急いで書き上げた結果、やや文字数が少なくなってしまいました。すみません。
ゴン達三人に協力するか否か。
リゼの頭の中では、電話をしてから数時間ほどそれが駆け巡っていた。それで結論が出たかと言うなら、答えはNOだ。ただ時間を無駄にしただけにすぎない。
諦めることにしたリゼは、もういっそコイントスで決めようと、どこからかコインを取り出した。偶然にもそれは、
表が出れば協力、裏が出たら放置。
もしくは旅団に殺されるか、暗殺者に殺されるか、である。勿論失敗すればの話だが、良い場合でもどちらも命は薄くなり、逃亡生活を続ける羽目になるのは変わらない。
ブツブツと唱えながら──傍から見たら完全に不審者である──コインを天井近くまで打ち上げた。自らの予想以上に高く上がったコインに慌てることなく、リゼは無事にキャッチすることができた。
さて、表か……裏か。
手をどけると、自身の未来の方向が決まるソレは、表を上にしてキラキラと輝いていた。
とりあえず今後の身の振り方が決まったのだから、とすぐさまリゼは自室をあとにした。何事も行動は早い段階からしておくべきだ、と昔の勘が訴えていたからだ。
探す対象は誰にするのか。ヨークシンにいる人物の中で、なるべく非戦闘員なのは……
と思考を巡らせながら、三人がいる部屋のドアを開く。寝起きのままの服装で寝癖もそのままだが、本人も三人も気にせずそのことを指摘する人物はここにいない。
「とりあえず、私はアンタ達に協力する。」
だけど、と驚くと同時に喜んだ三人をリゼは手で制した。
「それには幾つか条件がある。」
一つ目。細い人差し指が真っ直ぐたった。
協力するのは団員を探すことまで、捕まえるのは三人で行うこと。戦うのは護衛対象であるキルアか、自身の身に危険が迫ったときだけ。
戦闘面は全く期待するな、と宣言した後、レオリオが反論をしようとしたが、妙に威圧感がある──反論しないように纏うオーラを増やしているだけだ──今のリゼを見て、言葉を飲み込んだ。
二つ目。音でも鳴りそうなほど、ピンと中指──勿論人差し指もたっていて、所謂ピースの状態だ──がたてられる。
自身の念能力の詳細を聞かない、探らないこと。団員には相手の記憶を読み取れる能力者がいる可能性があるため、条件などを教えてしまうのはリスクが高い。
嘘をついて撹乱するのも候補の一つとして思案したが、ゴンやレオリオが確実に混乱するため、その案は一瞬で消えていた。
三つ目。整った形をした薬指がたった。
一応仕事の依頼として扱うので名目上、料金が無い代わりに今回の件は貸し一とする。
「最後に関してはあんまり気にしなくていいよ。口約束みたいなものだし。」
真っ赤な嘘である。この先何かあったときに利用しようとリゼは企んでいた。才能のことを踏まえると、将来どんな未知数な実力になっているか分からないので、貸しを作ることはとても重要だった。
「具体的に貸しってどんなことをすれば返せるの?」
「そうだな……一つ軽い願い事を聞くとか、それとも私が死にそうになったときに助けてくれるだけでいいよ?それだけなら良くない?」
「それのどこがそれだけだよ?リゼの願いで一生こき使われるとかもアリならヤバいだろーが。」
「まだ料金とらない分だけ感謝してよ。本当だったら、用意された賞金よりも高いんだから。」
「賞金が一人につき二十億……それより高いってぼったくりか?」
「人聞きの悪いこと言わないで。私はただ仕事に見合った報酬を貰いたいだけだし。一番分かりやすいのは金でしょ?」
レオリオが吐き捨てた結局世の中金だ、という言葉は決して間違っていなかった。確かに金があれば人間すらも買える場所はある。けれど金があるからといって、安全を買えるかと言われればそれは違う。死ぬときは呆気なく死ぬ。
そのことが分かっているため、リゼは金を道具だと思い、目標にはしていない。それを勘違いして何人も死んだ奴らがいた。決して同じ轍は踏まない。
リゼが優先することは常に生存なのだから。
協力することが決まってから、リゼはまず旅団の情報の中で忘れていることがないかを確認した。誓約故に、何人も実力者を探すのはオーラ消費が激しくそれなりにリスクが伴う。負担を少しでも減らせるように情報を思い出して損はしない。
それから何人か旅団のメンバーを探したが、作業は予想以上に難航した。
旅団を気づかれないように尾行するには、多く人がいる昼間が望ましいが、何故だか人のいない夜に行動しがちで、良いタイミングが見つからなかったためである。そして一人メンバーが殺された後だからか、数人で行動しており、リゼは思わずウボォーギンを殺した相手に悪態をついた。
旅団では買い出しが交代制で行われている。数日間に渡って居場所を探し続けた結果、分かったのはそのことだった。オーラが不足し疲弊した体を椅子に預けて、リゼは何度目かの自嘲を浮かべた。
協力すると言ったので、今更無理だと言うのも『人探し屋』の
オーラを回復させるための絶を緩めることなく、心の中でそっと決意した。決して独自で動いてるゴン達が、上手く金を稼いでいるのが悔しいとか、そんなことではない……のかもしれない。
中々に幼稚じみた思考が浮かぶ様に呆れた彼女を、椅子は優しく受け止めていた。
そのまま眠りに入ってしまうことを、リゼ本人もまだ知らない。
♦ ♦ ♦ ♦
