転生したら霜男だった件 それいけジャックフロスト   作:機関銃くん

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9話《豚とスライムと時々霜男》

 錐揉み大回転から生還した俺はランガに肩を借りながら?何とかリムルさんのもとへ。

 大回転のせいで脳が三半規管が激しく揺さぶられ酷い車酔い状態のデバフに掛かってしまい。

 時折来る酷い吐き気を催すが無理矢理飲み下す始末。

 大丈夫かって?大丈夫だ不安しかない。

 

「うぶっ…………それで、あれが……豚頭族(オーク)の親玉?」

 

 口元を手で押さえながら恐らく親玉であろうデッカイ豚を見やる。

 俺やリムルさんを簡単に握り潰せるであろう巨体、体内から溢れる魔素量。口内から大量の涎を垂れ流しながら飢餓に襲われた虚ろな白眼で俺達を見ている……のだろうか。

 それとも食材にしかみえていないのか。

 

「どうやらそのようだな……てか大丈夫か?酷い顔だぞ」

 

「ははっ………うっぷ。だ、だいじょぶだ……酔っててもこれ(コゴエルモノ)はちゃんと機能してるから」

 

 掌から冷気を出すとちゃんと戦えますよアピールをしながら自身の額に当て冷気で冷やし酔いを紛らわす。

 本当に大丈夫か?

 そんな視線をリムルさんから向けられるがここで退くわけには行かんでしょ。

 流石にあの魔素量を相手取るには皆前哨戦で魔素を消費している訳で俺のソフトクリームでの回復も全快とまでは行かないしな。

 

「リムルさんを一人にはしないからさ」

 

「ふっ、生意気だぞっ!でもサンキュな」

 

「「さーて行きますか」」

 

 と意気込んで戦場に向かった訳なのだが………。

 

「ゲルドよ!何をモタモタしているんだ!!」

 

 その前に何か空から飛んできた。

 ペストマスクを着けた古臭い貴族風の変な男。

 そう言えばベニマルから聞いたな。仮面を着けた魔人と豚頭族(オーク)が攻めて来たと。

 

「あれが黒幕?それにしては小物感が半端無いけど」

 

 魔力感知で見るが大した魔素量も無いようだし。

 

「お、おお!ゲルミュット様!我を助けに来てくれたのですね!!」

 

 ガビルがペストマスクの男へ感激の声をあげる。

 ゲルミュット様と心酔した表情を浮かべ崇める。その様子にガビルの名を付けたのもゲルミュットだったのだろうと用意に想像が出来た。

 

 急に現れた横槍を指差し。

 

「なぁなぁリムルさん、あれどうする?」

 

「あー、どうするかな」

 

 と思案している間に。

 

「ゲルミュット様ぁぁあ!!」

 

 ゲルミュットの名を叫びながら俺が作った氷の砦から飛び出してしまったガビルとその一味。

 よっぽど名付け親に会えたことが嬉しかったのだろうなもう一目散にって感じで。

 

「あれは………どうする?」

 

「……………はぁ………助けるしかないだろ?」

 

 ですよねぇ。

 あれは殺されるよね。

 

冷血者(コゴエルモノ)

 

 足元を凍結させ地面を滑りガビルを追い掛け、追い付くとガビルはゲルミュットにすがり付いていた。助けてくれと。

 しかしガビルの懇願は無視され、ましてや鬱陶しいと足蹴に、手を離したガビルへ追い討ちをかけるようにステッキで殴る。

 ガビルを失敗作だと口汚く罵り、魔弾を撃ち込むが間一髪でガビル一味がガビルの盾となる姿。

 

冷血者(コゴエルモノ)……プラス脈動回復……プラス大自然(だいしぜん)

 

 撃ち込まれた魔弾は俺の魔素に触れると凍り付き地に落ちると同時に地面から脈動回復の鈴蘭が咲き誇る。

 そして、御披露目スキル《大自然》

 

◆◆◆

 

 《大自然》

 

 成長:魔素を流した対象を成長させる。

    植物を限界を超えて育てる。

    スキルの熟練度を一定時間、限界値まで成長させる。

 

◆◆◆

 

