とある戦姫の翳裂閃光   作:ドナルド・カーネル

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どうも作者です。
いやーシンエヴァが公開されて見に行ったり、エクバシリーズ最新作でフルクロスやV2、F91で遊んでいたり、引っ越しの準備したりと、色々とありましたが何とか書きました。
それではどうぞ。


招かれざる繧、繝ャ繧ョ繝・繝ゥ繝シ/ sixth days

1

「――――ん。あれ、俺いつの間に寝てたんだ・・・?」

 

「・・・昨日ベッドに寝転んでからずっとだよ」

 

「おうゎ!!?」

 

変な叫び声と共にベッドから転がり落ちる。自分の横に立花響が寝転んでいたためである。

 

「え、は!?なんで立花が隣で寝てんだよっ!?ま、まさか俺・・・ッ!?」

 

「・・・上条が寝たあと、寝られる場所がなかったから隣で寝てただけ。だからあんたが想像しているようなことは起きてないから安心して」

 

「そ、そっか・・・」

 

「じゃ、私顔洗ってくる」

 

立花はそう言って、上条をまたいで洗面所へと向かった。

男と一緒に寝たというのに、何時もの感じで特に緊張していない様子であったが、よーく見ると耳は赤色に染まっており、洗面所に入った途端。

 

(私、男と一緒に寝たんだよね。今になって恥ずかしくなってきた・・・///)

 

年相応な|初心(うぶ)い反応をしていたことを、上条は知らない。

 

 

 

「「いただきまーす」」

 

二人そろって食前の挨拶を済ませる。

五枚切り食パンのトーストと、サラダとスクランブルエッグのワンプレートといった普通の朝食。前までは二人きりでの光景に互いが戸惑いを覚えていたが、昨日からはそんなことを覚えることなく朝食を取っていた。

だが何かを話すわけではないため、無言に耐えられなくなった上条はテレビを付ける。

 

画面に映った番組は朝のニュースであった。このニュース番組学園都市内部だけのニュースを取り扱う番組であり、なにやら昨日起きた事件についてホログラムのニュースキャスターが話していた。

 

「なになに、『公園で謎の炭の塊を発見。炭の回りには服と財布などが落ちており、現在財布持ち主の現在の居場所を確認中』か。なんか変な事件だな・・・」

 

炭の塊の単語を見たときは、どこかの発火能力者(パイロキネシスト)が暴れた事件だと持ったが、現場の様子を見ると燃えたような跡は見られなかった。じゃああの炭は何が原因で発生したんだろうなー、と思いながらトーストを頬張っていた。

風紀委員(ジャッジメント)でもなければ、財布の持ち主達が映った顔写真に見覚えがあるわけでもないので、自分には関係がない事件だし、この後の予定でも立て始めていた。

一方立花はニュースを聞いてから、何か信じられないものを見た顔つきになっていた。

 

「・・・まさか、でもこれって・・・・・!?」

 

食べることを止めて、事件のことについて何か知っている雰囲気を醸し出していた。ボソボソと小声で何か言って、そして意を決したのか上条の方を見て、

 

「上条、お願いがあるの」

 

「ん、なんふぁ?」

 

サラダを口いっぱい頬張りながら返事をする。

 

「・・・この事件のあった場所に連れて行って」

 

そう言った時の立花はとても真剣な表情で、自分のやるべき事をなさねばといった様子であった。

こうして上条達の午前中の用事が決まったのだ。

 

 

 

 

 

2

約束どおり事件現場の公園に向かう上条達。上条の方は夏の暑さにうんざりとしながら重い足取りで動いていたが、立花の方は何処か余裕のない表情のまま現場へと早歩きで向かっていた。

 

「おい立花、そんなに急がなくても現場は逃げねえぞ」

 

「・・・・・」

 

上条の言葉に反応せず、黙々と速度を上げていく立花。そんな彼女について行くために汗をだらだらと流しながら上条も速度を上げていった。

 

そうしてたどり着いた公園は、立花には見覚えのある場所であった。

 

「・・・ここって」

 

「ああ、お前がベンチで寝ていた公園だよ」

 

