ペルソナ THE PHANTOM ELEVENS ~心の怪盗団と革命の風~   作:ヒビキ7991

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Act.15/無限の泉

~渋谷駅 改札前~

 

 

中間テストが終わり放課後、天馬達は学校を離れ渋谷駅の銀坐線改札前に集まっていた。杏はようやく緊張が解れたのか背伸びをし、竜司は言わずとも分かるくらいの酷い顔をしている。

 

 

竜司

「終わった………お前らどうだった?」

 

「手応えはあったな。」

 

天馬

「俺も少しは………それより。」

 

 

天馬はスマホを手に取り、怪盗お願いチャンネルを開いた。

 

 

グッドストライカー

「随分と書き込み減ったな………このままじゃ俺達一発屋で終わっちまうぜ?」

 

「ジタバタしてもしょうがないよ。取り敢えずテストも済んだし何処か行かない?今朝貰った斑目展のチケットも………って、コレ明日だった。」

 

モルガナ

「まさか、あの祐介に一目惚れ………」

 

「そんなんじゃないって………テレビの特集見てたとき結構良い絵だったし、せっかくチケットあるならって思っただけ。それにもしかしたら、前にメメントスで聞いたのと関係あるかもだし。」

 

「確かアイツも、マダラメと言っていたな。確かに気にはなる。」

 

「チケットも丁度人数分あるし、たまにはみんなで芸術鑑賞してみる?」

 

モルガナ

「賛成だ、芸術鑑賞は人間の魅力や品性を高める。美術品の真贋を間違う怪盗なんて、ダサいしな。」

 

天馬

「俺は行くよ。何だか面白そうだし。」

 

志帆

「天馬君が行くなら、私も一緒にいいかな?」

 

竜司

「まぁ、みんなでなら俺も………」

 

「決まりだな。」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

~斑目展 展示会場~

 

 

次の日、5月15日 日曜日。

一行は渋谷駅前デパートで開かれている斑目の個展に来ていた。会場内は斑目の作品を見るため集まった客で溢れかえっていた。

 

 

モルガナ

「混んでんな………」

 

竜司

「モルガナは一緒に居るのバレたら面倒だからな、あんま出てくるなよ?」

 

 

モルガナは了解し、蓮の鞄の中に身を隠す。すると丁度そこに祐介が現れた。祐介は杏を見るなり喜びの笑みを浮かべる。

 

 

祐介

「来てくれたんだね!」

 

「えっ?まぁ、うん………」

 

 

少々動揺する杏。祐介は天馬達にも気付き、天馬達に目を向けた。

 

 

祐介

「おや、君達も来たのか?」

 

竜司

「いやテメーが人数分の券置いて行ったんだろーが………」

 

祐介

「まぁ理由はともかく、他のお客様の御迷惑にならないようにな。」

 

「善処する。」

 

 

祐介は杏に個展を案内するため、杏と2人でその場を後にした。

 

 

モルガナ

『杏殿、大丈夫なのか!?大きな絵の裏で、ゴニョゴニョなんてこと………』

 

志帆

「大丈夫だよ。杏、とっても強いから。」

 

天馬

「それってどういう………」

 

竜司

「ところで、マジで芸術鑑賞する?帰るって手もアリじゃね?」

 

天馬

「う~ん………俺は普通に鑑賞したいかな?」

 

「俺もだ。マダラメの事を知りたい。」

 

竜司

「ふぅ………いっぺんだけザッと見て回るか。」

 

 

天馬達4人は各々、天馬・志帆ペアと蓮・竜司ペアに別れ、斑目の個展を見て回った。そして数十分後、天馬と志帆が個展内を歩いていると………

 

 

神童

「天馬?」

 

天馬

「神童さん!」

 

 

偶然、2人は神童と再会した。

 

 

天馬

「神童さんも個展見に来たんですか?」

 

神童

「ああ、祐介からチケットを貰ってな。それより天馬、少し話があるんだが良いか?」

 

天馬

「はい?」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~渋谷駅 連絡通路~

 

