転生したら霜男だった件 それいけジャックフロスト   作:機関銃くん

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22話《ユーラザニアの使節団》

 テンペスト国、中央都市リムル。

 現在、破壊された街道の復旧に汗水垂らしていた。

 

 と、言うのも皆さん御存じカリュブディスとの戦闘で怪我人こそ居なかったが街への損害は少なくは無かったからだ。

 

 ゲルドの指示の元、流石職人と言わざる追えないスゴ技でひび割れ粉々になっていた筈のレンガを次々と治して行くという作業に終われていた。

 

 あ、そうそう。そういえばヨウム一団も国に帰ったんだよ、ちなんと英雄譚のシナリオも考えからな。最初こそ小汚ない荒くれ者って感じだったヨウム達だったが、別れ際の姿は英雄に相応しい顔立ちだったと思うぞ。

 後はミリムか。  

 ミリムも帰ったよ、やっとな。

 なにやら仕事があるらしい。もしやこのまま永住するのかとも思ったが要らぬ心配だったようだ。

 

 それから数日後。

 

 ユーラザニアとの使節団交流の知らせが届いた。

 使節団に任命されたのは幹部候補のホブゴブリンが数名、纏め役のリグル。そして団長にはベニマルが選ばれた。

 

 他国への交流。

 カリオンとは既に宴会を通じて仲を深めたつもりだが、国王と国の雰囲気とは別物だろう。

 それに良い点はどんどん取り入れ互いに発展していこう、おー!という意味合いも多分に含まれており、極め付けは今後付き合っていけるのか。

 我慢をしながらの関係とはいつか崩壊すると決まっているからな。

 

「任せたぞ。ベニマル」

 

「えぇ、この目でユーラザニアには信頼に足るのか見極めて来ます」

 

「おおー、かっこいいじゃん。お土産もよろしくー!」

 

「たくっ……遊びに行くんじゃ無いんだぞ……!」

 

「ええー、なんかリムルさんと対応ちがくね!?塩対応すぎじゃね!?」

 

「俺は敬う人物を分けてるだけだ」

 

「ストレートにグサッとくるんだけど……」

 

 とそんなやり取りをしつつ。

 ベニマル達はユーラザニアへと出発した。

 

「………じゃあ、こっちも歓迎の準備……?」

 

「そうだな。彼方に失礼の無いよう此方も礼を尽くさないとな」

 

 テンペスト国としてユーラザニアの使節団を迎える準備に取りかかった。

 先ずは迎賓館での持て成し。

 折角来て貰うのだからテンペスト国でしか味わえないような料理や酒を楽しんで貰いたい。

 後は街の清掃、あ、そうそう。

 俺ねベスターっての初めてここであったんだよね。聞いた話によるとヴェルドラの洞窟でポーション作成してんでしょ?知らんかった。

 てか、知らなかったの俺だけ?

 

 ていう、初の発見もありつつ。

 準備は着々と進んでいた。

 

 すると、なにやら。

 街の外から見知った魔素を感知した俺、何だ何だと街道まで出てみれば。

 

「おりょ?ヨウム君じゃないか、どったの?お早い再開となったね!」

 

「よぉヨクルさん!近くを通りかかったもんで、挨拶にな!」

 

「おお、そうか、そうか。悪いな今ちょっとばかしバタバタしててさ。クロウ!ヨウムが来たことリムルさんには伝えてきて!」

 

 俺が呼び掛けると何処からともなく雷と共に現れたクロウは言伝てを頼むと直ぐ様消えた。

 

「悪いね、ゆっくりするといいよ。迎賓館はわかるよな?そこに行っててくれ、多分リムルさんも居るから」

 

 じゃっ!!

 片手を上げヨウムに伝えると俺は次の場所へと急いだ。

 俺の仕事と言うのは氷像の作成だ。

 ユーラザニアは獣の国だろ、だから動物の氷像を飾ってるわけさ。

 その日の夜には久々にヨウムと稽古したよ。

 結構鈍ってるかと思いきや、稽古は欠かさなかったらしい。関心関心、まぁ一撃も当たらなかったがな。

 

 まぁ、そんなこんなで慌ただしく準備をしていた訳だが。ユーラザニアの使節団来訪まで本当にあっという間だった。

 使節団来訪、当日。

 

 馬の馬車ならぬ、虎の馬車で来訪した使節団を俺達は迎えた。

 

 迎えたのだが。

 カリオンの三獣士の物腰柔らかそうな蛇の美女のアルビス。

 そしてその次に出てきたのがスフィア。

 

 このスフィアが曲者だった。

 開口一番スライム風情が盟主だとやら傍に控えていたヨウム達を見て矮小で小賢しく卑怯と罵詈雑言の嵐。

 

 それには俺も少しカチンと来た。

 

「おいおい、このヨウムさんはな!!オークロード討伐の立役者、英雄様だぞ!?あまり人間を嘗めるなよスフィアとやら。奢り、慢心した魔物を討伐するのは何時だって人間さ!それになーヨウムは俺の弟子だ!!弟子を愚弄するのは師匠である俺が許さん、即ちぶち殺すぞテメェってこった!!」

 

「………ヨクルさん………!」

 

「お、おい。ヨクル?分かってるか?」

 

