病院に行き、診察して貰った結果、利恵の症状はただの過労と寝不足によるものだった。
いつから無理をしていたのだろう。分かっていたはずだ、元々利恵は人一倍頑張り屋な子であると言うことくらい。
もしかしたら、そう言う時表に出すのが苦手な陽菜や、あいり、絢や鳴もそう言う兆候があるんじゃないか?
特に鳴は最初の黒白のグェネヴィアの収録日に熱を出していたし、他にも、他にも絶対大丈夫だろうと思い込んでいるだけで、特にWindとMoonは大人だから、社会人だからと無理をしている子が居るんじゃないか?
「マネージャー」
声を掛けられて顔を上げると、そこにはりおさんが缶コーヒーを持って立っていた。
声を掛けられるまで、りおさんが側にいたことに全く気付かなかった。
「りおさん……」
「代わるわ。今日はもう帰って休みなさい」
「で、でも……」
「これは業務命令よ。私だけじゃない、真咲さんからも貴方に休むよう指示が出てるの」
「でも、これは自分の責任で、自分が利恵のことをちゃんと見ることが出来て無かったから、自分が――」
「自惚れないで。これは自身で体調管理が出来ていない利恵ちゃんの責任であって、何でもかんでも自分の責任にして良い問題じゃない。それに、自分が利恵ちゃんのことをちゃんと見て居られないからって、じゃぁ何、貴方は16人全員を逐一見ていられる? 不可能でしょ?」
「それは……確かにそうですけど……」
「それに今の貴方が倒れたら? ただでさえ私達は今これから会社として大きく成長していかなければならないの。AiRBLUEは、もっともっと世に広がらなくてはいけないの」
「りおさん……」
「彼女達は声優になる為に本気よ? 勉強やアルバイトの傍ら、レッスンしたり、収録したり、オーディションしたり……。でもね……私達だって本気なの。だからね、マネージャー……。貴方の抱えているその責任を私達にも分けなさい。私達には、貴方が必要なの」
「……分かりました。それでは、利恵のこと、よろしくお願いします」
§
病室を出て、改めて帰路に着く。まさかりおさんが、あそこまで言って来るとは思わなかった。
りおさんって、普段は不真面目なのに、なんで時々あぁ言う格好良いこと言えるんだろう……。
いや、それだけ自分と踏んで来た場数が違うって事か……。
……ん、着信? もしかして!
「もしもし、りおさん!?」
『ちょっと、電話口で大きな声を出さないで!』
「あぁ、すみません……」
『大丈夫、利恵ちゃん目を覚まして、容体は安定してるから。一応大事を取って、今さっき莉子ちゃんに送って貰ってる所だけど、今のマネージャーに電話すると支離滅裂なことを言いそうだから明日にしてあげてって伝えてあるから』
「ははっ……なんですか、支離滅裂なことって……」
『言わない自信が?』
「ありませんね」
今さっきりおさんにしたみたいに、変なテンションで電話をしてしまいそうだ。
支離滅裂なことを言うかもしれないというりおさんの言うことは強ち間違っていないのかも知れない。
けれども、取り敢えず利恵が無事目を覚まして良かったと思う。一先ず、一安心だ。
『……マネージャー、もう大分帰っちゃった?』
「いえ、途中近くのコンビニに寄ったんで、まだそれ程」
『そう? じゃぁ、ちょっと話をしたいから、付き合いなさい』
「分かりました。10分で戻ります」
『5分! 女の子を待たせるものじゃないわよ!』
「女の子って……」
『ん? 何か言った?』
「5分で戻ります!」
そう言って電話を切ると、元来た道を駆け足で戻る。
§
「マネージャー遅い!」
「ちゃんと……5分で来たじゃないですか……」
「5分13秒、13秒遅刻です」
「それくらい見逃してくれても……」
「社会人は1分1秒の遅れが命取りなんだから!」
「それはそうですけど……」
「……なんてね。戻って来てくれて、ありがとう、マネージャー」
「りおさん何か悪い物でも食べました?」
「どう言う意味よ!?」
「いや、純粋に素直にお礼を言うのが気持ち悪い――」
「分かった、もう金輪際マネージャーにはお礼を言わないから」
「冗談ですってば!」
病院近くの公園、そのベンチ。10月ですっかり寒くなって来たなと思う。
空は珍しく澄み渡り、雲一つ無い。けれども、この街中ではそれでも星は一つも見えない。
「はい、りおさん」
「これは?」
「寒いかと思ったのと、先ほど頂いたコーヒーのお返しです」
「ありがとう。これでさっきの13秒遅刻と滑った口の分はチャラにしてあげる」
「はは、ありがとうございます」
自分も缶コーヒーに口を付ける。時間がやけにゆっくりと感じる。
妙な緊張感を感じるのは、一体なんだろう……。
「マネージャー」
「なんですか?」
