青年と少女のマルチプル・オンライン 作:グラハムさんとピンクマ
明日人「ん、、、」
見慣れなく薄暗い部屋の中、重く感じるまぶたが徐々に開き、明日人は完全に目を覚ました。
明日人「ここは、、、そういや撃たれた傷は、治ってる、、、どうなって、、、ところでスティラは!」
状況が重なりすぎて理解に時間がかかる。ひとまず、スティラは何処なのかと室内を見渡すと、明日人の左側で椅子に腰掛けて眠っていた。さらにその隣の机には、明日人が今まで巻いていたのであろう血まみれの包帯が置かれている。
明日人「ありがとうスティラ、、、。今何時だ、ってスマホ盗まれてるし」
今更ながら、所持品がいくつか盗まれていることに気づいた。
腕時計くらいつけて来るんだった。つけて来たとしても、それも取り上げられてそうだが。
明日人「う〜ん、ちょっとだけ廊下の様子を覗こうかな」
ベッドから起き上がり、足音を立てないようにドアに近づき、そのドアをゆっくり左へスライドさせた。
明日人(まさか出待ちなんてされてないよね)
そんなことを考えていると、いきなり右から女が飛び出してきた。さっきもこんなことあったな。
明日人「うぉびっくりしたおま、、、」
白衣?を身に纏った長く青い髪は一瞬見惚れるが、若干桃色に光る目と右手に持っているナイフでそんな感情はかき消された。
明日人「待って死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」
頭にナイフを刺されるのを阻止する為、明日人は女の手首を押し返そうとする。
明日人(キ、キツイ、、、今の飛び出しとナイフを突き出す瞬発力、もしかしてこの人もイノベイター?)
???「大丈夫、殺さない」
明日人「ぐぅぅ、、、頭にナイフを刺そうとする人の発言じゃないんだけど」
今だけは話している場合じゃないと思い改め、女の手首を後ろへ突き放し、ほんの少しよろめかせた。
???「あんた、AI-003はどうしたの?」
すると相手はよく分からない型番らしき言葉を出した。その隙に刺されたら怖いのでいざという時の為にホルダー(ちゃっかり拳銃と一緒に盗んだ)からいつでも拳銃を取り出せる体勢をとる。
明日人「003?何のこと?」
???「あんたと一緒に逃げた子、、よ!」
シュッ…!
突進してきたので拳銃は使わず右に避ける。廊下の幅はそこまで広くないので、下手したら壁に阻まれ刺される。
明日人「彼女にはちゃんと名前がある!型番で扱うんじゃ、、ない!」
シュッ…!
明日人が話している最中にも突進攻撃を仕掛けてきたので今度は左に避ける。
ガンッ!
明日人「うっ」
壁の幅をしっかり把握できず、ぶつかってしまう。
イノベイターなら空間認識力が高いはずだから、多分まだ体が本調子じゃないんだろう。
???「はあっ!」
明日人が壁にぶつかったところを見逃してくれるはずもなく、壁に押さえつけられ、ナイフを首に突き立てられた。
???「ねぇ、一緒に協力する気はない?」
明日人「何でこんなことを?」
???「教えてあげる」
答えてくれる訳がないと思ったけど、案外すっと話してくれるようだ。
???「あんたを捕らえて連れていけば、私は自由になれるから。007なんて呼ばれなくなって、色んなことがこれから待ってるあの男がそう言ってたから」
明日人「、、、」
自分の待っている未来の為に今成すべきことをする、けど彼女は、、、
明日人は今ある余力を使ってナイフを持つ手を引き離す。
明日人「仮に俺をあの医師のところへ連れて行っても、君は自由になれないよ」
007「っ!どうしてそんなことが言えるの?」
彼女のナイフを持つ手が少し弱まった。
明日人「あいつは、俺を隔離した後、君をもっと利用する為に非人道的なことを繰り返す。俺を捕らえると、今の君は消えるよ」
007「そんなの、あんたが助かりたいだけの言い分。先のことは私にしか分からない」
明日人「分かるんだよ。この先のことを」
今なら分かる、今007を引き止めないと彼女みたいな人造人間が増える。そして止められる者がいなくなる。
007「くっ、、、」
明日人「もう、この争いはやめよう?」
明日人は007の手に持っているナイフをそっと取り上げ、手を握った。
俺の会話力に不安はあったものの、反撃されないということはそれなりに効いているのだろう。いや、意外と人の話を聞いてくれる良心的な人?
007「ここで役目を放棄すれば、私はこれからどうすればいいの、、、」
明日人「それなら、君が嫌じゃなければ俺の居場所に来ればいい。そこには妹がいるけれどきっと歓迎してくれる」
大丈夫、絶対咲月も歓迎する。「また女の子?」って反応されそうだけども。
007「、、、『一時休戦』ね」
明日人「あ、あぁ、それでいい」
一時だけか。これは、、「俺の居場所に来ればいい」といった俺が悪いな。初対面でこれはね。
007「〜〜っ、さっさと手を離せ」
明日人「あ、俺としたことが、、、」
思ったことを考えすぎてつい長い時間手を握ったままだった。
スティラ「明日人さん!あなたは怪我をしていたのに!」
すると背後から大きな声が聞こえてきた。起きたばかりであろう、スティラだ。
黒髪だから誰か分かりにくいな。それと若干顔に跡がついちゃってますよ。
明日人「ご、ごめん!ちょっとね」
スティラ「ちょっととは、、、あら、あなたは確か同じ部屋にいた方」
スティラは明日人に歩み寄ってから007の存在に気づいた。どうやら2人が対面するのは初めてではないようだ。
007「003、この人とは知り合い?」
スティラ「ぜろぜろさん?あぁ、確かあの男にもそう呼ばれてた気がします。明日人さんは私を何度も救った恩人です、決して敵ではありません」
007「あなたがそういうなら、、、」
あ、これ俺のこと全然信用してない。今度から正しい説得の仕方を学習しよう。
明日人「という訳だから、あの医師の所まで案内してくれないかな?」
007「えぇ、分かった」
007は迷う素振りも見せずに歩き始めた。それに続いて明日人とスティラも付いていく。
あの医師を捕らえれば今回の事態は収まるのか?
ピンクマ「新〜キャラ!」