キリングバイツ 平和島   作:池袋の取り立て

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さっさと終わらせて帰るか

「ああ、いいっすよいいっすよ〜!」

「エルザちゃ〜ん! こっちに目線頂戴!」

「…………」

 

 カシャカシャとフラッシュ音が鳴り響く。写真を取るのは狩沢と遊馬崎だ。あの後、狂里達のもとに戻れば狩沢と遊馬崎がエルザと瞳をコスプレ少女と勘違いして写真を取らせてくれと騒ぎ出した。

 エルザは乗り気で「部分獣化」という一部分だけの変化により消費を抑える方法を教えることを条件に瞳も誘った。

 静雄がトムとの取り立てから戻ってくると何故か舞流も混じって撮影会をしていた。

 

「意外と乗り気だな、瞳ちゃん」

「ああしてると年相応っすね……」

 

 ラーテルは非常に好奇心の強い動物である。

 少しでも興味を引くものがあれば、一切の危険を顧みず追いかけるためその縄張りは700Kk㎡以上。他種アナグマの約20倍。

 その好奇心と縄張りの広さを利用し蜂の巣に誘導し蜜のおこぼれを預かる「ミツオシエ」という鳥もいるほどだ。即ちラーテルの恐れ知らずの特性は攻撃性のみならず高い柔軟性も備えているということだ。

 

 

 

 

 その後、エルザが瞳を借り何処かに言ったので静雄は己の家に戻る。岡島が留守番してくれていたが、靴が増えている。

 

「………?」

「やあ……」

 

 そのままリビングに行こうとすると廊下にホスト風の男が立っていた。

 

「また会ったね」

「…………ああ、ライオン男」

「忘れてたのかい?」

 

 はは、と苦笑する男。昨日であったライオンに変身した男だ。その笑みはドコサノール蚤虫を連想させるが、それに比べ敵意を隠している感じはしない。だが何故ここに? と訝しむ静雄。

 

「『獅子(レオ)』、怯えているではないですか。お控えさなさい」

「失礼しましたお嬢様。ですが怯えてませんよ、こいつは」

 

 と、リビングには知らない女が茶を飲んでいた。誰だ? 知らない。

 

「はじめまして。三門財閥会長三門陽参の孫、三門陽子です」

「………ああ、4大財閥の一つの」

 

 三門という名にこれまで興味もなかったとでも言うような態度に陽子はピクリと眉をしかめる。

 

「まあいいでしょう。平和島静雄、あなたに『獣獄刹』(デストロイヤル)参加の辞退を要請します」

「あ? 断る」

 

 あの後エルザから聞いた。複数の獣闘士(ブルート)入り乱れる殲滅戦なんだとか。

 

「本当はガキを参加させるのは俺も止めてえが、瞳の奴が絶対出るって聞かねえし………」

 

 獣の力を宿す者の本能か、戦いを好んでいる。それこそ静雄におそいかかりかねないほど。それはそれで抑えられるが所詮一時しのぎ。

 

「何だっけ? 株だのチェスや将棋の棋士だのが集まって彼奴等を動かすとか………でもよ、動くのは結局人だろ。駒だの何だの言って操ろうと、それで上手く行く訳ゃねえ。結局は本人の強さだろう………彼奴はまあ、優勝候補ってのを倒したんだろ?」

「……………」

 

 静雄の言葉にライオン男は肩を竦める。

 

「それでも、貴方の判断一つで人一人死ぬかもしれないのよ」

「……まあな。だけど………」

 

 頭に過ぎるのは瞳の願い叶えてくれと頭を下げた祠堂の姿。平和島静雄の力を前に己を曲げなかった男。

 送り出す者の悲観は無かった。

 

「少なくとも彼奴は生き残るって信じてる人もいる。とりあえずは、それを俺も信じてみる」

「………そう、もういいわ」

 

 呆れたように立ち上がり出ていく陽子。しばらくして瞳も帰ってきた。特訓するぞというから戦うのかと思ったが瞳が行きたい方向の指示を出すハンドサインを見抜く練習だとか。

 まあ細かいことを考えるのは苦手だし、と了承

 それはそれとして鍛錬もした。静雄に負けた経験のある瞳はどうもリベンジしたかったようだが一勝も取れなかった。

 

 

 

 

 そして一週間後。

 「この戦い終わったらまた戦えよ」という瞳に仕方ないなと呆れながらもパーティー会場にやってきた。豪華客船だ。初めて乗った。

 着慣れない高級スーツの静雄と着慣れなかろうが関係なしのドレスの瞳。

 高級料理に舌鼓を打ちつつ静雄は周囲を見回す。蚤虫に似た嫌な匂いがプンプンする。

 

