さてさてグレ響と上条さんのお話です。息抜きの筈が一万字越えの小説になるなんて・・・。
それではどうぞ。
1
風呂場で人が寝るのは色々間違っている気がする。
「・・・うだー」
謎の声をあげながら上条当麻は目を覚ます。狭く硬いバスユニットで眠っていたために、体全身に事故で追ったけがとは違う痛みを発している。体のあちこちを回すとバキバキ、と人体からなっていいものかと疑問が出てくる音が聞こえるのが、妙に怖い。
本来ならベッドで眠るはずだったが、路地裏や夜になると活発に動き出し始める不良達が結構いる学園都市。この治安最悪の街にて、野宿を決行しようとした少女、立花響を家に泊めさせた事により、自分のベッド眠ることはできないのだった。
(・・・・・アイツぐっすり眠れたかな)
今も多分ベッドで眠っている少女の顔を思い浮かべながら洗面台に移動する。まだボーッとする頭をフル覚醒させるために顔でも洗おうかと扉を開けると目の前に昨日貸したスウェットを着ていた立花響がいた。
「うおっ!?」
いるとは思ってもいなかった少女がいたため後ろにコケてしまう。
硬い床に腰をぶつけたせいで、すぐに立つことはできなかった。
腰を擦りながら上条は話しかける。
「お、おはよう立花」
「・・・おはよう上条。なんかすごい音立ててコケたけど大丈夫なの?」
「ああ。腰痛むけどちょっと休めば大丈夫だ。てか、こんな朝早くからどしたんだ」
「・・・朝早くって言うけど、もう9時回ってるんだけど・・・・・」
「まじか!?ってことはお前もしかて、朝早くからここにいたのか・・・」
「いや、私もさっき起きたこと。起きてること確認しなきゃ、あんたがこっちに来れないかなって思ってさ・・・」
「ああそうだったのか、ありがとな」
痛みも引きはじめ、壁に手をつきながら立ちあがることができた。時間の確認をしたためか、急に空腹感が襲い始めてきた。
「じゃあ飯にでもするか」
「うん分かった」
そう言って立花はリビングの方にあるベッドの上に座りぼーっとし始め、上条はキッチンの方で昨日買った惣菜パンを温め始めた。
パンが温まるまで手持ち無沙汰なので、冷蔵庫の中の牛乳を出そうとするが、明らかにヤバい匂いがしていたので流し台へ全て叩き込む。
仕方なくポットにお湯を沸かしつつ、今飲むものを考えるとベッドの上で暇そうな顔をしている彼女をみて、
「なあ、悪いけどテレビつけてくれないか。リモコンは机の下のある筈なんだけど」
「・・・・・、」
彼女はリモコンを拾い上げ、言われたとおりに電源をつける。
真っ黒だった画面が、色鮮やかに変わる。
テレビに写ったのは、去年の『大覇星祭』の映像だった。土は盛り上がり、雲一つない空から雷が降り注ぎ、火や氷が飛び交う、SFアクション映画のような光景だが、上条からすればもう何年も見慣れた光景であった。
(確か去年は、運悪く常盤台の連中とやり合うハメになったんだよな・・・)
それはもう、一方的な虐殺と言っても差し支えないものだった。向こうは
朝っぱらからイヤなことを思い出してしまい、テンションが急降下してしまう。ネガティブな雰囲気を変えようとすると、視界にはいった立花に注目してしまった。
彼女は先程から食いつくようにテレビ画面から目を離さず、まるでとてもよく出来たCGを見て、驚いているようにも見えた。
まだ会って一日も立っていないが多分、とても珍しい物なんだろうとさえ思えるほどの顔であった。
チーーン!パンを温めていたトースターが温め終わった音をが狭い部屋に鳴り響く。その音を聞いて立花は、ビクンっ!とベッドから跳ね上がりそうになった。そんな彼女を見て、テレビでよく見る動物の可愛いシーンみたいなにある、猫の動きにそっくりで思わず笑ってしまった。
上条の笑い声を聞いた立花は、頬を赤く染め睨みつけて来たが、怖くはなく逆に可愛い仕草にしか見えなかったので、余計に笑ってしまった。
彼女はそっぽを向き、またテレビに集中しだした。
ポットのお湯が沸騰し、今日はオシャレに紅茶とパンな朝食にしようと安物のティーパックを見つけると、ふと違和感が湧いて出てきた。
ティーパックが入っている袋の横に、入っているのは精々2,3人前なのに横に置いてある袋詰めの何倍もの値をはりそうな高級な紅茶の缶を見つけた。
(え、何これ・・・?)
