とある町のはずれ、そこには古びた家があった。窓から光が漏れ出ており、誰かが暮らしているようだ。
キィと小さな音が鳴り扉が開く。家の中から出てきたのは13~14歳ぐらいの少女だった。
白い肌によく目立つ紺色の髪を結ぶことはせず、胸のあたりまでのばしていて、黄色い目が猫のように輝いている。
少女は扉に何かを貼り付ける。それを見て満足気に頷いた後、家の中に戻っていった。
『人探し屋
しばらく留守にするため、依頼の際には下記の番号にご連絡ください。
*** *** ****』
♦ ♦ ♦ ♦
ザバン市 定食屋 『ごはん』
深緑色の髪をした少女が入っていく。訳あって染めているが、それに気づいている者はいない。レースやフリルが、多くあしらわれている服を着た少女は飲食店よりも、パーティー会場にいた方が似合っているだろう。
「お客さん。ご注文は?」
店員にそう聞かれると少女は
「ステーキ定食」
と騒がしい店内に似つかない高い声でこたえた。少女の見た目は店内でとても目立っている。どれだけ視線を向けられようと、少女は気にせず堂々としていたが、客の視線は消えなかった。
「焼き方は?」
「弱火でじっくり」
そう少女が注文すると、店員が奥の部屋へ案内する。部屋で少女は席についても目の前にある料理には手をつけず、何かを考えるように目をつぶっている。
エレベーターのように部屋が下がり、しばらくして地下の目的地へとたどり着く。扉が開くと、少女は目をあけて扉の向こうへゆっくり歩き出した。
コンクリートで固められたトンネルのような空洞だ。少女が何処を見ても映るのは多くの人ばかり。
視線を気にせず自分の番号札を受け取る少女は、この場でも同じく目立っていた。
ここはハンターの試験会場なのだから、仕方ないと言えるのだが。
「お嬢さん。新顔だね。」
そう話し掛けられて少女が振り返ると、16番の札をつけた中年の男性がいた。人当たりの良さそうな表情で明るく話している。
「オレはトンパ。分からないことがあったら何でも聞いてくれ。」
トンパが笑ってそう言う。
少女は無言だったが、どうでもいい、そう言いたげに顔を顰めている。
「あっと、そうだ。忘れるところだった。ほらお近づきのしるしだ。
お互いの健闘を祈ってカンパイ。」
睨みつけてくる少女と話すのが気まずくなったのか、少し慌てながらそう言ってトンパが取り出したのは、缶ジュース。
何の変哲もないように見えるが少女には違ったらしい。少女はそれを受け取るとすぐさま壁に叩きつけた。少女に似つかない怪力で缶ジュースは潰れて液体が滴り、壁にはヒビが入る。
トンパが酷く青ざめているが、少女は気にせずニッコリと笑う。見惚れてしまうような可憐な顔だ。
「あぁ。ちょっと手が滑って壁に叩きつけちゃった。でも缶ジュースに何か入っていたし、ちょうど良かったよね。
あなたもそう思うよね?」
手が滑っただけでは壁にヒビは入らない。トンパはそう言うか迷ったが言わないことにした。こちらに問いかけてくる少女が、少し怖く感じられたからだ。
「何か入っていた、ってそんな言いがかり───」
「新人潰しのトンパ、だったけ?」
言いがかりだという言葉は少女に遮られる。
事実を言われて驚いているトンパを他所に、少女はその場から離れ他の受験者を観察することに専念しようと、壁のパイプに座った。
少女が壁のパイプに座ってから何時間が経過しただろうか。
ようやくジリリリリリリリリリとベルがけたたましく地下に鳴り響き、受付時間の終了を告げる。
「ではこれよりハンター試験を開始いたします。」
そう言って出てきたのはスーツを着ている男性だった。物腰柔らかく話している。
「申し遅れましたが 私 1次試験担当官のサトツと申します。これより皆様を2次試験会場へ案内します。」
2次試験会場まで担当官についていくこと。それが1次試験の内容だった。さしずめ持久力のテストといったところだろう。少女も迷わず、担当官へついて行った。
受験者達が走り出して3時間程経過した。およそ40㎞以上は走っているが、脱落者は未だ出ていない。
(退屈……ただ走るだけだし。)
サトツのすぐ後ろを走っていた少女だが、早々に飽きはじめていた。他の受験者は息を乱しているが、少女は何とも無いように息1つ乱さず走っていた。その様子を見て他の受験者が驚愕する。
