人探し屋の少女は何を思う   作:旅たまご

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14 ヒソカと脅し

練の修行が終わって……というよりか一日で練を習得されるとズシが落ち込みそうだったので途中で止めさせた。適度な休息も大切だ。

 

「じゃあまた明日。」

 

そう言ってゴンと分かれた。部屋の位置の関係でキルアとエレベーターに入った。途端、互いに目配せをする。どうやら考えていることは同じようだ。

 

「……リゼ、気づいてるよな。」

 

「そりゃもちろん。」

 

あいつら……前に話しかけてきた三人組。一人はゴンが負けた奴。どうやらこちらに試合を受けてほしいらしく、私にも声をかけてきた。閉をしていたから丁度いい雑魚に見えたのだろう。

こちらに利点がないので断ったが、多分諦めていない。狙うとしたらズシ。人質にすればこちらに試合を受けさせられる。

 

「……予想通り。だけど少し遅かったかな。」

 

ズシはもう三人組のうちの二人に気絶させられていた。別に助けられない状況ではないけど……助けなくても良いか。

相手は私たちと試合をしたい。私は天空闘技場のルール上、試合を一定期間しないと天空闘技場にいられない。そして相手は雑魚だ。つまり、互いに利点はある訳で……キルアは微塵もそんなこと思ってないだろうけど。人質の価値は生きているからこそ。だからズシも殺されはしないだろうし。

私はただ黙ってことの成り行きを見守った。変に口を挟んでもややこしいことになりそうだったから。

ゴンとは試合をしない。その条件で話し合いが終わるのにそこまでかからなかった。

 

「約束。破ったら……」

 

おそらく暗殺者だったときの名残りなのだろう。多分キルアは殺す、と言いかけた。

 

「ウィングはどうするの?私はともかく、キルアは試合はするなって言われてたけど。」

 

「大丈夫だって。考えがある。」

 

それなら私が言うことは何もない。私とキルアの日程が被ってるから怪しまれるだろうけど。あとは相手が約束を破る可能性も高いな。三人組の一人がいなかったのも気がかりだ。

 

 

♦ ♦ ♦ ♦

 

 

部屋から廊下に出ると、十数m程先に見知った赤髪がいた。こちらを見つけると口を吊り上げて気持ち悪く笑ってくる。

私が部屋に戻り、扉の鍵を閉めるまで一秒もかからなかったと思う。どんどん気分が降下していくのをよそにノックが響いている。

ウィングの方には遅れて行くと連絡したので、そろそろ覚悟を決めるしかない。

 

「そんなに警戒してもらっても困るな♠」

 

「……今度は何?」

 

「二人の様子を聞きに♥果実がちゃんと育ってるか、確認も必要だろう♦」

 

「自分の目で確認した方が早いと思うんだけど。」

 

「だからこうして見に来ているんじゃないか♣」

 

「私は食用じゃない……」

 

私の返答を聞くとヒソカは面白そうに笑った。ふざけんな。こっちは鳥肌たつくらい嫌だってのに。私もヒソカの玩具の対象なのかと考えると気分が悪くなる。オーラを向けながら睨みつけてやったが、意に返さないところもイラッとする。

 

「とにかく、二人の様子だっけ?何で私がそんなことを教えなきゃいけないの?私に利点はないでしょ。」

 

「ここにいる間、キミとは戦わない♠」

 

「金輪際関わってこなくても良いけど……まあ、それでいい。」

 

二人の様子と言っても、特に何かある訳ではない。何となく伝えるだけではダメだろうか。詳しくとは言われてないので多分良いだろう。一瞬嘘をつこうかとも思ったが、嘘をついても意味はないので止めた。

 

「念の習得に関しては大丈夫。変に育つことは今のところなさそう。ただし、経験不足故かまだぎこちない。まあ、そこらへんは発展途上だから仕方ないとして、初心者だと侮って試合をふっかけてくる奴はいたけど多分、問題はない。このまま行けば、それなりに形にはなる……と思う。アンタが満足するには足りないと思うけど。これ以上聞く?私としては特に話すことはないんだけど。」

 

「ああ、充分だよ♥」

 

戦うのが楽しみだ、と気持ち悪い顔で体を震わせている。だから嫌なんだ、この変態が。これさえなければ……なくてもきっと嫌いだな。人格を変えないとどうにもならないだろう。マトモなヒソカも違和感が半端ないが。