当然そんなのものを買った記憶はないし、親が仕送り(カップ麺やお米、たまにどこかの国の魔よけ)として送ってきてくれたということ有り得るが、ここ最近の記憶には全く身に覚えのないものだった。
(・・・まあ、危なそうなものじゃないし後で調べることにするか)
そう考え、缶の茶葉ではなく横にある袋詰めのティーパックを取り出し急須に入れ、温め終わったパンと共にテーブルまで持っていた。
「おまたせ。冷めないうちに食べちまおうぜ」
「・・・・・・・・、」
声をかけるが、立花はまだ先程の事を引きづってるのか黙りを決め込む。
「あの姫、もしかしてまだ怒っていらしゃるのでせうか・・・?」
「・・・別に、怒ってない」
「いやそれ怒っている人が言う言葉じゃん・・・。先にパン選んだいいから、機嫌直してくれよ〜。焼きそばパンとカレーパン、どっちがいい?」
「・・・・・カレーパン」
「ほいよっと」
カレーパンを食べ始めた立花のために、氷の入ったコップに紅茶を淹れる。いつもの香りが鼻を通る。カレーパンを食べながら立花は、まだテレビから流れている大覇星祭の様子を先程と同じ珍しそうな表情で見ていた。
そんな彼女の反応を不思議に思った上条は、
「・・・さっきから喰いつくように見てるけどさ、
「・・・ちょっと待って。今なんて言ったの?」
だーーから、と何処か呆れたような声で、
「
はぁー、と説明することは面倒くさかったために、だるそうなため息をついていた。
だが、立花は自分の耳に入った言葉を飲み込むことは出来なかった。
彼女が知っている超能力とは、物をうごかしたり、遠くの物を写真で撮ったり、人の心を読んだりするものであり、そしてそれらは蓋を開ければ種も仕掛けもある奇術であると、彼女の常識ではそう言った物なんだと理解していた。
しかし、いま自分それを教えてくれた少年の言葉が本当ならば、明らかに倫理観を完全に無視したやり方をすれば、そう言った力が出来る物だと、それは今自分がいる世界では当り前の物であると言っていたのだ。
昨日の時点で、今自分が知る場所ではない事を理解していたが、だがまさか、
だから、立花は自分が知っている常識を上条に尋ねる。自分の居た世界なら、誰もが答えられる質問をぶつける。
「・・・ねえ上条、『ツヴァイウィング』って、知ってる?」
「ん?知らねえよ、そんな名前」
「っ!?・・・じゃあ、ノイズって聞くと何を思い浮かべる?」
「・・・雑音じゃね」
「・・・・・・・そっか」
それだけの質問で彼女は理解てしまった。
ここは、本当に自分がいる世界ではないのだと。そして、自分は一生、元の世界には戻れないかもしれない、と。
残酷な真実がひとりぼっちの少女の心をグサリ、と刺しに来る。だからなのだろう。先程から食べていたカレーパンから急に、味を感じることが出来なくなってしまったのは。
2
朝食後、上条は自身のキャッシュカードがないことを思い出し、再発行ついでに金を下ろすことを考え、出かける準備をし始めた。それを見た立花も一緒に行くと言い出した。だが彼女が着ていた冬服を着させるわけにはいかないので、上条が持っていた夏用の服と、彼女からのお願いで水色の夏用パーカーを貸し一緒に出て行くことにした。ちなみに上条の服装は白色のTシャツとカーキ色のズボンといったシンプルなものだった。
まだ日が高く登っている時間だが、早く行かないともっと暑くなりそうなので準備ができしだい二人とも家をでた。
「あちー。やっぱまだまだ暑くてしんどいよなー」
「・・・・・うん」
「なあ、貸した服暑くないか?夏用の薄いヤツだけど長袖だし、脱いでも構わねえぞ」
「・・・・・大丈夫」