そこは、本来自分がいる世界から転移したとでもいうのだろうか。ともかくこっちの世界で目を覚まして初めて目にした場所であった。

それは()()と自分が始めた来た場所がまたま同じ場所だったのか。それとも何か特別な事情があって、この場所へたどり着いてしまったのか。

自分では何一つ分からないままであるが、上条に相談するのも難しい。だから今はもしまだこの世界にいるかもしれない奴らのことについて対処すべきだと、頭を切り替えた。

そのまま今朝のニュース番組に映っていた場所にたどり着く。現場と思わしき場所に立ち入り禁止と書かれたコーンが立てられて、その周りを警備員(アンチスキル)達が囲っていた。

 

「ダメだ、警備員(アンチスキル)が邪魔ではっきり見えないな」

 

「・・・ねえ上条。学園都市(ここ)では人が炭になった事件って、今まで沢山あったの?」

 

うーん、と唸り声を出しながら顎に手を添えながら考えだす上条。

 

「・・・俺が知る限りはないと思うぞ。まあ、人体全部を炭に変えちまうだけなら、強能力者(LEVEL4)発火能力者(パイロキネシスト)・・・いや、道具さえ用意すれば俺たちみたいな無能力者(LEVEL0)だって出来るし、犯人の手口を考えるのは難しいと思うぜ」

 

「じゃあ、人を炭にする能力者っている?」

 

書庫(バンク)使えばわかると思うが。でも、人体の半分以上は水分で、炭素なんて数%で他にも別の物質があるっていうのに、物質全てを炭化させるって、それってもう超能力の域をこえてねえか?」

 

この街で開発されている『超能力』は、遠くのものを動かす『念動力(テレキネシス)』や人の心を読む『読心能力(サイコメトリー)』といったテレビ等でよく見るものや、『発火能力(パイロキネシス)』や『電気使い(エレクトロマスター)』といった自然の力を我が身のように使う能力だってある。

だがそれら全てに共通してるのは、どれだけトンチキな能力に見えても、科学の視点から説明がつくものばかりであり、物質事態を全く違うモノへと変換する能力なんて聞いたことがないし説明のつけようがないのだ。

だから上条は、そんな能力があるなんて思っていないし、今回の事件の手口も分からないままであった。

 

「何が気になった分かんねえけど、こんだけ見たら充分だろ。じゃあ帰ってアイスでも食おうぜー」

 

そう呼びかけて来た道とは反対の足取りを辿る上条と、まだ何か納得がいかないのか立花はその場所から動こうとせずまだ現場の方を見ていた。

まるで、何かを待っているかのように。

彼女が着いてきていないことに気がついた上条は、ため息をつきながら振り向いて。

 

「なぁ、立花さっさと帰・・・ッ!」

 

呼び止めようとした瞬間。目の前で理解出来ない光景が起った。

 

人が、一瞬にして炭の塊になったのだ。

 

「あ・・・」

 

思考がまとまらなかった。理解が出来なかった。

 

「ぁ・・・あ・・・」

 

そしてようやく、人が炭へと変わるのを目撃してしまったという事実がゆっくりと、恐怖とともに襲いかかってきた。

 

「――――うわァァァあああああああああああああああああッッッ!!!!??」

 

そこからは、ただただ叫んでいた。次々と流れる思考を止めるように、それらの理解を拒むように、叫んでいた。

だが、どれだけ叫んでも目の前の悪夢は消えることなく、それどころかもう一人の警備員(アンチスキル)も炭に変えてしまっていた。

 

(なんなんだよ。何で・・・、何でいきなり人があんなことに!?)

 

「上条ッ!ボーッとするんじゃないッ!!」

 

「ッ!?」

 

立花の叫び声を聞いて、ほんの少し冷静さを取り戻す。

彼女の方は、驚いてはいても上条のように取り乱してはいなかった。

上条当麻は、目の前の『何か』が分からない。だけど、立花響は目の前の『何か』を知っている。

 

「・・・上条は知らないって言ってたし、ニュース見た時も似たような事件かと思ったけど、やっぱりお前達の仕業か・・・ッ!!」

 

キッ、と相手の方を睨み見つけながら『何か』に向かって叫ぶ。

 

「ノイズッ!!!!??」

 

そう叫ぶと、灰色の怪物『ノイズ』は立花達の方を見た。

次の獲物を見つけ、狙いを定めたかのように、無機質な怪物はジリジリと詰め寄る。

 

「よく分かんねえけど、ここにいるのはマズいだろ。さっさと逃げようぜ立花ッ!?」」

 

