転生したら霜男だった件 それいけジャックフロスト   作:機関銃くん

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15話《白刀・凍雪》

「ふぅ………。うしっ完成だべ」

 

 鍛造、鋳造、刀の製作で高熱高温の地獄と化した室内でクロベエはやりきったと達成感に満ちた表情で笑った。

 額から流れる汗をタオルで拭い去り、そっと刀身を撫でる。

 

「うん、言い出来だな。自慢の逸品だべ」

 

 ふんすっ。

 完成したばかりの刀を持ち外へ、手にした刀を空に掲げ見上げる。

 

 太陽の光を受けキラキラと反射し透き通る美しい刃。

 鍔には依頼人をイメージし氷の結晶をモチーフに作成し、柄には純白の装飾を行った。

 

「それにしても………不思議な刀だべ。刃の潰れた刀、透き通り透明な刀身……まぁあの方にはピッタリだべか」

 

 冷徹で氷を体現している様、触れた物を概念さえも凍えさせる彼。だけども内に秘めるは純白で博愛な彼に。

 

 二面性のある彼に命は奪わないが目を奪う刀。

 

「早速届けに行ってやるべか、喜んでくれるといんだがな」

 

 クロベエはいそいそと刀をこれまた白い鞘に納め、布に包むと工房を後にした。

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

「くぁー!!今日も負けた……!!」

 

 俺は大地に寝っ転がると天に向かって叫んだ。

 

 ここはお馴染みハクロウの稽古場。

 本日もヨクル始め、ゴブリンライダーのゴブタ達はハクロウに稽古を貰っていたのだ。

 そしてもう何十回目の敗北にうちひしがれていた俺である。

 

「ほっほっ。ワシも危うかったですぞ?」

 

 なんて言いながらも木刀を器用にクルクル回し、飄々と余裕綽々なハクロウ。

 こんのクソ爺。

 何が危うかったですぞ、だよ。隠形法に更に磨きが掛かってやがる。

 前回は《並列高速演算》と《絶氷者(ヴィネア)》で対処し反撃まで出来ていたと言うのに今回は掠りすらしないってどうなってんだ。

 防ぐので精一杯、次第に体力の限界を向かえ負けてしまう、その繰り返しだ。

 どうするべきなのか。

 

 俺がハクロウ攻略に熟考していると遠くから俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

 

「………ん、今誰か……」

 

 声のした方向に視線を向けると遠くから手を振りながら駆け寄ってくるシュニィとシュニィに手を引かれるクロベエの姿があった。

 

「お、シュニィにクロベエどうかしたのか?」

 

「えっとねおにもつがあるんだってさ!」

 

 そう言われクロベエが抱えていた包みに目を向ける。

 

「もしかして出来たのか?」

 

「んだよ、完成したもんで早く渡したかったんだ」

 

 ぽわぽわ。

 へらっとやんわり笑いながら包みを手渡すクロベエ、早く見て見てとソワソワしている。

 何というか可愛いおじさんだな。

 あれだ、クリスマスプレゼントを贈ったお父さんみたいだ。喜んでくれるかな?気に入ってくれるかな?みたいな感じだ。

 

 それじゃあクロベエ作の刀を見てみようかな。

 俺の背後では好奇心に満ちた輩がぞわぞわ。

 

「お、おぉ!凄いなこれ!?」

 

 包みを開けると出てきたのは真っ白な刀。

 

 鞘も純白、柄も純白。

 それなら刀身は?

 どんな感じなのだろうか、ドキドキと緊張しながらスッと鞘から抜き出す。

 

 すると、現れたのは白透明な刀身。

 目の前に掲げれば此方を期待した目で見詰めるクロベエの姿が透けて見える。

 

 そうだな、なら期待に応えようじゃないか。

 

「クロベエ!ありがとう、想像以上だよ!」

 

 クロベイは照れて赤面する顔を隠し、頭を掻く。

 

「わぁ!きれいだね!!」

 

「ふむ、また腕を上げたようじゃのクロベエや」

 

「本当っす!!こんな綺麗な刀初めて見たっすよ!!」

 

