ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「うわああっ!!」
おれたちは、地底魔城の中をただひたすら逃げ回っていた。
「ハァ、ハァ……くそっ! ……あっちからこっちから、多すぎだっての!」
呼吸を荒くしつつポップが壁に手をつく。無理もない、追いかけまわされて走りまわされてる上、その途中で何度か階段を駆け上がったり駆け下りたりもしてるんだ。
「こんなモンスターがウヨウヨしるとこ、メラ公は良く行って戻ってこれてたな」
「それは、おれたちが見つかったからじゃ」
メラゴースト君があっちのメラゴーストに変身してることもあるとは思う。こっちは遠目で見つかっても忍び込んでることがわかっちゃうわけだし。
「ポップ、メラゴースト君のこと気になるの?」
「そりゃな。先生から頼まれてるし、あいつの向かう先にはマァムだって居るんだ。こっちがモンスターを引き受けてるんだから無事にマァムを、って?!」
俺のかけた声にこたえていたポップの顔が途中で引きつる。
「ダイ、逃げるぞ」
そう言われた時には、おれはもう駆け出していた。後方から複数の足音が駆け寄ってくるのがわかる。
「……あいつら、休む暇もくれやしねえ」
「どこかに隠れるところがあればいいんだけど……」
キョロキョロ見回してもやり過ごせそうな場所はなく。
「ウッ!!」
それどころか、ポップの声に前を見るとそっちからこっちに走ってくる不死騎団のモンスター達。振り返ってもモンスターが走ってくる光景は変わらず、挟み撃ちにされたおれたちだったが。
「……こっちだ!!」
振り返ったおれの瞳に映ったのは片側の壁の切れ目、見落としていた上へ登る階段を指でさすポップの姿。そのまま階段を登り始めたポップの後を追っておれも階段を駆け上り。
(光……外だ)
登り切った先から洩れる明るさは、地下の燭台のものとは全然違う。おれたちは登り切った勢いで一気に飛び出し。
「な……なんだ!? ここはッ‥‥!?」
おれはぽかんと口を開けて周囲を見回した。丸く開けた場所を壁が囲い、壁の向こうには何本かの階段と階段の間にある段差。
「……ここは地底魔城の闘技場だ……」
本来答えなんて期待していなかった疑問に答えが返ってきて、おれはハッと振り返りさっきでてきた出口を閉じた扉が遮ってるのを見た。
「や……やべえ、はめられたっ!!」
いや、それだけじゃない。
「かつて魔王ハドラーが捕えた人間と魔物を戦わせて……その死闘に酔いしれたという血塗られた場所よ」
あのヒュンケルが、ガシャガシャと金属鎧を鳴らしながら塀の向こうの階段を降りてくるのも見えていた。
「貴様らにふさわしい場所だと部下が言うのでな……」
「あわわっ、い……いきなり武装して出てきやがったっ……!!」
ただ、ポップの慌てた声をききながら、おれは心の中であれっと思う。
(メラゴースト君ともヒュンケルは戦っていた筈)
いくらおれたちが囮になってたからって、メラゴースト君のことを忘れてるとは思えないのに。
「あのメラゴーストのことか?」
おれからの反応がないことで、考えを見透かされたのだろう。
「オレとオレの部下を見くびるな! ……ヤツがモシャスを使うところは見ている、なら部下に化けて潜入してくることは想定内だ。今頃は化けてることに気づかれ、泳がされているとも知らずまだ城の中を彷徨っているだろうよ」
「あの、メラ公……バレてんじゃねえか……」
ギクッとした俺の前で言ってのけたヒュンケルの言葉に、ポップがあっちゃあと片手で顔を覆い。
「まずは貴様らから始末してくれる! あのメラゴーストはその後だ!」