 

それからしばらくして、人気の無い渋谷駅ビルの連絡通路には蓮と竜司が居た。が、竜司はどうやら個展の人混みでダメージを負ったようだ。

 

 

竜司

「オバチャンの肘がモロ………」

 

モルガナ

「ゼェ………ゼェ………やっと外に出れる………鞄の中でペシャンコになるかと思ったぜ………」

 

 

モルガナもようやく解放されグッタリしていた。

 

 

竜司

「でも、おかげで思い出したぜ。」

 

「何を?」

 

 

竜司はスマホを手に取り、怪盗お願いチャンネルを開き掲示板の書き込みを見る。すると………

 

 

天馬

「あ、ここに居たんだ。」

 

「ちょっと、何で先帰んの!?」

 

 

祐介から解放されたのか杏が合流。同時に天馬・志帆・神童も合流した。

 

 

竜司

「ちげぇよ、俺ら巻き込まれて………って、アンタ神童 拓人?何で天馬と一緒なんだ?」

 

神童

「俺も個展を見に来ていたいんだ。それよりも、君達に話がある。」

 

「話?」

 

神童

「最近秀尽で噂になっている怪盗団の事だ。単刀直入に聞くが………天馬を含め、君達が例の怪盗団で間違い無いんだな?」

 

 

神童の発言に、蓮達は驚愕した。

 

 

「天馬、まさか俺達の事を彼に?」

 

天馬

「ごめん………でも、安心して!神童さんは俺が一番信頼してる人だし、俺達の事は秘密にするって約束してくれたから。」

 

神童

「すまない………実は、怪盗団に依頼したい事があるんだ。」

 

「怪盗団に?」

 

神童

「斑目先生の噂について調べてほしい。」

 

 

神童の依頼内容に、一行は驚いた。

 

 

神童

「祐介の師匠、《斑目 一流斎》先生。表向きは世界的に有名な日本画家だが、実は裏で盗作や弟子への虐待をしているという噂があるんだ。」

 

竜司

「盗作に虐待………それってコレの事か?」

 

 

竜司は怪盗お願いチャンネルの掲示板のとある書き込みを見せた。

 

 

竜司

「『日本画の大家が弟子の作品を盗作している。テレビは表の顔しか報じていない。アトリエのあばら家に住み込みさせている弟子への扱いは酷く、こき使うだけで絵など教えてもらえない。それどころか人を人とも思わない仕打ちは、飼い犬をしつけるかの様だ。』」

 

志帆

「弟子の作品を盗作!?」

 

竜司

「俺も最初は何とも思わなかったんだが、さっき斑目の爺さんが取材受けてる時に『あばら家』って言ってたんだ。それでピンと来た。」

 

神童

「祐介は幼い頃に両親を2人とも亡くし、それから身寄りの無い自分を斑目先生に拾われ、今日まで親代わりとして育てられたそうだ。今斑目先生の弟子は祐介1人だけ。もし噂が本当なら、祐介も………祐介は俺の大事な友達なんだ、だから頼む。」

 

天馬

「神童さん………」

 

竜司

「………どうする、リーダー?」

 

「天馬の戦友の頼みだ、引き受けよう。時間は掛かるが、必ず真実を突き止めてみせよう。」

 

神童

「………感謝する、怪盗団。」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~セントラル街 ファミレス~

 

 

一行はその後神童と別れ、セントラル街のファミレスに場所を移した。

 

 

「意外な収穫だったな。」

 

竜司

「ああ、マジなら大スキャンダルだぜ?」

 

「この掲示板の書き込み、もしかして喜多川君が書き込んだのかな?だって弟子なんでしょ?」

 

竜司

「さぁ、匿名の書き込みだから………」

 

天馬

「となると、前にメメントスで聞いた『マダラメ』と同一人物って可能性もあるって事だよね?」

 

グッドストライカー

「怪しいな、偶然にしちゃ出来すぎだ。」

 

志帆

「斑目先生が盗作に虐待、ホントなのかな………?」

 

