転生したら霜男だった件 それいけジャックフロスト   作:機関銃くん

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11話《解離者と絶氷者》

「で、どうでしたか?」

 

「いやいや。普通に話し進めようとするんか貴様は」

 

 ゴツンッ。

 呆れた様子で俺の頭をチョップしソファへと腰を落としたリムルさんは、やれやれといった顔で頭を振る。

 

 解析をしてくれと押し掛け。ヴェルドラと友達に。

 日頃村の開拓や実務で忙しいリムルさんの手を煩わせて本当に申し訳無いと思っている。

 しかし俺は悪くないと言い張る。

 だって頭の変なのは勝手に出てきた訳で。ヴェルドラと友達になったのだってヴェルドラからのお誘いな訳だ。

 即ち俺は自発的に行動し結果を出した訳ではないからして。

 

「そんなこと言われましても俺、悪くないもん………俺、何もしてないし……」

 

 膝を抱え、いじいじと床を撫でる俺。

 

「ったく……ヴェルドラの性格はわかってるからな。恐らく半ば強制だったんだろ?」

 

「良くご存じでエスパーまで獲得したんですか?」

 

「そんなんじゃねぇよ。ただ友達付き合いが長いだけさ」

 

 そう言いながら外を眺めるリムルさんの横顔は、リムルさんを誇らしく話すヴェルドラの表情と瓜二つだった。

 

「ほーう。てかそんなことより俺の解析は!?」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

解離者(カワリモノ)

 

 解離/結合:あらゆる物を解き離し、あらゆる物を結び合わせる。

 

 森羅万象:この世のあらゆる事象を知ることが出来る。

 

 理想の君:自身の精神を解き離し、理想の自分を形成し使役する。

 

 並列高速演算:多数の思考、演算を同時に行える。

 

 呪詛:言葉で対象者を呪い殺す。

 

 解析:あらゆる事象を解析し理解する。

 

 

 

絶氷者(ヴィネア)

 

 氷結:自身の魔素に触れた対象の一切を凍結する。

 

 凍結:対象の五感、記憶等の概念を凍結する。

 

 氷魔召喚:眷属を召喚する。

 

 奪取:氷で死した亡骸から力を奪う。

 

 停止:事象を一定時間停止し、固定する。

 

 氷技工:氷をあらゆる形に整形し、氷に命を、能力を与える。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

解離者(カワリモノ)絶氷者(ヴィネア)!?」

 

 俺の頭の変なのを調べて貰ったら。

 まさかの新スキルが二つも出てきたんだけども。

 

『俺が解離者(カワリモノ)だ。キシシ……理想の自分とは嬉しいねぇ』

 

「まさか、こいつ(解離者)が俺の大賢者様なのか………?。なんかめっちゃ口悪いんだけど」

 

 自身の頭を指差し、苦笑い。

 

 解離者(カワリモノ)

 確かに欲しかったスキルであった、これまで手探りで確かめていた未知のスキルに対して解析で内容を理解できるようになるのだから。

 これまでの苦労が無くなると思えば………。

 

『そうさ、俺様こそ主さんの望んでたスキルなんだぜぇ?嬉しいだろぉ?』

 

 声だけだと言うのにニタニタしてるのが目に浮かぶような声色。

 

 苦労が無くなる………と………思えるか!!!

 

「まさかこいつが俺の理想像だと!?粗暴で人の事をバカにしたような言い草のこいつが……!?」

 

「………俺にはその声とやらが何を言ってるかわからんが、ドンマイ」

 

 何か悟った様なリムルさんに肩を優しく叩かれ励まされてしまった俺は頭の声、基新たなスキル解離者(カワリモノ)に悩まされながら執務室を後にした。

 

 自室に戻る道中にも解離者(カワリモノ)は終始頭の中でギャンギャン騒ぐ。

 やれ、こっちに行こうぜとか。

 あっちが面白そうだとか。

 果実が食いてぇだの、アイスが食いてぇだと。

 

 正直解離者(カワリモノ)の利便性を犠牲にしてでもこいつを抹消したい。

 いっそのこと絶氷者(ヴィネア)で頭ん中のこいつを氷漬けにして殺してやろうかと本気で考える程にはうんざりしている。

 

「お前さ、もう少し大人しくしといてくれないか?頭が痛くて敵わんからさ!?」

 

『おいおい、邪険にすんなよ。俺は役に立つぜ……?』

 

 いら。

 

「そーすか。なら俺のスキルと耐性の整理でもしててくれよ……少しは静かになんだろ」

 

『おぉ、初仕事って奴だなっ!!任せろ!!』

 

 キーーーーンッ………。

 脳内の声で耳鳴りになるとは、これどういう……?

