転生したら霜男だった件 それいけジャックフロスト 作:機関銃くん
えー、今俺はハクロウに誘拐され町から少し離れた森林にいたのだが。
拓けた場所に連れてこられたわけだけど、何故か目の前には無数に転がる死屍累々。
誰も彼も、木刀を片手に力無く倒れ伏している。
なぁにこれ?
ピクピクと気絶しながらも筋肉疲労で痙攣している様は正に地獄絵図。
気絶しながらも倒れ伏したホブゴブリン、ゴブタも例に漏れず血管が浮き出るほど木刀をガッシリと握り込んでいた。
試しに取ってみたけれど、木刀は全く、全然動かない。
「ほっほっほっ……戦場で武器を手放す愚か者が居りましょうか?居ませんよな?」
あ、はい。
元凶は後ろに居たんですね、知ってましたけどね。
何がほっほっほっだよ。
確かに戦場で武器を手放すのは愚か者と漫画本で言ってた気がする、敵に武器を渡す行為でもあり、仲間を危険に晒すとも。
だが、それを目の当たりにする日が来るとは思いもしなかった俺からすれば驚愕の光景な訳で、ハクロウの特訓で此処までなる程のスパルタだとは思わなんだ。
俺はこれから起こるであろう出来事を想像して乾いた笑いと共に頬をひきつらせた。
だってこれはつまりそういうことなのだろう、嫌でも理解できてしまう。気絶したホブゴブリン達、まだまだ元気一杯ハクロウ。
…………これから稽古をすると言うことだ、嫌だ。
「
「……………え、嫌なんですけど」
「まぁまぁそう言わずに、爺の我が儘に付き合って貰えませぬか?それともワシの相手をする自信が無いと……?」
ニヤリと嫌な笑みを浮かべ、あからさまな挑発をしてくるハクロウ。いやいや、そんな挑発に俺がのって来ると思ってるんですかね?
俺も舐められたものだな。
そこまで餓鬼じゃないんですがね、こんな少年のような見た目だけど生前は社会人だったわけで…………。
「上等だ!前の俺と思うなよ!」
「ほっほっほ、そう来なくてはな」
まるで俺がこう言うとわかっていたと言わんばかりに我先にと勝負の準備を始めたハクロウ。
微笑みながら二振りの木刀を手に取ると一方を俺に投げ渡し自身は距離を取り静かに構えた。
投げられた木刀を受け取りハクロウと対峙する。
すると
『てかさ、今日はシュニィの強さを確認するんじゃ無かったのかよ』
………………いや、あそこまで言われて引き下がるのはクロウやシュニィの主として示しがつかないかと思ってでしてね。
これは仕方のない事なんですね。はい。
『へいへい、そうかよ。まぁ……やるなら勝利以外ねぇからな!』
「……おう!」
対峙するハクロウの眼光。
飄々とした振舞いとは裏腹にその眼光は未だに衰えなど微塵も感じない。
ジリジリと徐々に距離を積めて行く。
ハクロウはその場から動かない、ただ其処に居るだけ……だが。
「…………怖っ……」
ある一定の距離。
ハクロウの間合いに踏み込めば確実に切られるであろう、そう確信させるハクロウの剣気。
はっきり言って怖い。
木刀で対峙しているはずなのに、踏み込めば腕が落ちるイメージが脳内に走る。
汗が額に滲み、膝が震える。
「………如何なされた?」
「問題ない、やれるさ」
深く息を吐き、覚悟を決める。
一歩大きく踏み込む、同時に音速で真横に切り放たれた木刀。胴体を真っ二つにせんと迫る木刀を受け止め。
「おらぁ!!!」
ズシンと重い一撃、バキバキと木刀が折れそうだ。このまま受け止めていてはやられる。
そう考え勢いを殺さず木刀を滑らせることで威力を反らし避ける。続け様に切り返された刃は摺り足で後ろに下がり空振りさせた。
「ふー……………」
「やりますな、一段階ギアを上げるとしましょうか」
そう言ったハクロウは深く呼吸を繰り返す。
一体何が来るのか俺は周囲を確認しながら、最大限の警戒で迎え撃つ、ハクロウから決して目を話さずどんな機微にも反応できるよう構えていた。
「………な、に……!?」
しかし、忽然とハクロウは眼前から消え失せた。
一体何が起きたのだろうか。認識、無意識の隙間を縫って動いたとしても可笑しい。
だって瞬きの間に移動したとかそう言うレベルじゃない。
言葉通り
辺りに視線を向けてもハクロウの気配は掴めない。
何処だ、何処に…………。
『後ろだ!!』
「ッ!!!」
ドガッ!!