 えぇ、わかってるとも。

 

「ぶち殺せって事ですよね?勿論!」

 

「わかってねぇよ!?全然わかってねぇから!!」

 

 カリオンには悪いけど。

 臣下を一人失わせてしまうな……はは、これじゃあミリムを笑えねぇや、もし国際問題になってしまったら俺が責任を取ろう。

 ヨウムはヨウムで侮辱された屈辱を返してやるらしく。

 グルーシスという獣人と戦い力を示すようだな、軽く見たところグルーシスとやらはヨウムで勝てるか勝てないか半々の丁度いい相手みたいだな。

 ……だが、負けようものなら次の稽古は5割増し決定ですな。

 そう内心呟けば、なにやら第六感で感じ取ったのかヨウムは此方を恐る恐る振り返って顔を青くしていたので俺なりの激励をくれてやろう。

 そうすれば贈る言葉はやはりこれに限る。

 

 ぶ・ち・こ・ろ・せ

 

「…………サーイエッサー……」

 

「………お前も苦労してるな……」

 

 何々これから戦う相手とシンパシー感じてんだよ、全く。

 ヨウムへの激励も終わったことだし、俺は俺の相手に向き直る。

 

 コォォォォオ……!!

 魔素が周囲の水分を凍らせ白い煙となり地面に注ぐ。

 

「………さてと、殺られる準備はいいかな?スフィアとやら……俺の氷は死ぬほど冷てぇぞ?」

 

「面白い、スライムの配下がどの程度か俺が確かめてくれる!」

 

 俺は両手に魔素を凝縮、スフィアが飛び上がり俺に向かってくるのを受け止めた。

 単純な腕力では俺は負けるだろう、なら殺ることは一つ。

 

「《動くな》」

 

「!?……なにっ!?……かはっ……!?」

 

 『呪詛』による拘束からの『絶氷者(ヴィネア)』で触れた両腕の凍結。

 プラス凍結で奪った腕力を上乗せした腹パンを見舞う。

 勿論此方の『絶氷者(ヴィネア)』での凍結を与える。腹部への打撃、凍結による体温低下で吐血と共に白い息が吐き出され、そのまま後方に吹き飛ぶスフィア。だが逃がさない。

 氷技工で造形した茨で両足を拘束、徐々に体力を奪い、蒼白し低体温で震える顔を見ながら拳を構える。

 

 カタカタ奥歯を震わせているのは寒さからか恐怖からか。それは分からないが………終わりだな。

 

 拳に特大の魔素を練り込んだ氷の渦をスフィアに放つ。

 

 だが、それはスフィアの前に割り込んだリムルさんの『暴食者(グラトニー)』に喰われ跡形もなく消失した。

 

「ヨクル……やりすぎた……!」

 

「…………え……だってリムルさんぶち殺せって……」

 

「言ってねぇよ!!何をどうやったら脳内変換でそうなるんだよ!!??」

 

 早い話が力試しという奴だったらしい。

 わざと此方を焚き付けるような事を言い、戦闘に持ち込み武力を示せ、そう言うことだ。

 

 ならば俺はまんまと嵌められた訳だ。

 

「はぁ………俺マジで切れて馬鹿みたいじゃん……スフィアさんも悪かったよ、寒かったろ?今暖かい飲み物持ってくるから」

 

「い……や、あんたが……ヨクルか……流石カリオン様が認めた奴だよ……完敗……だ」

 

 スフィアさんに纏わりつく氷に触れ『絶氷者(ヴィネア)』による凍結を解除しながらそっと布を肩から掛けて身体を温める。

 

 その日の夜には迎賓館で歓迎の催し物が行われた。

 リムルさんはテンペスト国自慢の果実酒を振る舞い。

 

 案の定果実酒は好評であった。

 がテンペスト国の果実酒の生産、その過程で果実の纏まった収穫に難色を示したら、ユーラザニアの果実を此方に流してくれると言う話じゃないか。

 しかし、話はそれで終らないリターンがあるからこその貿易なのである。

 

 事実ユーラザニアは生産された酒の輸出を求めてきた。

 まぁそこはリムルさんも触れる程度にし深くは踏み込まない、餅屋は餅屋とよく言うだろう。

 本題はテンペスト国の貿易大臣に任せ、歓迎の席を離れたのだが。

 

「……大丈夫か?昼間はかなり熱くなってた、お前にしては珍しいじゃないか」

 

 まさかこっちに来るとは思わなかった。

 

「……そうですね。俺らしくない、でもどうしても許せなかったんですよねー。ヨウムのこともリムルさんを馬鹿にされたことも、今日来た奴に何がわかんだって……恥ずかしい話、俺はこの街に携わる皆を家族みたいに思ってるんでしょうね。ヨウムだって俺の弟子だし、柄じゃないけど弟子は可愛いもんでしょ?」

 

 ケラケラ笑って茶化しながら冗談っぽく話してみるけど、本当に許せなかった。

 

「………うん、わかるよ。俺も同じ考えだからな……」

 

「……リムルさん……」

 

「……しかし、あれはやりすぎだ……!」

 

 そういいリムルさんからのチョップを甘んじて受けた俺は、苦笑で返すのだ。

 

 


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