転生したら霜男だった件 それいけジャックフロスト   作:機関銃くん

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12話《薄氷の子》

「あるじ……おー……おはよっ……!」

 

 視界を埋め付く程の至近距離、満面の笑みでのモーニングコールで目を覚ました俺、ヨクル。

 もぞもぞと布団から這い出て寝ぼけ眼を擦る。

 ゴシゴシ……。

 

 寝起きでボーッとしてた俺の後にピッタリと着いてくる大男。

 俺が目を擦れば真似して力一杯擦って目を真っ赤にし、睡眠で凝り固まった筋肉を伸ばせば真似にして腕を力一杯引き延ばし肩を脱臼させる。

 

「………い、たい……グスッ……」

 

 ダランと垂れた腕を押さえながら目に大粒の涙。

 

「あー、ほらほら無理に動かさないの………《脈動回復》」

 

 脱臼した肩に脈動回復を掛けながら痛くないようそっと肩を押し入れてやれば。

 カコンッと嵌まった。

 肩を入れ直すなんて事経験したこと等無かったがやれば出来るものだな。

 

「なおった……エヘヘ……あり…がと……!」

 

 彼は治して貰った肩、腕をグリン、グリンと大車輪の如く回し尊敬の眼差しとでも言うのだろうか。

 めちゃくちゃキラッキラッした瞳で見詰めている。

 そこまで大したことしてないだけに少々むず痒くなってきて、頭を掻き。

 

「いーんだよ、気にすんな」

 

 俺は俺よりも高い位置にある頭を撫でてやる。

 するとキョトンと目を丸くしたと思えば、破顔し寧ろ俺の手にもっと撫でてと言わんばかりに頭を擦り寄せて来る。

 

「…………エヘヘ………」

 

 この馬鹿可愛い大型犬系男子は薄氷の子(ウェンディゴ)

 先日新たに進化したユニークスキル絶氷者(ヴィネア)の氷魔召喚によって呼ばれた俺の眷属……らしい。

 

『くわぁあ……あーぁ……はよ』

 

「お前も寝るのか……?」

 

 解離者(カワリモノ)も寝るんだな。

 多重人格者は人格が交代で出るとか、主人格が起きてるときは他の人格は寝てるとかテレビで見たことあったが。

 まさか己がそうなるとは……もしかして今は乱暴で粗暴なこいつだけだけど他にも人格出来たりするんだろうか……?

 

『おっし!主さん!今日は何すんだ?』

 

 …………もしそうなれば頭痛は絶えないな……てかもう痛いわ。

 先の事を想像して頭痛を起こすとは。

 前途多難とはこの事。少しでも頭痛を紛らわそうと眉間の皺を指で伸ばすとウェンディゴ君も指で眉間を揉み揉み。

 

「ハハッ真似するのが好きなのか?」

 

 そう聞けばニカッと笑うウェンディゴ君。

 

「そっかそっか。それじゃあ出掛けるか」

 

 トコトコと俺の後を着いてくるウェンディゴ君。

 先ずはリムルさんに紹介してくるか。

 あ、そう言えば……。

 

「なぁウェンディゴ君。お前名前いるか?」

 

 いつまでも種族名で呼ぶのも面倒だし、距離を感じる。

 別に気にしなければそれなんだろうが俺が嫌だ。

 

「!?………い、いの?」

 

「あぁ君が良ければ俺が付けてもいいか?」

 

「うん!」

 

「おうよ!それじゃあ…………《シュニィ》ってどうだ?雪って意味なんだ気に入ったか?」

 

 名付けを行った瞬間。

 ガクッと俺の中から魔素が消え。酷い脱力感が全身を襲うが俺は膝に手を付き何とか身体を支えると目の前の光景に釘付けになる。

 名付けはクロウの時に経験しているが、進化の様子を直で見たことなど無かったから。

 ウェンディゴ君改めシュニィの身体が光輝き徐々に変化して行く。

 巨大でゴツゴツしていた身体は小さく縮み、全身を覆っていた白い体毛は消えフワフワの白髪に。

 褐色の肌はそのままに筋肉で引き締まった身体と真ん丸とした青い瞳、犬種は少し小さくなり笑うとチラリと見え隠れ。

 

 次第に光が収まると……。

 そこには少年が居た。

 ウェンディゴ君の面影を残した少年シュニィ、元の筋肉があまり変わらなかったから童顔で筋肉質というアンバランスさ。

 これがガッチビというやつなのだろか。

 等と場違いなことを考えている内に進化が終わり、目覚めた直後のように目をぱちくり、ゴシゴシと擦り目を開け俺を視認すると。

 

「あるじ、ぼくシュニィ。なまえきにった!」

 

 満面の笑みで喜ぶシュニィ。

 あまりに純粋で無垢な笑顔にこっちまでつられて笑顔になってしまう。

 

「気に入って貰えて嬉しいよシュニィ。改めて俺はヨクル、ヨクル〓ライフだ。よろしくな」

 

「よろしく!ヨクルさま!」

 

 俺の腰元に抱き付き、グリグリと頭を擦り付けるシュニィ。俺もシュニィを抱き止め、よろしくなと言いながら頭を撫でれば、嬉しそうにはにかみもっともっとと頭を押し付ける。

 

薄氷の子(ウェンディゴ)が進化したか。え~何々こいつは進化して………マジか冷たい顕現(イタカ)になったぞっ!?……』

 

 うん?