「そうか・・・。あのさ無理して俺にも着いてこなくても良かったんだぜ。こんな炎天下、涼しい部屋に居るほうが楽だろ?」
「・・・・・別に、目的の場所までいけば、また冷房の効いた部屋にいられるから大丈夫」
「ああ。ならいいんだけど・・・」
(さっきから会話が続かねぇ・・・)
別段沈黙が苦手な方ではないが、先程から暗い顔をしている立花の事を気にかけるように、上条は積極的に会話の種を植え咲かせよううとするが、うまい具合にはいかず会話は途切れ途切れになっていた。
本当なら立花は上条について行く気はなかった。家で上条の帰りを待とうとしたが、あの真実を知ったあと。あれだけ一人がいい、一人になりたいという望みが叶ったはずのに、昨日から少しずつ出てきていた寂しさと不安が急に成長してきて、今まで感じたことがない恐怖となって襲ってきた。
ただただ今起きていることが分からなくそれを感じだすと余計に怖くて苦しくなってくる。そんな
すると、今度は今まで望んでいたものとは反対の、
そして、そんな事を考えないようにするために、立花は上条と共に出かけることにしたのだ。
目的地である銀行にたどり着き、やっとのこさ冷えた建物に入ったときは上条はまるで天国に居るような気分であった。汗を含んだシャツのせいで多少冷たく感じるが、今だけは逆にそれが心地よく、自身を癒やしてくれていた。
だが、立花はそうは思っていないのか、パーカーのファスナーを閉めきり椅子の上で体を丸める座り方をしながら、軽く震えていた。
「だいじょぶかー、立花」
「・・・べ、別に平気だし(ガクブルガクブル)」
「そんだけ震えてても説得力ねーよ。さっさと用事終わらせてくるから、ちょっとまってろ」
「・・・うん。わかった」
そう言って上条はカウンターの方へ向かい、立花は上条を待つこととなった。
上条が離れた後、暇なので周りにいる人たちを見ると、自分より下の『子供』が目に映る。
自分の目の前を先程からウロチョロしている、黒髪ロングに花の形をしたヘアピンを身につけた少女と、黒髪ショートヘアーに花の冠のようなヘアアクセサリーを身につけた少女。見た目から察するに小学生の高学年か中学1年生と推測される。
だけど彼女たちの周りには親の姿は見えず、それどころか彼女達よりも小さい年頃の『子供』の姿すら見えた。
(・・・この子達も涼みに来た、って感じじゃないね。まさかあの子達の親がお使いで銀行に行かせてる・・・ってそんな訳ないか)
手続きどころかATMからお金を下ろす事だって、あんな小さな子供が行おうとすれば見ればお手伝いする筈だ。だけど、見守ってはいるが近づこうとはせず、何時もの様子とでも言いたげに仕事をしていた。
もう一度先程の少女達を見るとロングヘアーの少女がショートヘアーの少女にちょっかいをかけて、かけられた少女は顔を真っ赤にしてポカポカ、とうい音が似合う位の勢いでロングヘアの娘を叩いておた。
どちらもその一連の行為を、いつものじゃれあいとでも言える微笑ましものである
ふと、そんな彼女達の姿を見ていると昔のことを思い出す。自分にまだ親友と呼びあえる少女がいて、今の彼女達のように仲良く遊んでいた時の事を。
その日々のことを思い出すと、また苦しさと寂しさが襲ってきた。
ゆっくりと、しかし確実に少女の心を蝕んでいく。泣きたくないに、少しでも顔を緩ませると本当に泣いてしまいそうになってくる。
だからそんな顔をしないために歯を食いしばろうとすると、
「あの、どこか具合が悪いところでもありますか?」
「お姉さん、さっきから顔色悪いけど大丈夫?」
先程からうろちょろしていた女の子達が、立花に声をかけていた。
