特質系に作者は憧れています。
サダソの試合は無事不戦勝となったんだが、他二人の相手は終わってなかった。確かギドと……誰か。それぞれ義足と車椅子だったから、200階に来たときに、初めて念で攻撃されたのだろう。
面倒なので気は進まないが、戦うしかないだろう。
まずはギドと戦うことになった。武器の持ち込みは許可されているが、特に持ち込むものはなかった。ギドの方はゴンと戦ったときのようにコマを使うらしいが。
開始早々ギドは回転しながら、能力でコマを操る。と言っても単純な動きしかしてないので脅威ではない。それに、コマより多くのオーラがあれば問題ない。
時々オーラをまとった腕で叩き落としながら避け、回転しているギドの目の前まで行く。
「さてと、どうしようか。」
私の呟きに、手出し出来ないとギドは勘違いをしたようで、ニヤリと笑った……気がする。顔が隠れているので何となくだけど。実際は殴ろうか蹴ろうか迷っただけだ。
足にオーラ集めて腹を蹴れば、何かが折れたような声を出してギドは壁の方まで吹っ飛んだ。勢いよく音をたてて壁にめり込んだと思えば、もう気絶していた。もう少しくらいは耐えると思ったんだけど。
『──エラ選手の勝利です!』
大歓声に包まれる会場から出ると、通路にゴンとキルアがいた。次にギドと戦うであろうゴンは緊張もなく、自信に満ち溢れている顔だ。
「お疲れ様、リゼ。」
そう言うと、手をこちらに向けてきた……たまにはこういうことも良いか、と思って私も手のひらを軽くそれに叩きつけた。所謂ハイタッチだ。
「今度は負けないでよ。また怪我して迷惑かけられるのは勘弁したいから。」
「うん!」
大きく頷いたゴンを尻目に、私はあることを思い返す。蹴ったとき何本か骨が折れたはずのギドは、果たしてゴンと戦えるのかということを。まあ、ここで言うと空気が壊れる気はするので黙秘しておこう。
結局ギドは試合に出た。ゴンに義足を折られたけど、キルアと戦ってこれ以上怪我をするよりかは良い気がする。
ゴンとキルアが残りのリードベルトという奴と戦い、無事勝利を収めたので次は私の番だ。どう戦おうか。私にはキルアのような電気の耐性もないし、ゴンのような方法は警戒されている。
振り回される鞭と迫る車椅子を前に思考を巡らせた。
……ゴンの方法と似てるが仕方ない。思いついたのがこの一つだけだったのだから。ゴンが床を投げるのだったら、私は床を割ろう。
一気に前に飛び出した私を見て、相手は驚いた顔をした。まさかいきなり突っ込んで来るとは思ってなかったんだろう。ギリギリ鞭が届かない範囲で右足にオーラを全て集め、勢いよく床を踏みつけた。
こういうパワー型ではないけど、それでもクレーターは出来た。となれば、近くにいたリードベルトは体制を崩すわけで。車椅子だから尚更。その隙にがら空きだった顔面を思いっきり──と言っても死なない程度にした──殴りつけた。
わざわざ顔にする必要はなかったけど、座ってるから一番顔が殴りやすかったんだ。気絶したリードベルトの血まみれになった顔を見て、私にしては珍しく少しだけ……ほんの少し悪いなと思った。あの様子じゃ歯も何本か、それに鼻の骨も折れてそうだし。とにかく見た目が酷かった。観客も引いてて歓声を上げるどころではない。私としてはうるさくないから良いけど。
♦ ♦ ♦ ♦
試合が終わった数日後、ウィングのところへ集まると、念の四大行と呼ばれるものの最後……発の修行をするらしい。まずは自分の適正を見極める。その方法はいくつかあるけど、一番簡単な水見式だ。
グラスに水を注ぎ、その上に葉を浮かべる。ちなみにウィングは強化系だった……強化系は単純な奴が多いらしいが、まさかウィングも……?