竜司

「そういや杏、モデルの話はどうなってんだ?」

 

「喜多川君から連絡先と、斑目先生のアトリエの住所教えてもらった。」

 

竜司

「………そう言えば住み込みって言ってたな、丁度良い。明日の放課後、斑目の家に行こうぜ!」

 

「えっ?モデル………明日!?」

 

竜司

「ちゃうちゃう、喜多川に話を訊きに行くんだよ。」

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

~都内某所 斑目宅前~

 

 

翌日、5月16日 月曜日の放課後。

一行は渋谷駅近くの住宅街にある、斑目の家にやって来たが………

 

 

竜司

「もしかして、アレ?」

 

「住所も合ってるけど………」

 

 

現れたのは辺りの真新しい住宅の中でポツンと建つ、トタン張りのレトロな古民家だった。

 

 

天馬

「確かに、あばら家って言うだけの事はあるね………」

 

グッドストライカー

「ちゅーかメチャレトロだな。此処だけザ・昭和って感じがするぜ。」

 

志帆

「表札も斑目になってる。此処で間違い無いみたい。」

 

「取り敢えずチャイム押してみるけど………壁倒れたりしないよね?」

 

「タライが落ちてくるかもな?」

 

 

一行は玄関の前に集まり、杏が慎重にインターホンを押した。押して数秒後、スピーカーから聞き覚えのある少年の声が聞こえてきた。

 

 

祐介

『どちら様でしょうか?先生なら今は………』

 

「こんにちは、高巻ですけど?」

 

祐介

『高巻さん!?直ぐ行くよ!』

 

 

スピーカーから音が消えると、家の中からドタドタと走るような音がする。

 

 

ガラガラガラ………ピシャン!

 

 

そして玄関の引き戸が勢い良く開き、祐介が姿を見せた。

 

 

祐介

「高巻さん!」

 

 

ベコン!

 

 

天馬

「ホゲっ!?」

 

 

だが引き戸が開いた衝撃で、ひさしのトタン板が滑り落ち天馬に直撃。天馬はうつ伏せでトタン板の下敷きになった。

 

 

志帆

「天馬君!?」

 

祐介

「すまない!怪我は無いか?」

 

 

祐介が慌ててトタン板を退け、天馬は頭を手でさすりながら立ち上がった。

 

 

天馬

「イテテテテ、びっくりしたぁ………」

 

祐介

「高巻さんだけかと思ったが、君達も来てたのか?」

 

竜司

「悪いけど、モデルの話じゃねえんだ。訊きてぇ事があってよ………斑目が盗作してるってマジ?あと虐待もなんだろ?」

 

 

何の躊躇いも無く質問する竜司。祐介は竜司に対し鋭い目を向ける。

 

 

祐介

「正気か?」

 

竜司

「ネットに出てたんだ。ホレ。」

 

 

竜司は例の掲示板の書き込みを祐介に見せる。

 

 

祐介

「これか………はぁ、下らない。盗作もあり得ないが、虐待するほど子供が嫌いなら、住み込みの弟子なんて取らないだろう?それに今は住み込みの門下生は俺一人。俺が無いと言うんだから、疑う余地は無い筈だ。」

 

竜司

「お、お前が嘘ついてっかも知んねえだろ!?」

 

祐介

「身寄りの無い俺を引き取って、此処まで育ててくれたのは先生だ!恩人をこれ以上愚弄する気なら、許さんぞ!」

 

 

ヒートアップする竜司と祐介。すると、家の奥から斑目本人が姿を見せた。

 

 

斑目

「どうしたんだ祐介?大声を出して。」

 

祐介

「先生!実は、コイツらが根も葉もない先生の噂を………」

 

 

祐介がそう言うと、斑目は杏と蓮達に目を向ける。そして静かに目を閉じた。

 

 

斑目

「許してやりなさい。彼らは私の噂を耳にして、彼女のことを心配して来たんだろう。まぁ、この偏屈な年寄りが万人に好かれているとは、自分でも思わんさ。」

 

 

