「ほれ。やるよ」
河合さんがヒカルと佐為にジュースを渡す。
「あ、ありがとう」
「ありがとうございます」
ジュースを受け取りお礼を言う2人。
「俺が3子で負けるとは思わなかったよ」
「マスターまで負けるもんなぁ、大したモンだ」
河合さんと堂本さんが会話しながら、河合さんがヒカルの髪をさらにグシャグシャにする。
その横でマスターは、
「いつでもおいで。また打とう。歓迎するよ」
と佐為に握手を求めた。
「はい。近いうちにまた来ます」
佐為は握手を交わして笑顔で答えた。
「ありがとう! さいならー」
ヒカルは大きく腕を振って別れを告げる。
道玄坂を後にし駐車場に向かった。
「楽しかったな」
「えぇ。良い人ばかりでした。また来たいですね」
「そうだな! また車借りれたら行こうぜ」
「はい!」
それから2週間ほどは車がある日は道玄坂へ、そうでない日は学校や各々の家に近い碁会所を巡った。
お盆前、いつもの碁会所からの帰り。
ふとヒカルは思い出したように、
「そういや、お盆の間は打てねぇよなぁ」
とつぶやく。
佐為がその言葉に反応する。
「打てますよ」
「打てる? どうやって?」
ヒカルは目を丸くして聞き返す。
「インターネット囲碁ですよ」
「インターネット囲碁?」
「はい。『ワールド囲碁ネット』というサイトにいけば世界中の人と囲碁が打てます。そこで会えない日は打ちますか?」
「世界中の人と囲碁かぁ。面白そうだな! 会えない日はそれで打とう」
ヒカルは目をキラキラと輝かせて首を縦に大きく振る。
「はい!」
佐為も笑顔で返事した。
「じゃあ、さっそく明日はネットでやってみようぜ」
「はい! それでは明日はネットで10時に」
佐為がそう言うとヒカルも元気に返事した。
「『ワールド囲碁ネット』……」
ヒカルはパソコンの前でブツブツ言うと、画面に表示される。
「お! これか」
タップするとサイトが開く。
「えーと。名前は…『hikaru』で良いか。よーし! 打つぞー」
画面には色々な名前がズラッと並んでいる。
「佐為は……っと………いた!」
ヒカルは『sai』と書かれた行をタップする。
佐為がOKを押したのだろう。
直ぐに対局画面に変わった。
ヒカルが黒石。第1手目を右上隅小目に置く。
直ぐに白石も左下の小目に置かれる。
10手ほどやり取りした時、ヒカルはふと気づく。
「ん? 閲覧者がめっちゃいるなぁ……。ま、いっか」
ヒカルは一瞬気になったものの、白石が打たれたため直ぐに対局に視線が戻った。
「あー、投了だぁ。いっつも手加減なしだなぁ」
ヒカルはヨセ前に投了ボタンを押した。
「ウワッ! 閲覧者がすげぇ。佐為ってもしかして注目されてんのか?」
そんな事をボヤきながら盆明けに会った時に聞こうと思ったヒカルだった。