「貴方は真咲さんや私、それからAiRBLUEの子達と比べて、この世界に関わりたいから来た訳じゃない。真咲さんの気まぐれかも知れないけど、真咲さんは貴方の素質を見抜いて、実際貴方はそれに答えてくれてるわ。初めて来た時、初めてのスカウト、覚えてる?」
いきなりスカウトしてみろって言われてスカウトをした時のこと、昨日のように思い出す。
最初は悠希に声を掛けて、それから美晴、利恵に声を掛けて……。
「びっくりしたわよ。偶々近くに揃ってたのはあるけれども、あれだけの往来の中で事務所の子達に片っ端から声を掛けて行ったんだから」
「事前にりおさんがアドバイスをくれたから、自分なりに良いと思ったら、あぁなりましたね」
「流石私!」
「好きでアシスタントになった訳じゃないのに『アシスタントなんだからちょっとは考えなさいよ!』って言われましたけどね」
「それは貴方が全く考える気が無かったからでしょ……」
『声質が重要よ? キレイにマイクにのる声がいいわ』
『「可愛い」ってのは、顔の事じゃない。目には見えない「可愛い」が大切なの』
『「この子を応援したい!」って思える子』
そんな当時アドバイスとも言えないアドバイスを貰って、彼女たちに声を掛けて、それが見事事務所のメンバーに当たったけど。
今にして思えば、そのアドバイスが身に染みてよく分かる。
「貴方の事、真咲さんだけじゃない、私も評価してるし、桐香先生も貴方になら任せても大丈夫って思ったから、ここを辞めれたの。本当に貴方は良くやってくれてるわ」
「なんですか、りおさんらしくない……」
「人が良い話してるんだから、茶化さないで!」
「すみません……」
「……だからさ、尚更貴方に負担を掛けさせ過ぎてるんじゃないかなって思ったの。初めての事で、不慣れなのに、この短期間でマネージャー業務をしっかりこなし、その上、16人も居るメンバーの信頼を得ている。そりゃ、志穂ちゃんに翻弄されたり、柚葉ちゃんに振り回されたり、まほろちゃんや聡里ちゃんに怒られたり、鳴ちゃんの買い出しに付き合ったりって大変な事もあるだろうけど……」
「後りおさんにも……何でも無いです」
「茶化さないのを思い出すタイミングが遅い! だから、何が言いたいかって言うと……いつもありがとう」
「それが仕事ですから」
「そうだけど……でも、こうやって言わないと、いつか離れて行っちゃいそうで……貴方はどんどん無理しちゃいそうで……いつか壊れてしまいそうで……」
「りおさん……」
「利恵ちゃんが倒れた時、思ったの。いつかマネージャーも倒れてしまうんじゃないかって! それに、その利恵ちゃんを見ていたマネージャーを見た時、貴方が壊れてしまうんじゃないかって!」
りおさんが、まるで啖呵を切ったかの様に、大きな声を上げる。
その目には大粒の涙が浮かんでいて、膝の上で握った拳は震えていて、自分なんかよりも、よっぽどりおさんの方が壊れてしまいそうだった。
「AiRBLUEとか、声優の子達を言い訳に使ったけど、本当は……貴方に無理をして欲しくない、居なくなって欲しくないって言うのは、私の気持ちなの! お願いマネージャー! 私……怖いの……。この当たり前の日常から、貴方が居なくなってしまうのが……」
「自分は居なくなったり、壊れたりはしませんよ」
「利恵ちゃんだって、そろそろ自分倒れるなーなんて考えてたと思う? 人は、いつどうなるか分からないの……。だから――」
「倒れませんよ」
「だから、そんなの分からない――」
「倒れません。だって、こんなに自分のことを心配してくれる人が居るんですから」
「マネージャー……」
「……好きです、りおさん。だから、好きな人をこれ以上悲しませない様に、自分は絶対に倒れません」
「バカ……バカマネージャー……!! 何どさくさに紛れて告白なんかしてるのよ!」
「す、すみません……。でも、これが、自分の本心です。りおさんのAiRBLUEへの想いも、声優のたまごである16人の皆への想いも、そして、評価してくれている自分への想いも、惚れるには十分じゃないですか」
「……マネージャーの心意気に負けたわ」
そう言ってりおさんは立ち上がり、背を向けて歩き出す。
自分も慌てて立ち上がり、りおさんの後を追おうとした時、りおさんが振り返る。
「マネージャー! 愛してるよ!!」
暗がりで分からなかったけれども、きっと自分もりおさんも、顔が真っ赤なことだろう。
§
_____AiRBLUEの所属声優。 その数、16人。
その全員の信頼を余所に、りおさんからの「愛してるよ!!」を頂くことが、出来ました。
自分が†AiRBLUEりおさん最推しマネージャー†だ!!!!!!!!!!!!!!
後編:五十鈴りおルート END