「え? 石の形を覚えてる?」
佐為はヒカルの言ってる意味が一瞬分からず聞いてしまった。
「不思議だよな。オレ、ちゃんと打つの初めてなのに」
無邪気な笑顔を見せるヒカル。
「キフ? っての? 番号が順に振ってある紙。アレ、小さい頃見るの好きでさ。だんだん宇宙ができてくみたいでさ」
フフ、とヒカルは思い出し笑いをする。
「棋譜を覚えてるから何となく置く場所が分かる、と」
「そうそう。白石の流れとか凄えんだぜ」
佐為は確認をするようにヒカルの言葉を繰り返す。
ヒカルは顔色が変わっていく佐為を何とも思わず、目をつむって思い出す棋譜を頭に描いてその感動を伝えようとする。
「それ、見せてください!」
「えーっ!? 嫌だよ、メンドくせぇ」
佐為は顔色を変えてヒカルに凄む。
しかしそんな佐為に対しあからさまに嫌な顔をするヒカル。
「今日はもう遅くなるしまた今度な」
「……はい!」
佐為の落ち込んでいく姿にヒカルはしばし様子を見る。
感動を独り占めしたい気持ちもあったが分かち合いたい気持ちも出てきたのでヒカルはつい次の約束を口に出した。
佐為も時間が17時を過ぎた時計をチラリと見ると自分もそろそろ帰らないといけない事を思い出す。
次の約束を取り付けシュンとしていた顔はパーッと笑顔に一瞬で変わった。
(ひょうきんなやつ……)
ヒカルが佐為の百面相に戸惑いつつも笑顔になった事に少し安堵を覚える。
「じゃ、帰るか」
「はい!」
ヒカルは機嫌の良くなった佐為と帰宅するよう促し立ち上がる。
佐為もヒカルに続いて席を立ち、出入口に向かった。
「「ありがとうございました」」
二人そろって受付に挨拶し外に出る。
外は夕焼けで、少し肌寒かった。
佐為は徒歩だったようでその場で別れる。
ヒカルはバイクのある学校に向かった。
(今日は楽しかったな)
帰り道、そんな事を思いながら帰宅する。
今まで人と打った事がなかったが自分で打つ碁はこんなにも楽しいのかと心が躍っていた。
棋譜は小さい頃おじいちゃん家に行くと、碁盤と一緒に置いてあり、良く眺めていた。
眺めているうちに覚えてしまっただけだが、今日佐為と打つ時にその記憶のおかげで強いと褒められたから、余計に嬉しかった。
帰宅中、ずっと顔が緩みっぱなしだった。
「ただいまー!」
「お帰り」
帰宅後ヒカルは大きな声で言うと奥の台所から声がした。
母親の声だった。
靴を脱ぎそのまま台所へ行くと既に夕飯が並んでいる。
「着替えて手洗って来なさい。もうご飯出来るから」
「うん、分かった」
母親に言われるがまま2階に上がっていく。
着替えて降りてくると出来上がった夕飯の前に座る。
「もう友達が出来たの?」
席に着くとすぐ母親が口を開いた。
午前で終わっていたはずなのに遅くなったせいだろう。
「うん。新しい友達」
食べながらヒカルは笑顔でそう言った。
「コロコロ表情が変わる奴で面白いよ。そいつ、囲碁も詳しくてじいちゃんに話したら喜びそう。学校終わってすぐ碁会所で碁、打ってたんだぜ。そいつに強いってオレ、褒められたんだ」
「そう、良かったわね」
母親は変な友達ができたわけではないと知りホッとした顔を見せる。
ヒカルは今日の出来事を嬉しそうに語った後、眠りについた。