「いらっしゃいませ」
碁会所のお姉さんが笑顔で出迎える。
「2人です。いくらですか?」
佐為の鬼気迫ったような物言いにお姉さんも笑顔が消えたじろぎながら答える。
「こ、子供は1人500円よ。こちらに名前も書いて」
「はい。……奥、借りますね」
名前をサラッと2人分記入後、1000円を机に置くなり、ヒカルの腕をまた掴んで引っ張っていく。
その様子にお姉さんもヒカルも完全に引いている。
「座って!」
佐為の言葉に椅子を引いて座るヒカル。
「……」
ヒカルは碁盤を見つめ、思わず手で19路の1路をなぞる。
「……ヒカル?」
ずっと眉間にしわ寄せて怖い顔をしていた佐為の表情が緩む。
涙こそ流してないもののヒカルは悲痛な顔をしていた。
「ごめん。まだ全然思い出せないけど、、、オレ。オレ、お前とこうやって碁盤囲んで座ってた記憶、かすかにある」
「! わ、私こそごめんなさい。そんなつもりじゃ……」
佐為はヒカルを困らせたかった訳ではない。またヒカルと打ちたい一心で思い出して欲しかっただけだった。
悲痛な顔をしたヒカルだったがそれは覚えてないといけなかった事を忘れてしまっている自分が許せなかったからこその表情だった。
「悪ぃ。教えてくれよ」
ヒカルは気持ちを切り替えて佐為との記憶を取り戻そうとする。
「はい! もちろんです」
佐為は笑顔で答える。
ヒカルは黒石の入った碁笥を手元に引き寄せ置いた。
佐為は全く知らないモノと思っていたため少し驚く。
「囲碁のルールは知ってんだ、オレ。……じいちゃんがやってるの、ちょくちょく見てたから」
「そうなんですか! それではさっそく1局打ちましょうか」
ちょっと照れながらヒカルがそう言うと、佐為は嬉しそうな顔をして、対局を促す。
「「宜しくお願いします」」
2人ともに挨拶をする。
顔を上げるとさっそくヒカルが1手目を打つ。佐為も2手目と応える。
佐為は完全に指導碁だ。
ヒカルはひるむこともない。
「ヒカル。何故、今ココに打ったのですか?」
佐為は対局中だったが突然ヒカルに質問した。
自分の手によく似ていたからだ。
「分かんねぇ。でもそこが一番しっくり来たんだ」
屈託のない笑顔で答えるヒカル。
(覚えてなくとも魂は覚えてる?)
佐為はそんな事を感じた。実際対局的には院生2組くらいの棋力を持っている。
相変わらず下手な手もあるし、勘で打ってるから理由も分からないものも多いがヒカルはやはりヒカルの生まれ変わりなのだと思い知らされる。
佐為はヒカルとまたプロになって神の1手を極めたいと改めて思った。
「ここまでですね。ヒカル、凄いです!」
「え?! コレ、オレが勝ってるの?」
佐為が囲碁をろくに知らないはずなのにすでに高いレベルにあるヒカルを褒めると、ヒカルは今の対局が勝ってるのかと勘違いする。
「違います! この勝負は私が勝ってるに決まってるじゃないですか。それよりヒカルも十分強いですよ」
「そうなのか?」
「そうです! 何故そこに打ったのか、、、勘だとしても凄いんですよ!!」
「へへっ。石の形はけっこう覚えるからかな」