キリングバイツ 平和島   作:池袋の取り立て

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ギャンブルが嫌いなんだよ

 ゴミ捨て場に集うは三者三様の影。獅子へと返信した男に制服姿の少女、そして平和島静雄。

 

「おい嬢ちゃん! あぶねえから逃げろ!」

「うっせえ! 人の獲物とんな!」

「獲物?」

「獲物とは言ってくれるな、新人(ルーキー)

 

 グルル、と唸る獅子男に対し、少女は不敵に笑う。こんな訳の分からない生き物を前に怖くならないのだろうか、とその訳のわからない生き物を問答無用で殴り飛ばした男は思った。

 

「……あー……とりあえず、知り合いでいいのかお前等?」

「あん? いや、初対面だな。でもお互いここに相手が来るのは知ってた」

「要件ってのはそれか………じゃあ、まさかと思うが人殺しの手伝いでもしにきたのか?」

 

 少し睨むように言う静雄に対して少女は怯えた様子もなく答える。

 

「別に好き好んで殺したりするほど暇じゃねえよ」

「それは俺とて同じ事さ。そもそもこんな所に来る連中なんて、まともな人間じゃない。あそこの死体も含めてね」

「だからって殺して良いわけじゃねえだろうが」

 

 少女の登場と獅子男と会話した事により怒りの発散の機会を失った静雄。元来怒りに身を任せることを嫌う性質故にある程度の落ち着きを取り戻す。

 

「で、嬢ちゃんはそこのライオンに用があるみたいだが」

「あ、そうそう。忘れるところだった! なあおっちゃん、あたしに投資してくんね?」

「……………は?」

「いやあ、賭け率(オッズ)が100対0でさ。このままじゃ「牙闘(キリングバイツ)」が成立しねえんだよ。だから一千万、私に賭けてよ」

「………俺はな、ギャンブルが嫌いなんだよ。第一、これは会社の金だ」

「なんだよケチー! 一攫千金のチャンスなんだぞ! あ、じゃあ私が一千万借りるからそれで賭けてくれよ!」

 

 名案だ、とでも言うように笑顔を見せる少女に静雄は頭をガリガリかく。

 

「お前未成年だろ? だいたい、一千万も一度に借りるとなると年収……そういやいくら必要なんだ?」

 

 生憎と取り立て専門なので解らない。

 

「なんだよ下っ端か」

「ああ……」

「マジ? ええ、じゃあどうしよう……」

「おい……」

 

 と、苛立ったような声がかけられる。

 

「この「獅子(レオ)』を無視して、貴様らどういう了見だアアアアアア!!」

 

 ライオンの咆哮は、猫科の猛獣の中で最も大きく最も遠くまで響く。それは半径8キロ以内に住む全ての動物の動きを封じると言われている。

 数多の動物がその咆哮を聞き恐怖に屈する。人間もまた、例外では───

 

ドゴォ!

 

 ───否!

 例外は、ここに一人。

 

「ぬう!?」

 

 足元の小石でも蹴るかのように軽い動作で蹴り上げられた廃車。数百kgはある鉄の塊の砲弾を止められる動物はそうはいない。ライオンとて同じだ。

 

「いきなり襲いかかってきやがって、ぶちのめされる覚悟は出来てんだろうなあ!?」

 

 獅子をも恐れぬ人間がいる!

 獅子のみならず、首のない女も、刃物で武装した数十人の集団も、人外の動きをするゾンビメイクを施した混じり物も、プロの殺し屋さえ、恐るどころか逆に怯えさせる人間がいる。

 彼が怯えるのは唯一自分の力だけ。それも、漫画のような自分との戦い、などでは断じてない。

 恐ろしいのは加減が効かず壊してしまうことだ。事実まだ幼かった彼は我を忘れ守ろうとした者を傷付けてしまったことがある。

 故に恐れるのは、他者を傷つけ過ぎることのみ。それはつまり、平和島静雄が20を超える人生の中で天敵にあった事が皆無である証左。

 故に相手が殺意を向けてきた以上、手加減も歯止めの必要としない戦士(ファイター)……否、暴虐者(バイオレント)と化す。

 

「おいこら! 私の相手だぞ何してんだ!」

 

 そんな静雄の、数少ない攻撃対象外がいる。

 それは幼い子供だ。

 

「何してるって言われてもな。彼奴が俺を襲ってきたわけだし」

「だとしても! 今夜彼奴の相手は私がすんだよ! 金だけ出して引っ込んでろおっさん!」

 

 もちろん悪意の濃いものならば敵と認定するが、悪意なき幼い敵対者には例え命を狙われようとも気にしない穏やかな一面を見せる。

 

