「色々言いたいことはあるけど、まずは……何故私が呼ばれているのか聞いても良い?」
「申し訳ありませんが、私の口からは不可能です。本邸の方でその事について応答が可能だと思われます。」
どうしようか。別に敵意はないから同行しても良いとは思うんだが……
「今は依頼中なんだけど。また今度は無理?」
ここまで案内したんだから依頼終了にしても良くないか。私は内心そう思っているのだけれど
「旦那様は『すぐに連れて来い』と。」
「あーそれはまた困ったことになっ「そして、」た、?」
「──そのために多少、乱暴な手段を用いても良いと。」
「はぁ、本当面倒なことに……私には決められないから、今の依頼主に聞いてもらっても?」
本当びっくりした。神経すり減った気がするし、とても心臓に悪い。絶対その多少は命があれば良いってことだよね。敵意はないけど、命令だから仕方ないって感じがする。私だって仕事中だから仕方ないんだよ。
まあ全部
「という訳で、どうする?私がここにいる奴に着いて行くことを許可するか。それとも許可しないで、こいつと少しの間敵対するか。あ、ちなみにどちらの場合でも私は何もしないで、流れに身を任せるよ。」
「……??うーん……」
私が問うとゴンは唸りながらも真剣に考え始めた。そろそろ使用人がしびれを切らす頃だから早くしてほしい。というか視線が怖い。
「オレ達も着いて行っちゃダメなの?」
「申し訳ありませんが、命令は『人探し屋』のおひとりでしたので……」
「じゃあリゼはどっちの方が良い?」
「私は今、わざわざ依頼主であるゴンに聞いたんだけど。何でまた私に聞き返すの……」
「オレにはどっちが良いのかわかんないけど、リゼだったら分かるかなと思って。」
前言撤回。料金びた一文まけない。面倒だからゴンに擦り付けたのに。蚊帳の外であるクラピカとレオリオでも事の重大さを勘づいて深刻な雰囲気なのに。少しは二人を見習え。こっちが不機嫌そうな顔をしても何も反応しない。
「私個人の意見としては、着いて行きたい。もしかしたら、というかほぼだけど用件は仕事のことだろうから。」
敵対したってあっちが絶対勝つだろうし、とは言わなかった。三人全員が騒ぎそうだし。クラピカは微妙にプライドが高い。冷静になりきれない部分がある。まあ、面倒だからわざわざ指摘はしないけど。
「……分かった。じゃあ先にキルアに会ってよ。オレ達もすぐに追いつくから!」
「はい了解……という訳で、とりあえずよろしく。」
では行きましょうか。その言葉と同時に屋敷へ向かい始めた。
実際は私が道を知らないので追いかける形になっているが、三人の目には同時に消えたように見えたはずだ。今の三人には早すぎた。追いかけようとしたところで、速度の違いがありすぐに見失うだろう。コイツもそれが分かっているはずだ。
そうして会話も特になく進んで行くと、ようやく屋敷が見えてきた。城とまではいかないけど、入るのを少し躊躇うくらいには大きかった。大きくしたところで、移動が面倒だと思うのだけれど。情報が合っていればゾルディック家の人数は九人らしいが……九人に対して使用人の人数おかしくないか。ズラリと並んでいる使用人達を見てそう思った。ここに今休みの奴と、表に出てこない奴を含めて考えると……うん。まあ、暗殺一家だから、常識なんて当てにならない。
「
「……入れ。」
「失礼します。」
使用人に連れられて入ったのは応接室と思われる場所。想像していたよりも快適な空間だ。埃一つなくて、手入れが行き届いている。一つ言うのであれば、廊下と同じように少し薄暗いことだ。この部屋だけ明るくても眩しくて困るから文句はない。
ちょうど空いているソファがあるので、そこに座れということか。現当主が目の前にいることになるから個人的には嫌なんだけど、仕事の話なのでそうも言ってられない。先程から『人探し屋』としか呼ばれてないし。そもそも名前を聞かれたことも、教えたこともないんだけどね。わざわざそうする必要は無かったし。依頼人との関係なんてそんなものだ。
「……下がれ。」
私が座るのとほぼ同時に使用人を退出させた。私はそれを見届けた後、ゆっくり緊張を隠すように笑った。何度かこれまでで依頼をされたことがあるから初対面ではないけれど、余裕がないのはいつになっても変わらない。
「それでは、貴方の話を聞かせて貰っても?」
