生きてます。短いですが生存報告も兼ねた投稿です。
それではどうぞ。
1
朝日のまぶしさを引き金に、上条の意識は覚醒していく。
「う、うう。体、痛い・・・」
体のあちこちからパキパキと悲鳴を上げているのが辛い。凝り固まった体をほぐすためラジオ体操のまねごとを20秒ほどすると体から鳴る異音は小さくなっていた。
「・・・はぁ」
携帯のディスプレイに表示されている時刻『7:55』は本来であれば遅刻確定を意味していたが、まだ学校は始まってはいないので今日のところはセーフといことにしておいた。そして自分がベッドを使うことができなかった原因に視線を移した。
そこには少し苦しそうな表情を浮かべた一人の少女が眠っている。立花響、現在訳あって上条の家に泊まり込んでいる少女である。
「熱はまだあんのか・・・?」
そういって彼女の額に手を当て体温を測ってみる。昨日帰ってきた時点でかなりの高温であり、本来なら病院に連れて行かなければならないほどであったが、今は普通よりも高い体温ではあるが昨日よりましなものになっていた。ただそれでも、この高温のままでいるのは不味いとものである。
(・・・風邪薬、いやこういう時は解熱剤のほうがいいのか?どっちにしても買いに行かないとダメだな)
病人を置いて出いくのは気が引けるがそれでもこのまま放置してくのもまずいと思い、服を着替え買い物に行こうと決意をした、その時。
「・・・ないで」
「え?」
「・・・行かないで、お父さん。おいてかないで、未来」
少女の口から声が漏れていたことに気が付いた。夢の中にる誰かに手を伸ばそうとしている少女は泣きそうな声とともに。
「・・・一人にしないで、上条」
自分のズボンを今にも途切れそうなほど弱い力で掴んでいた。離されないように、どこかへ行ってしまわれないように、無意識に少女の手は動いていた。だけど、力のこもっていない手ではつかみ続けることはできず、数秒もたたないうちに手はだらんとベッドに倒れていた。
その様子を見て少年は少女の手を握ろうとしたが、なぜか伸ばそうとした手を引っ込め、
「大丈夫、すぐ帰ってくるからちょっと待っててくれ」
今もなお眠りから目覚めることのない少女へ言葉と書置きを残し、財布と携帯だけを持って扉を開けた。
ゆっくりと扉を閉め、ドアノブから手を放す前にもう一度自分の手を見た。
なんてことのない普通の右手。異能の力を消す以外なんの役にも立たないが、伸ばされた手をつなぎとめることくらいはできる右手。
だけど今は。
「・・・俺みたいな汚れた手をつかんだら、お前はきっと後悔するぞ。立花」
伸ばしていた手を取ることもできないほど、ひどく汚れた手に見えた。
2
朝早くに出かけたが、目的地であるドラッグストアについたのは自分が予想していた30分も後のことであった。バスにでも乗れば予定より早く着いたかもしれないが、急いで出てきたため定期の存在に気がついたときにはすぐ寮に取りに戻れる場所ではなかった。そこからテニスボールを踏んで転んだり、車に轢かれ欠けたり、財布を落としたりと、様々さな困難を経て、ようやくたどり着いたのであった。
「・・・不幸だ」
何時もの口癖を呟く。この言葉を聞かない日がないほど上条当麻の日常は不幸まみれなのだ。そう考えるとやや憂鬱になるが気持ちを入れ替え、薬とゼリーの入った袋を手に向かった先は寮ではなかった。
熱風と太陽による二重の暑さに、文明の利器達のありがたみを噛みしめながら上条がやってきたのは昨日怪物の襲撃にあった公園であった。
昨日の事件現場まで行くとそこには夏休みの暇を持て持て余した学生達とそんな彼らに早く帰るよう伝えている教師と兼任している
だが、怪物《ノイズ》について知っている人間からすればそれは無駄なことだと感じるであろう。奴らには人間を炭の塊へと変える性質と、人間以外に対しては触れることすらできず、すり抜けてしまうという性質を持っているのだ。そのためノイズには現代技術を集結した鎧であろうと、核弾頭の攻撃も耐えられるシェルターであろうと、奴らのまえでは何の役にも立たない。まるで人と人が作ってきた叡智を嘲笑うかのように破壊していく厄災そのものである。
閑話休題。上条が暑さに耐えながら公園まで来たのは、事件現場の視察のためではない。そこから少し離れた人気の少なく、自動販売機とベンチ以外何もない場所であるが、上条にとっては事件現場と同じくらい重要な場所であった。
そう、そこは立花響と始めた出会った場所なのだ。ここに来れば彼女が元に戻る手がかりが見つかるのではないかと考え帰りに寄ったのであったが・・・。
(・・・それっぽいものはないよな)
辺りを見回しても怪物や立花が表れた形跡は見つからず、どこからどう見てもただの公園であった。
無駄骨であったと肩を落として帰ろうときびすを返し立ち去ろうとすると、自動販売機の手前で困っている少女の姿が目に入った。
黒い髪を大きなリボンで纏めた少女であった。
「あれ、お金入れたのに出てこない。何で・・・?」
どうやら自販機にお札を飲み込まれたいようで困惑している様子であった。あそこに置いてある自販機は何故かお札を入れると反応せず、そのポンコツぶりに常盤台中学のお嬢様も蹴りを入れるほどだという噂があるのだ。ちなみに上条も昔千円札(夏目漱石版)を飲み込まれた事があり、あの自販機では買わないことを誓ったことがあるほどの物であった。
では、そんな困っている少女を見て取るべき行動は何か。
見て見ぬ振りでこの場から立ち去るか、声をかけて手助けするか。人として正しい選択は後者であろう。困ってる人を助けるのは、平凡な人間なら当り前に出てくる行動である。
だけど、今は何故か。その当り前の行動を行うことに、足がすくんでしまう。いつものようにただ声をかけるという行動に、大勢の前でたった一人アカペラで歌う程の緊張感が体を包み込んでいた。
(――――ッ!)
