青年と少女のマルチプル・オンライン 作:グラハムさんとピンクマ
明日人「はぁ、はぁ、、、」
007「ほら、あと少しよ」
スティラ「頑張って下さい、もう外の明かりが見えますから」
明日人が疲弊している理由は、およそ地下10階から1階の階段を登っているからだ。因みに現在はまさかの午前6時、病院に来て16時間が経っている。
麻酔を舐めてたな。これから見る目が変わりそうだ。
明日人「ふぅ、ようやく1階だ」
スティラ「次はあちらを真っ直ぐですか?」
明日人「うん。進んだら開けた場所になるから、左側、、だったかな、そこの自動ドアから出るんだ」
スティラ「分かりました」
廊下に警備の人がいないか確認し、3人は出口へ歩く。
数分後、明日人の家の前…
病院から出た後は、何事もなく家に着いた。
スティラ「ここが明日人さんの本当の居場所、、、」
007「綺麗な一軒家ね」
明日人「、、、」
007「明日人?」
明日人はしばらく無言で立ち尽くしていた。咲月にどんな顔で会えばいいかを考えていた為だ。
明日人「、、、案内するよ」
そしてゆっくりと玄関の鍵を開ける。
あ、今日は月曜日だ。俺もあと1時間半で学校だし、そもそも咲月は部活でもういないかもしれない。
ガチャ…
明日人「あ、、、」
咲月「、、、っ!」
玄関の扉を開けると、制服を着て靴を履き終えた少女の姿があった。
咲月「あ、、、あ、、、っ」
声を詰まらせており、その目は徐々に涙が溜まっていく。
明日人「咲月、、、」
咲月「、、、明日人っ!」
咲月の目に溜まった涙が溢れ、明日人に抱きつく。後ろに倒れないように明日人もしっかり咲月を抱く。
咲月「良かった、、、良かったよぅ、、、っ!」
明日人「ごめん、こんなに時間が掛かるとは思わなかった」
咲月「本っ、本当だよっ!メールを送ったのに全然出なくてっ、1日が終わったのに帰ってこないからっ、私っ、また1人になっちゃうんじゃないかってっ!」
明日人「大丈夫、絶対に1人になんてさせない」
涙で頬を濡らした愛おしい顔が明日人の顔を見上げる。
咲月「私、、、どうしても人に依存してしまうから、、、今度からはどうしても、私も、、連れて行ってほしい、、、」
咲月の願いは何でも聞いて上げたいが、その願いを受け入れてしまうと、今回のような危険に遭遇した時に明日人は咲月を守ることができるのだろうか。
明日人「うん、分かった。でももうこんな事はないはずだから安心して」
咲月「うん、、、ん?」
ここで咲月は明日人の後ろにいる2人に気づいた。
咲月「明日人、この2人は?」
明日人「あぁ、黒髪の子はスティラで、もう1人は病院で一緒に窮地に立った仲だよ。訳あってこの家に住ませることになって、話したいことも山々なんだけど、これから部活だよね」
咲月「そうだけど、明日人が帰ってきたなら朝練は休ませてもらう」
そこまでしなくてもと一瞬思ったが、話をさせてもらえるならいっか。
学校、4時限目…
明日人(眠、、、)
今、明日人は真面目、、、とは言えないが授業を受けている。スティラと007には家でゆっくりしてもらっており、学校から帰ったら一緒に服を買いに行ってみるつもりだ。
そういえば、今頃病院の地下はどうなっているのだろう。地下に施設が広がっているから関係者が数十人といそうなのだがあの時は会わなかった。もしや監視されていた?いや、今は悪い方向に考えるのはよそう。
キーンコーンカーンコーン…
考え終わるのと同時に授業終了のチャイムが鳴る。まだ15分あったはずだと思ったが、ちゃんと終了時間だ。
明日人(ヤバ、今日のこと考えてたら寝てた)
咲月「明日、、、兄さん、屋上で弁当食べよ♪」
明日人「うん、いいよ」
明日人は寝起きでだらしない声を出しながら席を立った。
そういえば学校では兄さん呼びだったのを忘れてたな。
教室を出るまで、羨ましさと嫉妬の目線が明日人に向けられていた。