鏡やカメラで自分の顔を確認することは出来ないが、見ず知らずの女の子に言われるという事は、よっぽど酷い表情をしていたのだろう。
しかしこんな小さい娘達に心配をかけたくないので、泣きたい衝動をかき消すために小さく息を吸い、
「・・・・・大丈夫。ちょっとここの冷房が寒いから顔色悪く見えただけだよ」
「そうですか。良かったーー」
心の底からの心配事が消えたかのようなため息をショートヘアの女子がつく。
「ほら私言ったじゃん。ここ絶っっ対に冷房効きすぎだって」
「さ、佐天さん!そんなこと大声で言っちゃダメですよ!」
「でも、お姉さんも寒いって言ってたじゃん。やっぱり寒いですよね〜ここ」
「・・・そうだね」
こんな風に女の子同士で話すのは何時ぶりだろう、そんな事を思ってしまうくらい自分は誰かと会話をしていなかったと考えてしまう。
それでも、そんなマイナスな考えを吹き飛ばしてくれる程、自分より年下ではあるが同性の人との会話は自分の心を癒やしてくれていた。
彼が戻ってきたらこの会話は終わってしまう、だけどもう少しだけ彼女たち、いや彼も交えて話ていたい。そう願った瞬間、
「手を上げて、全員動くなァッ!!!!?」
最悪の事態が彼女たちに襲いかかろうとしていた。
3
「さっさと金を詰めろ!死にてえのか!?」
黒い鉄の塊を突きつけながら、強盗に来た男達は叫び散らす。銀行員はそんな彼にビビってしまい動くことが出来なかった。そんな銀行員に対し、男は募る苛立ちを隠すつもりはなかった。そしてもし仮に、その苛立ちをいさめようとする者が居れば、男はその相手に向かって、小さな鉄の塊を撃ち込みにかかるだろう。
だが、驚異的存在は一人ではない。
(銃を持ったヤツが一人と、ナイフを持った奴が一人、そんで凶器っぽいものは持ってはいねぇが偉そうにしているヤツが一人、か・・・)
強盗犯はマスクをかぶっており、その人数は一人ではなく複数によるものである。また、ナイフの男は出口の確保に務めてる事から計画的なものかと、上条は推測する。
状況は最悪。運良く
では、今その様子を観察している少年、上条当麻ならどうにかできるか。その答えはNoだ。彼はどこにでもいる平凡な中学生であり、この場をどうにか出来る能力も持ってはいない。
しかし彼が今一番気になっているのは、
(立花のヤツ、大丈夫か・・・?)
自分と一緒に来ていたもう一人の少女。彼女が居たはずの位置には強盗はいないが、いつ来るか分かったもんではないため、焦りが生じてくる。
(無事で居てくれよな・・・ッ!?)
彼女の無事を祈りながらこの場をどうにかできないか、よく巻き込まれてきた荒事の経験や知識をフル回転させていく打開策があるかを考え出した。
「お姉さん。怖いよ、怖いよ・・・っ!?」
「大丈夫、大丈夫だから・・・」
この状況に怯えてしまったために、黒髪ロングヘアー少女、佐天涙子は立花に抱きついていた。そんな彼女に今の光景を見せないために立花は自身の体で覆い隠していた。
普通ならありえない状況下であるのに、立花響は冷静にいることが出来た。それは今も恐怖で怯えている少女がいるためもあるが、二年前に起きたあの事故よりかはまだ無事でいられるかもしれないと感じていたからだ。
いくら激昂しているとはいえ、こちらから仕掛けなければ向こうも襲っては来ないだろう。
(・・・・・どうする?警察に通報しようにも携帯なんて持ってないし。というか、そんな事
「あれ、初春がいない!?」
「!?」
おどろいた声で佐天が小さく叫ぶ。
初春と言った名前に聞き覚えはないが、あのショートヘアーの少女が見当たらない。
(何処に・・・!?)
