「……」
かれこれ数十分以上、無言でリゼはゴンの頭を叩き続けている。メトロノームのように一定のリズムで淡々と。その様子はどことなく不気味だった。先程から周囲の視線が集まっている。
それでも周りが止めないのは、今回の件が全てゴンに非があるからだろう。本人もそれを自覚して、反省中と書いてあるように見える程申し訳なさそうな表情だ。
「……あー、コホン。そろそろ話しかけても良いか?」
「………何。今、コイツの頭をマトモにするのに忙しいんだけど。」
「怖ぇよ!とりあえず落ち着けって。今は無理でも後からゴンに払わせれば良いだろうが。」
「そんなこと分かってる。私はただムカついてるだけ。」
キルアが話しかけても視線を動かそうとしない。そんなリゼとは反対にゴンは救いを見る目をしていた。余程精神的にくるものがあったらしい。何分か前にクラピカとレオリオも気まずそうな顔をして
「まあ、ゴンが話せるんなら好きにしていいけどよ……ゴン聞いてるか?とりあえずこれからどうする?リゼに支払いすんなら金稼がねぇと。というかオレも手持ちがキツい。」
「……うん。」
普段のゴンなら考えられないような、か細い声を出している。まあそれでもリゼの手は止まらないが。
「……天空闘技場。多分そこが効率よく稼げると思う。鍛えるのも同時に出来るから、ヒソカに一発入れたいなら尚更。どうせ今のままじゃ無理なんだから行ってみたら?」
多少棘は残りつつも、返事がきたことに内心安堵するキルア。未だにゴンに怒りの矛先が向いてはいるが、時間がたってそこそこ冷静になってきたらしい。
「天空闘技場?」
「……キルアに聞いて、多分知ってるから。」
「簡単に言うと、勝つと金が貰えて、負けたらなんもなし。というか実物見た方が早えよ。さっさと行こーぜ。」
とは言ってもまだ若干ゴンへの当たりは強いが。それでも無視されなかったことにゴンは安心して、天空闘技場へ歩を進めた。
♦ ♦ ♦ ♦
漸く落ち着いてきた。やっとかよ、と言いたげにキルアが見てくるが、元はと言えばあれはゴンが悪い。依頼だけされて料金を忘れられたら誰だって怒ると思う。
まあ、それは後で支払わせるということに落ち着いた……腹いせとして利息を多めにつけようかな。天空闘技場に行けばどうせ稼ぐだろうし。
天空闘技場。
高いタワーになってて、勝ったら上の階に行ける。勿論負けたら下の階へ。ちなみに上の階に行く程支払われる金が増える。
200階になるとルールはちょっと変わるけど。まあ、要するに闘って勝てば良い。至極単純だ。
「天空闘技場へようこそ。こちらに必要事項をお書き下さい。」
そう言って手渡されたのは一枚の紙。名前、格闘技経験その他諸々を書けば良いらしい。名前か……まあ偽名にしておこう。私はどうせ二人のついでだし。
エリーゼ……エリー?前来たときはどんな名前をつけたんだっけ。多分どうでもよかったから忘れたな。同じ方が都合が良いから思い出すか。
……
……エラ、そうだエラだったな。安直だけどそれでいいかな。
名前の欄に『エラ』、それ以外を雑に書いて提出。これで手続きは終了。手早く済ませられるので嬉しい。
天空闘技場の中に入ると広い空間が広がっている。闘うステージが計16。周りには観客か順番待ちの奴らがいる。汗と血が飛び散り、賭けている観客の怒鳴り声が響く。広いけど、熱気がすごい。不快に感じて顔を顰めてしまうのも仕方ない。
「なつかしいなー、ちっとも変わってねーや。」
「右に同じ。相変わらず騒々しい場所だよ。」
「え?キルアとリゼ来たことあるの?」
キルアは暗殺者──元って言った方が良いかな──だから、幼少期に放り込まれていても分かる。多分200階では戦ってないと思うけど。話を聞いてみると予想通り、親の方針によって6歳の頃に来たらしい。そのときは二年かかったらしいが、まあ6歳なら早い方だろう。