 

「もう良いでしょ。さっさと帰ってよ。」

 

「客人にはお茶くらい出すのが礼儀じゃないのかな♦」

 

「それは客人だったらの話でしょ?」

 

やっとヒソカは帰るらしい。というか部屋のソファに座らせてやっただけでも感謝してほしい。それに私は、お茶を入れたことはない……のか?覚えてる限りなかったはずだ。当然マグカップもティーカップも、その他諸々の道具もここにはある訳がない。

 

「マチもキミもつれないなァ♣」

 

そう言いながらも、ヒソカはソファから立ち上がった。見てみると身長の分、それだけ手足も長い。戦うときはリーチの差がキツいな。

白く大きな手がドアノブを掴んで捻り、ようやく扉を開いた。廊下に出て姿が見えなくなったと思ったら

 

「知ってるかい♠果実は食用以外でも美味しいんだよ♥」

 

去り際に一言残して行った。私はそれに大きく舌打ちを返すことしか出来なかった。

 

 

♦ ♦ ♦ ♦

 

 

コツコツとどこか嬉しそうな足取りで男──ヒソカは歩いた。頭の中で思い浮かべるのは、先程まで自身と対面していたリゼのこと。冷たく睨みつけているその様子を思い返しては、頭の底から湧き出る感情に身を委ねる。

 

(美味しそうだったなァ♦)

 

今の彼女は前よりずっと期待出来るものになった。いや、突然変化したのだ。スイッチが切り替わったように突然。少なくともハンター試験のときは、果実と呼べるほどではなかった。

久々に会うと外面を偽りながらこちらに怯えるばかりで、密かに落胆したのだ。興味を失くしたと言ってもいい。

だが、今は人が変わったように敵意を真っ直ぐぶつけてきた。あれが演技だったとすれば、それはとても恐ろしいことだ。彼女はオーラを操るのに長けているので、有り得ない話ではないが。

 

(念能力、と考えた方がイイのかな♣)

 

思えば、会う度に性格は変わっていたはずだ。臆病、冷静、天然、純粋、辛辣、短気……あまりにも変わりすぎるそれは、念能力と考えれば辻褄があった。多重人格、とも言えるかもしれない。

彼女の念能力は人の居場所が分かるもの、としか認識していなかったが、やはり他にも能力はあるようだ。

何にせよ面倒だとは思う。時と場合によって性格が変わるなら、戦うのにはタイミングが重要だ。期待して裏切られるのは、とても避けたいことだ。

 

(暫く様子を見ておこうか♠)

 

全ては一番美味しくなるときを見極めるため。そしてあわよくば、ゴンとキルアをこちらに来させる餌にしたい。親しい者──リゼと彼らが本当に親しいのかは分からないが──が殺されればきっとこちらを殺す気で挑んでくるはずだから。

 

 

♦ ♦ ♦ ♦

 

 

ズシ達の修行に更に遅れるとか、今はそんなことどうでもいい。そう思って大きめのベットの中に沈んだ。

 

天空闘技場にいる間はとりあえず安全だけど、いつ私もヒソカの玩具として遊ばれるのだろうか。勝ち目は薄いし、そのときが多分私の命日となるんだろうな。

今後ヒソカに会うとすればヨークシンだから……意外と早いな。幻影旅団もいるし、そっちの方に興味が向いてくれたら良いんだけど。そう簡単にいってくれたら苦労しない。

ウィングの方に参加出来ない旨を伝えながら、思考を巡らせる。

幻影旅団の方が私を気に入っているなら、ヒソカを止めてくれる可能性もあるが……その可能性は低いな。私以外にも人を探すことに長けている奴はいるはずだ。私が消えたって特別困りはしないだろう。

 

いざとなったら逃げようかと思ったが、残念ながらキルアの護衛という非常に邪魔なものがある。依頼を受けたことに今更ながら後悔した。

ヨークシンにいる間はヒソカに会わないようにしようかと思ったが、クラピカの方もあった。ヒソカも幻影旅団の一人だし、会わないことは難しいだろう。

 