「あ、そうだ。オレ達がやる前にリゼもやってみてよ!」
「……良いけど。どうなるかは私も分からないからね。」
「どういうことだよ?」
「能力の関係上、反応が変わることがこれまでに数回あった。」
「ちなみに、リゼさんの能力は?」
「別に教えても損する訳じゃないし、どうしてもって言うなら後で話す。」
キルアにはフィンダーと言ったのも聞かれているし、変にはぐらかすよりかは大まかに伝えた方が良いだろう。制約の詳細は絶対教えないけど。
そんなことを考えながらグラスに手をやり、その場で練をした。
「見たところ変化してないけど……?」
「もしかして才能ないとか?」
「そんな訳ないでしょ。ちょっと見てて。」
グラスを掴み、そのままひっくり返す。本来なら水が勢いよく落ちるはずだが、私の念で変化した水は溶けた飴のようにゆっくり机に落ちた。要するに、水が粘性になる。どっちかと言うと、飴より接着剤に似ている。一応水だから食べる──飲むと言うのか?──こともできる。喉に張り付くことがあるかもしれないが。
ちなみに私が雨の日に外で練をすると、雨が全部ベタベタするのでとても動きづらい。雨の日は絶対戦闘したくない。
「つまり……リゼさんは特質系すっか。」
「まあ、
「すごいんですけど……これ、どうやって落とせば良いんでしょうか?」
「あ………水だから、実害はない?はず……」
グラスと机にへばりついている水は、私にも取り方は分からない。ウィングの表情は笑ってるが、メガネの奥にある目が笑ってなかった。
そしてどこからか雑巾を取り出し、私を見てきた。これは私が悪いので、大人しく受け取っておく。三人も黙ってその様子を見ていた……気まずいから何か言って。
「……聞きたいのは私の能力、だっけ?」
机を拭いている間、何もしないのは時間の無駄なので、今のうちに先程言っていたことを済ましておこうと思う。
「確か……フィンダーって言ってたよな。」
「人探し屋の名前そのままの能力って言えば分かる?逆に言えばそれだけだから、戦闘には全く向いてない。」
「キルアの家が分かったのも?あのときは何もしてないように見えたけど……」
「念が見えなかったからでしょ。私の能力にエフェクトなんて出ないから。」
発動したことが分かりやすい能力なんて使いづらい……キラキラしたエフェクトなら目くらましになるか?
「反応が変わるのもその能力なの?」
「いや、それは別の。ややこしく言うと……自分を変えられる能力ってところかな。」
「全然わかんないっす……」
まあ、分からないように言ってるし。別にこの能力について説明しても良いんだけど、相手の能力について考えるのも修行だ。面倒だったとか、そういうことではない。
「うーん……リゼ、何かヒントとかない?」
「ヒントはさっき言ったでしょ。水見式の反応を変えられるって。とは言ってもほんの少しだけなんだけど……」
思考するのが苦手なゴンには少し難しいか。今も頭の上に?が浮かんでる。キルアは何となく分かってきそうだ。ズシはゴンよりマシだけど、正解にはたどり着かなそうだ。
三人の様子を見ながら、雑巾を片付ける。綺麗になったグラスは水を入れて葉を浮かべ、机の真ん中に置く。
そういえばウィングが何も言わないけど、私の能力は分かったんだろうか。
「思いついたら答え合わせしてあげるから。とりあえず、三人の水見式始めるよ。」
考え込んでいた三人も、私の言葉で水見式に意識が移ったようだ。あのまま考えていてもゴンあたりは終わらなそうだし。
最初にゴンが水見式をすることになった。結果は何となく予想がつくけど。
「水が増えた?」
やっぱりゴンは強化系だ。
残りの二人も水見式をして、キルアは水の味が変わる変化系、ズシは葉が動く操作系だった。それぞれの反応がより顕著になるように毎日修行をするようにと、ウィングに言われていた。
後片付けが面倒なので、私は気が向いたらにしよう。
部屋までの帰り道。キルアが何か言いたそうだったので横目で盗み見る。多分私の能力についてだろう。