斑目は目を開き、蓮達に目を向ける。

 

 

斑目

「横からでしゃばってすまない。けど、御近所の手前もある。程々に頼めるかね?」

 

竜司

「は、はい………」

 

斑目

「うむ、では失礼………」

 

 

斑目は静かに家の奥に消えた。

 

 

祐介

「すまん、非礼だったな………」

 

 

祐介は頭を下げ、杏達に謝罪した。

 

 

祐介

「そうだ、この絵を見てくれないか?先生の処女作であり代表作、『サユリ』だ。」

 

「サユリ?」

 

 

祐介はスマホを取り出し、1枚の画像を見せた。紅い衣に身を包み、優しい笑みを浮かべる、黒髪の美しい女性の絵だ。

 

 

天馬

「凄い………」

 

志帆

「綺麗………」

 

竜司

「芸術はよく分かんねぇけど、この絵が凄いってのは分かる………」

 

「ああ、素晴らしい絵だ………」

 

 

サユリの素晴らしさに感動する一行。

 

 

祐介

「この絵は、俺が画家を志すきっかけをくれた絵なんだ。高巻さんを初めて見たとき、この絵を見たのと同じ感動があった。俺は、こんな『美』を追求したい………」

 

 

祐介はスマホを仕舞い、杏に頭を下げた。

 

 

祐介

「君を描くことも、その一環だと思ってる………モデルの話、どうかよろしく頼む。」

 

「喜多川君………」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~あばら家付近 公園~

 

 

それから祐介は斑目の手伝いのため家に戻り、一行はあばら家の真向かいにある公園に場所を移した。

 

 

天馬

「何だか、2人ともいい人だったよね?」

 

「うん………メメントスで聞いたマダラメは、別人だったのかな?」

 

竜司

「くそぅ、せっかく大物見っけたと思ったのによぉ………」

 

「………仕方ない、イセカイナビに試しに入力してみよう。」

 

 

蓮はスマホを取り出す。すると、イセカイナビは既に起動済み。ナビには既に『斑目』と『あばら家』と『盗作』、3つのキーワードが入力されていた。

 

 

志帆

「これって………さっきの会話を拾ってたって事?」

 

グッドストライカー

「しかもこれ、斑目にもパレスがあるってことじゃねーのか?」

 

モルガナ

「斑目と盗作にあばら家、コイツがキーワードみたいだ。」

 

竜司

「ホントに、あんな爺さんにもパレスがあんのか………!?」

 

志帆

「え~っと………確かパレスに入るには名前と場所と、もう一つキーワードが要るんだよね?」

 

モルガナ

「ああ、既に斑目とあばら家は確定済み。後は斑目が、あばら家を『何』と勘違いしてるかだ。」

 

「適当に何か入れてみよう。取り敢えず、鴨志田の時みたく『城』でどうだ?」

 

「虐待してるなら、『牢獄』とか?」

 

竜司

「ったく面倒くせぇ!『刑務所』!『倉庫』!『教育指導室』!ついでに『牧場』!」

 

 

とにかく片っ端からキーワードを入れていくが、どれも該当しない様だ。

 

 

グッドストライカー

「かすりもしねぇな………」

 

天馬

「画家に関係する建物なら………『美術館』とか?」

 

 

ピロン!

 

 

イセカイナビ

『ナビゲーションを開始します。』

 

 

ブォーン………

 

 

天馬が美術館と言った途端、イセカイナビが起動。辺りの空間が歪み、一行は気付けば怪盗服姿に変身していた。

 

 

「ちょ、これって………!?」

 

モルガナ

「おい、いつの間に開始したんだ!?びっくりしたぞ!」

 

天馬

「もしかして………さっき俺が言った美術館が、最後のキーワードだったってこと?」

 

 

一行はあばら家があった方を見る。そこには先程までのあばら家とは打って変わって、黄金色に輝く巨大建造物の姿があった。

 

 

竜司

「《斑目大画伯美術館》って………マジ?」

 

「行ってみよう。」

 

 