アレの名前を聞いたところで、上条の情報はそこで止っている。アレの習性や弱点は分からないままだし、アレに対抗する策は何も思いつかないままであった。

唯一通じるかもしれない『右手』だって、もし通じなければ右手どころか体全体が炭に変わってしまう。

だから、逃げるという手段はこの場において最も正しい(賢い)選択なのだ。誰もその選択に対して攻めることはない。

それは立花も同じ考えであった。ただし、

 

「・・・そうだね。だから、()()()だけ先に逃げな。私は――」

 

その先の言葉を放つ前に、少女は歌を紡いでいた。

瞬間、橙色の光が少女を包みこむ。アニメに出てくるオレンジ色ベースとする戦闘ヒロインのような衣装と純白というには少し濁った白色の長マフラー。腕にはプロテクターとメリケンサックを兼ねたようなガントレット。頭部には、ヘッドフォンを模したヘッドギア。その姿は以前銀行で見た姿であった。

 

「こいつら全部、ぶっ潰すッッッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

3

「ハァアッッ!!」

 

ゴンッ!胸の中からあふれ出す歌詞にメロディーをつけながら、ノイズを殴りつける。

一体一体、確実に潰すために力を込めながら拳や足をふるう。殴り蹴られたノイズ達は炭へと変わっていく。

立花響の徒手格闘は、彼女自身のオリジナルである。師匠と呼べる人物はなく、暇な時間ばかりを過ごしていたため、森の中に入っては木を相手に見立て格闘練習というなの時間つぶしをしていた。だからこそ、その動きに中国拳法や空手といった『型』にはまったものではなく、上条のような路地裏の喧嘩のファイトスタイルを彷彿させるものであった。ただし、上条のような普通の中学生がやる動きとは違い、映画のワイヤーアクションやスタントマンさながらなものであり、自分の身体を全て使いこなしながら、普通の人間以上の、動きでノイズ達を圧倒する。

その強さは、現代の戦姫(ヴァルキリー)そのものであった。

 

「す、すげぇ・・・」

 

以前見たときも銃を粘土のようにひねり潰し、刃物を自身の手を傷つけずにへし折っていた時はかなり驚いたが、あれでもまだ全力で戦ってはいなかったという衝撃を覚えるしかなかった。

ノイズと呼ばれる怪物と立花達の戦いは一見互角のように見えるが、状況は立花が有利であった。

最初は数で勝っていたノイズ達であったが、その体は一撃入れられるだけで崩壊していく程脆いものであった為に、一撃必殺(ヒットアンドアウェイ)で的を屠り続け、増殖することのないノイズの数は一方的に減っていくのであった。

このまま見ているだけで何とかなると思っている上条だったが、その考えは一瞬にして消え去る。

残った4体のノイズは立花ではなく、突っ立ている上条の方へと狙いを定め動き出した。

 

「ヤバ・・・ッ!?」

 

「ッ!行かせるかぁッ!!」

 

上条とノイズの間に立花が割り込み、2体のノイズを潰すが残りは立花を無視して、上条の方へ向かう。

逃げようと考えているのに恐怖のせいか、コンクリートで固められたように足は動かず、立ち尽くしてしまう。

 

(ダメだ、動かねぇ・・・ッ!?)

 

「上条ッ!!?」

 

立花も急いで駆けつけようとするが、急にとてつもない高熱が身体を襲った。いつもなら『力』を解除した時に出てくるダルさと熱さのせいでワンテンポ遅れるどころか、その場倒れ込みそうになった。

 

「なんで、こんな時にッ!?」

 

(ダメ、このままじゃ上条が死んじゃう・・・ッ!?)

 

また、人が炭に変わってしまう。自分のせいで人が死ぬ。あの時と違って力がこの手にあるのに守れない。

嫌だ。それは嫌だ。

もうあんな光景を何度も見たくない。

なのに身体は言うことを聞かない。動けと命じても動かない。

 

「・・・や、めて・・・やめてぇぇえええええええええええええ!!!!」

 

どれだけ叫んでも怪物(ノイズ)に人の言葉は通じない。例え通じたとしても、動きを止めることは無い。怪物と人間が仲良くするお話があったとしても、現実は幻想(物語)のように優しくはない。