暑さと緊張により噴き出る汗を拭い、息を整え少女の元へ向かう。顔色はいつも通りなのか、怪しまれないだろうか。いつもと違う感覚が体全体に伝わってくる。
少女との距離が1~2m程近づいて声をかける。
「なぁあんた。その自販機、札だけを飲み込む曰く付きの物なんだけど・・・」
「え・・・・・?」
少女はいきなり声をかけられたことに状況が飲み込めない様子だが、上条は財布から小銭を出しながら少女の隣に並ぶ。
「こいつ、何でかお札だけ飲み込むみたいだから、買うなら小銭じゃねえっと」
そう言って手本を見せるように小銭を自販機に入れてこの中だとまだましな『ヤシの実サイダー』のボタンを押す。そうすると自販機の口から缶ジュースが・・・。
「・・・あれ?」
「・・・出てこない、ですね」
「・・・おい、嘘だろ。ついに小銭まで飲み込む賽銭箱化したのか!?おい!俺のなけなしの金返せよ!!?」
「ちょっと!?自動販売機に殴りかかったらダメだよ!」
「止めんな!このクソ自販機、前に人の千円札(旧札)飲み込んだことも兼ねてぶち壊してやらぁッ!!」
声も感情もない無機物相手にマジギレする上条を、少女は抱きつくような形で止めていた。そうやって暴れていると、軽やかな電子音のあとに重い落下音が響いた。どうやら暴れてた時にボタンを押してしまったようだ。
「ほ、ほらな。こうやって小銭なら出てくるんだ・・・って熱っ!?」
出口に手を伸ばし出てきた物は夏場の暑さを和らげる喉元を冷やし潤す炭酸ジュースではなく、それと真逆な熱い缶。しかもそれは学園都市のゲテモノドリンクの中でも一番と言われている和風だしと果実でアクセントをつけた『いちごおでん』であった。
それを手にした上条の台詞は何時通りの台詞を吐こうとしたがこの程度のアクシデントで呟くほど弱くはない。
「この暑い時期におでんか・・・」
「あ、あははは・・・」
下手に同情されるより、愛想笑いで場を済ましてくれるほうが嬉しいことをこの15年で何度感じたことか。そう思いながらこのゲテモノの処分方法を考えていると、ガコンッ!とまた落下音が自販機の出口部分から聞えた。少女が音につられ出口をあさると彼女の手には上条が手に入れた缶ジュースとはまた別の清涼炭酸飲料であった。
「『ヤシの実サイダー』・・・?また別のヤツだね。本当に小銭だけ反応するんだね」
「あれ、俺一本分しか金入れてねーんだけど?」
「え・・・?」
その言葉を引き金に缶ジュースが落ちる音が連続して聞えてきた。一本拾えばまた一本ときりがないほどジュースが出てきてしまっている。自販機で連続して当たりを引き当てた母の自慢話を思い出したが、こんな風景ではないと思う。というかこんな事を考えてる暇などない。先程以上に自慢の不幸レーダーがアラートを鳴らし、毎度落第点な予知能力もこの時ばかりは数十秒後の未来が見えた。考えるよりも先に、少女の腕を掴み何か叫んでいたがそれを無視して走り出した。
「あぁ、ちくしょう!やっぱ不幸だぁぁああああ!!!」
叫ばなければやってられないほど不幸許容度がキャパオーバーしてしまったので、いつもの台詞を吐いてその場から逃げ出した。
そして上条の予想よりも早くいつも沈黙を貫いていた自販機はけたたましい警報音を流し異常を周りに知らせていた。
「・・・悪い、いきなり走り出したあげく巻き込んで」
「だ、大丈夫ですよ・・・」
結構な距離を走ったのだが息をあまり切らせておらず少女のスタミナに驚きを覚えながら何とか一息付けるとこまで逃げ切れた。近くのベンチに座り上条達は喉の渇きを潤すために自販機から拾った飲み物に手を出そうとすると少女から静止の声がかけられた。
「え、それ飲んじゃうの?さすがにお金払ってないのにダメだよ」
「いや、俺達金は払ったんだしジュース飲む権利はあるだろ。あんたは千円も払ったんだ、本当なら10本位持って帰っても問題ないだろ」
「そう言われればそうかもしれないけど・・・。でも君はおでんを買ったんじゃ」
「アレは事故みたいなもんだしその補填として貰ったって事で・・・ってうわぁ!?」