「リゼはいつ来たの?」
「私?私が来たのは約4年前だよ。年齢が二桁になりそうなくらいの頃。あの時はただ単純に金が必要で……200階に入る気はなかったから、程よく負けて勝ってを繰り返してたかな。」
「……ズルくね?」
「頭を使ったと言ってほしいんだけど。」
まあ、キルアに着いて行かないとだから今回はその方法がとれないけど。それに4年前のように、今は金が必要な訳じゃない。
話しているうちにステージが空いた。そろそろアナウンスで番号が呼ばれるかな。ちなみに私は2056番だった。この番号、強くなると呼ばれることもなくなるし気にする必要はない。
「っと、私も行かないと。」
ゴンとキルアが呼ばれたすぐ後に、私も戦うことになった。見た目的に注目されるだろうから、あまり気乗りしない。どうせ気分は関係ないのだけれど。
「嬢ちゃん、なかなか綺麗な面してんじゃねぇか。痛い目見る前にお家に帰ったらどうだい?」
「見た目で判断する暇あったらさっさと仕掛けて来いよ。あ、それとも怖くて動けないの?」
大きい男の顔がみるみる険しくなっていく。これくらいの挑発で青筋たてて疲れないのか。少しその様子が面白かったので「まあ、雑魚だからね。仕方ないか。」と、わざと小馬鹿にした顔で言う。雑魚なのは事実だが、それでも侮っている相手に言われたら怒ってくれるだろう。
「調子に乗ってんじゃねぇよっ!!お前なんざ一瞬でぶちのめしてやる!」
「うるさい、騒がないで。」
どうやって片付けようか。本気でやったらミンチだし、それは服が汚れるので勘弁したい。あと臭いが凄いことになる。仕方ない、面倒だけど生身でやるか。
目の前に迫ってくる拳を屈んで回避。驚いている隙に足払いをして、軽く体制が崩れたので、腹を蹴った。奥へ吹っ飛んで行ったけど、まあ死んではいないだろう。
一拍遅れた大歓声に耳を塞ぐ。確かに見た目的には仕方ないけど。どうやらゴンとキルアも終わったらしく、ゴンは対戦相手を壁にめり込ませ、キルアは手刀で一撃。三人揃って目立ちすぎた気がする。
違った、四人か。私の目線の先には私達以外の子どもがいる。当然そいつの相手も地面に倒れてる。目立つのが私達だけではなくて何よりだ。それにアイツ────まあ、後で分かるか。
「2056番、君は一度来ているね。180階へどうぞ。」
「じゃあ遠慮なく。」
どうせすぐに二人も上がってくるだろう。ちまちま戦うのは面倒だし、こっちの方が簡単だ。多分キルアはゴンと上がるために50階にするだろうけど。護衛?まあ、200階まではキルアの相手になる奴はいないだろう。200階に来るまでは気を張り詰める必要はない。
♦ ♦ ♦ ♦
偶然にも上に上がるエレベーター内で、先程見かけた少年と再会した。周囲に人がいたので降りてから話そう。まあ聞かれて困ることは話さないが。
「押忍!自分ズシといいます!」
「私はエリーゼ、ここでは訳あってエラって名乗ってる。」
「オレ、キルア。」
「オレはゴン。よろしく、ズシ。」
降りてから話しかけると、あちらもこちらのことを覚えていたようだ。歳はゴンとキルアの二人より低くみえる。白い道着を着ているし、押忍と言っていたから、どこかの流派にでも所属しているのだろうか。
「さっきの試合、拝見しました。いやー凄いっすね。」
「何言ってんだよ。お前だって一気にこの階まで来たんだろ?」
「そうそう、いっしょじゃん。」
「いやいや、自分なんてまだまだっす!」
謙虚だ……キルアにも少しくらい見習ってほしい。確かに発展途上だけど、それを自覚して強くなろうとする姿勢は悪くない。
「ちなみに皆さんの流派は何すか?自分は心源流拳法っす。」
