キリングバイツ 平和島   作:池袋の取り立て

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人に言えねえつってんだろ

【それで静雄、あの子は何なんだ? なんと言うか、私達とはまた別の………間違いなく生物なんだが人とは違う……まさか、宇宙人!?】

 

 静雄が怪我人の少女の治療のために駆け込んだ闇医者「岸谷新羅」のマンションにて新羅の同居人セルティが静雄に訪ねてくる。人ではない、所謂化け物の気配を察知できるセルティをして、異形を見せた少女はただの生物であると判断していた。

 

「獣化手術だね。父さんの友人が研究してたっけ………何でも、人の体に眠る獣の因子を覚醒させて人の頭脳と獣の力を併せ持つ戦士を作る………何だっけな………そうそう、祠堂って人が責任者らしいよ。まあ、セルティのような特殊性は少ないって父さんは研究に参加はしなかったらしいけど」

「お前の親父さんって、今何やってる人だっけ」

「強いて言うなら、悪の科学者かなあ」

 

 新羅の言葉にそうか、と返す静雄。まあ新羅だって闇医者だしおかしくはないだろう。

 

「祠堂さん知ってるのか。話が早いな………ところでそっちの女はなんで機械で会話してんだ?」

 

 PDAで文字を打ち込み会話するセルティに不思議そうな目を向ける少女、名を宇崎瞳にというらしい。

 瞳の言葉にセルティはどうしよう、というように静雄と新羅に(恐らく)視線を向ける。

 

「セルティは訳あって口が聞けないんだよ」

「訳? まあ良いか。それより静雄だっけ? ちょっとつらかせ」

「俺はこれから会社に顔出すんだよ」

「時間は取らせねえよ。祠堂さんだって忙しいはずだし」

「………ま、俺は急ぎじゃねえから良いけどよ」

 

 

 

 

 レストランに移動し食事を頼む静雄と瞳。瞳はパンケーキに大量の蜂蜜をかけ、静雄はパフェを頼んだ。

 

「コーヒーとか飲まねえの? 大人だろ」

「苦いのは苦手なんだよ」

 

 ラーテル、中国語で蜜獾と書くだけあり、蜂蜜を好んで食べる。

 平和島静雄。圧倒的な強さに刺激しない限り穏やかな性質から滲み出る大人の男といった雰囲気に対し、苦い物を苦手とし甘い物を好む。幼少時、自身のアイスを弟に食べられ怒りのあまり冷蔵庫を投げかけるほどの甘党である。

 

「はん。子供だな……祠堂さんは苦いコーヒーも平気な顔で飲む大人だぞ」

「その祠堂って人は何時来るんだ?」

「そろそろだと思うけど…………あ」

 

 と、不意に瞳が立ち上がる。その視線は入口方向に向けられており、何処か申し訳なさも含んでいる。

 

「あの……昨日は本当に申し訳ありませんでした」

 

 怒られるのを怯える子供のようだ。

 どんな相手かと振り返れば、そこには眼鏡をかけた一人の男が立っていた。

 

「何を謝る。お前は完璧に仕事をこなした、そうだろ瞳」

「で、でもあの……試合の前でちょっととらぶちゃったし、「獅子(レオ)」も一撃で倒すつもりが序盤で連撃(ラッシュ)されて………まああんなの屁でもなかったですけど。私がうまくやれなかったせいで、その……祠堂さんを不安にさせちゃったかと思うと」

 

 むしろ自分が不安そうな瞳に対して祠堂と呼ばれた男は彼女の頭に手を置く。

 

「俺はお前を信じている。不安に思った事など、一度もない」

「……………」

 

 その言葉にぽーと祠堂を見つめる瞳。静雄はああ、と納得する。なるほど、年の差はあれど、素敵なものじゃないか。

 因みにこの男、その手の事に関しては結構鈍感である。自分の事となるとこれっぽちも気付かない。

 

「それでは改めてはじめまして。祠堂零一と申します。平和島君とは昨日の電話以来だね」

「ああ、っすね……」

「瞳の保護者だ。どうぞよろしく」

「平和島静雄っす。取り立て屋やってます。まあ、審査に関して全く知らない下っ端ですけど」

「調べてある」

「………そう、すか」

 

 調べられたと聞き若干眉根を寄せる静雄。それに気付きながらも祠堂は話を続ける。

 

