キリングバイツ 平和島   作:池袋の取り立て

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俺に喧嘩売ってんのか?

 公園のトイレの扉が破壊され、下着を持ったエルザが出て来る。

 

「あはっ♡ パツンGET!!」

「てめー……ぶっ殺す」

 

 エルザに下着を取られた瞳は獣化し臨戦態勢になっていた。

 

「ひゅー……すごいな。なんの迷いもなく戦闘モードになっちゃうなんて。でもノーパンのままだと風邪引くよ? やめといたら」

 

 臨戦態勢に入った瞳を前に余裕を崩さぬエルザ。瞳は先程のやり取りを思い出す。至近距離で、爪をかわした。その気になればカウンターも狙えたろう。だが、しなかった。どういうつもりだ?

 

「さーて、戦利品も手に入ったし。今日のところは、お暇しよっかな」

「なっ!? てめ、この……待ちやがれ!」

 

 バッとエルザが駆け出し、瞳もその後を追うべく獣人の身体能力で駆け出した。

 

 

 

 獣人は獣化する前から、人間離れした身体能力を有する。エルザは足の早い動物なのか獣化した瞳より速い。と……

 

「おわっと!?」

 

 突如人が飛んできた。覆面で顔を隠した男だ。何事かと見てみれば複数の男が倒れておりその中央に佇む九瑠璃達。舞流が一人の男の胸倉を掴んで無理やり上体を起こさせていた。

 

「あれ、瞳ちゃーん! おトイレながかったね。ん? そっちの可愛い子はお友達? 私達もね、友達増えたんだ!」

「も、もう……許し……!」

「あのねえ、私ねぇ、私ねぇ! 貴方達とお友達になりたいなぁ! 男女の友情ってきっとちゃんとあると思うんだあ私!」

「こ、この女あ!」

 

 と、後ろから鉄パイプを振り下ろそうとしてくる男。舞流は男から手を離し後ろ回し蹴りを後ろの男の手首に当てる。

 

「がっ!?」

「あっぶないなぁ。こんなもので人を殴ろうとするなんて……怪我したらどうすんの……さ!」

 

 などと言いながら拾った鉄パイプで人の頭を思い切り殴る舞流。エルザはヒュウ、と口笛を鳴らす。

 

「こ、このガキども!」

「また増えたぞ! そっちのコスプレ女もやれ!」

「あん?」

「あらら?」

 

 仲間と思われ敵意を向けられる瞳とエルザ。瞳は明らかに殺る気になっており、エルザは殺すのは簡単だけど人の目があるなぁ、と目を細める。その時だった………

 

「なんの騒ぎだ、こりゃ?」

「うわ、喧嘩か?」

 

 と、トムと静雄が帰ってくる。その姿を見て顔色を変えるゴロツキ達。

 

「し、静雄!?」

「も、もう戻ってきやがった! く、くそ!」

「構うなぁ! やっちまえ!」

 

 と、一人の男がバイクの前輪を上げ静雄に迫る。静雄は無言で片手を上げ前輪を掴む。回転を続ける後輪が跳ね上がるように円を描き迫ったが片足で軽く止めるような動作を取れば後輪が吹っ飛ぶ。

 

「………はあ?」

 

 静雄の片手にぶら下がるバイクのハンドルを握ったまま放心するライダー。

 

「人に向かってバイク走らせるってのは、良くねえよなあ? 法律でだって禁止されてるよなあ?」

 

 プシュウ! と静夫の指が突き破った場所から空気が漏れる。

 

「まあ毎日何かしらぶっ壊してる俺が、法律どうこう言えねえかもしんねえけど………そのバイクスクラップにされる覚悟はできてんだろうなあ!」

「あれもうスクラップだと私思うんだけど」

「タイヤ替えれば、使えると思う」

 

 静雄はバイクを持ち上げ、その勢いでライダーが振り落とされる。ぶん投げられたバイクは空高く舞って、地面に落ちて粉々に砕け散った。

 

「し、静雄お! 動くんじゃねえ!」

「ああ?」

 

 と、静雄が振り返ると一人の男が銃を構えていた。

 

「っ!」

 

 鉛中毒とやらになると言われたことを思い出し目を見開く静雄に男は勝ち誇った様な顔を浮かべる。人を殺せる武器を持った愉悦からか、興奮したように涎を垂らし……

 

「ぶへぇ!?」

 