もういいや。どうせ考えても無駄だ。

諦めて寝ようかと思ったが眠くはない。修行を見に行くほど気力は残ってない。というか今は外に出たくない。だけど何もすることがない。要するに暇なのだ。

……整理でもするか。部屋の隅にある無造作に置かれた本を見て思った。

整理ついでに部屋の掃除もしておくかと思ったが、実はそこまで汚れてない。そもそも私物が少ない。いくつかの服と本くらいだ。多分物欲はあまりない方なんだろう。家にもそこまで家具はないし。

ああ、家は今どうなっているだろうか。ハンター試験のために出て行ってから、一度も帰っていない。多分埃が積もっているだろう。というかキルアの護衛してたら帰れない気がする。まあ、大して重要なものも置いていないし、愛着なんてないからどうなってもいいのだけれど。

 

「暇だ……」

 

呟いて見ても何か変わるはずもなく。一応練を持続させてはいるけど、それ以外にすることがない。念能力の制約上、人の顔を見ていて損はないので、下を歩いている奴の観察でもしようと思ったが、この高さじゃ人の顔もよく見えない。

それでも何となく外を見ていると、ベットの上に置いてた携帯が振動した。依頼か、連絡か。どちらにせよ今の状況じゃ有難い。画面を見るとキルアからの電話だった。

 

「何か問題でも起きた?」

 

『悪いんだけど、昨日話しかけてきた能面野郎が今どこいるか分かるか?』

 

「分かるけど、経緯だけ聞かせてくれない?」

 

『ゴンにも試合ふっかけてきたから、脅すだけだ。』

 

というか受付で部屋を聞いて張り込みしてれば、確実に会える気がする。まあ、言わないけど。更に詳しく聞いて見れば、最初は試合当日に控え室に行くつもりだったが、私が人探し屋だということを思い出して、早いのに越したことはないと連絡したらしい。

 

「なるほど。じゃあ、料金いらないから私もついて行って良い?」

 

『こっちとしては助かるけど、どういう風の吹き回しだ?』

 

「一応護衛っていう立場があるし、能面……サダソだっけ?アイツがいなくなってくれれば、私は不戦勝になれるでしょ。」

 

だから利点はある。と付け加えると、キルアは納得したらしい。

どうせ金には困ってない。それにアイツ程度を探すだけだったら、料金も少ないだろうし。

電話を繋いで持ったまま能力を発動した。

 

「フィンダー、探す対象は──」

 

『フィンダー?何だよそれ?』

 

「今はちょっと黙ってて。」

 

声に出した方が雰囲気があるので言ったら、キルアに聞かれたらしい。後で尋ねてきそうだな。バラしたところで対策が出来ない能力だから、答えても良いのだけど。

 

名前はサダソ。性別は男で念能力者。あとは特に知らない。名前も噂で聞いたくらいだし。

もういいや。一応キルアを待たせているし手早く済ませよう。

 

「キルアの部屋から一階下の、曲がり角を右に……直接案内する方が早いな。とりあえず今からそっち向かうから、ちょっと待ってて。」

 

『オレの場所も分かってんのか?』

 

「調べるの面倒だから教えて。」

 

扉の近くに掛けてあった帽子をひっ掴んで、廊下に出る。ヒソカがいないのは事前に発動していた能力で分かっていた。オーラは減ったが、ヒソカとまた鉢合わせるよりマシだ。

 

 

何分かかかってキルアと合流した後、絶でサダソの部屋に向かう。しなくても問題ない気はするが念の為だ。

音を立てずにドアノブを回して、ゆっくりとドアを開く。幸いサダソは部屋の奥にいるので気づかれなかった。暗殺者だったときの名残りなのかキルアの動きは音が少ない。

 

サダソの姿が少し見えた瞬間、キルアは動いた。後頭部に触れるか触れないかというところまでナイフを近づける。少し息苦しさを感じる程度に練をして威圧しておく。キルアの殺気にも萎縮してるから、冷や汗の量がひどい。

 

キルアがサダソを脅し終わったので私も帰る。サダソが露骨にほっとしたのが分かる。私としては興味はなかったしどうでもいいけど。

 

「ゴンには今日のこと言わなくて良いの?」

 

「いいんだよ。黙っといて。」

 

「なら、そうしとく。」

 

キルアの顔が、どことなく暗く見えたのは気のせいではないはずだ。私には何を言えば良いのか分からなかったから、黙っておくことにした。





主人公のキャラぶれを能力のせいにしていくスタイルです。

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