 皆からの賛辞に益々赤面して行くクロベエ。

 嬉しいのには変わり無いが手放しで称賛の嵐を受けるのはやはり恥ずかしいらしく。

 

「んで、おらは帰るべ!!喜んでくれてよかったべ!!!」

 

 早口で捲し立てるとクロベエは稽古場から走り去った。

 

「おー!ありがとうな!!」

 

 走り去って小さくなって行くクロベエに手を振り感謝を述べると俺の刀を腰に差す。

 

「うん、良い感じだ。腰に来る重さが良いね」

 

 しかし。

 ザリザリ………。

 

 ザリザリ…………。

 

「低身長が!?」

 

 俺の身長では腰に差すと鞘が地面に擦ってしまうんだよ!

 折角の純白なのに!これじゃあ汚れるよ!!

 

『あー、なら《氷技工》で何か作ればいんじゃね?』

 

 なる!

 

 確かにね。

 俺が持っている必要は無いわけだ、何か動物か何か作って持ってて貰えば良いわけか。

 

「ふむふむ、それじゃあ《氷結》《氷技工》」

 

 空気中の水分を魔素で凍らせ掌に集めて行く、次第に周囲の熱を奪い冷気が大地を這う。

 そして目の前に背丈程の氷を造り出すと氷に掌をスッと滑らせると形を操作して行く。

 

 そうして造り出したのは大きなわんこ。

 イメージ的にはシベリアンハスキー。

 

 凛々しい顔立ち、逞しい四肢、氷だからカッチカチな毛並み。

 氷だから吠えたりしないけど、やっぱ良いよなぁ。

 

「俺犬派だったんだよな。だけどさぁマンション、ペット禁止でさ買えなかったんだよ…………それが氷だけど目の前に居るなんて堪らんなー!もー、よしよーし!良い子は誰だー!?」

 

 もう、目の前の氷犬が俺に甘えてワフワフ吠えてるのが脳内変換余裕な件について。

 だって仕方ないじゃない、可愛いものは可愛いのだから!!

 

「……………何を言っておるのだ、お主は」

 

「いや、なんも。強いて言うなら俺の心の丈だな」

 

「そ、そうか。いや詳しくは聞くまい」

 

 いや、聞かせてくれるな。

 そう思っているのが丸わかりなハクロウ、だって稽古中でも無いのに隠形法つかって存在感消してるしな!

 

 だが、そんなことはどうでも良いのだ。理解されなかろうがしったことじゃないってな。

 そして、そして。

 そのシベリアンハスキーの背中にサポート紛いの物を取り付け、そこに刀を差し込む。

 テッテレー。

 

 すっげぇてぇてぇなワンコが完成だ!!

 

「可愛いね、可愛いね!」

 

 シュニィもシベリアンハスキーが気に入ったのか一人と一匹は目の前でキャッキャッしながら駆け回る。

 なんてエモいのだろうか。

 

 うんうん、可愛いは正義だね。

 

「お主刀の名は何とするのですか?」

 

 えっ、名?

 問い掛けられたのは思いがけない事だった、皆刀とか武器に名前つけてるの?

 

 そう、視線で訴えれば返ってきたのは肯定の頷き。

 さいですか。

 

「え、因みにハクロウはなんてつけてるの?」

 

「ワシは爺ゆえ、若者の真似事は合わんでの……ワシのは刀、強いて言うならば無銘と申しておきましょうか」

 

 無銘。

 え、マブくない?

 敢えて飾らないスタンスは逆にお洒落でマブくないか?

 

 なら俺も…………。

 

「………えーと………何も思い付かん……」

 

『雪入れときゃ、良いんじゃねぇか?』

 

 おお、そうだな。そうしよう。

 雪ねぇ…………そうだ!