 なんて事を考えている内に解離者(カワリモノ)は俺のスキルを解析して行く。

 

『痛覚無効。凍結無効。耐性はこれだけか、紙耐性か?』

 

「う、うるせぇ!!」

 

『ったくよぉ……ベニマルから炙って貰えよ。火炎耐性獲得したら結合して熱変動無効にしてやっからよ……』

 

 ぐぬぬ……。

 こやつマジムカつく。

 

 こうなったらやってやるよ!!

 

「ベニマルーーー!!!俺を炙れ!!!」

 

「………………はい………?」

 

 いきなりの来訪者に自身を炙れ何て言われれば、目を丸くするのは当然だろう。

 現に居間で刀の手入れをしていたベニマルは手を止め目を丸くしている。

 こいつ何言ってんだ?

 そう思っているに違いない。

 

 だが、あの解離者(クソ野郎)に煽られたままではいられん。腹の虫が収まらんわ!!

 

「ベニマル!俺を炙ってくれーーー!!」

 

「何言ってんだ、お前は!?!?!?」

 

 結果、耐性獲得の強行手段に出た俺はベニマルが手にしていた刀で脳天を殴られ。

 

「…………きゅ……う」

 

 気絶する事となった。

 

『お、物理攻撃耐性を獲得したじゃねぇか。結果オーライだな』

 

 あー、マジこいつムカつくわぁ!!

 

 

 数時間後。

 

 

「いつつ……」

 

 痛む頭に自身の冷えた手を当て冷やしていた。

 目の前には深々と頭を下げるベニマルと何があったのと頭上に疑問符を浮かべるシュナちゃん。

 そして、ゲラゲラと下品に笑う俺の解離者(理想像)

 本当にこれが俺の理想像とか死にたくなる。

 

「あのぉ……これは一体何が………?」

 

 うん、わかるよ。

 意味わからんよね。

 

「あはは……ちょっとね。俺の暴走みたいな?」

 

「は、はぁ……。お兄様は如何したのですか?」

 

「それも……俺のせい……かな?」

 

 俺の発言に勢いよく顔を上げ弁解しようとするベニマルだが、俺は手で制す。

 だってお前は本当に何の落ち度も無いんだから。

 恐らくリムル様の御友人に手を上げたとか何とか高い忠誠心で己を責めてたりするんだろうが。

 マジで止めて欲しい、本当に止めて。

 俺が辛いから………。

 

「……良くわかりませんが……ヨクル様も昼食御一緒致しませんか?直ぐに御用意致しますので」

 

 シュナちゃんに昼食に誘われ、そう言えば朝から何も食ってないことを思い出した俺。 

 すると身体が思い出したかのように空腹を訴えてきた。

 

「いいのか?なら食べようかな」

 

「是非!お兄様、お手伝いお願いしてもよろしいですか?」

 

「あ、あぁ……任せろ」

 

 シュナに連れられ奥へ消えていったベニマル。

 

「……俺、何馬鹿な事したんだろうか……」

 

 俺はというと自己嫌悪に陥っていた。

 イライラ、ムカムカしてたからってあんな、あんな……

 

「(うわぁぁぁぁぁぁあ!!!)……殺して……」

 

『いやいや、なかなかの胆力だったぜ?俺を炙れ!!なんて中々面と向かって言えやしないぜ?』

 

「おまっ……!?お前のせいだろが!?」

 

『おいおい、俺は提案しただけだぜ?やれなんて言ってねぇだろ?』

 

 あっけらかんと開き直り腐りやがる解離者に再び沸沸と沸き上がる怒り。

 

『まぁ良いじゃねぇかよ。耐性はゲットしたんだからよ』

 

「お前が言うんじゃねぇ!」

 

 マジで凍らせてやる。

 頭に乗せていた冷やすための手に魔素を集め、脳内のごみ野郎を完全に機能停止にしてやろう。

 

 冷気が空気を冷やしパキパキと空気中の水分が氷へ形状を変えて行く。

 あ、こいつマジだ。

 解離者も理解したんだろう。急に慌てたように止めろだの、冗談だろとか、悪かったとか言い出したが。

 

 もう遅い……!