 脈動回復で生み出した純白の鈴蘭が大自然の効果で大きく成長する、降り注ぐ光はガビル一味を包み込み瀕死の状態から全快まで回復させる。

 

「……ヨクル殿、我輩の子分達を……」

 

「あぁ、問題ない子分は無事だ。後は任せて後ろに下がれ、良い仲間を持ったな」

 

「う、うむ!」

 

 自分を慕って着いてきてくれた子分達、自ら盾になり自分を守ってくれた子分達。

 ガビルは込み上げる涙をグッと唇を噛み締め耐えると子分達を背負い下がって行く。

 

「さてと………えっと、ゲル……なんとかさん。あんたが今回の黒幕でいいんだよな?」

 

「な、なんなのだ貴様は!?ゲルド!助けろ!俺を!行き倒れのお前に飯を名を授けたのは俺だ!恩を返せ!!」

 

 豚頭帝(オークロード)、ゲルド。

 ゲルミュットの叫びに動き出し手に持った鉈を振りかぶる。

 巨体から繰り出される一撃に一歩下がり身構えたが、鉈の矛先は俺に向けられてはいなかった。

 

「はははっ殺せ!皆ごろしに…ぐひゃ!?」

 

 振り下ろされた鉈は名付け親のゲルミュットの頭と胴体を両断し、ゲルミュットは何が起こったか理解できずに絶命。

 

「ゲルミュットさマの………ノゾみをカナエル」

 

 ゲルミュットの死体にかぶり付くゲルド。

 肉を喰らい、骨を砕き、血を啜る。

 

《確認しました。個体名ゲルドが魔王種への進化を開始します。》

 

 何だこの声、前にも聞いたような。

 それよりも魔王種?魔王になんのか?

 

 ゲルドの身体から魔素が滲み出し身体を包み込んで行き、妖気が溢れだす。

 

「ヨクル!妖気に触れるな!!」

 

 リムルさんの警告に脱兎のごとく離れた、背後を確認すると妖気に触れた死体がグズグズに溶けて行くではないか。

 

「………腐食……してる?おぇ……きもい」

 

 ドクンッ………!

 ドクンッ………!!

 

 ゲルドを包む魔素の繭から鼓動が響く。

 

 そして繭が割れ禍々しい妖気が吹き出す。

 

《個体名ゲルド。豚頭魔王(オーク・ディザスター)へ進化成功》

 

「オレの名はゲルド。豚頭魔王(オーク・ディザスター)ゲルドと呼ぶがいい!!」

 

 魔王ゲルドと崇める豚頭族(オーク)達。

 やはり伊達に魔王を名乗っていないな、魔素量が段違いだ、それはリムルさんもクロウやベニマル達も感じているようだ。

 

「シオン!!」

 

 ベニマルの声と共に駆け出し斬りかかるシオン、だがシオンの膂力を受け止め更に押し返して見せたゲルドの腕力。

 しかし、押し返し腕が伸びきった瞬間にハクロウが首を跳ねた。

 だが、首を跳ねられてもゲルドは止まらないハクロウに鉈を振り下ろし自身の頭を掴むと胴体とくっつけた。

 

 その後、続けざまにベニマルの黒炎獄(ヘルフレア)。ソウエイの操糸。ランガの黒稲妻を受けたゲルド。

 

 流石にもろに喰らって無傷では居られないだろうと思われた連続攻撃をもゲルドは耐えきった。

 飢餓者(ウエルモノ)と自己回復で傷ついた体を即座に回復し生き延びていた。

 大きな傷には味方を喰らい飢餓者(ウエルモノ)で全回復してしまうし。

 

「流石魔王って感じじゃないっすか、これ」

 

 少しでも体力が残っていれば回復する、ならば即死させるしかない。たが今の攻撃でランガは魔素切れとなり戦力が大幅に減り、決定打に欠けてしまった。

 ならば………行くしかないだろう。

 

「リムルさん……行きますか?」

 

「あぁ、そうだな」(聞こえるかベニマル、後は俺達に任せろ)

 

 俺達はゲルドの前に立ちはだかった。

 近くに寄ると一層感じる腐食属性を孕んだねっとりとした魔素。

 

「鬼人5匹と狼はどうした、我の獲物を何処にやった」

 

「ランガの事か?ランガなら俺の影の中だ」

 

「喰ったのか……?」

 

「まさかお前じゃあるまいし」

 

 しーーーん

 

「えっ……めっちゃ煽るじゃん……」

 

 ブォォォン!!