しばらく走ると脱落者が増えた。普通の道ではなく階段になったからだろうか。30人程度脱落者がいたが、相変わらず少女は平然と走っている。
「いつの間にか1番前に来ちゃたね。」
「うん。だってペース遅いんだもん。こんなんじゃ逆に疲れちゃうよな。……結構ハンター試験も楽勝かもな。つまんねーの。」
そんな会話が聞こえて少女が横を向くと12歳ぐらいの少年2人がいた。1人は銀髪で青い目をしていて、99番の札をつけている。スケボーを持っているが走る邪魔にならないのだろうか。
もう1人は髪をツンツンとはねさせていて、目は黒色だ。こちらは405番の札をつけている。釣り竿を持っているがハンター試験で何に使うのか分からない。
少女が見ているとその視線に気がついたのか、釣り竿を持っている少年が話し掛ける。
「ねぇ!君、歳いくつ?」
「14歳だけど、それがどうかしたの?」
少女が素直に答えると、嬉しかったのか少年が表情を明るくする。
「オレはゴン!オレ達と同い年くらいの人がいるのが珍しかったから、話し掛けたんだけど歳上だったんだね。」
「まあ確かに珍しいよね。
私はエリーゼ、リゼって呼んで。で、そっちの名前は?」
「オレはキルア。というかそんな服着て動きずらくないのか?」
リゼの服装は誰から見ても、ハンター試験を受けるようなものではなかった。色は落ち着いて、とてもリゼに似合っているが、とてもこの場では目立っていた。
「動きずらいけど、これぐらいどうってこと無いかな。……ああ、そろそろ地下から出られる見たいだよ。」
リゼがキルアから前に視線を戻すと出口が見えてくる。明るい光が見えるので地上だということが分かる。
出た先は霧で覆われた湿原だった。湿原の臭いにリゼは顔をしかめる。確かに地下からは出られたが、空気が澱んでいてあまり良い場所とは言えない。
「ヌメーレ湿原、通称"詐欺師の塒"、2次試験会場へはここを通って行かなければなりません。」
(服が汚れそう。)
少なからず泥が付いてしまうため、リゼはあまりここを走りたくなかった。ただ走らないことは出来ない為、仕方ないと諦めることにした。
ハンター試験が終わればどうせ着ることも無いが、それでも自分から進んで服を汚したくなかった。そう思いながらリゼは軽く溜息をついた。
「それではまいりましょうか。2次試験会場へ。」
少しのトラブルはあったが2次試験会場へ向かうことは変わらない。
走っていく内にどんどん霧が濃くなっていく。目の前の人物がぼやけて見えるほど。
「ゴン、リゼ、もっと前に行こう。」
「うん。試験官を見失うといけないもんね。」
「違う。ヒソカから離れた方が良い。」
リゼが見た先には怪しい笑みを浮かべる44番の札をつけたヒソカ。
リゼは職業がらヒソカのことを危険だと知っている。まともな考え方をした人間だとは全く思っていない。
仕事以外で、絶対に関わりたく無いくらいには嫌っている。ヒソカがハンター試験を受けると知っていれば、リゼは今年、試験を受けることはしなかっただろう。
「リゼの言うとうり、アイツ霧に乗じてかなり殺るぜ。」
「とりあえず、早く前に行こうか。」
一刻も早く前に行きたいリゼは、じゃあお先に、そう言って不思議そうな顔を浮かべるゴンを放って走る速度を上げる。
♦ ♦ ♦ ♦
しばらく走ると2次試験会場に辿り着いた。リゼが走る速度を上げた後、後ろから追いついて来たのはキルアのみだった。ゴンは?と、聞くまでもなく表情を見て悟る。途中ではぐれてしまったのだと。
予想以上に暗いキルアを気遣ってリゼはあまり話かけない。
(ゴンは生きている。)
そうリゼが確信するのに時間はかからなかった。リゼの職業は人探し屋な為、ゴン1人の生存を知ることくらいは造作もない。
まあリゼはゴンが死んだとしても、残念くらいに思う程度であまり悲しまないが、生きてる分には良かったと思えた。
「ねぇキルア。良いこと教えようか?」
そう言いながらリゼが指をさした方向には、予想通りゴンがいた。
「どんなマジック使ったんだ?絶対もう戻ってこれないかと思ったぜ。」
駆け寄ってそう言うキルアの顔はどことなく嬉しそうだ。
(素直に『生きてて良かった』って言えばいいのに。)
呆れたリゼはその場で1つ溜息をつくとゴンの元へ向かう。
リゼは気づいていないが、その口元は少し緩んでいた。
主人公の番号は後々分かると思います。
12/6
加筆修正しました。