缶のプルタブを開けると炭酸飲料が噴き出し見事に上条の顔や服をべたつかせた。幸いなことか少女にはかかっておらず被害を被ったのは上条一人であった。
心配そうな表情でハンカチを手渡され、甘ったるい砂糖水を拭いでいくが、さっさとシャワーでも浴びたい気分であった。
「ハァ。ツイてねーな、俺・・・。あ、ハンカチありがとな」
「どういたしまして。ところで君はここの住人なの?」
「そうだけど・・・。そういや『ヤシの実ジュース』のこと知らなさそうだったけど、あんた外の人間なのか。この時期に来るなんて珍しけどなんでまた?」
「うん、そんなところかな。こっちに来たのはその、友達を探しにかな・・・・・」
少女が言い淀みながら曖昧な答え方をした。
「探しにって、
「・・・確かに聞いた話で今も確信が持ててないよ。それでも一秒でも早く会いたいんだ。もし今も一人でいるって思うと心が苦しくて不安に押しつぶされそうなんだ。だから」
先程からの憂いを秘めた表情から一転して、元々決めていた覚悟をあらためて顔つきになって。
「たとえ一類の望みでもそれに賭けたいからここに来たんだ。世界で一番大切な友達を助けるために」
「・・・・・、」
「あ、ごめんね!急に熱く語っちゃて。だけど私は絶対に友達を探し出してみせるんだ」
その視線には嘘はなかった。
その言葉には誠実さしかなかった。
その思いには心を揺さぶるものがあった。
簡単でありきたりな表現。だけどそれが一番分かるものであった。
だからなのか、それとも元々ある人としての形なのか。
その言葉を聞いた上条の口から放たれた言葉は。
「あのさ。お前の友達探すの手伝おっか?」
「え、いいの・・・?」
その心に突き動かされた本心のものであった。
自分みたいな不幸な人間に見つけられるとは思わないが、それでもこの少女の力になりたいと思ってしまったのだ。
「ただ今知り合いが寝込んでるからずっとは出来ないけどさ、友達とかに頼んで探して貰えるよう頼んでみるよ。だって行方知れずの大切な友達なんだろ。なら見捨てるわけにもいかねえだろ」
「!ありがとう。正直二課の人達もいないのに二人だけで探すのはちょっと心細かったんだぁ」
「ん、ツレがいんのか」
「分かれて探すことになってあの自販機で落ち合う予定だったんだけど・・・」
「それは、すいませんした・・・・・」
「い、いえ気にしてないから大丈夫ですよ。ただ何処で落ち合えば良いのやら」
「あんたはそこにいてくれ。そのツレとあんたの友達の顔写真とかあるか?あとその人達の名前もって自己紹介まだだったな。俺は上条当麻」
「私は小日向未来で、ツレの人は風鳴翼って名前でね」
そのとき何か脳裏を掠った。どこかで聞いたことある名前、確か今自分の家で眠っている少女が言っていた。
「それで、この娘が私が探してる・・・」
「たち、ばな・・・?」
「え・・・、なんで響の名前知ってるの!?」
「だって、今俺の家で寝込んでのがこいつなんだよ!じゃああんた、立花と同じ違う世界の・・・!?」
「莠コ髢薙>縺溘?√>縺?」
「「!?」」
耳を貫く嫌な音。嫌悪感だけを感じる嫌な音で、自分の中の危険レベルを最大限にまで引き上げるノイズ。
人だけを襲い、炭に変える怪物。
本来この世界に存在しないノイズが上条達の目の前に現れた。
「まじか・・・!?立花いないのこのタイミングでかよッ!!?」
「上条君下がって!ここは私が・・・ッ!!」
ポケットに手を入れ何かを取り出そうとする小日向とその前に立って彼女をかばうように右手を構えようとするその瞬間。
ズドンッ!!!と黒い影がノイズを叩き潰した。
一目見ただけでノイズと同じかそれ以上の警戒心を発した。黒く、全てを破壊するような印象を叩きつける最悪の存在。だけどその謎の化身を見覚えがあった。特徴的なガントレット、ヘッドフォンのよなヘッドギア。そして
「「立花(響)!?」」
いつもの立花響とは似ても似つかない、破壊の存在がそこにいた。
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