一行は公園を離れ美術館に向かう。建物は悪趣味な黄金作り。入り口にはお客とおぼしき長蛇の列が出来ていた。

 

 

グッドストライカー

「なんつー悪趣味な建物だ………ホントに美術館か此処?」

 

モルガナ

「パレスは欲に駆られた妄想の景色だ。鴨志田のパレスで、学校が『城』だった様にな。」

 

志帆

「つまり斑目先生は、あばら家を美術館だって思い込んでるって事?」

 

「でも、斑目先生の絵って現実の美術館でも沢山飾られてるよ?個展も大人気だったし尊敬もされてるし、そんな人が態々美術館を妄想するかな?」

 

竜司

「言われてみりゃ、盗作や虐待とも関係ねぇよな?」

 

天馬

「取り敢えず中を調べてみよう。」

 

 

一行は正面入り口を避け、駐車場に止めてある自動車と塀を足掛かりにし、美術館の庭園に侵入。庭園のオブジェの上を次々と跳び移り、建物の屋上へたどり着いた。

 

 

天馬

「ジョーカー、此処から中に入れそうだよ?」

 

 

天馬は屋根上の天窓が開いている場所を見つけた。天窓から館内を見ると、中は灯りもなく真っ暗。床も天窓より遥か下にあった。

 

 

「けっこう高いね。どうやって下りる?」

 

天馬

「俺に任せて。」

 

 

天馬はそう言うと、右手にクリアグリーンに輝く光の縄手錠を持ち、手錠の片方を屋上のパイプに固定。もう片方を天窓から美術館の中に落とした。

 

 

天馬

「OK、これで入れるよ。」

 

「よし、行こう。」

 

 

一行はロープを伝い美術館内部に侵入。

 

 

パチッ

 

 

グッドストライカーが証明のスイッチをONにし、館内に灯りが灯った。着いたのは展示室だろうか、室内には大小様々な人物画が幾つも飾られていた。

 

 

志帆

「これって人物画かな?何だか動いてるみたいだけど………」

 

天馬

「ねぇ、この絵タイトルが書いてないよ?」

 

 

天馬は絵の近くにあるプレートを指差す。プレートには何故か、人の名前と年齢が書かれていた。

 

 

「絵の作者の名前か?」

 

モルガナ

「うむ………他の絵も調べてみるか。」

 

竜司

「つか、今考えれば美術館に怪盗ってド定番じゃね?」

 

「だが罠も定番だ。落とし穴や赤外線センサー等色々な。」

 

 

一行は慎重に展示室の奥へと進む。だが右を見ても左を見ても、何故か人物画しか飾られていない。しかも外に長蛇の列が出来ていた割に、恐ろしく静かだった。

 

 

「ねえ、やっぱり変だよ。斑目先生は作風が多彩なことで有名なのに、此処に飾ってあるのは何れも、同じような人物画ばっかり………」

 

天馬

「個展の時とはまるで違うね………ん?」

 

 

天馬は人物画の中から気になる絵を見つけた。それは何処か見覚えのある男性の絵。近くのプレートには、「中野原 夏彦」と書いてあった。

 

 

天馬

「これ、前にメメントスに居た中野原さんじゃないかな?プレートにも名前が書いてある。」

 

志帆

「もしかして、知ってる人?」

 

天馬

「うん、俺達がメメントスで最初に改心させた人。そして、俺達にマダラメを改心させて欲しいってメッセージを残してくれたんだ………」

 

竜司

「このプレートは、書かれてる奴の名前だったのか………でも、何でアイツの絵が此処にある………って、アレは?」

 

 

竜司は展示室の奥の巨大人物画を指差す。そこに飾られていたのは、祐介そっくりの少年の人物画。プレートには「喜多川 祐介」と書かれていた。

 

 

竜司

「この絵、アイツのじゃねぇの?」

 

モルガナ

「喜多川 祐介ってプレートにも書かれてる………間違い無いだろう。」

 

「ちょっと待って!じゃあ、此処にある絵は全部………」

 