「そ、そこまでです!」
大きな声が男達に向かって浴びせられる。声が聞こえた方を向くとあのショートヘアーの少女、初春飾利が叫んでいた。
「わ、私は
「ああ!?舐めてんのかテメェ!!?」
少女の叫び声をかき消すような怒声がにより、ショートヘアーの女の子の勇気が消え
男は銃を銀行員から少女へと向きを変え、
「それ以上ふざけたことを抜かせばぶっ殺すぞ!!?」
そう言って今度は少女に脅しをかけ始めた。
この時少女は一つの嘘をついていた。少女は
自分の
自分には何も出来ない。この状況をひっくり返すことは出来ない。資格も、力もない普通以下の人間。
でも、それでも。
「それでも、これ以上こんな事をさせるわけにはいきませんッ!!!!??」
まっすぐな正義の灯火を宿した目をしたまま啖呵を切り返す。
その言葉を聞いた男は、
「そうかよ、じゃあ死ね」
冷徹で底冷えするような言葉と共に、男は撃鉄をおろして、撃ちぬく準備をする。
邪魔者を消し、二度と自分には向かわせないようにするために。
佐天涙子には
だからこそ、少女は願うしかなかった。自分ではない力を持っている誰かに、縋り、頼り、望みを託すしかなかった。
(お願い。誰か、誰か初春を助けて!?)
だけど現実は少女の願いに応えず、男の指にかけている引き金に少しずつ力がこもる。
その光景を見た少女は、いつの間にか自分を守るように抱えていた女の人の腕を振り払い、叫ぶ。
「やめて、お願いだから、やめてぇぇええええええッッ!!!!」
男は一度だけ佐天涙子の方を向くが、すぐに初春飾利の方に視線を戻す。
そのままもう一度引き金に力を込める。
そして、そして。
「
聞いたこのない歌声と共に、
すると、いつの間にか初春飾利の前にオレンジをベースとしたインナーを纏い、長いマフラーを巻いた、まるでアニメに出てくる変身ヒロインが登場する。
男はそれに驚き、思わず引き金を引いてしまう。
初春飾利は、音共に目をつぶってしまう。それに対して女はまるでゆっくりと投げてきたボールを見るように、なんてことのない顔で
男は、いや、その状況を見たいた人たちは驚きの顔をしていた。
そして、その女は、立花響は言った。
「・・・人に向かって、そんなもん撃とうとしてんじゃないよ・・・・・ッ!?」
怒りの炎を纏った、
4
(さて、どうしよう?勢い余って何も考えずに飛び出しちゃったけど・・・)
シンフォギアという力を纏った立花響は強い。その強さは、かるく力を込めた拳をぶつけただけで大きな大木をへし折るほどの威力だ。
だけど、その力強さは少女にとって『縛り』になってしまう。今までぶつけてきた相手はそんな事を気にする必要はなかったが今回は違う。そんな力を全力で人にぶつけてしまうと、スプラッタ映画のような光景になってしまう。そんな事は立花だって望んではいない。
だから彼女が今やることは、全力の力を使わずに、全力でこの場をどうにかしなくてはならないのだ。
そんな考え事をしていると銃を持った男は、
「何なんだよ、テメェはッ!?」
目の前の光景に理解が出来ないまま、今度は立花に狙いを定め、もう一度引き金に力を込める。
相手の行為に対して、立花は怯えることなく次の行動にうつす。確かに大木をへし折るその強力は人のは向けることは出来ない。
だけど、男が持つその凶器になら、全力で振るうことができる。立花は胸に沸いてくる歌を歌いながら、男が持つ銃を掴む。
メキメキメキッ!そんな音を立てながら、鉄の塊は粘土のようにへしゃげてしまう。
男はそんな目の前でおきた現状に、今度こそ思考が停止する。
その隙をみて立花は、今度は全力で力を抜き、男の鳩尾に掌底を叩き込む。
「ごっ・・・!?」
肺の中にある空気と、腹にたまっていた消化物が無理矢理吐き出されながら、男は倒れた。殴ったのは自分だが、少しばかりその姿を見て同情してしまう。
「テメェ、よくもケンちゃんをッ!!?」
今度はナイフを持った男が立花に向かって刺しに来る。ナイフは立花の腹をめがけて襲いに来るが、立花は慌てることなく男が持つナイフの刃先を掴み。