 

「あっぶね!?何で俺!?煽ったのリムルさんですけど!?」

 

 鼻先を掠める鉈に俺は仰け反り回避。

 そして苦情を申す!!

 

混沌喰(カオスイーター)!!」

 

 しかしゲルドは聞き耳を持つ処か更に俺に向かい腐食の蛇を飛ばしてくる。

 そして自身はリムルさんと一騎討ち。

 

冷血者(コゴエルモノ)、残念だけど俺に魔素を使用した攻撃は効かないよ」

 

 腐食の蛇は俺に触れる寸前に凍り付き砕ける散る。

 

 これにはゲルドも多少驚いたらしく攻撃が一瞬止まる、そして隙を見逃さず攻撃を加えるリムルさん。

 刀でゲルドの腕を斬り飛ばすと傷口に黒炎を燻らせ再生を阻害すると言う技術を使う。

 

 リムルさんは続け様に攻撃を加えて行く、俺のすることと言えば腐食の蛇を凍らせ防ぎ。ゲルミュットが使ってた魔弾を凍らせ落とす。

 サポートするくらいしかなく、しかも、俺がわざわざサポートしなくてもリムルさんなら問題無いまである。

 あれ?またしても俺いらなくね案件発生中。

 

 しかし、リムルさんの猛攻を耐えたゲルドはリムルさんを鷲掴み腐食で取り込もうとしてるではないか。

 

「リムルさん!!手を離せ!!」

 

 冷血者(コゴエルモノ)

俺はゲルドの身体を一気に凍結させ、自己回復、飢餓者(ウエルモノ)の効果を一時停止させる。

 あわよくば心臓も脳も停止させてやろうとしたが、ゲルドから常時漏れ出る腐食でそこまで俺の魔素を流し込めなかった。

 だが、流石に此処までやればと思ってしまった。

 

「やべっフラグだわ……!」

 

《個体名ゲルドが凍結耐性を獲得しました》

 

「うわっやったなこれ」

 

 耐性の効果で魔素が更に入りづらく、冷血者(コゴエルモノ)の効力が弱まる。

 飢餓者(ウエルモノ)の停止が緩み始め俺の氷を取り込み始めたゲルド。

 

「ハッハ!オレに氷は効かないようだぞ?」

 

「うっわ煽り返されたんだけど……」

 

「落ち着けヨクル。俺に良い考えがあるお前も手伝え」

 

 リムルさんから流れてきた念話。

 

「なるほど了解!」

 

 俺はリムルさんの指示通りゲルドの全身を凍らせるのではなく氷で拘束した。

 氷細工(アイスワーク)で氷を荊に造形しゲルドの肉に棘を突き立て身動きを封じる。

 

 その隙にスライムとなったリムルさんがゲルドを補食する。

 

「お前が飢餓者(ウエルモノ)なら俺は捕食者(クラウモノ)だ」

 

捕食者(ほしょくしゃ)じゃなかったんですか?ルビ振りかっこ良くなってるんですけど」

 

「うるさい!!」

 

 ただゲルドも黙って喰われて堪るかと飢餓者(ウエルモノ)で対抗する。

 リムルさんが喰えればゲルドも喰らう。

 ゲルドが喰らおうとすれば俺が荊で邪魔をする。

 俺に邪魔をされ腐食で攻撃すれば魔素を伝い逆流した俺の魔素がゲルドを体内から凍らせる。

 

 勝負は目に見えて明らかだった。

 喰らうというフィールドでリムルさんにゲルドが勝てる筈もなく、ましてや俺の凍結(邪魔)もあったんだ。

 魔素の流れが停滞し、スキルの効果も一部停止、荊による身体拘束。

 

 ゲルドの全身はスライムの粘体に包まれ泡となってリムルさんに取り込まれた。

 ゲルドの肉も骨も意思も罪も全てリムルさんに喰われ。

 スライムから人形に変化したリムルさんに俺は尋ねた。

 

「終わったんですか」

 

「あぁ、終わった。ゲルドは俺が喰らった」

 

 こうして豚頭帝(オークロード)改め豚頭魔王(オーク・ディザスター)の討伐は終わりを告げた。

 

 余談として討伐の後処理とゲルド率いる約15万の豚頭族(オーク)達の処遇についてジュラの森に住まう種族で会議を行った。

 勿論議長は今回の立役者、リムル=テンペスト。

 

 会議は激化するかと思われた。

 同胞を虐殺された鬼人達、領土を踏み荒らされた蜥蜴族(リザードマン)

 きっと豚頭族(オーク)達を皆殺しにしろ!

