ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね 作:闇谷 紅
「とどめだぁッ!!」
そのままヒュンケルの剣が振り下ろされるかとおもったところでダイが剣を一閃させる。遠巻きに見ている俺は斬撃が炎の尾を引くのが見えたが、斬られた当人の目には近くそして一瞬過ぎたのか。
「ま、まさか……この最強の鎧に……傷がっ……!!?」
何より衝撃だったのは、鎧胸部に走った斬跡、つまり当人が口にしている通り、鎧に傷がついた事実の方だったからか。
「ダ、ダイの剣が……剣が燃えている!?」
後になって剣を見て驚くヒュンケルの声を聞きつつ、俺は魔法剣かと声に出さず呟く。
「やった! ダ、ダイのやつ……このドタン場で新しい技をあみ出しやがった……! 魔法も剣も効かない敵に対してその両方を合わせた……魔法剣を……!!」
ポップの言葉を先回りしたことになるが、何と言うか、うっかりしていた。
(そっか、魔法剣か……原作だとこの先普通に使ってたから、失念してた)
原作知識持ちの弊害と言うとそうなるんだろうか。
(ああっ、わかってたら模擬戦の時にヒントとか出せてたのに!)
今回の戦いで、俺は何の役にも立ってないのだ。前もって貢献しとかないと、本当に何してたのお前で終わってしまう。
(そりゃ、やらかすから何もするなとは言われてたんだけどさ)
思い返すと、俺は本当に何もしてない気がする。
(うん? いや、それなら……)
どうしようと考えた俺に閃きが生まれたのは、その直後だった。
(確か原作だとこの後……うん、いけるかもしれない)
戦いそっちのけで記憶を掘り返し、確信した俺は視線を戦いに戻し。
「ウッ!!」
呻いたヒュンケルの手から剣が零れ落ちるのを見た。押している。
「い……いいぞ! いまだっ!!」
ポップの声が届いたわけではないだろうが、振り返ったダイが燃える剣を手に大きく跳躍し。
「むうううううんっ!!!」
「ぐっ!!?」
とっさにヒュンケルが突き出した手の先で動きを止められる。
「や……やべぇっ!!」
焦ったポップの声に一瞬だけ介入すべきか迷うも。
(って)
思わず声が出るところだった。視界の中にヒュンケルからそう離れていないところにネズミが居たのだ。
(なんで戦場に、あ)
そして遅れて気づく。ネズミが貝殻を引きずっていることに。
(ヒュンケルの父親の遺言状! あれを回収するために)
しかし、なんてムチャをとも思う。モシャスは変身相手の生命力と魔法力以外の能力を写し取る。つまり、あのネズミには本物と同じだけの力と防御力しかないのだ。下手をすれば余波だけで充分死ねる。
(元は俺の筈なのに)
不死騎団でヒュンケルと共に過ごしていたから、情が湧いたんだろうか。
(俺もデルムリン島に引き籠るつもりが、結局こんなとこまでついてきちゃったからなぁ)
嘆息すると、俺は呪文を唱え始め。
『スクルト、スクルトッ!』
元がネズミでは気やすめだろうが自分を含む仲間の防御力を引き上げる。
(これでっ、あとは戦いの方は)
どうかと視線をやれば、ポップが顔を上げて何か叫ぼうとするところだった。同時に落ちた剣にヒュンケルが手を伸ばすのも見え。
「ダッ……ダイ~ッ!! 稲妻だっ! 稲妻を……呼べええっ!!!」
俺の顔がその叫びに引きつる。
「ムダだ! この一撃で……決着をつけてやるわぁッ!!」
焦る俺の想像を肯定するかのようにヒュンケルが剣を構え、技を放つ姿勢を作った。
(ダイが技を放ってもヒュンケルが技を放っても、あそこじゃ巻き込まれかねない……あ)
もう原作に沿うことなど考えず乱入すべきかと思ったところで、俺は思い出す。こういう状況にこそ持ってこいの呪文があったことを。
『間に合えよ、レムオルッ!』
自身を呪文で透明にするや、俺は塀を乗り越えネズミの元に全力で向かい。
「ちゅ」
『よしッ』
貝なら燃えないと思うも貝殻の端っこを掴んでネズミごと拾い上げると急いでその場を離れる。
「くらえいっ!! ブラッディ―スクライド!!!」
「ダイ~ッ!!」
ヒュンケルが技を繰りだしたと思われるのと同時にポップがダイの名を呼び、ダイの叫びが聞こえた。全力疾走中だ、後方のことなんて音でしかわからない、それでも。
「なっ、なにィッ!!?」
ブチっと何かが切れる音にヒュンケルの驚く声が続けば、おおよその予想はついた。
(急げ、急げぇぇェッ!!)
ダイの技が来る。
「ライデイーン!!!!」
雷鳴が聞こえ。
「ストラーッシュ!!!!!」
ダイの叫ぶ声が、分割されたかの様に思える程、時間がスローで流れている気がした。
(拙い、拙い、拙い、原作主人公の必殺技にうっかり巻き込まれるとか余波でもシャレに――)
直後に後方で爆発が生じ、俺はそれに吹っ飛ばされたのだった、そして。
(「おお、メラゴーストよ。味方の攻撃の余波でやられてしまうとはなんとふがいない……」じゃないッ!)
一瞬脳内で残念そうに頭を振ったどこかの王様を追い出すと、すぐに身を起こし。
(レムオルが解けてる。爆発の衝撃か……って、ネズミの俺と貝殻は?!)
慌てて周囲を見回すとネズミもモシャスがとけたようでメラゴーストの姿に戻っていた。
『モシャスッ』
そこからすかさず鳥の魔物に姿を変えると貝殻を掴んで飛びあがり。
『ちょ、誰かに見られ……あ』
振り返ってダイの一撃が起こした爆炎がまだ残っていることに気付く。
『レムオル』
俺も今のうちにと透明化呪文をかけなおし、再び傍観者へと戻る。
「ぐっ……あっ」
呻いたヒュンケルの鎧が爆ぜ、倒れこんだのは俺が傍観者に戻ったすぐ後のこと。
「……勝った! 勝ったぞおおぉっ!!!」
ポップが快哉を叫ぶのを聞きつつ、俺は密かに何とかなったなと胸中でつぶやいたのだった。
ただ、ライデインストラッシュに巻き込まれただけの主人公であった。
次回、二十話「さらば孤独の戦士」に続くメラ。