「ハァ!?」
驚きの声を出した男を無視して、立花はシャープペンシルの芯を折るようにポキッと、へし折った。無論立花の掌は傷一つ付いてはいなかった。
ナイフを持った男は思わず、自分の武器を持つ手から力が抜けてしまう。カラン、っと音立てた落ちたナイフを立花は思いっきり踏み潰す。
ドンッ!!まるで大地震が起きたかのような揺れと音響き渡る。その近くにいた男は思わず腰を抜かしてしまい、座り込んでしまう。
そんな男を見ながら立花は、
「・・・あんたもこうしてやろうか・・・ッ!?」
静かだが、それでも分かる位の怒りと殺意をぶつけながら相手を睨む。その怒気と殺気を目の前浴びた男は思わず失神してしまった。
立花はさきほどから偉そうにしていたマスクの男の方を見ながら、
「・・・お友達は全員気絶したけど、あんたはどうするの?」
「んなもん、テメェをぶちのめして仇を取るに決まってんだろ!?」
「あっそ。じゃあやってみなよ」
挑発じみた受け答えをするが、立花は興味をなんてはじめからないような雰囲気のまま地面を踏みしめ男めがけて飛びかかろうとした。
瞬間、男はいつの間にか手にしていた1Lのペットボトルが入った水を投げる。水はそのまま立花にかかり、信じられないことに張り付いてきた。
「!?ゴホ・・・ッ!?」
息をしようにも水が口や鼻から入り呼吸が出来ず、溺れたような感覚に陥る。
(一体何が・・・!?)
あきらかに物理現象を無視した動きをした水に対して、何が起きたか理解することが出来ない。
すると、その答えは男の方から教えてくれた。
「どうだ!俺の
(はいどろ、はんど?それって、上条が言っていた超能力のこと!?)
少しずつ減っていく酸素の残量に初めて焦りが生じてきた。それに立花は知らないが、シンフォギアの力は歌によって作られていく。だからこそこうして歌うことが出来ない状況は彼女にとってはかなり最悪の展開なのだ。
(まず、い。い、しきが・・・)
「おらッ!さっさと死ねやッ!!」
目の前が暗くなってくる。手足に力が消えて、倒れ込む。どれだけ持つかは分からないが、あと十数秒も持たないのは分かる。暴れ回る力もなくなり、目をつむってしまう。その手前で。
パリンッ!とガラスの割れるような音が響く。その瞬間立花を覆い被さっていた水は重力に逆らわず落ちていく。
「!?ゲホゲホッ・・・、なに、が・・・!?」
「お前、何をした!?」
男は立ちな場の方を見てはいない。男の視線は立花の目の前にいる男に向けられていた。
ツンツン頭に、白色のTシャツとカーキ色のズボン。その少年を立花響は知っている。
「かみ、じょう・・・?」
立花の声に答えることなく、上条はダンッ!と勢いよく男に向かって走り出す。距離にしておよそ10M。歩いてでも数秒でたどり着く距離だが、今の上条は目の前の男を1秒での早くぶちのめすことしか考えてなかった。
男は上条の表情を見る。その顔はまさに修羅と言っても過言ではないものだった。その迫力を見たけっか、男はもう一度水を操ろうとは考えることは出来なかった。
そして、男と上条の距離が数センチにも満たない距離もまで近づくと、上条は右の拳を本気で握りしめ、
「人の知り合いに、手だしてんじゃねえぞッッ!!!!??」
ガンッ!!上条は男の頬めがけて思いっきり殴りかかった。殴られた男は一回転し、頭から落ちた。そして、男はそのまま気絶した。
「はぁ、はぁ。上条、あんた一体・・・?」
「大丈夫か、立花?」
先程までの恐ろしい表情から一変し、優しい顔で微笑みかける。その顔を見て立花も少しだけ肩の力が抜けた。
息を整えていると、強化された聴力によって人や警察が来たことに気がつく。
なんとなくであるが、今この場を見られるのはまずい気がする。そんな事を思うと立花は上条の服を掴み、
「上条、さっさと逃げるよ!?」
「え、ちょ・・・!?」
上条の声を無視して、立花は窓をぶち破りそのまま逃げ出した。
5
「初春、大丈夫!?」
「佐天、さん・・・」
「初春・・・ッ!?」