 位になるんじゃないかと思っていた。

 が、実際はそうはならなかった。

 

 リムルさんがゲルドの罪を喰らった。

 即ち豚頭族(オーク)達をリムルさんの名の元に許せとそう言った。

 

 当然只では押し通る物ではない。

 許す代わりに豚頭族(オーク)には労働で罪の清算をして貰おうと言うことに。

 

 リムルさんの意見に鬼人達も蜥蜴族(リザードマン)達も了承。

 今回リムルさんが居なければ全滅も可笑しく無かったわけでリムルさんの意見を尊重するのはそうなんだが、まさか二つ返事で返されるとはリムルさんも想像して無かったみたいで目を丸くしてたよ。

 

「というわけで此れからバリバリ働いて貰うから覚悟しておけよ」

 

「ハッ!!命に変えてもその任全うさせて頂く所存!!」

 

 会議の末、めでたく豚頭族(オーク)達はリムル村の住人となった。

 そして勘当され湿地帯を追われたガビルと賑やかなガビル隊。

 そのお目付け役として妹のソーカ達が仲間入りして、リムルさんの町は一層賑やかになっていった。

 

 豚頭族(オーク)達は身を粉にして労働に勤しみ、ソーカ達はソウエイと共に町の警護、ガビル達は………何してんだろうね。

 よく分からんな、この間なんてリムルさんを讃える踊りとか何とかの練習してたな。

 

 あっそうそう、俺はと言うとゲルドと仲良くなったんだよ。

 あぁゲルドってあれね。

 豚頭族(オーク)達の副首領的な立ち位置だった彼ね。

 

 豚頭族(オーク)達が労働している傍らで俺はソフトクリームや冷たい飲み物を配っていたから。

 自然と距離が縮まっていったね、うん。

 

「ほいっゲルド。頑張ってるね、休憩もしないと駄目だぞー」

 

「これはヨクル殿。(かたじけ)ない……んぐんぐっ……ぷはっ」

 

 飢餓者(ウエルモノ)の飢餓感さえ無ければゲルド達は何とも気の良い奴らだった。

 

 俺のアイスは旨そうに食ってくれるし、飲み物だって冷たい旨いと飲んでくれる。

 本当は誰も殺しなどしたくは無いのだろう、だが種族が環境が身分がそれを許しはしないのだろう。

 同族を好き好んで喰らう者が何処に居ると言うのか。

 

「んじゃ無理せず頑張れよー!」

 

 俺はゲルド達に手を振り別れると木陰に腰を下ろし思った。

 

 魔物として生きるって俺が考えていたよりもずっとずっと大変だったと。

 何処の世界でも爪弾き者は辛い思いを抱えて生きているのだと。

 

 俺も強くならないとクロウやリムルさん達を守れるように。

 そして、俺はいつの間にか寝入ってしまってた。

 まさか俺の知らない所で俺の中で急速に変化しているなど思いもせず。

 

『……主さんよぉ。逆境をぶっ壊すには力が必要なんだぜ?わかるだろ?』

 

《個体名ヨクルがスキルを習得しました。飢餓者(ウエルモノ)を生け贄に。呪怨者(クロキモノ)が変質、再構築完了》

 

《ユニークスキル解離者(カワリモノ)を獲得》

 

解離者(カワリモノ)の申請を受理。冷血者(コゴエルモノ)氷細工(アイスワーク)を統合。冷血者(コゴエルモノ)の進化を開始します》

 

《成功。冷血者(コゴエルモノ)絶氷者(ヴィネア)へと進化しました》

 

『主さん、これから頼むぜ?ギハッ……!』

 

 


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