「「別にないよな……」」
「えぇっ!」
予想通り。ちなみに心源流拳法はネテロ会長がトップにいたはずだ。
「えっと、エラ?さんは……?」
「あ、私?私も特にないよ。というか誰かに師事したことはないし。」
「ど、独学っすか……それはまた凄いっすね。」
冷や汗をかいているけど、ズシがそう思うのも仕方ないだろう。私は特例で普通だったらそんな方法失敗する。
「ちょっぴり自分ショックっす。やっぱり自分まだまだっす。」
「ズシ!よくやった。」
「師範代!」
名前を呼んで出て来たのはズシの師範代らしいようで、眼鏡をかけていて荒事とは遠い顔をしていた。まあそこそこ実力はあるみたいだけれどね。ただ、少し抜けてる性格らしく、白いシャツがベルトからはみ出していた。
「おや、君は……」
「?ああ、そういうこと……まあ良いや。三人共、私は先にファイトマネー貰って来るから。じゃあ、ズシの師範代も機会があるならまた後で。」
三人が不思議そうな顔をするのを無視して、私はさっさと奥へ進んだ。私の態度であちらも察しただろう。変に呼び止めることはしなかった。三人……いや、ゴンとキルアの二人にはまだ早いことを話されても面倒だ。
「はい、こちらが先程のファイトマネーです。お受け取り下さい。」
ファイトマネーを受け取ったので、もう50階ですることはない。三人に一声かけて180階に行くとしよう。
♦ ♦ ♦ ♦
200階まで上がるのはすぐだった。まあ、二回誰かを吹っ飛ばすだけだし。一日で上がれてしまった。味気ないが、まあ強いよりかは楽で良い。そんなふうに機嫌はそこそこ良かったのだけど、一気に急降下どころか落下させる出来事があった。
「キミもここに来てただなんて♦ボクは運が良いね♥」
「私の運は最悪だ。あと、邪魔だからそこどいて。」
「相変わらず冷たいね♠」
大方ゴンを追って来たのだろう。どこまでもウザイ奴だ。赤い髪が視界の中にちらついて鬱陶しい。ゴンの目的は達成しやすいので良かったが、私にとっては本当面倒くさい。ヒソカがキルアに危害を加えないと良いのだけれど。ゴンはまあ……頑張れ。
「……何の用?」
ヒソカの方に振り向き、できるだけ嫌悪が伝わる声を発した。本当近くにいるだけで気分が悪くなる。本音を言えばさっさと退散したいのだけど、どうやらコイツは一応私に用事があるらしく、逃げられる雰囲気ではなかった。というか逃げたら攻撃されそうで怖い。
「ゴンとキルアに念を教えてくれないかい♣」
「嫌だ。それをして私に何の利点があるの?」
「キミ、キルアの護衛になったらしいね♦それならキルアに強くなってもらうに越したことはないんじゃないかな♥」
「……どこでそれを?前にいたキルアの兄か?」
「御明答♠」
アイツか……まあ、それなら知っていてもおかしくはないな。とりあえずそれは置いておくとして、まずはこの状況をどうにかしよう。私は念を教える気はない。勝手に覚えていてほしい。
「一つ言っておくけれど、私はまともに教える方法を知らない。それに、ここには私以上の適任がいる。お前だって変に育ってほしくはないだろ?」
「ククク、確かにそれは勘弁してほしいなァ♣それに、キミが言うならそうなんだろうね♦」
「分かったならもう着いて来ないでくれる?」
「キミはボクの相手をしてくれないのかい♥見たところまだ試合の日程は決めてないだろ♠」
ゴンとキルアの話が終わったと思ったら次は私か。二人に狙いが定まったと思って安心したけど、そんなことも言ってられなそうだ。
「嫌だ。私は物好きじゃないから、他を当たって。」
「相変わらずつれないなァ♣」
「じゃあ、私はこれで。」
そう言って足早に去った。後ろを見ても追って来る気配はない。さすがにこの場所では仕掛けて来ないとは思っているが、それにしても心臓に悪かった。