全くもって私らしくないな、そうは思っていても相手はお客様なのだから仕方ない。こんな口調、仕事以外だったら絶対使わない。違和感を押し込めつつ、相手が口を開くのを待った。
「キルアを暫く外へ出させることにした。」
「?」
良かった、と言うべきなんだろうか。というか何故今その話題をしたんだ。動揺を悟られないように表情は維持したままだ。
「ただ、キキョウが危険だと騒ぐだろう。前に軽く話したときは『せめて護衛をつけるべきだ』と言って聞かなくなった。だが、家の者では見失う可能性があるだろう。」
「……そこで、私ということですか。」
「ああ。」
「少々、『人探し屋』の仕事としては逸脱していますが……」
「報酬は言い値で払おう。」
受けるか、受けないか。ゾルディック家からの依頼なので、断りにくいし、キルアと関わる上での問題はなくなった。キルアと行動を共にすれば多分ゴンもセットで着いてくるが、まあ大丈夫……じゃない。ゴンがヒソカに一発入れるとか言ってた。
急速に頭が冷えていく。腹をくくるしかないかもしれない。
「……その依頼、お受け致しましょう。ただし、条件が一つ。ああ、勿論無理にとは言いません。」
「……何だ?」
「無料でこの依頼を受ける代わりに、ゾルディック家は『人探し屋』を殺害しないこと。それだけで十分です。」
金は個人的には満足出来るくらいに持っている。それに死んだらどうせ何も残らないのだから。本当にもしもに備えての保険だが、安全には過剰なくらいがちょうどいい。まあ安全をとるために
そう思いながら緊張で小さく息を吐き出した。沈黙と視線が辛い。答えるならさっさと答えてくれ。
「分かった。その条件を飲もう。」
こちらとしても度々お前には助かっているからな。
付け加えられた言葉と同時に安堵した。緊張しながらゾルディック家の依頼を受けた過去の私よくやった。心の中で大きくガッツポーズする。勿論顔には全く出さないけど。
「では、依頼としてはキルア、様の護衛ということで間違いありませんね。期限はどのくらいでしょうか?」
「キルアが一度ここに帰って来るまで、だ。」
「この期限中に別の依頼を受けることは大丈夫ですか?」
「ああ、キルアが死ななければお前の好きにしていい。もしもの場合は連絡しろ。」
キルアに様付けするのは違和感がすごい。にしても、結構依頼が緩くて驚いた。死ななければいい、ということなら心理的に楽だ。応答しながら微笑んだ。心の中では顔が引きつってるけど。
♦ ♦ ♦ ♦
それからはトントン拍子に話が進み、とりあえず当主がキルアと話をつけるまで私は別室で待機中だ。早く話を終わらせてくれないだろうか。この屋敷は落ち着かない。それにとても暇だ。
ああ、そういえばあのとき別れてから暫く時間が経過したので、そろそろゴン達が来る頃だろう。というかもう着いていてもおかしくはない。
ぼーっとしつつ時間を潰していると、漸く扉が開いた。私が何かを言うよりも早く、見覚えのある銀の頭がその奥から姿を見せた。青い宝石のような目はちゃんと輝きを取り戻していて、どうやら人形のままではなかったらしい。
ここは素直に祝福しとようか、そう思って口を開き──
「オレ、護衛とか必要ねーから。自分の身くらい自分で守れるよ。」
「はぁ?」
そんな言葉しか出てこなかった。売られた喧嘩はそこまで買わない主義だけど、自分より圧倒的に弱い奴になめられるとカチンとくる。それにこちらだって好きでやっている訳では無い。仕事なんだ。
「ま、そういう訳だから。じゃあ──」
「──私ごときを見抜けないのに、護衛が必要ない?冗談も休み休み言ってよ。」
「?……ってその声?!お前まさかリゼか?!」
「ハイご名答。私がリゼでキルアの護衛だけど?何か文句ある?あるんだったらお前の父親に言って来い。」
「分かった、悪かったからそう睨むなよ……ってそうじゃねぇよ!お前見た目変わりすぎなんだよ!分かるかフツー!」
「髪の色と髪型、あと服装変えただけなんだけど?見てれば分かるでしょ。」
「分かる訳ねぇよ!髪はともかく雰囲気変わりすぎだろ!」
分かれよ。将来苦労するぞ。
大声でそんなくだらないことを言い合っていたら、ゆっくりとだが冷静になれた。キルアも家を出るからなのか中々にテンションが高い。というか普通にうるさい。
互いに落ち着いて、とりあえずゴンのところへ向かおう、ということになった。余程嬉しいのかいつもより足取りが軽いような気がした。多分クラピカとレオリオのことは気にしてないな。