そして、一体のノイズが体を細く早く人にぶつける形をとり、上条目掛けて撃ち込んできた。

少女の目の前で、人が炭に変わる。

そのはずだった。

 

 

 

パキン。ガラスが割れるような音ともにノイズが消滅するその瞬間までは。

 

 

 

「え・・・・・」

 

立花響は人がノイズに触れると炭になるという事実を嫌という程知っている。だから、上条が狙われた時はもうダメだと思った。

なのに、目の前にいる少年は人の形を保ったままであった。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

上条当麻の右手には、不思議な力が宿っている。幻想殺し(イマジンブレイカー)、それは超能力や立花が使う力が右手に触れた瞬間、問答無用で打ち消すものである。それがどういった原理で機能しているのか。なぜ自分右手に宿っていたのか。どうして、ノイズを消すことが出来たのか。

どの問いかけも上条には応えることが出来ない。だけど、一つだけ分かったことがある。

この右手を使えば、目の前にいるノイズ(脅威)をぶち壊すことが出来る。

それさえ分かれば良い。それが分かっただけで十分である。

動かなかった足も、今はリラックス状態になっており、もう一体のノイズが動くよりも前に駆けだしていた。

駆け上がるのと同時に、拳をグッと握る。幻想殺し(イマジンブレイカー)は右手首より上には力はなく、倒すには近づいて殴らなければ効果がない。

ノイズも上条の動きに気がついて、体の形を変えようとしたが一手遅く、

 

「邪魔だ」

 

大きく振りかぶった少年の右手がノイズに直撃する。触れた瞬間、立花が倒したときのように炭に変わるのではなく、そこにいた痕跡そのものを消しゴムによって消えた鉛筆のように綺麗にいなくなっていた。

まわりノイズが居ないことを確認してから、立花に近づく。

 

「立花、無事かッ!?怪我とかしてな、あっぶねえ!!なんでいきなり殴りかかろうとしてんの!?」

 

「・・・あれ見た後で、何でそんな命知らずな行動ができんのよッ!!というかさっさと逃げろって言ったのにこっちに向かって走るとかバカなのッ!!?」

 

「だって、お前が心配だったし。戦える人が増えるなら別にいいだろ」

 

「いいわけ、ない、でしょ・・・ッ」

 

悪態をつこうとするが、また体を熱と気怠さが襲いにかかり、上条のほうへと寄りかかった。

以前右手で触れたときとんでもにないことになってしまったので、左手で彼女を受け止める。すると左の手から信じられないほどの熱量を感じた。

 

「あっつ!?お前どうしたんだよこれ!?風邪引いたときみたいになってるぞ!」

 

「・・・分かんない。ここ最近、この力を使った後こうなってたんだけど、どうやら今日は解除する前からこんな感じみたい。取り敢えず、早く家に帰りたいからこのまま前みたいに跳んで帰るよ」

 

「え、ちょ・・・ッ!?」

 

上条の返答を待たずに、立花の足に備わっているジャッキの力を使い空にむかって跳びだした。

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・繝溘ヤ繧ア繧ソ」

 

 

 

 

 

 

その様子を、()()()()()()が見ていたことに気がつかないまま。

 

 

 

 

 

 

4

立花のもはや空中歩行と差し支えない跳躍によって上条の寮に帰った彼らだったが、屋上に着いたと同時に彼女の力が解け、最初の方に着ていた服装に戻っていた。そこからは動くどころか気絶してしまった彼女を抱え、他の住人にバレないよう細心の注意を払いながらすぐ自分の部屋に戻っていった。

部屋に戻ってすぐに冷え枕を用意してから彼女をベッドに寝かし、冷蔵庫で冷していた冷却ジェルシートをおでこや首に貼り付けていた。だが体を冷ますよりも先に冷え枕と冷却ジェルシートは温くなってしまう。他の方法を考え、風呂桶に冰水をいれた後にタオルを冷してから彼女のおでこに乗せようとする。

だが行動を起こす前に、立花の手が自分の手を掴んでいた。

掌から感じる熱気に、火傷してしまったのではないかと勘違いしてしまう。

 

「どうした、立花?喉渇いたなら冷たい飲み物用意するけど。それともお腹すいたか?じゃあ今日は冷たい物でも作ろうか?」

 

「・・・私、助けられなかった」

 

彼女の話を聞くためベッド近くに座り、握っていた腕を掌へと変える。

 