 飛んできた無数の石にふっ飛ばされた。

 何をしたのか? 簡単だ。石を蹴り飛ばした。足元に石はなかった? 石で、コンクリートでできた地面がある。砂場を蹴れば砂が飛ぶように、静雄にとってコンクリートなどビスケットと大差ない脆さ。蹴れば砕けるし、欠片を飛ばせる。

 

「たく、鉛中毒になったらどうすんだ」

「………………」

 

 はぁ、と頭をかく静雄。慌てた様子は、微塵もない。慌てることとは認識してなかった。

 

「物騒だな。おいお前等、今日はもうかえ………」

 

 静雄が茜達に振り返ると、パン、と破裂音が響く。再び振り返ると白煙を立ち上らせる銃を構えた男。

 

「へ、へへ………ば、馬鹿が! こっちは銃持ってんだよ!」

「………っ」

 

 ジワリと静雄の背中が赤く染まり、カランカランと拉げた銃弾が地面に落ちた。

 

「……………へ?」

「………幽から貰った、俺の服…………」

「あ、あの……銃、あた………え? ひ、ひぃ!!」

「…………ふぅぅぅ」

 

 子供が見ているのを思い出し、地面に亀裂が走るほどの一歩でなんとか落ち着く静雄。男は狂乱したように銃を乱射し、カラカラと薬莢とひしゃげた弾丸が落ちる。

 

「いてぇだろうがいい加減にしやがれてめぇ!」

 

 静雄は街路樹を引っこ抜いて男に叩きつけた。幹ではないので、生きているだろう。多分………

 

「な、何。なんなのあいつ………『闘獣士(ブルート)』?」

「あたしが知るかよ………あ」

「え? あ………」

「あ、待ちやがれ! この、パンツ泥棒!」

 

 と、瞳が慌ててエルザを追いかける。

 

「ん? 何だあの子、いつの間にコスプレを…」

「おい待て瞳! その姿で外を走り回んな! すいませんトムさん、ちょっと止めてきます」

 

 生物の走る速度を決めるのは、まずは地面を掴むスパイク、歩幅を得る柔軟な背骨や長い四肢。そして何より重要なのは脚力。

 静雄の脚力が生み出す速度は、並の野生動物を遥かに凌駕した。そしてエルザに押し倒され、振るわれた腕を食いちぎってる瞳を見つける。

 

「……あー……キリングバイツッてやつか? 俺は手を出さねえほうがいいのか?」

「あ、静雄。あったりまえだろ、手ぇ出すんじゃねえぞ」

 

 そう言われてしまえば支援者でしかない静雄は戦いにおいて部外者。仕方ないと肩を竦め観戦することにした。

 

「……………」

 

 エルザは静雄と話している瞳に攻撃出来ないでいた。必殺だと思った一撃、組み伏せて振るった爪……それに思いがけぬカウンターを食らったからだ。文字通り、喰らわれた。

 ラーテル鋭利な刃物だろうと強力な毒だろうと、目の前に迫れば一切躊躇せず攻撃し、狩人の必須の獲物である爪や牙を時に奪う。それは自然界における死を意味する。ラーテルとの戦いは勝てても命を失うかもしれない、危険行為なのである。

 

「フフ。やっばい、惚れちゃいそう♡」

 

 そんな危険動物を前に舌舐めずりをするエルザ。まだ続けるつもりらしい。

 

「『蜜貛(ラーテル)』の実力が本物かどうか確かめてこいって、お兄に言われてるからね。こっちもガチでイカせてもらわないと……っ!?」

「んお?」

 

 と、その時ドン! と大きな音がなり静雄が寄りかかっていた木が揺れる。振り返ると道着をはだけさせた二足歩行の熊がいた。ただの熊ではない。顔から首までと手足は間違いなく熊だが、他は人間。おそらく獣人なのだろう。

 

「ちょ、ちょっと! 邪魔しないでよ! この子は私が先に!」

「そうは行かないよ。『蜜貛(ラーテル)』と遣りたいのは三門(うち)も同じだからね」

 

 そう答えたのはメガネをかけた痩躯の少年。高校生ぐらいだろうか?