親友の呼びかけに答えた瞬間、佐天涙子はおもいっきり親友を抱きしめた。今自分がだせる全ての力で。そして苦しかったのか初春飾利は親友の肩を叩きながら力を緩めるようお願いする。
「佐天さん、苦しいですよ・・・」
「初春ごめん!あたし何も出来なかった。初春が勇気を出してあの人達の所へ行ったのに、あたし、何も・・・っ!?」
「・・・私も、何も出来ませんでした。あの人が助けてくれなきゃ、私も、死んでいたかもしれません。・・・やっぱり私なんかがあんなことするべきじゃなか・・・」
「そんなことない!」
初春の言葉を大声で遮る。
「あの時の初春凄くかっこよかったよ。あたしはあの時震えて動くことが出来なかった。でもッ!初春は勇気を出してあの人達に立ち向かっていった!あの時の初春は本物の
「佐天さん・・・」
「だからさ、そんなに自分を責めないでよ。初春は強くて勇気ある私の自慢の親友だよ」
「さてん、さん。・・・ふぇ」
こうして、彼女たちは一つの決心をした。
初春飾利はもう一度、いや何度だって
佐天涙子は助けてくれたあの人を何が何でも探し出し、お礼を言うと。それから彼女は学園都市の都市伝説について調べるようになったのだ
「あばばばばばばばばばばばばばばッッッ!!!!??」
まさか能力を使わずに空を飛ぶことになるとは、上条はジェットコースターに乗った事を思い出しながら風を感じていた。正直そろそろあまりの息苦しさに失神してしまいそうだ。
「・・・そろそろ着地するよ」
だが立花は息苦しさなんて感じていないように話しかけていた。
どうやら上条の寮近くまで跳んできたようだ。屋上に着地すると上条はやっとの思いで大きく呼吸をし始めた。
「・・・大丈夫?」
「あ、ああ。なんとか、ぶじ、だ・・・」
やつれた顔だがなんとか笑って元気全快なアピールをした。
そしてある程度息を整えてから、
「ありがとな立花。お前があの時、あの娘の前に立たなかったら今頃どうなっていたか・・・。本当にありがとう」
頭を深く下げ謝意を述べる。上条では肉盾になってもあの男達全員を倒すことは出来なかった。でもあの時は、自分よりも強く何とか出来た存在、立花響がいたことが本当に救いであった。
立花はこの時自分の力によってお礼を言われたのは初めてであった。だからなのだろうか?胸の奥が先程から温かくなってきたのは。
「・・・どういたしまして。上条」
そのお礼に対して、はにかみながら言葉を返した。
そんな彼女の笑顔は太陽とかぶっていたためなのか、まぶしくとても似合うものだった。
立花も落ち着いてきたため、先程から気になっていた質問をぶつける。
「・・・そう言えば、あんたのあの力。一体何なの・・・・・?」
「ああこれか。
「・・・なにそれ滅茶苦茶じゃん・・・・・。あといつまでそこに座ってんの?」
「ごめん。まだ脚に力が入らなくて・・・」
「そっか・・・。じゃあ、はい。掴みなよ」
そう言って立花は手を伸ばす。どうやら立つのを手伝ってくれるようだ。
ならばその優しさに甘えることにしよう、そう思いながら上条は差しのばされた手を、
そして、
パキンッ!とあの時聞こえたガラスが割れる音が響いた。
「あ」
間抜けな声が上条の口から漏れた。少年は自身の力を超能力だけを消せるものだと感じていた。でも今ので分かった。触れた感じは違うがどうやら立花が纏っている力もまたそれに類するもののようで、それが示すものはというのは・・・。
「?どうしたのさ、いった
立花は何かを言い終わる前に、彼女の纏っていた衣装は光になって消え去った。
つまり、今の彼女は生まれたままの姿になってしまった。
素っ裸になってしまって2秒後、自身の今の姿に気が付いた彼女は、
「・・・!?なにすんだ、この変態がぁああああああああッッッ!!!!??」
「ぎぃやぁぁあああああああああああ!!!!??」
不幸だーー!!といった少年の叫び声とドカバギッ!なんてバイオレンスな打撃音が、学園都市のおんぼろ寮の屋上から鳴り響いた。
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