「なあ、リゼ。さっきの話なんだけど、お前の能力って……過去をなかったことにするとか、そういうやつか?」
「まあ微妙に違うけど、おまけで正解。にしてもよく分かったね。正直ここまで早く分かるとは思ってなかった。」
「お前の性格だ。」
「性格……確かに
「そう言うってことは、やっぱ自分の性格を能力で変えてたんだろ。多分それだけのために能力つくった訳じゃないよな?」
「大当たり……少しだけ私の能力について話そうか。」
ゴンには聞かれても伝えるなよ。そう付け加えて言えば、キルアは大きく頷いて肯定した。考えさせることも重要だと分かっているのだろう。
♦ ♦ ♦ ♦
「私の能力は──全てを記憶して、忘れること。」
「……それ、矛盾してねーか?」
「そう言いたいのは分かるんだけど、これには深い訳があってさ。長いから今日は割愛しとくよ。全てを一瞬で覚える……瞬間記憶みたいなのと、それを部分的に忘れる能力。二つでセットになってる。」
語るには時間が全然足りない。それに、教える気は最初からなかった。自分でもたまに無駄だと思うこの能力だが、それでも便利ではある。
「自分の人格形成には幼少期が深く関わってるのは知ってる?もちろん遺伝とかも関係してくるんだけど、私の場合はそれをちょっといじくって部分的に忘れる。すると今までとは違う人格になるって訳。まあ、あくまで私だから本質はそこまで変わらないし、単なる私の考察だけど。」
「念の系統が変わったってのは?」
「才能とか素質とかは生まれ持つものだけど、育った環境によってそれが開花するかは変わるでしょ。私の場合は運良く二つの系統の才能があって、本来ならどちらか一方になるはずだった。」
キルアが暗殺者としての才能を開花出来たのは、ゾルディック家に生まれたから。言葉にはしてないが、充分察したらしい。
「今の私の系統は特質。だけど、能力で具現化にもなれる。ちょうど中間くらいの曖昧な感じにもね。」
「何を具現化すんだよ?」
「そこは秘密。またいつか教えるよ。」
いつになるかは分からないけど、というのは言わないでおく。互いの能力をを把握したいときに言おう。
どうせ知られても弱みにはならないが。それでも隠すのは大切だ。キルアが出ていったのを見て、内心独り言ちる。
だって、私が具現化するのは武器ではない。ただの本だ。私の記憶を詰め込む、というのが初めにくるけど。
『
全てのことを記憶し、具現化した本に記憶を移すことによって、忘れることが出来る能力。最初は本はいらないはずだったが、本を具現化しなければならないという制約で、より細かく忘れられるようになった。
思い出すときには、その記憶が載ってるページを自分で破れば良い。他人が破っても効果はない。ちなみに、どれだけ忘れてページが増えても、見た目は変わらず漫画の単行本くらいの厚さだ。
耐久性は普通の本と同じで、火でも燃えるし、湿気や水でふやけることもある。攻撃には全く使えない。その代わり、オーラを全然消費しない。常時発動してるから、コスパの良さに重きを置いている。
一番最初は、全てのことを記憶するだけの能力だった。ずっと覚えていたい、と無意識に願うことで作り上げてしまったもの。覚えていたいのに、忘れるための能力を後からつくるなんて皮肉なものだ。私は何を覚えていたかったのか、もうそれすらも忘れてしまった。
♦ ♦ ♦ ♦
それから何事もなく時間が経過し、水見式を終えて──掃除が大変なので、という理由で私はやってない──とうとうヒソカとゴンの試合当日になった。修行が大半だったのでとても暇な日々だった。
ゴンが勝利する可能性?ゼロに近いな。ヒソカも油断してるし、一発殴るくらいなら出来そうだ。そんなことを思いつつ、私は観客席に座っている。
結果は目に見えているので、個人的にはわざわざチケット勝ってまで観に来る必要はなかったが、ズシとウィングに誘われたのだから仕方ない。あとはついでにキルアの護衛。
うわ。ヒソカに気づかれた。距離はあるのに何故だ?というかこっちを見て笑うな、ゾッとする。
