊すれば……いい。あと、は』
手ごたえはあった。ゴメちゃんの奇蹟を一回分節約した達成感を感じつつ俺の意識は遠のき。
◇◆◇
『まぁ、こうなるよな』
俺は筒の中でボソッと呟いた。
「クロコダインとの戦いでまた無茶をやらかしたから、当分は筒の中に居てもらう」
ダイ達の話を俺なりに短くまとめるとそういう理由で俺はこうしてある意味での謹慎処分をくらっている。
(ロモスでの勝利の式典的なモノの時は一応出させてもらったしなぁ)
どうやら原作とは違い、俺の呪文で腹をぶち抜かれたことでクロコダインは深手を負い、卑怯な手段を用いた後悔とダイやポップ、それと何故か俺への賞賛を残し自身の開けたお城の穴から外へ落ちて姿を消したのだという。
(ともあれ、クロコダインは倒せたみたいだし、ここは切り抜けられたと見て……いい筈)
ちなみに、クロコダインを倒したのが俺ということになったために俺とダイの間で手柄の譲り合いが発生したのだが、それも大変だった。
(前半操られて何もしないどころか半端に操られた上にダイに呪文ぶつけたから賞賛される理由なんてないし、って固辞したけど)
きっとダイはまだ納得していないだろう。敵を倒した手柄的なことを忘れてクロコダインを攻撃したのは俺のポカ、埋め合わせとしてダイを説得しなければいけないのは、身から出た錆だ。仕方ないと言えば仕方ないのだけれど。
(クロコダインを倒したのが俺ってことになると、ひょっとしなくても前より魔王軍に目を付けられるよな)
加えて、しるしがないとあちらに回ってしまうかもしれない不安定な存在ということになってるはずだ。
(これ、思いっきりやらかしたのでは)
筒の中で目が遠くなる俺だった。
という訳で、それそろ二巻編も終了です。
次回、番外4「???(???視点)」に続く、メラ?
アレな表記ですが、ネタバレ防止のためのタイトルとなります。