こっち見んな。気まずいわ。
屋上…
明日人と咲月は、人気の多い場所から離れたベンチに座り弁当を広げた。
咲月「はい、あ〜ん♪」
明日人「だ、誰かに見られちゃうから、、、」
咲月「大丈夫、それを踏まえてこの場所を選んだんだよ?さぁさぁ」
明日人「な、ならいいか、、、」
明日人は恥ずかしがりながら口を開ける。
小春「相変わらず仲良いね」
明日人「んふっ!?」
突如後ろから声がし、食べさせてもらうおかずを口に含むと同時に喉を詰まらせた。
咲月「は、はいお茶!」
小春「ごめん!驚かすつもりはなかったんだけど」
明日人「いや、大丈夫。どうしたの?」
明日人はお茶を飲みながら話をする。
小春「大した用事じゃないんだけど、明日人の体調大丈夫かなと思って。今回も咲月ちゃんから聞いたんだけど、昨日病院に向かったんだってね」
俺が病院に行ったことを知ってるのか。それなら話は早そう。
明日人「そうそう、案の定酷かった」
咲月「紅葉の言う通りだったわけね」
明日人「へぇ、流石看護師希望なだけある」
小春「関係ないと思うけど」
明日人「あれ?」
病院の地下の需要を考えたからってことじゃないの?いや、無知な俺が余計なことを考えるのはやめておこう。
小春「とにかく、明日人が無事で良かった」
明日人「皆に心配かけたね」
小春「ホントだよ。咲月ちゃんなんて、ビデオ通話で大きなクマの人形━━」
咲月「言わないで」
小春が何かを言おうとすると、咲月に遮られる。
ビデオ通話中にあのクマに何をしてたんだ。
放課後、明日人達の家…
咲月「ただいま〜」
スティラ「お帰りなさい」
007「待ってたわよ」
玄関に入ると、早速スティラと007が迎えてくれた。いつも帰った時は誰も家にいないのでなんだか新鮮な気持ちになる。
明日人「そうだ、この世界での名前、決めてきたよ」
スティラ「本当ですか!」
そう、明日人は学校にいる間、昼休み以外はスティラと007の名前を考えていたのだ。
明日人「気に入ってくれるといいんだけど」
咲月「いや、先に靴を脱ご?」
それもそうだ。
明日人と咲月は靴を脱ぎ、手を洗ってからリビングで話の続きをした。
明日人「発表するのもなんだか気恥ずかしいな。まずはスティラ」
スティラは背筋を伸ばしてしっかり聞こうとする。
明日人「えっと、、スティラは『凛』」
スティラ「『りん』ですか、、、」
明日人「そして君は、『瑠璃』」
007「『るり』、、、フフッ、『るり』ね」
明日人「い、イマイチだったらまた考え直すけど、どうかな?」
スティラと007は顔を見合わせ、微笑んだ後に再びこっちを見る。
凛「素敵です、ありがとうございます!」
瑠璃「気に入った。あとでどんな文字か見せてもらうわ」
良かった、気に入ったみたいだ。
咲月「これからよろしくね♪」
瑠璃「えぇ、お世話になる」
この調子だと、すぐにこの環境になれてくれるだろう。
それにしても、ただのゲーマーがこんな境遇に立ち合うことになるなんて思いもしなかった。あの病院は気に食わないが、凛と瑠璃をこの世界に呼び出した、、、いや、産み出したが正しいか。そのことについては感謝するとしよう。
GGO、グラハムのホーム…
ツェリスカ「あなたってば本当に無謀なことをするわよね〜」
グラハム「でも、こうして無事にスティラがGGOにいつでも来ることができるよ」
クレハ「それに、無謀なことをする方があんたらしいって感じがするのよね」
凛と瑠璃に名前を付けてしばらくした後、4人はGGOにログインした。VRにログインするための装置は2つしかないのだが、今回手に入れた人造人間のマニュアルによると、どうやら本人の意志で仮想世界に行き来することができるらしい。
クレハ「はぁ、それはそうと、また女の子か、、、」
グラハム「?まぁそうだな」
クレハ「またチャンスが遠のくじゃない、、、」
グラハム「???」
何のチャンスだ?