「どうだったかね「牙闘」(キリングバイツ)を特等席で見た感想は」

「昨日のあれっすか………念の為聞きますが、あんた保護者だろ? 解ってて、殺し合いに参加させたのか?」

 

 メキッと静雄の握っていたパフェ用スプーンが指の力だけで折り曲がる。慌てて指導を庇うように腕を伸ばす瞳。

 

「無論だ。それは、瞳も、そして向こうも同じ事」

「……………」

「牙闘」(キリングバイツ)に参加するものは金の為、恩義の為、己の為、様々な理由はあれど己の意思で参加している。それは、君に口を出す権利のない事だ」

「……………だな。まあ、良い気はしねえけどよ。殺されてた連中は?」

「攫った女性を山中に捨てる為に彼処によく訪れていた。騒ぎになっていないのは、まあ察してくれ」

「…………チッ」

 

 だからといって殺して言い訳ではないと思うが、少なくとも静雄だったらぶち殺していただろう。故に強くは言えなかった。

 

「まあそのキリングバイツってのは詳しくは聞きませんよ。俺だって、人に言えない事やってる奴と友人やってますからね」

「ああ、闇医者!」

「人に言えねえつってんだろ大きな声で言うな」

「あだだだ!」

 

 ミシミシと頭を捕まれ暴れる瞳。以下に人間離れした身体能力を持つ獣人といえど、人間離れどころか生物離れした静雄には遠く及ばない。

 

「ふむ……随分と、仲が良いようだ。これなら安心して瞳を君に預けられる」

「…………あ?」

「まずはこれをお返ししよう。君の配当金だ」

「………あれは名義的にはあんたが借りた金っす。受け取れません」

「私は瞳の保護者であると同時に運営側の人間でね。瞳に出資する事は出来ないんだ。どうか受け取ってくれまいか」

「ちょっ、ちょっとまってください祠堂さん! なんで私が静雄の!」

 

 理由を聞けば静雄は瞳の唯一の出資者だからだという。「牙闘」(キリングバイツ)は出資者がいる事が出場条件。静雄に何かあれば参加資格を失うとの事。

 

「あ、そっか! 静雄、このまま私に出資してくれ!」

「断る」

「あ!?」

「……………」

「あんたが言うように、参加は本人の自由なんだろうよ。だけど、それなら本人が望んでようがガキに殺し合いさせたくねえってのもこっちの勝手だ」

 

 その言葉にムッと顔を顰める瞳。しかし静雄は取り合わない。

 

「…………和島幽平」

「───!!」

「君のおと──!?」

 

 ドガァン! とボルトで固定されていた机が吹き飛ぶ。静雄が片足を上げていた。机を蹴り飛ばしたのだ。

 

「人の弟に手を出すって事はよお………俺のせいで幽になにか起こるって言いたいんだろ? 弟に何かあったら俺は死にたくなる。それはつまり、俺を殺そうとしてるって事だ………ならぶっ殺されても文句はねえよなあ!!」

「ガア!」

 

 静雄の殺気に反応し飛びかかる瞳。

 ラーテルは相手がどれだけの力を振るおうと怯える事なく挑みかかる。攻撃の通じ難い分厚く柔軟な皮膚を持ち、大きさ関係なく牙を剥く。それは百獣の王ライオンですら戦いを避けるほど。ただし………

 

「寝てろ!」

 

 それは無敵という訳ではない。その敵を選ばぬ凶暴さから、返り討ちに合うこともしばしば。例え死にかけようと襲いかかる死を恐れぬ小さいながらも危険な猛獣。

 平和島静雄は、そんな猛獣をも上回る。頭を掴み床に叩きつけ気絶させる。床に顔を半分ほど埋め気絶した瞳の頭から手を離し祠堂を睨む静雄。

 

「君の家族の名前を出したことは謝ろう。だが、私とて瞳の願いを叶えてやりたい」

「ああ?」

「誠意を見せろと言うなら、見せよう」

 

 そう言って祠堂は頭を下げる。

 

「あの子は闘いを楽しむ。その中でしか本気で生きれない………どうか、あの子の願いを叶えてくれ」

「……………わかりました」

 

 結局折れたのは静雄だった。

 

 

 

 

 

「はっ!?」

 

 目を覚ました瞳は飛び起き静雄を睨む。

 