 俺は抱き付き離れないシュニィを抱き頭を撫でながら、解離者(カワリモノ)の解析結果にビシッと硬直してしまった。

 血の気がサーッと引いて行き身震いが止まらない。

 

 まさか嘘だろ……イタカだと…………?

 だってイタカってあれだろ………クトゥルーだったよな……?

 

『こりゃ大物だぜ?そもそもウェンディゴって奴はイタカのモデルだからな、こうなる可能性は有ったわけだな。主さんの魔素あってこその進化だったのかもな』

 

 本来ならどうなるはずだったんだ?

 

『あー、知らねぇ。何かハイ・ウェンディゴとかじゃねぇか?まぁいいじゃねえか、主さんに懐いてるし種族がどうであれシュニィに変わりねぇだろ?』

 

 うぐっ…………!

 それはそうだが……………。

 

 ………………………………………。

 

 それもそうだな。難しく考える必要なんて無かったな。

 まさか、お前に気付かされるとは。

 それに呼び出しておいて放置するなんて無責任な事、出来るわけ無い。

 加えてシュニィの信頼を裏切る程非道な精神を俺は持ち合わせてない。

 要するに俺はお人好しってことだな。

 

「さ、シュニィ。これからリムルさんってスライムに会いに行くから行儀良くね」

 

「ぎょうぎ……………うん、わかった!シュニィがんばる!」

 

 シュニィと手を繋ぎ歩を進める。

 リムルさんの家まで歩く道中に色んな話をした、シュニィは何を聞いてもあまりわからないようで家族や自身の事も説明は出来ていなかった。

 

 だけど…………一つだけはっきりと答えた質問があった。

 

「シュニィは何処から来たんだ?」

 

「さむくてなにもないしろいところからきた」

 

「……そうか。寒くて白くて何もない所、か」

 

 家族も知らない、自分と言う物もわからない。

 寒く白い恐らくは氷の世界にずっと一人でいたのだと思うと胸が痛くなる。

 だって俺も理解できるから……………。

 死ぬ瞬間誰に看取られるわけでもなく、一人寒く全身が冷たくなって行くのを感じながら命の炎がフッと消える。

 

 それは辛く耐え難く、激情に駆られながらも酷く寂しいものだったから。

 

「寂しかったよな………」

 

「?…………ぼく、さみしくないよ。ヨクルさまがいるもん」

 

「………そうだな!シュニィには俺がいるからな。それにリムルさんもきっと友達になってくれるぞ、とても優しいスライムだからな」

 

「うん!」

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

冷たい顕現(イタカ)のシュニィ君です!」

 

 シュニィは行儀良くの約束を守り、ペコリとリムルさんにお辞儀し愛想良く笑った。

 対してリムルさんはと言えばやはりと言うべきか硬直していた。

 

「おいおい、イタカってあの(・・)?」

 

あの(・・)イタカですね」

 

 まさか信じられないと言った様子に俺は苦笑い。

 

「クトュルフだったよな?確か邪神の……」

 

「YES、それです。そのイタカです」

 

 リムルさんの質問を肯定すれば案の定頭を抱え始めた、恐らくこれからの事を危惧しているのだろうな。

 先日行われた豚頭族(オーク)の討伐。魔王へと進化したゲルドの対処。

 裏で糸を引いていた魔神ゲルミュットと名乗った魔神の存在。

 この件は必ずジュラの森から各地へ秘匿していていようと噂話は広がることだろう。

 今までのようにひっそりと暮らしていけるのも時間の問題というものだ、魔王を殺し、魔物を統治して町を作るリムルさん引いては俺を各地の力ある存在は良しと放置するはずが無いからな。

 その対処に頭を悩ませていたのにも関わらず………。

 

 まさかの邪神イタカの登場。

 シュニィの種族が問題なのは若干あるが、本当に問題なのはもし冷たい顕現(イタカ)という不確定要素の現れ。

 さっきも話したようにこの町は今とても難しい状況にある。

 力を持っているとバレた以上、注目されるのは必然であり。魔物であることで討伐対象となる危険性も出てくる。

 そんな中で何が起こるか想像できない邪神の存在。

 

 なにもなければそれで良し。

 だが、もし何か起きれば………。

 それは事態を好転させるものなのか、悪化させるものなのか。

 

「心配しないでリムルさん。この子は俺が責任を持って面倒みますからリムルさんに負担は掛けません」

 

 リムルさんには世話になってばかりだ。

 面倒事はこれ以上掛けられない、だからこの子(シュニィ)は俺が面倒をみる。

 もしリムルさんに負担が掛かるようなら、この町から出る可能性もあるかもな。

 でも、それでも俺にはこの子(シュニィ)を放っては置けない。

 孤独な思いはもうさせたくないから。

 