 

凍雪(とうせつ)とか、どうかな?」

 

凍雪(とうせつ)か。いいんじゃねぇか?主さんの刀だ、主さんが気に入った名を付ければ良いさ』

 

 凍雪(とうせつ)

 降り積もった雪が地上で凍りとなり固まっている様子を表す言葉。

 直感と思い付きで名付けてしまったけれど、案外ピッタリかも知れない。雪のように儚く透明感を感じさせる刀身、だが美しい刀身は触れた物を傷付ける、氷のように。

 

 まぁ実際に切るのは俺の剣道スタイルとは合わないかなとも思ったから刃は潰して貰ったんだけどさ。

 要するに模擬刀だよ。

 

 しかも魔鉱石を基にした凍雪は魔素の通りが思いの外良い(・・・・・・・・・・・・)手に馴染む、まるで手足の延長の様な感覚だ。

 それに刀を持つ事は殺す、倒す以外にもある。

 

『刀に警戒しないと…………か?』

 

 解離者(カワリモノ)がニタリと不気味な程良い笑顔で俺の心を読んでくる。

 俺にプライバシーは無いのだろうか。

 項垂れるも言っていることはその通り。

 

「まぁそう言うことかな……」

 

 目に見えてそこにある脅威に誰だって意識を裂かれるものだからな。

 

 そして、俺の戦闘スタイルは待ち剣。

 相手がじりじりと神経を磨り減らして隙を見付けるのが俺のスタイルだ。

 勝てなくてもいい、だが相手に気持ち良くなんか勝たせてやるものか。転生前の俺はかなりひねくれてたからな。

  

 木刀とは違った鉄の重みを感じながら、軽く素振りを行うとハクロウに向き直る。

 

 やることは分かってるんだろう?

 

「………いやはや、老体をあまり苛めるものでは無いですぞ」

 

 なんて、言いながらも剣気が木刀から漏れだしている。

 

「…………殺る気満々じゃんか」

 

 俺は再び構える、今度は木刀ではなく。

 凍雪を構えた。

 

 キンッ…………。

 おぉ、刀構えてるよ!?やっべ上がるな、これ!!

 

『おいおい、興奮してる場合じゃねぇだろ?無策で勝てる相手じゃねぇぞ?』

 

 ちっちっち。

 そんな事あると思いかい?解離者(カワリモノ)くん。俺の理想の癖に分からないのかな?

 

『………』

 

 いや、悪かったから!

 やめて、やめてくれ!

 魔素を腹のなかでグルグルしないで、うぇ……気持ち……うぅえ。

 

 ヤバい、今の感覚はあれだな。

 遊園地バイキングに乗っているような気持ち悪さ、上下に揺さぶられた体内の魔素に酔ってくる。

 

『で、どうすんだよ』

 

 うぅえ………それは………おぇ。

 

「《雪遊び》《雪隠れ》《絶氷者(ヴィネア)》』

 

 俺のスキル発動と共に。

 辺りに雪が降り始めた、深々と降り積もり始める雪。

 

 御披露目スキル。

 《雪遊び》

 

 その効果は雪を降らせる!

 だけだ!!

 

 しかーし、そこに合わさるは《雪隠れ》。

 雪が降り始めた途端にハクロウの視線が俺から外れたのが、その証拠だ。

 《雪隠れ》

 その効果は雪に消える、隠れる。

 

 霜男(ジャック・フロスト)

 種族固有のスキル、それは雪に巻かれ子供を連れ去る逸話に基づくスキル。

 

 雪を降らし、雪に隠れ、子供を拐って消えて行く。

 

 俺の姿が消えた事でハクロウは距離を取り己も隠形法を使い、消える。

 雪に触れないよう、様子を伺っているのだろうが。

 俺からは決して動かない。

 

 お互いにお互いを捕捉出来ない状態、停滞して行く戦闘。

 

 しかし、この停滞は長くは続かないだろう。

 俺の隠形はスキルによるもので魔素を燃料に持続しているがハクロウのは技術だからな。

 ハクロウがこのまま様子を伺い持久戦に持ち込まれれば俺のじり貧は必須。

 

 だが、俺は焦らない。

 目をつむり、ただその一瞬に気を張り巡らせる。

 絶対にハクロウは来る、あのハクロウが隠れるだけな訳がない。

 

 絶対的な剣術と体術。

 俺のスキルを封殺し殺るつもりだろう。

 

 待つ。

 ただその一瞬の為に。

 

 ふーーーっ………………。

 深い呼吸を繰り返す。

 

 集中……………集中…………。

 

 

 

「………………ッ………!!」

 

 前方から来る気配。

 俺は刀を振り上げ、切り下ろす!!