反射的に背後に構え防ぐ。
其処には俺の脳天を狙ってきた木刀と僅かに目を見開き驚いた様子のハクロウの姿。
「……なんと、我が隠形法を見破るとは……少々驚きましたぞ」
「は、はは……どんなもんだい」
あっぶねぇーーー!!!
口ではどんなに強がって見せたって内心心臓バックバク。
何だよあれ!
呼吸も存在感もあれ程ビシビシ感じていた気迫、気配すら感じなかったぞ!!
『魔力感知にも引っかからないな。あれはスキルじゃねえな、ハクロウの超絶技巧ってとこか』
お前何でわかったんだよ。
そうだ、
『単純に見てたけだが……』
さいですか。
それにしても隠形法、まさか此処まで自身に関わる要素を希釈してしまえるとは。
どうしたものだろうか…………。
『バカだなお前。消えたと思わせる技術であって消えた訳じゃない、ならやりようは幾らでもあるだろ』
「…………なるほどなぁ………!」
ガン!ガン!ガン!ガン!ガン!
そのあとも俺は何度も何度も何度も消えたハクロウの怒涛の攻めを紙一重で防ぎきっていた。
「ほっほっほっやりますなヨクル様。ワシの隠形法を破るとは、年は取りたくないものですな
ハクロウは年には勝てんわ。
なんて言いながら俺の足元に視線を向けると笑っていた。
やべ、バレたかも。
実は最初の一撃以降、俺は常時
ハクロウの魔力感知に掛からないように注意深く、薄く、弱く、広く地面や木刀に魔素を流し込み。
触れた対象の身体能力を低下させると共に低下させた身体能力を徐々に奪い自身の強化を行っていた訳だ。
ハクロウの能力を下げ脳内の動きと実際の動きをズラし、身体能力を向上させることでハクロウの音速にまで達する剣戟に対処していた。
だが、こんなに早くバレるとは思わなかった。たった5回切りあっただけで見破るか普通、めちゃくちゃ気を張って誤魔化していたと言うのに。
流石はハクロウと言うべきか、俺が未熟と言うべきか。
そしてバレたと言うことはもうこの手は通用しないと言う事、同じ手を食うような相手ならここまで苦労していないからな。
『クハハッバレて~ら。どうするよ、こうなりゃ正面切って切り合うか?』
「《並列高速演算》」
俺はハクロウに食らい付く為にスキルを発動させ静かに構えた。
「楽しくなって来ましたな」
両者飛び出す。
右、左、斜め右、上段からの切り下ろし、上、切り上げ、鍔競り合い、突き、下段からの切り上げ……………………………………………。
ガンガン!!ガガガッ!!