私以上の適任とは今日出会ったズシの師範代だ。名前も知らないくらいだから性格なんて知らないが、オーラの雰囲気からしてお人好しな気がしたので問題ないだろう。
とりあえず受付を済ませたので、用意された部屋に少ない荷物を置いて来よう。同じ階にヒソカがいると思うと嫌になる。それでも仕方ないと思って歩いていると──携帯が振動した。
『リゼ、とりあえずこっちに来てくれ。聞きたいことがある。』
メール画面を開いて見えたその文字。どうせこの後は二人の方に行く気だったし、丁度いい。場所は……ああ、近くの宿か。ここからなら5分かからないくらいだろう。
『分かった。すぐ向かう。』
送信っと。
そして私はすっかり暗くなった外へ飛び出した。
♦ ♦ ♦ ♦
ドアを控えめにノックし、返事をする前に開けた。あっちが呼び出したし、礼儀をそこまで気にする奴らでもないので大丈夫だろう。
「あ、リゼ。早かったね。」
「早速本題だけど、何を聞きたいの?」
そう私が尋ねると二人は不思議そうに顔を見合わせた。この会話で疑問を感じるようなことあったか?
「なんつーか、あれだな。」
「?何が?」
「リゼが素直に来るとは思わなくて……」
「ゴンと話してたときも、絶対文句言われる前提だったし。」
私だって文句言わずに来ることだってある。というか実際に来た……ヒソカから離れたいという理由もあるけど。
「二人共、人に物を頼む態度を勉強して来たら?」
「あ、戻った。」
イラっとしたので、頭に手刀を叩き込んだ。横で肩を震わせて笑ってるキルアと一緒に。二人共頭を抱えてのたうち回っている。少しでも反省することを願おう。
「で、聞きたいことは?」
これでくだらないことだったら殴ろう。まあ、わざわざ呼び出したのだから可能性は低いと思うけど。
「『ネン』って知ってるか?」
「……それどこで聞いた?ヒソカじゃないよね?」
さっき、ヒソカと話していた『念』のこと。タイミングが良いのか悪いのか、思わずヒソカが私に聞くように言ったのか勘ぐってしまったが、どうやら違うらしい。
「まずはどういう経緯があったのか。それは説明して。」
「実は───」
キルアの話を聞くと、どうやら私が去った後キルアがズシと対戦したらしい。そして勝ったは良いものの、あまりの打たれ強さに違和感を感じた。そしてズシと師範代──ウィングというらしい──が話していた『ネン』と『レン』。
「なるほどね。」
「こっちは話したよ。今度はリゼの番ね。」
「一つ最初に言うけど、先にズシに聞かなかったの?そっちの方が手っ取り早いでしょ?」
「「あ、」」
「二人揃って忘れてたのか……」
一つ溜息をついて、二人の方を見た。その表情から単純に忘れていたことが分かる。呆れたが、まあ過ぎたことだし後悔しても遅いか。
「じゃあ、これで解決ということで。明日にでも聞いてみれば?」
「今リゼに聞いた方が早いのに?」
「言っておくけど、私は最初から念を教える気はないよ。」
「何でだよ?」
「理由は三つ。一つ、私が独学なので間違ったことを教えても責任が取れないから。二つ、使い方を間違えると取り返しがつかないので、今教えてもリスクが高いから。三つ、面倒くさいから。」
「絶対最後のが一番本音だっただろ……」
そんなことはない……はずだ。面倒なのは事実だけど。誤魔化すように目線を逸らした。
「じゃ、私はもう戻るから。」
もう用事が無くなったのでそろそろ戻ろう。戻ると言っても護衛なのであまり遠くには行けないけど。やっぱり個室が用意される百階以上に早く上がって来てほしい。そうすればこうやって宿をとらずに済むのだから。
キャラの性格ってこんなんだっけ……?
だんだん主人公が面倒としか言わなくなってる……