ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「くそっ」
オレは丸太小屋の一室で、木の壁を睨みつけていた。オレを連れ去ったあいつの話の通りなら、ここはロモスの騎士たちの仮住まい。一度ザボエラに攫われそうになったダイの育ての親を守るために派遣された騎士の為の家を急遽牢へと改造したものらしい。
(……そもそもが急ごしらえのしかも元々牢として作られたわけではない家の壁、この身体が自由ならば抜け出すこととて造作もないだろうが……オレは戦士ゆえ呪文は使えん)
あのメラゴーストの様に移動呪文を使うことは出来ず、かといって似た効果を持つ道具も今は所持していない。仮に抜け出せても、パプニカに戻るには泳ぐかここにやってくる船を奪う必要がある。
「そこまで踏まえてここに連れて来たという訳か」
クロコダインの姿で片割れが島にたどり着いたときはロモスの騎士と揉めていたようだが、あれを除けば呪文の使えぬ捕虜を隔離しておくのに島と言う地形はうってつけだろう。
「……とんだ失態だ」
連れ去られたあの時、痺れて動けなかっただけで、意識はあった。思い出すのは、部下であるメラゴーストの必死な叫び声。
『いいか、この女は預かっておく! 団長の身柄と交換だ! 忘れるなよっ!』
あいつが機転をきかせてやつらの一人、女が離脱するのを防いだことで、このまま牢の中にいてもオレはその内解放されるかもしれない。
「だが、ダイ達がオレの居ぬ地底魔城へ攻め入って女の奪還を図ったとしたら――」
ダイと魔法使いの小僧は大したことはないとはいえ、それはオレが戦った場合。部下共では数で押して疲弊させれば勝ち目は見えたとしても、犠牲が出る。いや、それだけではない。今の地底魔城には無力な赤ん坊が居る。
◇◆◇
『団長、御手を煩わせて申し訳ありませんが、俺達では火傷させたりおくるみを燃やしてしまいますから』
ある日、襲撃した村で部隊を率いていたメラゴーストが拾ってきた女の赤ん坊の世話を頼んできたのだ。
『人間の赤ん坊って言うのは、愛情を貰えないと育たず死んでしまうそうで……自己判断の下せぬような部下でもおしめの交換なんかはできますが……』
恐縮する部下を前に俺が抱いたのは困惑と、そして何とも言えない感情だった。
「お前もオレと同じか……」
要望をはねつけることは出来た。だが、オレの率いる不死騎団は命じたことにただ従うだけの魔物が多く、子供の世話を任せられるような者が少ないのも事実。
「この国はまだ滅ぼせていない。……付きっきりの世話など出来んぞ?」
何より、この願いをはねつけるのはオレを育てた父を否定するような気がして、オレは慣れないながらもその日から部下共に混じって赤ん坊の世話を始め。
◇◆◇
「あいつらのことだ。あの子供を捲き込むようなことはなかろうが」
テランの近くで自ら配下にしたメラゴーストたちのことをオレはそれなりに買っている。戦闘能力はともかく、頭は回る。
「しかし、メラゴーストか……思い起こせば、ことの始まりはヤツだったな」
確かフレイザード配下の魔物が何やら嗅ぎ回っていることに気付いたのが発端。ハドラーがメラゴーストに深手を負わされたらしいと聞いたときは耳を疑ったが。
(他のメラゴーストとは違う行動をとることで噂になっていたメラゴーストに目をつけたフレイザードが部下にすべく動くとはな)
これも驚きだったが、だからこそ何かあると見てオレもそのメラゴーストたちの半数を配下とすることができた。
(そしてオレは後に知った、メラゴーストがハドラーに深手を負わせたのが事実だと)
実際のそいつは、まさに恐るべき相手だった。呪文の通じぬオレの鎧に敢えて強力な呪文をぶつけ、加えてその口からハドラーにも深手を負わせた呪文を使えると言ったあげく。
(決め手は、浴びた者を麻痺させる息ッ! 効かぬ呪文を放ったのも強力な呪文があると嘯いたのも、すべては本命から気をそらさせるためのもの……しかもそれが、よりによって焼けつく息とは!)
クロコダインの姿と能力を借りた片割れの吐いた息は、地獄の騎士であるオレの父も使えるものだ。何と言う皮肉か。
「何だ……無様をさらしたオレを笑いに来たのか」
それも理由の一部だったのだろう。当の息を吐いたメラゴーストが囚われた俺の前に現れた時はやり場のない思いをぶつけるかのようにそんな言葉を吐いた、だが。
『笑う気はないよ。俺、いつもやらかして周りに怒られたり呆れられたり心配されたりしてるからさ』
ダイ達を圧倒したオレを倒し捕虜にしたというのにそのメラゴーストは居心地悪そうに苦笑してから、それよりと言葉を続けた。
『どうして魔王軍に居るかとか、教えてもらってもいい? ダイ達には話したりしてたのかもしれないけど、俺その時居なかったから……』
何とも申し訳なさそうに言われ、確かに目の前のメラゴーストには何も言っていなかったことに気付いた俺は、若干不満を覚えつつもダイ達に話したのと同じことを言い。かわりにそいつも俺がここに来てから疑問に思ったことを幾つか話した。この島に住む魔物たちがダイの家族のようなモノであり、モンスターに育てられたことを知ったのもこの時だ。
『正義の為、か』
「どうした、おまえもあいつらの様なことを言うのか?」
オレの言葉の一部を反芻したそいつはいやと首を横に振った。
一話で書ききれなかった。
と言う訳で、次回、番外7「牢にて2(ヒュンケル視点)」に続くメラ。