ダイの大冒険でメラゴースト転生って無理ゲーじゃね   作:闇谷 紅

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十九話「死地2」

「まだ戦いは始まっていないと見て良さそうかな」

 

 悲鳴も雄たけびも怒声も聞こえてこない前方を見据えたままA5が呟く。あれだけうじゃうじゃいたドラゴン達が人間を前にして仕掛けてこないって言うのはある意味驚きで、ある意味納得だった。

 

(知恵のある竜は居ない筈だけど、それでも絶対的な強者として認識してるだろうからな)

 

 バランの命には絶対服従と言うことなんだろう。

 

「あと、これはちょっと自惚れって言われても仕方ないかもしれないけど……ドラゴン達が動き出してないのは、どっちの戦場にも俺達の姿が見られないからだと思う」

 

 明らかに独り言と言うよりも俺へ語りかける内容に、俺は声に出さずそういうことかと漏らした。

 

(敵方からすれば、こちらの軍勢は姿を見せてるのだから最大の脅威でもあるアレックスもどちらかに現れるだろうと見て、それを待っていると)

 

 バランから見るとこの国はドラゴンさえ揃えれば踏みつぶせる相手で、重要なのは俺の方と言うなら、未だ待ちの姿勢なのにも納得はゆき。

 

「今日は騎士団長がバランとぶつかるかもしれないから、いつもみたいな遊撃は難しいよね」

 

 だからと言ってA5は物陰に移動するとランタンを開け、荷物を漁って丸いモノを取り出した。

 

「じゃーん、おなべのふた。耐熱性で取っ手に熱の伝わらない優れものだよ」

 

 ゲームのドラクエとしては最弱の盾としてもおなじみですねとでも応じればいいのか。

 

「A、悪いけどこれにくっついて貰える?」

『え゛』

「いや、魔物の姿で最初からうろうろさせるわけにもいかないし、メラゴーストって火と炎効かないじゃん」

 

 思わず声を漏らしてしまった俺は口を噤みつつまさかと言う目で見るが。

 

「うん。炎のブレス無効の即席盾になって貰おうかなって」

(笑顔で言いきりやがりましたよ、この野郎)

 

 確かにメラゴーストに火のブレスやメラ系呪文は効かない。優遇されてる作品になると効かないどころかダメージ分HPを回復するといういわば吸収まで耐性が上昇してるものもある。そこだけ考えるなら確かに炎ブレス除けの盾には持ってこいだし、昼の戦場にランタン持ち歩くよりは不自然ではないだろうが。

 

「レムオルで消えててもらってもいいけど、あれ効果短い割には魔法力喰うし、透明のまま攻撃とかできるわけでもないからそのままじゃ支援魔法もかけられないでしょ」

 

 言っていることは解かる、事実だ。だが。

 

「流石にずっとこのまま睨み合いともいかないだろうし、そろそろ動かなきゃいけないからさ。ほら、ね?」

『はぁ』

 

 結局俺は根負けしておなべのふたにへばりつき、盾として戦場入りすることとなるのだった、そして。

 

「グルアアアッ!」

「フシャアアッ!」

 

 城下町の出口を抜けると、俺達の姿を認めたのであろうドラゴン達が咆哮を上げた。

 

「なるほど、この間の戦いの生き残りか」

 

 ただ、何故吠えたのかと言う疑問はA5の独言で氷解する。仲間を殺した相手の顔なら知恵のない竜でも覚えていたのだろう。ただ、俺はお鍋の蓋にへばりついている手前、ドラゴン達には背中を向ける格好になっていてそちらは見えない。

 

「はぁ、思ったより熱いやこの盾」

 

 見えないどころか使う前にA5の手によって周りに燃焼しない石の塀に立てかけられる。

 

『バイキルト、スクルト、スクルト』

 

 猛烈に抗議したかったが、小声で矢継ぎ早に補助呪文をかけ。

 

『マヒャド』

 

