キリングバイツ 平和島   作:池袋の取り立て

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もう少し速くしてもいいぜ

「………ん?」

 

 自販機でコーヒーを買い一息ついていると、不意に人影が目に入る。こんな時間に、どうやら女子高生のようだ。その後ろに数人の男達。男達が一斉に走りだし女子高生の口を抑え、静雄が蹴り飛ばした。

 

「ぐへあ!?」

「な、何だぁ!? てめぇ、何しやがる!」

「ああ? 女一人攫おうとしてて、何もされねぇ訳がねぇだろうがぁ!」

 

 静雄の叫びに慌てて逃げ出そうとした男達。そのうち一人を捕まえ、男が乗り込んだ車に向かってぶん投げる。車は凹み、さらに横に倒れた。今の衝撃でドアが歪んだらしく、あれでは逃げられないだろう。

 警察あたりにでも連絡しとこうかと思った静雄だったが、不意に服を引っ張られた。

 

「おい、余計なことすんなよ」

「あん?」

 

 さっきの女子高生だ。怯えた様子はない。男達にも気づいて居たのだろうか?

 壊れた車を見てチッと、舌打ちをする。

 

「クソ、遅刻したらお前のせいだぞ! どうしてくれんだよ!」

「………遅刻? あの車、知り合いか?」

「あんな屑ども知り合いなわけねーだろ! 適当にぶっ殺して目的の場所まで運転させるつもりだったんだよ!」

 

 どうやら腕に相当自身があるらしい。静雄の周りにもそういった女が多いし、嘘ではないと考える。悪いことしたな、とは少し思うが車は完全に大破してる。

 

「仕方ねぇ……場所はどこだ?」

「あん? あっちだけど……」

「そうか。んじゃ、舌噛むなよ」

「は? お前、何を………って、何すんだよ!?」

 

 静雄はヒョイと少女を抱える反対の手でアタッシュケースを持つと、そのまま走り出した。

 塀から家を超え別の塀へ、街頭や電柱にすら届く圧倒的なジャンプ力。

 これらはすべて平和島静雄と言う理外の人間から逃げ続けるべく技を手にしたとある人間を追うために、平和島静雄が手にした移動方法。

 道を無視した三次元的移動は静雄本来の脚力も合わさり車で向かうより遥かに早く目的地に辿り着く事だろう。

 

「…………あ」

 

 だが、純人間である筈の平和島静雄はその実身体能力は人の域を超えている。彼の本気の動きで運ばれ耐えられる人間はそういない。

 

「あっちだ!」

「……………」

 

 が、少女はそのまま向かう先を指差す。その顔に疲れはないし、苦痛も感じない。

 

「もう少し速くしてもいいぜ」

「そうか。んじゃ、そうするから指だけ指し続けろ」

 

 そう言って静雄は、速度を上げた。遊園地の絶叫マシンなどとは比べ物にならぬその動きを、少女は目を輝かせながら楽しんでいた。

 

「あははは! すっげー! 楽しー!」

 

 

 

 

「………ここで良いのか?」

 

 ついた場所は人気のない山奥の車のスクラップや廃材の置かれたごみ捨て場。こんな時間にこんな場所で少女が何をするというのか。知り合いに近い年齢だけあり少し心配な静雄。

 

「ん〜………なああんた、そのアタッシュケースの中身なんだ?」

「ん? これか? これは金だ………一千万ぐらいだな」

「………結構金持ちなんだな」

「金借りたまま返さねえやつから回収しただけだ」

「あ〜、知ってる。闇金!」

「…………………」

 

 静雄は何とも言えない顔をした。少女はじゃあな、と走り去っていたが、静雄は時間を確認する。どうせ会社の残業時間は過ぎている。心配だし、少し後をついていってみるかと走り出し、それを見つけた。

 

「…………死体?」

 

 ゴミの山に混ざるように、無価値とでも言うように積まれた死体の山。まだ血が流れている。死んでから、少し。なら、犯人は近くにいる?

 

「嬢ちゃん! おい、どこだ返事しろ!」

 

 通常の人間なら乗り越えるのも困難なゴミの山を超え飛び回る静雄は、ふと一箇所だけ開けて土の見える場所を見つける。

 

「何だ、ありゃ……」

闘技場(リング)だよ」

 

 不意に聞こえた声に振り返ると、そこには一人の男がいた。線の細い優男と風のその男に、一瞬大嫌いなとある男を重ねたが、何処か違うと悟る。多少の謀はするだろうが、根本的に力で潰すのを好むタイプ。高校時代絡んできた不良の中にもたまにいる、そんな男だ。

 

「このごみ捨て場は、とある財団の私有地でね。「行き場のないモノ」が集められるん場所なんだ。粗大ごみとか死体とか、僕らのような人間とかね」

「…………なあ、この辺でこんくらいの嬢ちゃん見なかったか?」

「いや、見てないなあ」

 

 静雄が手で先程の少女の身長を示すと男は笑いながら答える。

 

「…………ところでよ、その捨ててある死体。やったのはお前か?」

「だとしたら?」

「ぶっ飛ばす」

 

 静雄の言葉に、男の額に青筋が浮かんだ。

 否、それだけではない。ビシビシと音を立てて、男の体が変化していく。

 

「………ぶっ飛ばす? 非力で矮小な、只の人間が? この百獣王(キングオブキングス)獣闘士(ブルート)獅子(レオ)」に向かって………一体、どういう了見だ」

 

 そこに居たのは、最早人ではない。

 獅子の体に毛皮を持つ、異形の怪物。それは、人に本能的畏怖を与える、暴力の化身。

 

「身の程を知れ!」

 

 しかしそれは、人の尺度に限る。

 

「がっ!?」

 

 ドゴォ!

 

 殴打音が響き、異形の獅子が吹き飛ばされる。折れた歯がスクラップになった車の上に落ちカラカラ音を立てる。

 

「あ、が……あ?」

 

 口から血を流し、混乱する獅子。その目が己の前に立つ男を見据える。

 

「な、なんだ………お前が、今回の獣闘士(ブルート)? この俺を、獣化せずに?」

「ブル………? 何の話か知らねえが、とりあえず襲いかかってきたんだ………ぶち殺されても文句言えねえよなぁ?」

 

 平和島静雄は、池袋に置いて知らぬ者の方が遥かに少ない有名人である。何故か………顔? 否、顔立ちはまあ整っているだろうが、最大の要因はその強さである。

 道路標識を地面から引っぺがし、自動販売機を数十メートルも先に正確に投擲する腕力。それは自然界に置いても並ぶ者なき剛力。だが、その性質は穏やか。名の通り、平和に、静かに暮らすことが彼の望みだ。

 だがそれは、彼の強さに起因する。彼の「強さ」は、多くの者を傷付ける。それを理解しながら、尚も制御出来ない闘争本能。今でこそある事件で落ち着いてきているが、一度彼を怒らせれば………例え猛獣だろうと、無傷では済まない。

 が…………

 

「あー! おい、何やってんだよ!?」

 

 今回の対戦カードは、「獅子(レオ)」と「静雄」ではない。

 

「そいつは私がぶっ飛ばすんだかんな!」

 

 「獅子(レオ)」と、この少女の戦いである。

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