 

「はあ? 急に出てきて勝手に何言ってんのよ。こっちは仕事できてるんだから、邪魔するとお兄が黙ってないわよ」

「ちょっと事情が変わってね。石田財閥が臨時で雇い入れた『蜜貛(ラーテル)』を「牙獣闘獄刹」(キリングバイツ・デストロイヤル)に参加させることを決定したんだ」

 

 開催は一週間後。それまでは各財閥の協定により参加者同士の戦いは禁止されていると眼鏡が言う。闇討ちなどを防ぐためだろう。八菱の会長とエルザの兄にも了承を得ているらしい。

 

「ま、そういう事なんで今日はお互い矛を収めて……」

 

 問答無用で爪を振るう瞳。しかし、少年の姿が消えており、熊が腕を振るい瞳を吹き飛ばす。

 

「はっ!」

「そこまでにしろ。何やってんだお前」

「!?何だこの静雄てめぇ!離しやがれ!」

 

 獰猛な笑みを浮かべ戦闘を続けようとする瞳だったが静雄が襟首を掴んで持ち上げる。

 

「話聞いてなかったのか。今日はもう終わりだとよ」

「うるせえ!長ったらしくて聞いてられっか!離せ、このやろ!」

 

 ゲシゲシと静雄を蹴りつける瞳。首の後ろの手に爪を立てるが残念ながら傷一つつけられない。

 

「わりいなあんたら、詳しい話はそっちの子に聞くから帰ってくれ。こいつまだ暴れたりねえらしい」

「当たりまだろ!デストロイヤルだかなんだか知らねえが全員ぶっ倒しゃ私の勝ちなんだよ!」

「ルールってもんがあんだろ。失格になったら祠堂に迷惑かかんぞ!」

「!祠堂さんに!?」

「たぶんな」

「じゃ、やめる!」

 

 大人しくなった瞳を離す静雄。と、眼鏡の少年が静雄を睨む。

 

「あんた、平和島静雄だろ?」

「ん?ああ、まあ……」

「有名だよね、池袋の喧嘩屋。ムカつくんだよねえ、知性の欠片もない下等動物がさ、力が強いってだけで偉そうにしてるの」

「……あー。それはあれか?お前、俺に喧嘩売ってんのか?」

 

 突然の罵倒に静雄は怒るでもなく、疑問を返す。その反応に眼鏡の少年はビキリと青筋を浮かべる。

 

「ムカつくんだよそういう態度!殺しはしないけど、二度と歩けなくしてやるよ!」

 

 少年の袖を突き破り現れる巨大な腕。黒い毛皮に覆われた人に近い、猿の腕。それは、ゴリラ。

 握力は500Kg超。パンチ力は1超。即ち、事腕力においては、自然界最強。その拳が静雄の下半身に叩きつけられ、バキボキと骨の砕ける音とともに静雄が吹き飛ばされる。

 

「静雄!この、ガリ勉ゴリラ!」

「はは、遅い遅い!それより良いのかい『蜜貛(ラーテル)』、僕に攻撃すれば祠堂って奴に迷惑がかかるんじゃないかなあ?」

「知るか!」

 

 牙をむき出しに唸る瞳。完全な臨戦態勢に熊も構えを取り……

 

「だからやめろって言ってんだろ瞳」

 

 再び静雄が瞳を掴み上げる。

 

「………は?」

 

 ありえない、確かに骨の折れる感覚が拳を通してきたはず。そう思い、己の拳を見る。

 

「う、ぎぃ!?ぎゃあああああ!?」

 

 へし折れ、骨が飛び出ていた。まるで鋼鉄の棒にでも思い切り拳を叩きつけたかのように。

 

「な、何が!?何なんだ、お前!?『獣闘士(ブルート)』か!?」

「俺は平和島静雄。名前のとおり、静かに暮らしたいだけの人間だよ」

「ふざけるな!そんな訳あるか、そんな訳!石田の切り札か!?」

「いやだから………」

「ふざけやがって!「獣獄刹」(デストロイヤル)の参加者登録されてないなら、ここでぶっ殺してやる!」

「…………はぁ」

 

 面倒くさい、というようにため息を吐く静雄。人差し指を親指で押さえ、少年に向ける。

 

「寝てろ」

 

 ゴガン! とデコピンとは思えぬ音が響き、少年は縦回転しながら吹っ飛ぶ。

 

「…………………」

「お〜」

「……は?」

 

 唖然と口を開ける熊。素直に感心する瞳。惚けるエルザ。三者三様の反応を見せる。

 

「すげすげー!静雄、今のもう一回!あの熊にやってみて!」

「やるか馬鹿。俺は暴力は嫌いなんだよ……話はとりあえずそっちの嬢ちゃんに聞くから、あんたはそっちの眼鏡を連れて帰ってくれ」

「あ、ああ………」

 

 熊は気絶した眼鏡を抱えて去っていった。

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