「ちょっと風当たってくる」

 

 ついでに煙草でも吸おうと会場から出ていく静雄。瞳はトイレなら早く戻れよ〜、と送り出した。

 

 

 

「や、やめ……やめてください!」

 

 船上角供の「獣闘士(ブルート)」がトイレに連れ込んだ女を襲っている。

 

「うっせえな、大人しくしてろよ!」

 

 獣人は人間の姿のままでも人より身体能力に優れる。それはその男も同じ。女を無理やり押さえつけ、その征服感に酔い、周りの注意も散漫になる。

 

「おい……」

「あ?」

 

 行為に及ぼうとした男の襟首を誰かが掴み女から引き剥がす。お楽しみを邪魔されてギロリと睨み返す男はサングラスをした金髪の男に忌々しげに顔を歪めた。

 

「邪魔すんじゃねえよおっさん。それとも、てめぇも使いたかったかぁ?」

 

 獣の因子に目醒めようと、ベースは人。知能と生物界における絶対的立ち位置により危機感が薄れた男は気付かない。多少喧嘩慣れして、常人とは異なる力を得たゆえの傲慢さを持って己を止めた男を嘲笑い…

 

「何してんだこのクソ野郎があああ!!」

 

 船内の壁をいくつも突き破りながら吹き飛ばされた。

 

「がは!?」

 

 邪魔されぬよう、それでも抵抗されぬようパーティー会場から程々の距離。だというのに一気にパーティー会場までふっ飛ばされた。

 

「が、てめ………何しやが──!」

 

 叫び切る前に頭を捕まれ床に叩きつけられる。床がヒビ割れ男共々下の階まで落ちる。船が大きく揺れた。

 

「き、貴様何をしている!? 「獣獄刹」(デストロイヤル)はまだ始まっていないぞ! 規則(ルール)違反だ!!」

「ああ?」

 

 上の階に繋がる穴の縁から叫ぶ男を鬱陶しそうに睨む男、平和島静雄。ザワザワと会場が騒がしくなっているのに気づく。

 

「おい! 此奴はルール違反を犯したぞ! 失格じゃないのか!?」

「…………お言葉ですが、ルールは「獣人同士の私闘を禁じる」というものであり、人間の彼には適用されません」

「人間だと!? 馬鹿を言うな!」

 

 どこの世界に人を吹き飛ばし床を破壊する人間がいるのかと叫ぶ一同。果に、瞳が祠堂の持ち駒であるとして不正に加担していると叫ぶ者まで。

 静雄はチッと舌打ちして男を会場まで投げ、己も上の階までジャンプする。

 

「ごちゃごちゃうるせえな………あーしてたこーしてた、どんだけ言おうと俺はじゅーかしゅじゅつなんてしてねえよ」

「ふざけるな! そんなわけあるか!」

「今すぐ追い出せ! そんなチンピラ、どうせろくな教育も受けてない貧乏人だろ!」

「………………」

 

 ビキリと静雄の額に青筋が浮かぶ。騒いでる奴、全員叩きのめしてしまおうかとゴキゴキ指を鳴らし………と。

 

「まあまあ落ち着け………」

「み、三門会長!?」

 

 杖をついた老人が周りを諌める。

 

「平和島静雄だな? 色々調べさせて貰っておるよ。小学生の頃から随分と暴れていたようだ」

「……………」

「お主が並の人間より強いのはよおく解った。だが、選手を闇討ちは頂けぬ」

「なら、どうするってんだ?」

 

 恐らく三門所属の獣闘士(ブルート)達が老人を庇うように立ちはだかる。

 

「なに、人間が手を出してはいけないというルールを作らなかったのはこちらの落ち度だ。だが簡単に不問にもできまい………どうかね、いっそ参加してみるというのは」

「………?」

「常人離れした人間と獣人の戦い。誰も見たことがない戦いを見せてくれれば不問にしてやる、そう言っておるのだ」

 

 その目に浮かぶ興味。人間として規格外の力を持つ静雄と、人間の規格から科学的に脱させた獣人。その戦いが見たいのだろう。

 

「いいね! 出ようぜ静雄!」

「いやそうしたら誰がお前動かすんだよ」

「端末を渡してやろう。それで自分とその娘を動かすがいい」

「だってよ!」

「何でお前乗り気なんだよ」

「だってどうせ優勝するのは私達だろ? 静雄がいりゃ時間短縮できるじゃん。さっさと終わらせてまた喧嘩しようぜ」

 

 その言葉に獣闘士(ブルート)達から剣呑な気配があふれるが瞳は気にしない。

 

「…………はぁ。わあったよ………さっさと終わらせて帰るか」




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