 

「!?………………やりますな」

 

 背後から来たハクロウに(・・・・・・・・・・・)向かって。

 

 そう、前方から来た気配は木の枝。それは氷で防ぐ。

 つまり囮作戦だったと言うわけだ。

 

 しかし、そうは問屋が下ろさないわけよ。

 俺が《絶氷者(ヴィネア)》で今回行ったのは空気中の水分を氷結、雪が降っている範囲よりももっと広く展開し回転させることにより触れた対象を常時捕捉していたからだ。

 

 さながらソナーのようにな。

 だから前から投げられた枝にも気付けたし、背後から来たハクロウにも対応出来たのだ。

 

 目に見える脅威に隠れひっそりと行っていた索敵。

 リムルさんに太鼓判を押された俺の魔素操作、しかも今回は解離者(カワリモノ)と一緒に行ったので精密操作は前回の非ではない、たとえハクロウでも見破るのは至難の技だろうと山を張った。

 

 もしバレたら勝ちは無かっただろうな。

 実際この雪では索敵なんて事は出来ない、けどこの雪には別の効果が備わっている、まぁ今回は使い道無かったけどさ。

 だからハクロウが距離を取らずに《絶氷者(ヴィネア)》の索敵、捕捉前に懐に入り込まれていたら負けていたからな。

 

 二つの意味で賭けだったわけだ。

 しかしその賭けに俺は勝った。

 

「よっしゃー!!」

 

「なるほど、氷の粒に含ませた魔素でワシの位置を割り出した訳ですか……面白いですのぉ。楽しくなって参りましたな」

 

 服に付いた極小の氷を払うとハクロウは再び構えた。

 

「………へっ!?」

 

「まさか一試合で終わりでは無いでしょうな?再びワシを捉えて見せて下され」

 

 そう言いながら再び隠形法で消えたハクロウ。

 俺は慌てて氷を操作し索敵を始めたが。

 

「おえ!?何で何人もいるんだよ!!」

 

 俺の氷ソナーには何人もの人形の反応。

 

 前から来たと思いきや、その反応は視界に入る直前に消え失せ。真横からの一撃。

 

「くっ!?」

 

 そのあとはご想像のお任せします。

 敢えて言うこともないでしょう…………負けたよ!!

 

 そして試合後にハクロウが良い放った衝撃の発言に俺は愕然とするのだった。

 

「気当たりと言うものはご存じではないかの?」

 

 気を放ち分身を作る技術なんだよ。

 いやいや、さらっ説明してくれるなっ!?

 俺からすればそんな事出来んのかよ!?!?って感じだよ。

 

 改めてハクロウ恐るべしと実感する。

 一矢報いる事が出来たけれど、実際にはハクロウとの差を再び思い知らされた結果となった。

 

 はぁ、今日も負けたな。

 

「しかし、アイデアは良かったですな。まだまだ精度に難がありますが、《魔力感知》等のスキルと合わせて使用すればより精度が増しますぞ」

 

 フッと笑いながらアドバイスをくれたハクロウ。

 まだまだ伸び代がありますぞ、そう発破をかけられたら。

 

 やる気が出てくるってもんさ。

 さぁ解離者(カワリモノ)!次の稽古に備えて計画を練ろうじゃないか!

 

 と思っていたのだが。

 

 

『おん?主さん。何か空から来てるぜ?』

 

 解離者(カワリモノ)が空から此方に向かってくる魔素を確認したらしく。

 

「は?空から?」

 

 解離者(カワリモノ)に言われ、空を見てみれば。

 確かに何か飛んできている。

 

 馬?と人か?

 

「何かあったのか?」

 

 天馬(ペガサス)に跨がり現れた謎の一団。

 リムルさんからの念話は今のところ来ていないし、一応確認しといた方が良いだろうと判断し。

 俺はハクロウ、シュニィと共に天馬(ペガサス)が降りた場所へと向かった。

 

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