「あの事件を聞いたときに、最初から力を使っていればあの人達は助かったかもしれないのに、違うって勝手に結論付けた結果あの人達のこと、助けられなかった」

 

「・・・でも、それはお前一人が背負うものじゃない「ううん、私が背負わなきゃダメなんだよ」なんでだよ・・・?」

 

「・・・信じられないかもしれないけど、私、どうやらこの世界の人間じゃないみたい。あの化け物は私の世界じゃ当り前に発生して、当り前に人を炭に変えていた。あれの事を知っていたのは私だけだから。だから私がちゃんとしていればこんな事にはならなかったのに、上条を危険な目に遭わせずに済んだのに・・・」

 

少しづつ声が泣きそうなものになっていた。しまいにはぐずついた声で、消えてしまった人に対して謝っていた。ごめんなさい、ごめんなさいと。

何時ものツンケンとダウナーな様子からは考えられない程の表情になってしまっていた。

そんな彼女の頭をなでながら、彼女を慰める言葉を考えるが思いつかなかった。

彼女が背負ってしまった『死』を肩代わりしたり、一緒に背負うことは出来ない。

だから少年は。

 

「それでも、お前は俺を助けてくれた。だから礼を言わせてくれよ命の恩人(立花)。ありがとな、俺を助けてくれて」

 

ただただ、感謝の言葉をつげる。彼女を慰めるためでもなく、助けて貰ったときにでる当り前の言葉を立場に贈った。

 

「・・・でも私、人を・・・・・」

 

「殺してなんかいない。あの人達もお前を恨んでなんかいないよ」

 

「・・・・・・・ふぇ」

 

そこから先、彼女から言葉は紡がれなかった。今まで堪えていた全てを吐き出すかのように泣き出していた。

体中の水分が全て抜け出してしまいそうなほど、涙が彼女の瞳をから流れていた。悲しみも、悔しさも、恐怖も、全て流すために泣いていた。

 

 

 

「・・・泣くだけ泣いたら寝るとかありかよ・・・」

 

あれから数時間泣いた後、涙声混じりの呼吸音はすややかな寝息へと変わっていた。

目元には泣いた後があり、赤く腫れていた。

だが眠りについても、上条の手を離すことはなく、お気に入りの人形を抱いて眠っている小さな女の子のようにぎゅっと握っていた。

 

「・・・まあ、あんなの見た後じゃ寝られないかもしれないけど、俺も寝るか・・・・・」

 

あの光景は立花だけでなく、上条にもトラウマレベルの物になっており、まぶたの裏ではそれが鮮明に思い出してしまうほどであった。

だから目をつむらず、ベッドの余っている部分にうつ伏せになり机の上で寝る態勢になって、彼女の言葉を想起していた。

 

(雲川先輩は立花がこの街に存在しない人物だって言ってたけど、立花の言葉からしてもそれは間違いなく本当のことだ)

 

それならあんな季節外れの格好をしていた事についても納得がいく。

立花のいた世界では季節は冬だったから、あんな厚着をしていた。それにあの服はかなり汚れており、少なくとも洗濯が出来る環境にはいなかったことや帰る家がないと言った発言からもそれを少しずつ裏付けていくことは出来る。

だけど、一番の謎が残っている。

 

(じゃあ立花は、どうやってこの世界に来たんだ・・・?)

 

仮に自分たちがいる世界とは別の世界、並行世界(パラレルワールド)があるとしても、科学の最先端であるこの街でも観測どころか発見にいたってないことからそれがどれだけ難しいことかはある程度想像につく。ではこの街以上の科学力があるであろう立花の世界はどうして一度も観測が出来なかったこの世界を選んで渡ってきたのか。それともたまたまこの世界だっただけど、確定して渡る技術はないのか。或いは・・・、

 

(・・・立花がこの世界に来たのは、必然ではなく事故(偶然)?」

 

考え出すが元々脳内CPUの出来は良くなく、これ以上考えていると眠気が誘ってくる。ただでさえ体は疲れ切っているのだから、すこしでも意識を保つことを止めれば眠りの世界へと誘われてしまう。

そしていよいよ限界が来てしまい、

 

「・・・もう、無理だ」

 

立花の手を握ったまま上条は眠りについた。

彼女の手を離さないよう、彼もまたしっかりと握っていた。




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