 

「凍っ……」

 

「お待たせしました。リムル様からお聞きしたトンジルなるものを御作りしましたよ」

 

 すると奥から鍋を持ったシュナちゃんが登場。

 

『た、助かった……!』

 

 ちっ、命拾いしたな。

 

「……?……どうかいたしましたか?」

 

「いや、何でもないよ。おぉ美味しそうだ、シュナちゃんは料理が上手いんだな」

 

 そう言うと。

 

「そんなこと無いですよ」

 

 なんて謙遜していたがほんのりと赤く色づく頬に俺はにっこりと笑った。

 可愛い。

 俺の荒んだ心に潤いが染み渡る。

 

『何だよ主さん、そんなに疲れてんのか?』

 

 だからお前が言うな!!お前が!!

 

 俺はドワーフ三兄弟が作ったであろう、精巧な木のお椀に豚汁を掬って貰い実食。

 

 フー……フー……ズルズル。

 

「おぉ旨いな、良く出来てるよ」

 

 この世界に味噌なんて無いだろうに上手く出来てる、優しい味だ。

 野菜は自家栽培の野菜たち、旨味が汁に溶け込んでるな。

 

 シュナちゃんの豚汁に舌鼓を打っていると何やらベニマルの様子が可笑しい。

 仕切りにシュナちゃんを見ては何度もお椀の中身と行ったり来たり。

 シュナちゃんはと言うとベニマルの視線に気付いているが敢えて無視しているようで瞼を閉じ食事を続ける。

 

「ベニマル?どうかしたのか、落ち着き無いぞ?」

 

 俺が尋ねるとベニマルはあからさまに身体を魚籠つかせ目を剃らす。

 

「…………ん?」

 

「………いえ……何でも……」

 

 何とも苦い表情を浮かべるベニマルにシュナは溜め息混じりにポツリと呟いた。

 

「お兄様はニンジンがお嫌いなのです……」

 

 ブハッ……!!

 

「シュ……シュナ!?」

 

「お前ニンジン嫌いなのか?……クククッ……!」

 

「わ、笑うな!!」

 

 ボオッ……!!

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るベニマル。

 余程恥ずかしいのだろう、羞恥を隠すためか感情の起伏でなのかベニマルから炎が吹き出し。

 

「あっち!?止めろ!悪かったよ!からかってごめんって!!溶けッから俺溶けるからぁ!!」

 

 まさか、まさかの炎は俺のみを炙ってきた。

 

《おっ主さん喜べ。予定通り炎熱耐性を手に入れたぜ!》

 

 うっせぇわ!!

 

 

◆◆◆

 

 

 

 プスプス。

 俺、ヨクルは現在ベニマルから炙られ黒煙を上げながら帰宅中。

 まさか、ニンジンであんなにキレるとは思わず、手痛いしっぺ返しを食らったものだ。

 

《キシシ……でもお陰で熱変動耐性を獲得、物理攻撃耐性もオマケで獲得も出来ただろ?》

 

 脳内のこいつは結果オーライと笑う始末。

 

「………はぁ……何か疲れたな……」

 

 今日、まだ半日しか経っていないが物凄い疲労感だ。

 早く自室で寝てしまいたい。

 この耳障りな脳内の声をシャットアウトしたい、最早歩くことも億劫だ。誰か俺を担いで家まで帰ってくれないだろうか。

 

 と怠惰でどうしようもないことを一人でごねても誰か来てくれるわけも無し。

 

 はぁ………。

 

《呼んでやろうか?》

 

「………………は?」

 

絶氷者(ヴィネア)。氷魔召喚を行使。》

 

 解離者(カワリモノ)の声と共に、俺を中心として青白い線が地面に魔法陣のような物を刻み付けて行く。

 俺はというと何が起こっているのやら、魔素は無くなって行くし。魔法陣は更に光輝いて行くし。周囲の草木には霜が張り付き、冷たい風が吹き荒れる。

 

《氷魔召喚》

 

 魔法陣から目を開けていられない程の閃光が溢れ、目を腕で覆う。

 

《おーい主さん。目を開けてみろや》

 

「………………えーっと、どちら様ですか?」

 

 言われるがままに目を開けてみれば。

 目の前には青い糸で刺繍が施された腰巻きと角を付けた木の兜を被り

 白い体毛と褐色の肌、腕や足は丸太のように太く筋骨隆々とした身体。

 口から覗く鋭い犬歯、そして無言で此方をじっと見つめる深い青い丸い瞳。

 

薄氷の子(ウェンディゴ)君だぜ!》

 

「……よ……ろし……く」

 

 たどたどしく言葉を発した彼は不器用に笑って俺の手を取る。

 

 あ、可愛い。

 

 何の反応もない俺におろおろと慌てる姿や俺と目線を合わせようとしてしゃがみ此方を覗き込む姿。

 

 可愛いすぎだろ。

 

 薄氷の子(ウェンディゴ)が仲間になった。

 


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