「てめぇ! 祠堂さんをどうした!?」

「………何もしてねえよ。まあ何だ、取り敢えず俺はお前の出資者続ける事にした」

「どういう心境の変化だよ」

「………お前、自分の力が怖くねえのか?」

「別に?」

「そっか………羨ましいねえ。俺とは大違いだ………ま、だとしてもその力を存分に振るいたいってのがお前の本当にやりたいことだってんなら、もう否定しねえよ」

 

 悪かったな、と床に叩きつけてしまった頭を撫でる。キョトンとした瞳だったが気持ちよかったのか目を細める。

 

「たく仕方ねえなあ。許してやる………変わりに、ちょとこれ買ってこい」

 

 と、メモ用紙を渡してくる瞳。やりすぎたと思った静雄は素直に従う。ちなみに一千万は会社に返しといた。

 

「すいません、ちょっと良いですか?」

「ん?」

 

 レジ袋片手に瞳の下へ戻ろうとしていた静雄に声をかける女の声。振り向くとコート姿の女がいた。見覚えがない。

 

「なんだ?」

「あの、実は見てほしいものがあって」

 

 そう言ってコートを開く女。その下には、素肌があった。コートの下には何も着てなかった。

 

「………あ〜。何だ、その……褒めりゃ良いのか? 取り敢えず服着ろ」

 

 と、静雄が困ったように言うと女はえ、と動揺する。

 

「あ、あのえっと……もっと見てくれませんか?」

「悪いな、他人の裸をジロジロ見る気は………?」

 

 ズッと静雄の足に何かが当てる。見れば服を貫き何やら棘のような物が刺さっていた。

 

「大人しく誘われていればいいものを………だけど、大人しく「蜜獾(ラーテル)」について教えてもらう」

「…………俺の、服が」

「………ん?」

「幽から貰った、俺の服を………この、クソ女がああああ!!」

「っ!?」

 

 静雄のカカト落としがアスファルトを砕く。慌てて飛び退いた女は直ぐにその姿を変える。

 

「何という馬鹿力! お前も獣闘士(ブルート)だったか。だが、如何な怪力も通じない……この、獣闘士(ブルート)山荒(ラウディ)」の前では」

 

 ハリネズミ、ハリモグラ。

 体毛が硬質化した動物はその針を主に身を護るために使われる。だが、ヤマアラシは違う。

 ヤマアラシの針は攻撃用である。

 外的に出会うやいなや脚を踏み鳴らし威嚇。全身の針を逆立たせ、前後を問わず突進する。その猛攻は狩りに馴れたライオンの群れさえ手を余す。

 

「ごちゃごちゃうるせえんだよ、ヤマアラシだがオオアラシだが知らねえが人の服に穴空けやがって!」

(………こいつ、なんでこんなに動ける。足に穴が空いてるはずなのに)

 

 疑問に思いながらも新たな針を放つために構えるラウディ。

 

「まだ殺しはしない、だが痛い目にあってもらう!」

 

 放たれる無数の針。静雄に向かって飛んだ針は、服を貫き……弾かれる。

 

「…………は?」

 

 ヤマアラシの針は硬い。林檎すら貫ける程に。

 だが、その硬度は鉄には及ばない。

 

 

 平和島静雄の肉体は、並の銃弾すら通さない。一度撃たれ倒れた事があるがそれは久方ぶりに怪我をしてバランスを崩しただけ。銃弾は体を傷つけこそしたものの強靭な筋肉に止められ骨にすら届かなかったろう。

 また、その弾丸の摘出に使用したメスはひん曲がり使い物にならなくなった。

 原生生物で平和島静雄に傷つけられる生き物は、存在しない。

 

「幽から貰った俺の服を良くもこのアマアアア!!」

「ヒッ!?」

 

 腕に針を生やし交差させ防御するラウディ。その針をあっさりへし折り頬に拳をめり込ませる。

 

「ぐげえええ!?」

 

 そのまま吹き飛び木に叩きつけられ、気絶した。

 

「あ〜! クソイライラする! 獣人だかブルーレイだか知らねえが俺の服を!」

 

 とは言え気絶した女に手を出さない静雄。ふぅ、と息を吐いてから瞳の所に戻る。

 

「お願い申す! おい達の陣営に、力ば貸してほしかと!!」

 

 瞳の下に戻ると、瞳は巨漢に土下座されていた。




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