ツェリスカ「クレハちゃんはあなたと2人っきりの時間がほしいのよ」
クレハ「ツェ、ツェリスカさん、公言しないで下さい!」
あ、そのことか。そうだった、自分で言っちゃいけないけど、クレハも俺のことが好きなんだった。前までは女性を1人だけ選ぶなんてできなかったけど、今は必ずと言えるほど1人に絞れる。断るには残念ながらまだ先になるが。
グラハム「そういうことか。それなら、また次に会う時でいい?今日はエディに心配かけすぎたから気にかけたい」
ツェリスカ「『今日も』の間違いじゃないかしら」
クレハ「確かにそうですね。で、『また会う時』って言葉聞いたからね、約束よ!」
グラハム「あぁ、約束する」
ひとまず次回に持ち越すことにした。
スティラ「グラハムさん、そろそろ」
ルイス「女の子に気を使えるようにしなさい」
すると、スティラとGGOにログインした瑠璃、いやルイスが明日人に耳打ちした。
左右から耳打ちされるとくすぐったいんだが。
グラハム「そうだな、ちょっと席を外すよ」
後ろに振り返るとエディが椅子に座っており、すぐに目が合った。
グラハム「エディ、ちょっといいか?」
エディ「う、うん!いいよ!」
了承を確認すると、グラハムはエディの手を引き、外(月面都市内)へ出た。
月面都市、住宅街…
グラハムとエディは地球からの反射光に照らされた町中を、手を繋いで歩いていた。
エディ「どうしたの?」
グラハム「いや、大した用はないんだけれど、咲月と2人っきりになりたかった」
エディ「うん、、わ、私も2人っきりになりたかったから今この時が楽しい」
グラハム「良かった」
こう話していても駄目だ、言いたい事を言おう。
グラハム「昨日はごめん、怒鳴っちゃったりして」
エディ「あ〜あの事ね、、、」
この話をした途端、エディの歯切れが悪くなった。
だが、ここで下がってはいけない。
グラハム「俺は、本当に咲月が大切だからあんな声出しちゃったんだ。だから、、咲月が、人から見捨てられる恐怖を少しでも感じてしまってたらと考えると俺も辛くて辛くて、、、」
謝罪を込めているとエディが足を止めた。手を繋いでいたのでグラハムも遅れて立ち止まる。
エディ「もしかして、私のせいで明日人の精神を追い詰めてる、、、?」
咲月は少し泣きそうな顔でグラハムに聞いた。
分かった。咲月の『前の家庭』は酷く困窮していて、両親共々も社会的に追い詰められていたんだ。最終的に咲月にストレスをぶつけてしまい、見捨ててしまったと。
グラハム「いや、咲月のせいじゃないよ。俺、どうしても説得が苦手でさ、昨日みたいに怒ってしまったり伝えたいことが伝えられなかったりする。そんな感じで、自分で勝手に追い詰められてる、、、だけ」
エディ「そっか、、」
エディはグラハムと繋いでいる手を両手で包み込んだ。
エディ「明日人、1人で頑張り過ぎないで。私も一緒に悩んで、力になれることは何でもするから」
グラハム「、、、咲月は強いな」
エディ「私は明日人がいなきゃ何もできない人間だから強くもないよ」
徐々にエディが顔を近づけていき、お互いの顔の距離数センチで止まる。
エディ「これから何があっても、置いていかないでね、、、」
グラハム「分かった、傍にいるよ」
エディ「ん、、、」
顔の距離が最後まで近づき、2人はキスをした。他のプレイヤーに見られるかと思ったが、住宅街は人気のないスポットなので見られずに済んだ、、、はず。
ルイス「あの2人はホントに仲良しね」
スティラ「あの、ルイス、追跡は良くないと思うのですが」
グラハムとエディが外を出てしばらくすると、スティラとルイスも外に出て2人の後を追っていたのだ。グラハムは見られていることに気づいていない。
ルイス「だって、服を買いに行くって言ってたのにこれよ?」
スティラ「あ、私も服を買いに行く件を忘れていました」
ルイス「こうなったら何着も買ってやるんだから」
スティラ「、、、程々にしてあげて下さい」
スティラは(じゃあホームで服を買いに行くことを言えば良かったじゃない)と思いつつもグラハム達の様子を再び見守った。
GGO、平原…
いつも通りの日常は時間があっという間に流れていき、今はグラハム、エディ、スティラ、ルイスの4人で夕日に照らされる中、ネームドエネミーを倒した。
ルイス「、、、こんなに楽しい想いをしているのは初めて」
スティラ「そうですね、戦っているはずなのに何故でしょう」
そうか、スティラとルイスは争いがなかなか絶えない日常を過ごしてきたから戦闘が楽しいと思う発想は今までなかったのか。
エディ「それはね、皆と一緒にいるからだと思う。2人の世界はどんな感じなのかは分からないけど、絆が強い人と組めば何でも出来るような気がするから楽しさがあるんだよ♪」
なるほど、そう言われてみれば分かるかも。
ルイス「なるほどね、理解したわ。その気持ち共感できる」
スティラ「絆ですか、、、ならば私達、とても良いチームってことですね!」
エディ「うんうん!さぁ、まだ夕食までは時間がある、行こ!」
グラハム「あぁ、行こう!」
これまで何度も挫けそうになり、命も落としかけた。だけど、その度に仲間達と支え合って立ち上がることができた。皆となら、止まらずに先へ進める。
俺達はここで終わらない!
ピンクマ「締め方以外と難しいな、、、え、最終回?大丈夫ですおまけがあります(後日公開)」