「あ、そういやリゼ、一つ聞きたい事あるんだけど。」
「何?場合によっては黙秘するけど。」
「ハンター試験でゴンがあの
「ああ、あれ。冗談ではないよ。何重もオブラートに包んで言ったから、嘘っぽく聞こえたかもしれないけど、私は別に嘘はついてない。」
「やっぱりかよ。あーあ、道理で違和感感じた訳だ。とんでもなくリゼには似合わねぇ台詞だったから、まさかとは思ってたけどよ。」
「そこまで言う?確かに私も似合わないとは思ってたけど。」
「最初の猫かぶった状態ならまだマシだったかもな。」
「いや、あれずっとやってると息が詰まりそうなんだよ。話しづらかったし、面倒だったからすぐ元に戻したんだけど。」
「あのときキャラ変わったから、驚いて思わずゴンと別人か疑ったんだぜ。まあ、知ってからはこっちの方がしっくりきたけどな。」
何かやたらと話すな。疑問が解けたからか今日はやけに話が進む。
まあ試験のときは意図的に興味がないフリをしたり、考え込んで話を聞いてなかったから、そう感じるのだろうけど。ゴンよりは突拍子のないことを言い出さないので、話すのは楽だったりする。あくまでもゴンよりは、を前提としてるけど。
「まあ、こっちも色々事情があったんだよ。あれは望んでやった事じゃない……っと、あそこじゃない?」
ゴン達の声が聞こえるし、多分あそこだろう。やっぱり本邸の方ではなく、使用人用の建物で待っていたらしい。途端にキルアが目を輝かせて駆け寄った。呆れるほど分かりやすい。
私が楽しそうに話しているキルアの後ろから顔を出すと、三人も私に気づいて最初にクラピカが話しかけてくる。
「良かった、無事だったのか。」
「予想してた通り、仕事の話だったからね。というかゴンはやけにボロボロだけどどうしたの?」
「ああ、ここに来るまでに色々あってな……」
不思議なことに、ゴンだけが怪我をしていた。キルアもいい勝負をしているが、ゴンは特に顔が酷い、街に出たら二度見されそうだ。興味はないので詳しくは聞かないけれども、隣を歩く私の身にもなってほしい。依頼だから仕方ないけど、出来れば一緒にはいたくないな。
未来を憂いつつ一つ溜息をついた。なんか最近溜息の数が増えた気がする。ハンター試験からは特にだ。
♦ ♦ ♦ ♦
「そういやあよ、リゼ。お前はこの後どうすんだよ?」
レオリオがそう聞いてきた。先程からこの後どうするか話していたから、私にも聞こうということだろう。ちなみにゴンは色々したいことはあるが、まずはヒソカに一発入れることを目標にすると言っていた。今のままじゃ絶対無理だと思うけど。面倒なので黙っておく。
とりあえず、そのヒソカはクラピカによると九月一日、ヨークシンに来るらしく、まあこれでヒソカの居場所は分かった。
キルアがゴンと一緒に行動して、となると当然護衛の私は着いて行かなきゃいけない訳で。つまり、九月一日のヨークシンには必ず行くことになった。
そう、なった。なってしまった。
クラピカによると、当日は
……うん。
幻影旅団がヨークシンに来るのは元から予想してた。あいつら盗賊だし、世界最大のオークションに目をつけるのは分かっていた。
でもまさか、私が現地に行くことになるとは予想してなかった。薄々、ゴンがいる時点で嫌な予感はしたけれども。
本当に何故、私は依頼を受けたんだろう。
あのときの私をぶん殴りたい。猛烈に後悔してる。今から『やっぱ無理』なんて断れないし。キルアを死なせたら多分ゾルディック家と鬼ごっこをして、本当の意味で地獄を見るんだろう。どっちに転んでも終わってるんだけど。私が何をしたって言うんだ。いや、何人も殺したし、ろくな人生送ってないから諦めるけど。それでも文句は言う。
「……仕事。もう、非っ常に不服だけれど。」
「仕事?」
「キルアから聞いて。今の私にそんな気力はない。」
キルアの方に顔を向けると、いかにも面倒だという表情をしていた。焦りも一周回って、逆に私の脳内は落ち着いている。でも説明出来る程の知能までは回復してない。今の私には説明は無理だ。
「あー、なんかオレの親父に依頼されたらしいぜ、コイツ。オレの護衛だってさ。」
「……その話のついでだけど、ゴンは依頼した料金払え。」
気力はなくとも、料金の請求くらいはしないといけない。そう思って顔を上げて見れば───
「あ。」
間抜けな顔を晒すゴンがいた。
ふざけんな、ちょっと待て。
「……ねぇ。まさか、忘れてた……とか、言わない?」