 最後にわざわざ近づけてきた覇者の剣に呪文を付与する。

 

「ありがとう」

 

 俺にだけ聞こえる小さな声。礼の言葉を残して足音が遠ざかり。

 

「いくぞ、アイシクルスクライドォッ!」

 

 戦いが始まった。複数のドラゴンの断末魔が周囲にそれを告げ。

 

「グルオオオオッ!」

「くっ、来るぞ!」

 

 地響きを立てて進軍を開始したであろうドラゴン達に誰かが声を上げた。

 

「一体に複数人で当たれ!」

「うおおおっ!」

 

 指示を飛ばす者、叫ぶ者。そこから人と竜の怒声と悲鳴が飛び交い。

 

「アバン流刀殺法――」

 

 中でも一番多くの悲鳴をドラゴン達の中に作りだしたのは、やはりA5だった。

 

「アバン?」

「アバンだと?!」

 

 師匠はもともとこの国の出身。わざわざ流派名を口にすれば耳ざとく聞きつけたか、驚き交じりの声を上げる者が居る。

 

「そうか、それでこの国に」

 

 得心が言ったと言う様子の声があり。

 

「じゃあ、あいつも戻ってきているのか?!」

 

 おそらくは師匠のことを指して期待する声があり。

 

(師匠がデルムリン島でハドラーに敗れてからまだ一か月経ってないもんな)

 

 後者の声の主はそれがありえないことを知らないのだろう。

 

(そもそも師匠って魔王討伐の功績を妬まれただか、名を上げたことを快く思ってない故郷の貴族だか何かに故郷を追われたんじゃなかったっけ?)

 

 うろ覚えの原作知識だとそう言う経歴だったような気がする。

 

「余計なことを考えるな! 目の前に敵が居るんだぞ!」

 

 ただ、それ以上思い出すよりも早く響いた叱責に身がすくみ。

 

(あ、俺に向けての筈がないわな)

 

 一瞬遅れて先の騎士か兵士に向けてのモノだったと気づくが、その叱責も少し遅かったか。

 

「ぐわっ」

「かはっ」

 

 悲鳴や息の漏れる音に何かの倒れる音が続いた。

 

「ちいっ、戦えない負傷者は下がらせろ! でぇぇい!」

「小隊長に続けっ! そらあっ!」

「トゥ! トゥ! ヘアーッ!」

「ゴアアアッ」

 

 舌打ちしつつ指示を飛ばした誰かが、斬りかかったのだろうか。さらにいくつかの掛け声が重なり、ドラゴンの悲鳴が上がる。戦いの音、そして。

 

「よっと」

 

 俺の身体は急に持ちあげられ。

 

「ごめん、補助呪文切れた」

 

 聞き覚えのある小さな声に俺は補助呪文をかけなおし、戦いは続いた。A5が剣を振るうたびにドラゴンのものらしき複数の断末魔が上がるが、耳に届く悲鳴は竜のものに限らず。

 

「A、もう外れていいから」

 

 それからどれほどの時間が経過しただろうか。A5の声におなべのふたから剥がれると、まず視界に入ってきたのは舌を口から零れ出させ絶命したドラゴンの骸とそれに剣を突き立てもたれかかった様にして動かない男。その向こうに折れた剣を握ったままの腕。腕の持ち主は別のドラゴンの骸の下に隠れてはっきり見えず。

 

『あ』

 

 動くもの立っている者が殆どない景色の中、二人だけ立っている人物が居た。一人はこちらに背を向けているがもう一人は対峙しているが故にはっきり顔が見えた。俺達が散々振り回した男であり、攻め寄せてきたドラゴン達の指揮官だ。

 

「A、加勢するよ」

 

 俺がバランの名を口にするより早くA5は動き出していた。

 




『A、悪いんだけどさ、俺の分まで殴られといて……』

『レムオルッ』

『さよなら、A。メ――』


次回、二十話「A5」に続くメラ。
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