 一方渦中の人物であるシュニィは話が分からなかったからかキョトンとしていた。

 こんな無垢で可愛い邪神がいるのだろうかと思わせる素振りが可笑しく微笑み頭を撫でれば嬉しそうに笑った。

 

「………………おいおい、何を勝手に話を進めているだねチミ達は俺がそんなに懐の狭いスライムに見えているとしたら俺は大変ショックだよ」

 

「え……でも……」

 

「いやいや、野暮な事は止めたまえ。この町の主は恥ずかしながら俺、ならこの町で起きたことは俺にも関係ある。知らぬ存ぜぬで無視なんか俺はしないよ」

 

 人形からスライムにクルリと周り変化したリムルさんはシュニィの腕の中へ飛び乗る。

 

「改めて俺はリムル=テンペスト。よろしくなシュニィ」

 

「うん!すらいむさん、ふにふに!」

 

 初めて触れたスライムのひんやりプルプルの感触に目を輝かせたシュニィ。

 ギューと抱き締める、それはもう見るからに全力って感じで。

 

「ちょっ!?ちょちょちょ!?!?シュニィくん!?千切れる!千切れるからぁぁぁぁあ!!!」

 

 シュニィの腕を境にまるで砂時計のガラスのようになってしまったリムルさんに俺は思わず笑ってしまった。

 目の前で楽しそうに戯れるリムルさんとシュニィの姿、その光景に俺は微笑む。

 

 そして実感した本当にリムルさんは凄い人だ、改めてリムルさんの懐の大きさに感服せずにはいられない。

 本来なら人と言うものは自分とは違う存在を否定し拒絶する生き物だ。

 よく知りもしない人や物を嫌悪し遠ざけ理解する事すらしない。

 

 だがリムルさんは見ず知らずの俺を信用してくれている。

 加えて初めて村に来た俺やクロウを受け入れてくれた事。

 冷たい顕現(イタカ)という宇宙的な恐怖を体現する種族になってしまったシュニィ。

 

 それを受け入れ、理解しようとしてくれた。

 

「………ありがとう、リムルさん」

 

「シュニィくん!!腕を緩めてッ!?緩めてくれぇ!!」

 

「あははっ!ぷるぷるきもちーね!」

 

 と、感傷に浸っていた俺だったが、知らぬ間にリムルの身体が真っ二つになるのでないかという程に絞られていた。

 

 てか、そろそろ助けないと不味いかな…………。

 しかしシュニィの顔とは不釣り合いな程に鍛えられバキバキボディの肉体に非力な俺が敵うわけもなく。

 

 静かに合唱をリムルさんに贈ろう。

 

「いやいや!諦めんなって!?もっと頑張ろ!?ヨクル!!おいヨクル!!」

 

 数十分後。

 

「ぜぇ……はぁ……し、死ぬ……!」

 

「?しぬ、や!だめ!」

 

 スライムボディをここぞとばかりに堪能し尽くしたシュニィ、やっとの思いで解放されたリムルさんの真ん丸ボディはあろうことか瓢箪に。

 

「ぶはっ……くくくっ……」

 

「おい、ヨクル。今笑ったな!お前笑ったな!!」

 

「いや、すみ、くくっ、すみま……あはははっ!!」 

 

 いやいや、笑うなと言う方が無理だろう、瓢箪スライムに誰が笑わずにいられると!?

 

「すらいむさん、ごめんね。シュニィやりすぎた……はんせい」

 

「グハッ……何だこの可愛すぎる生き物……!?」

 

 リムルさんに目線を合わせるようにしゃがみこみ、ごめんなさいとペコリと頭を下げたシュニィ。

 その際首をコテンと傾げるのを忘れていない。

 シュニィの可愛さMAXごめんなさい攻撃に流石のリムルさんも効果抜群は免れず。

 急所攻撃(クリティカルアタック)を受け、ノックバックで身体をいや、スライムボディを大きく仰け反らせ呻き声を上げると静かに床へと沈み込んだ。

 

 パタリ………。

 

 一発KO!!

 勝者シュニィ、Win!!

 

「すらいむさん!しっかりして!すらいむさーん!」

 

「………シュニィ、そろそろ本当に逝ってしまうから止めようか」

 

 あぁ燃え尽きてるよ。

 真っ白に、ホワイトスライムに。

 

「…………ヨクル、シュニィの強さを確認しとけよ……ガクッ」

 

「………あ、ハイ」

 

 こうして可愛すぎるショタ。

 クトュルフ神話の邪神にして冷たい顕現(イタカ)の名を関する魔物。

 シュニィ君が新たな仲間となったわけだ。

 




今回は新たな仲間シュニィ君についてでした。

まさかの種族、イタカです。
進化したら何にしようかと調べていたらウェンディゴが元でイタカが生まれたらしいのでなら無しではないかなと思ってやってしまいましたね。
シュニィ君の出身地についてはわかる人はわかりますね。
えぇあそこです。

シュニィ君の強さについては次回書いていきたいと思います。
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