ヒュンケルが動き出したことで、おれは少しだけほっとする。ヒュンケルの言葉の通りなら、おれたちがヒュンケルに勝てばいいのだから。
(空は見えてる。あとは――)
ヒュンケルを倒してメラゴーストくんとマァムのところに行くだけだ。
「ポップ! こうなったら、やるしかない!! 電撃呪文で勝負だ……!!」
「よ……よし!」
おれたちはそう小声でやり取りし、ポップのヒュンケルが剣をふりかざした瞬間を狙おうという言葉に頷きを返す。
「もはや実力差は明白! あとにもう一戦も控えていることだ、我が剣を振るうまでもない! 一気に叩き潰してやるわッ!!」
そういったが早いか、ヒュンケルは雄たけびとともに飛び上がり。
「っ」
そのまま放ってきた飛び蹴りをおれたちは躱すが、ヒュンケルはすぐに次の行動に出た。
「ふんッ」
ヒュンケルが首を振ることで兜に装着された剣の刃の部分が鞭のようにしなって襲ってきたんだ。
(こっ、こんなのメラゴースト君との模擬戦にも……)
たぶん、メラゴースト君との戦いでも使ってこなかったんだろう、けど。
「ハァ、ハァ……ち……ちくしょう……ナメやがって……剣を使いやがらねえ!!」
息を切らしつつポップが言う様に、本気で攻撃してきてるとは思えない。
(前はもっと早く、鋭かった気もするし)
あの首振り攻撃だけのヒュンケルならメラゴースト君が化けたヒュンケルの方がよっぽど手ごわかった、だから。
「おれが何とかヤツを引き付ける! その間に……雨雲を……!」
「だ……大丈夫かよ?」
ポップは心配そうだけど、アレなら大丈夫。
「どうした? 観念したのか!?」
「うおおおおーーッ!!!」
にじり寄ってくるヒュンケルを前に俺は腰の剣に手を伸ばすと、引き抜いて叫びながら走り出す。
「ムッ!?」
流石にヒュンケルは身構えようとするが、おれの剣の方が早い。翳した左腕をすり抜ける様にしてその身体へ迫り。
「なッ」
驚きつつも体を傾けたことでおれの剣はマントの布地を切り裂くにとどまった。
「おのれッ!!」
あっさり防御を抜けられたからだろうか、ヒュンケルは苛立ったみたいだけど。やっぱり動きは遅く感じる。
(鎧を着込んでるからってことはないよなぁ)
前におれたちが負けた時もヒュンケルは鎧を着ていたのだから。もっとも、今は考え事なんてしてる場合じゃない。
「いいや、いくぞっ!」
相手を押せているなら、都合がいい。押し込めばヒュンケルだって剣を使うはずで。
「でぇいっ!」
「ぐっ」
「だあっ!」
振り下ろすおれの剣を鎧に包まれた右腕で防ぐヒュンケルへ俺は振り下ろした剣を斬り上げることで追撃し。鎧には傷がつかないものの、二度目の剣が躱せなかったヒュンケルのマントを大きく切り裂いた。
「っ、いいだろう……そんなにむごたらしい死が望みなら……我が地獄の剣で息の根を止めてやる……!!!」
来るべくして来た、そう思い。おれはポップに目で合図を送り。
「……天空に散らばるあまたの精霊たちよ」
微かに聞こえるポップの詠唱に耳を傾けつつ、視線はヒュンケルから外さずにおれは待つ。
「くたばるがいい!」
「ポップ!! いまだぁぁーッ!!!」
ラナリオンとポップが叫び、雨雲からゴロゴロと雷が鳴る。
「なっ……!!」
「くらえっっ!!」
驚きヒュンケルの動きが止まった瞬間におれは剣を放って人差し指で天を示す。
「電撃呪文!!」
「ぐああああーーッ!!」
振り下ろした腕の動きに合わせて雷が落ち、ヒュンケルの絶叫が響いた。
ちなみにダイはメラゴースト君の居ないことに気づかれないようマァムについての言及を避けてました。
不死騎団のメラゴーストたちはこうなることも計算の上で、やばくなったら割り込んででも軌道修正するつもりだった模様。
次回、十七話「ダイ、魔剣に死す……!!?」に続くメラ。