「斑目の弟子………いや、弟子だった者達だろう。最後の1人、喜多川を除いて。」

 

天馬

「じゃあ中野原さんも、斑目先生の弟子だったって事?」

 

モルガナ

「………もう少し奥を調べるぞ、確信が欲しい。」

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

~美術館 玄関ホール~

 

 

怪盗団一行は展示室を抜け、玄関ホールに到着した。玄関ホールの壁面は黄金に輝き、黒で松や鳳凰が描かれ、天井からこれまた金の垂れ幕が下りていた。

 

 

グッドストライカー

「内装まで金ピカだぜ、目がチカチカしやがる………」

 

 

玄関ホールの中央には、何やら巨大なオブジェが展示されていた。まるで金色の巨大な渦に、人が飲み込まれている様な不思議なオブジェだ。

 

 

天馬

「何これ………《無限の泉》?」

 

志帆

「泉って言うより、人が渦に吸い込まれてる様な………」

 

 

天馬は無限の泉なるオブジェの近くにある、プレートの説明文を読み始める。

 

 

天馬

「『彼らは、斑目館長様が私費を投じて作り上げた作品群である。彼らは自身のあらゆる着想とイマジネーションを生涯、館長様に捧げ続けなければならない。それが叶わぬ者に、生きる価値無し。』だって!?」

 

 

説明文の内容を聞いて、一行は驚愕した。

 

 

「ねえこれ、もしかして盗作の事!?」

 

モルガナ

「弟子は俺のモノって事か………これがホントなら、奴はまともな絵描きですらないぜ。」

 

「弟子の生活を保証する変わりに、弟子の着想を盗んでいるんだ。沢山飾ってあった人物画は、斑目の『認知上の弟子』という事だろう。」

 

志帆

「最後の生きる価値無しって、もしかして虐待の事?」

 

グッドストライカー

「恐らくな。斑目様の役に立つうちは置いといてやるが、ダメになったら………」

 

竜司

「クソ!トンだ食わせジジイだあの野郎!つか、何で祐介は黙ってんだ!?いくら恩人だからって言っても、かばう理由ねぇだろ!?」

 

「………個展の時、飾ってあった絵を私が褒めたんだけど、喜多川君………何だか様子が変だった。」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

~斑目展 展示会場~

 

 

それは先日、杏が祐介の案内で個展を巡っていた時の事。

 

 

「日本画って、こんなに種類があるんだね………」

 

祐介

「普通はもっと作風は絞られる。でも、先生は全てを1人で創作してる。先生は特別なんだ。」

 

 

すると、杏はとある1枚の絵に目を向けた。杏は絵の目の前に移動し、祐介も後に続いた。

 

 

「あ、コレだ!生で見たかった絵!描いた人の怒りって言うのかな?分かんないけど………熱い苛立ちを感じるの。あんな気さくで紳士的な人なのに、こんな絵が………」

 

 

斑目の絵を褒める杏だったが、祐介は何故か険しい表情を浮かべ、絵から目を反らしていた。

 

 

「どうしたの?」

 

祐介

「えっ?いや、何でもない………」

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「もしかしたら、個展に飾ってあったあの絵も盗作だったんじゃ………」

 

竜司

「どうするよ?これもう斑目がターゲットでいいだろ!?」

 

モルガナ

「待て、先ずは祐介に事実確認をするべきだ。実際に悪事があったかどうか、ウラ取っておいた方がいい。」

 

「確かにな。それに俺達全員、斑目について知らなさ過ぎる。奴について、もう少し調べるべきだ。」

 

「なら私、喜多川君に連絡してみる。モデルの話受ければ、真相聞けるかも知れないし………」

 

志帆

「パンサー、本気でモデルやるの?」

 

「いやでも、みんなも来てよね?1人じゃ恐いから………」

 

竜司

「にしても、偉い画家の先生か………鴨志田より手強いかも知れねぇ。」

 

「取り敢えず、祐介からウラを取れるまでは準備だ。怪盗団としての初陣、絶対に成功させるぞ!」

 

 

 


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