「リゼさん。あの人とは友人っすか?」
「いやいや、赤の他人。強いて言うなら仕事上での客。それ以上でも以下でもない。」
ヒソカと友人とか有り得ない。勘違いでも困る。玩具とか果実とか、人をそう呼ぶところは百歩譲っていいとして、戦闘狂なのは私的にアウトだ。戦わないことが一番良い。
「一つ思ったんだけど、人探し屋ってそんな需要あるのか?」
「一般的には生き別れた親族だったり、生死不明の知り合いだったりを探す奴がくるけど。裏だと賞金首ハンターとかが依頼するくらい。」
一部団員の収集に依頼してくる奴もいるけど。アイツらはあくまでも例外だ。ヒソカは遊びたい相手を追い詰めるのに依頼してくる。
「だから依頼数はあんまり多くないんだけど、その分値段の方を高くして稼いでるってこと。賞金首なら尚更高いよ。ウィングとズシも探したい人いたら連絡して。」
「は、はい。分かったっす……」
値段が高いのを恐れてる顔だ。ズシ相手にそこまでぼったくりはしないよ。
「大丈夫。相手が賞金首だったり、ゴンみたいに私に案内しろって依頼内容だったりしなきゃ億はいかないから。」
「千万はいくんだな……」
「そこは想像に任せるよ。」
生き別れた親族なら、どんな値段を払ってでも会いたいという事例は多い。私に居場所が探せなかったら料金はとってないので、まだ良心的だと思う。
ようやく開始した試合を眺めつつ雑談を続けていれば、どうやらゴンはヒソカを殴ることが出来たようだ。プレートを差し出している。解説も何が何だか分からないだろうに、それでも仕事をしているのはすごい。私は全く聞いてないけど。
ぼんやりと眺めていれば、そこまで長引かずに試合は終わった。結果は言わずもがな。まあ、怪我が少なくて良かった。
そして、ゴンがヒソカを殴れたということは、天空闘技場を旅立てるということ。つまりはヒソカから離れられるということ。顔には出さないが、心の中でガッツポーズしている。
私がゴンから依頼料をぼったく……もらったので、目的の一つでもあった手持ちの金を増やすのは無理だったが、ハンターライセンスを使えるだろうし大丈夫だろう。多分。
「じゃあ、機会があればまたどこかで。色々ありがとね。」
「オス!こちらこそお世話になったっす!ありがとうございました。」
「……ズシ。」
「何すか?」
勢いよく礼を言うその様子に、つい言葉をこぼした。二人はもう歩き始めてしまっているし、元々言うつもりじゃなかったけど。この際それはいいだろう。
「才能の差ってのは簡単に埋めれるものじゃない。私だって今はこうでも、実力だけならすぐ二人に追い越される。でもズシにはその分多くの時間がある。この歳から念を始めて努力したというのは、大きなアドバンテージになるはずだ。私のキャラじゃないけど……途中で折れるなよ、ズシ。これでも期待はしてるつもりだからさ。」
「ッオス!!」
目を真ん丸にして驚いた後、ズシは勢いよく頭を下げた。思わず短く切られた髪の上に手を置いた。たまにはこんなセリフを言うのもアリだな。
「リゼさん。私からもありがとうございます。私からも声をかけたのですがそれでも落ち込んでいましたから。」
「どういたしまして。ウィングも会えるなら、またどこかで。」
手を振りながら、少し先で私を待っている二人のもとへ走る。
私らしくないことをしたな、とは思う。何となくズシのことを気に入っていたともあるが、多分一つの目標に向かって努力する姿を、昔の私と重ねたのだと思う。ズシのように素直ではなかったけど。
「遅えよ、リゼ。」
「何を話してたの?」
「まあ、色々?」
こういう出会いがあるなら、この旅も良いんじゃないだろうか。そう思いながら私は前を向いた。
主人公がズシ贔屓になった気がしますが、この後出番はないし、なんなら能力で忘れる可能性もあります。
能力を活用して性格と系統が変わるってのも、理論はめちゃくちゃですがあんま気にしないでください。作者はそこまで深く考えてません。