数百回の攻防の末。
「………がはっ……!?」
横薙ぎを受けようと構え………………。
……………………られなかった。
俺が手に持っていた木刀はポロリと地に落ち、防ぐ筈であった木刀が腹にめり込む。メキメキと軋むような音が体内に響き腹部から走る激痛に額からは脂汗が吹き。胃液が喉を逆流し吐きそうになる。
俺は堪らず膝を突くと口元を押さえ咳き込む。
「ヨクル様!申し訳御座らんつい熱が入ってしもうた……」
「いや、いいんだ……真剣勝負なんだから……ただ悪いけど肩を借りてもいいかな……?」
ハクロウに心配かけないよう無理に笑って見せたが、逆効果だったみたい。
ヘラッと情けなく笑う俺にハクロウは目を伏せると肩を貸してくれてゆっくりと身体を起こしてくれると近くの木陰にそっと座らせてくれた。
「なはは、やっぱり爺さんは強いな。勝てるイメージが全然湧かないよ」
《脈動回復》を発動させながら俺は笑った。
「ヨクル様も流石の腕前で御座いますな。ワシが本気で打ち込んでしまう程」
「………いやー、俺はちょっとズルしてるようなもんだったし。まだまだだな」
そう言って笑って見せれば。
ハクロウ爺さんも釣られて笑った。
「はぁ…………まだまだ弱いな……」
俺は弱い。
どんなにスキルが強くたって、俺が弱ければスキルの能力に振り回される。そんなの宝の持ち腐れだろう。
例えば最強の武器と最硬の盾を持っていたとしても使用者が技術もなく十全に使いこなし戦うことが出来るのか?
そんな訳無い。
スキルも武器も使いこなせれば持っている意味がない。実際俺は《理想の君》《並列高速演算》《絶氷者》多数のスキルを使用し戦っていたがそのどれもが十全に能力を発揮できたとは言えなかった代物だった。
《解離者》のアドバイスは最大限生かせず。
《並列高速演算》は脳内の情報に身体が着いていけずボロボロ。
《絶氷者》は簡単に見破られ、歯が立たず。
最初にハクロウに対してでかい口を叩いた俺自身が恥ずかしい体たらく。
まだまだ若輩者だと痛感した。どんなに強力なスキルがあっても、達人の前での俺は無理して身の丈に合わない武器をただ振り回しているだけに見えているに違いない。
今後の課題が見える稽古だった。先ずはスキルに振り回されない身体作り、スキルを自在に操れるようになる熟練度の向上。
そして前世にやっていた剣道を生かして、独自のスタイルを確立する事。
やることは沢山あるな。
自身の弱さを目の当たりにし、課題も沢山出来た。
反省点ばかりが目立つが、終えてみれば充足感満足感が身体を満たす。
やっぱり、全力で打ち込むのは気持ちのいい物だな。
「ハクロウ爺さん、次はいつやる?」
俺自身の課題を解消するため、俺はハクロウに稽古の予定を聞いた。
だけなのだが、そう聞いた俺を目を見開き驚いた様子で見るハクロウ。え、俺何か変なことを言ったか?
『………ドMと思われてんじゃねぇか?キシシッ!』
んな馬鹿な。
「爺さん?どうかしたか?」
「………いえ、喜んでお相手致しましょう」
「よろしくなっ!それじゃあ俺は帰るな、そろそろ痛みも引いてきたし。爺さんはゴブタ達の相手もするんだろ?」
「それでは後日」
俺はハクロウに手を振り帰ることにした。
歩く衝撃で度々腹部から走る痛みに呻きながら俺は森を後にした。
そして翌日、《並列高速演算》を使用し酷使した脳と全身の筋肉が悲鳴を上げ動けなくなるとはこの時の俺は予想もしていなかった。
◆◆◆
ヨクル様が稽古場を後にしたのを見届けると、不意にワシの手から木刀が溢れ落ちた。
コトンと落ちた木刀を見詰め、目を細める。
「…………ほっほっ……何とも末恐ろしい方だ」
リムル様のような王道の強さとは違う。
全く別の強さ、地を這い絡めとり締め殺すような強さを感じさせるお方。
静かに虎視眈々と此方を狙う恐ろしさ。
自身の掌を確認し静かに笑う。
「……もしヨクル様の身体が出来ていたとしたら……勝負は分かりませんでしたな……」
ヨクル様の剣戟を何度と無く受け止めた掌はビリビリと痺れ、痙攣し力の入らなくなった右手を袖口に隠し身を翻す。
「まったく……年甲斐もなく血が沸き立ちますのぉ。ほっほっほっ」