「あのなあ、あの男ライオンに変身したんだぞ? ライオンだ。百獣の王だから多分滅茶苦茶強いぞ。それと戦うってのか?」

「関係ねーよ」

「…………あ?」

 

 と、メキバキ音を立て少女の姿が変わる。手足を獣のような毛が覆い、頭上に2つの耳。爪が鋭く伸びている。

 

「これで解ったろ? これは、私とあのライオンの闘いで……あ、でも私に誰も賭けてねえんだった!」

 

 どーしよ、と頭を抱える少女。と、不意に少女のカバンから携帯の電子音が聞こえる。静雄は獅子男を見れば獅子男も出ろ、と言うように顎をシャクリ、少女はそれを確認するまでもなく電話に出た。

 

「もしもし! はい、はい……え? 解りました………おっさん。祠堂さんがおっさんに変われって」

「…………」

 

 とりあえず形態を受け取る。

 

「もしもし?」

『はじめまして、祠堂です。どうやら面倒な事になってるご様子……こちらとしてはヒトミに出資していただけると助かるのですが』

「………良く、解んねえけど………てめぇあんな子供にライオンの化け物と殺し合えって言ってんのか?」

 

 ミシッと携帯から嫌な音がなる。しかし相手は慌てた様子もなく言葉を紡ぐ。

 

『強要した覚えはない。何より、彼女自身が闘いを望んでいる。しかしこのままではその望みも果たせない………貴方が出資してくれなくては』

「だからこの金は会社の……」

『私が借りよう。と言っても、所有権に変動はない。彼女が負けようと貴方が払うべき不積は私が受け持つ。貴方は出資したという体裁だけとってほしい』

「…………………」

 

 チラリと少女を見ると今にも獅子男に飛びかかっていきそうなほどウズウズしてる。静雄ははぁ〜とデカいため息を吐いた。

 

「おい嬢ちゃん……」

「ん?」

「…………勝てるか?」

「余裕!」

 

 ニッと笑う少女に静雄は仕方ない、と肩を竦める。

 

「出資する」

「よっしゃ──あ?」

 

 少女が喜びの声を上げると同時に、獅子男の爪が少女を叩き潰す。

 

「余裕だと!? なめてくれる、この「獅子(レオ)」を相手に!? 良いだろう! ならばその愚かな考えがどれほど傲慢だったかか教えてやる! 恐怖をその身に刻むがいい! オオオオオオ!!」

「!!」

 

 咆哮を上げながら爪撃を叩き込む獅子男。静雄が近くの廃車を持ちあげ、しかし止まる。

 

「!? ぐ、ぬぉ………!?」

 

 攻撃をしていたはずの獅子男が苦しむ。その指が、食いちぎられていた。

 

「恐怖………恐怖ねえ。生まれてこのかたどうもその、恐怖って奴を知らなくてね」

 

 ペッと指を吐き捨て不敵に笑う少女。どうやら怪我はしてるが、平気そうだ。静雄は持っていた廃車を投げ捨てた。

 

「な、何〜……恐怖を知らぬ獣など、存在せん。俺の「獅子咆哮(ローリングレオ)」を浴びたものは、本能的な恐怖に身を強張らせ、反撃など不可能になる筈だ………貴様は何者だ、名乗れ!」

蜜獾(ラーテル)……」

 

 獅子男の言葉に少女は爪を舐めながら答える。

 

獣闘師(ブルート)蜜獾(ラーテル)」。対戦者の名前ぐらい覚えとけよな、バーカ」

「ば、バカだと! 貴様のようなチビが、この俺に向かって………取り消せエエエ!」

 

 青筋を立てて襲いかかる獅子男、しかし、少女の爪が先に獅子男の肉をえぐる。

 

蜜獾斬(スラッシュ)

「あ、が……」

 

 

 

 その光景を、人工衛星から見ている者たちがいる。彼等は全員が獅子男の勝利に賭けていた。しかし勝利したのは対戦相手、無名の戦士。

 誰もが騒ぐ中、同時にあることを疑問に思っていた。あの車投げたり蹴飛ばしていた男、何?

 

「いやはや、中々楽しませて貰ったぞ祠堂。しかしだいぶ怪我を追ったようだが大丈夫かね?」

「問題ありません。獣人の回復能力は、人間を遥かに凌駕しますから」




おまけ

「いやあ、彼女なかなか治癒速度が速いね。でも静雄が女の子をあそこまでボコボコにするなんて珍しい」

「俺じゃねえよ、やったのはライオンだ」

「あはは、日本にライオンって……まあ確かに獣の爪だったね」

「治るのか?」

「言ったろ? 治癒速度が速いって。まあ君やセルティには劣るけど……」



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