「ほら、あの男と一緒に歩いてる女。違う、その左にいる目付き悪い方の。というかジロジロ視線向けないでよ、バレるでしょ。」
リゼの能力で旅団のメンバーを見つけたは良いものの、ゴンとレオリオの演技の仕方は壊滅的だった。
相手はあの幻影旅団なのだから、自然体にならなければすぐに違和感に気づかれてしまう。そう忠告するが、目の前には不自然に作り笑いを浮かべる二人がいた。単純な二人がそう簡単に表情を取り繕えるわけがない、と分かっていても散々な結果にリゼは溜息をついた。
「出来ないものは仕方ないな。そのために私が動きにくい格好してるわけだし……まあ可愛い女の子に緊張してると解釈してくれればいいけど。」
「お前はなるべく黙ってろよ。話を聞かれたら一発で終わるんだから。」
「……否定出来ないのが悔しい。」
口をムッととがらせるリゼは、緩く編まれた三つ編みと服装も相まって、一般的な少女のようだ。やや粗暴な言葉遣いと目付きの悪ささえなければ。
普段のように言葉を交わす二人に、緊張が激しいレオリオとゴンは目を白黒させた。
「それで尾行出来るの?絶を使っても視線は気づかれやすいのに。」
「絶?念の一種か?」
「ああ、レオリオは知らないんだっけ?」
実演しろ、と目で訴えたリゼにキルアは大人しく従った。色素が抜けるように、存在感が消える。
これくらい上手いなら大丈夫か、と内心でリゼは安堵した。あとはゴンの方だ、と目を向けると同じように絶が出来ており、本人曰くヒソカを尾行したことはあるらしいので、一つ懸念は消えた。
「リゼはオレ達と一緒に尾行するの?」
「いや、数百mくらい後から着いて行くよ。場所は能力で分かるし。」
それくらい離れていた方が仲間だと思われずに済みそうだ、と内心では思っていたが、決して顔にも声にも出さず気取らせない。猫を被ってる頻度が違うんだよ、と内心で呟いたこともだ。
ゴンとキルアはひと足早く尾行に移ったが、纏しか出来ないレオリオとリゼがこの場に取り残される。そして仲睦まじく談笑……する筈がなく、寧ろ気まずい雰囲気が広がっていた。互いのみで話すのは初めてだったからだ。どことなくレオリオの表情はぎこちない。
「そういや、何でリゼは協力することを決めたんだ?有難くはあるんだけどよ。」
「ただのコイントスだよ。個人的にはどうでも良かったからね。」
そうか、とどことなく無愛想な声が聞こえた後、なんでもいいから会話を続けようと今度はリゼが口を開いた。
「逆に聞くけど、何でレオリオはゴン達に協力するの?利点なんて大してないでしょ?」
危険すら付き纏うこの計画に何故協力したのかと念を押して聞くと、レオリオはさも当然だというような顔をした。
「仲間だから、だな。」
「ふーん。まあ世話焼きというかなんというか……」
もしかすると、それが普通の考え方なのだろうか。嫌な疑問が頭を過ぎるのを、目の前にあった飲み物を飲むことで追い払うと、リゼは会話を中断させるように本を具現化させた。
驚いているレオリオをよそに、尾行するための準備を始める。
現在リゼが
ここまで考えた後、大きく溜息をついた。気づかれるのは避けるため、仕方ない。と腹を括ると、意を決したようにリゼは口を開いた。
「この後、私は少しおかしな様子になるけど、何も聞くな。分かった?」
それを聞いたレオリオが頷く暇もなく、
忘れるのは──誰を尾行しているか。
♦ ♦ ♦ ♦
何でレオリオが目の前にいるんだ。ふと思ったのはそのことだった。レオリオはいつものように間抜け面をしていて、不思議な奴だと思ったけれど、私はコイツにかまう暇はない。
早く探し人の対象を尾行しなくてはいけない。
「んだよ。いつも通りのリゼじゃねーか。気をつけて行ってこいよ。」
眉を寄せたと思えば、勝手に納得してる様は奇妙だった。一体すぐ前の私は何を伝えたのか、皆目検討もつかない。
何か理由があって能力を使ったのは分かるが、何を忘れたのかさえ私は知らない。ゴン達に協力して、誰かを尾行する手筈だとは理解しているので、閉を使った。
そういえば、この動作を閉と名付けたのは誰だったんだろうか。オーラが勿体ないし、手間がかかるので思い出しはしない。そもそも大切な情報なら最初から覚えているだろう。
冷静な頭とは裏腹に、外面は機嫌良く歩いている少女のように振舞っているのだから、自分でも演技力に驚くくらいだ。
ただこれを続けるとなると嫌気がさす。もう探す対象すら忘れているのだから、どうせ雑に済ませても大丈夫だろう。
そう思って回り道をした。
と、思ったら探し人の対象同士の場所がグッと近づいて、同じ速度で移動するのが分かった。恐らく計画は失敗だ。
失敗したタイミングで、一番最近に忘れた記憶を取り戻す。と私が考えていたのは覚えているので、すぐさま落し物の探し方を使った。
計画失敗。ここまでは予想通り。旅団はウボォーギンを殺した犯人を探しているのは、前にかかってきた電話で知っている。だから多分捕まった二人がすぐに殺されることはない。というかヒソカが止めてくれる。
私はとりあえず二人が連行される旅団のアジトに行こう。
場所はしっかり覚えているのだから。
移動するための足は……車がないとやや面倒だな。幸い自宅はここから近く、車は何台かある。運転免許は知らない。事故がなければいいんだ。
法律上出せるスピードを無視しつつ、アジトへ向かう。本音を言うなら行きたくはない。それでもキルアが殺されたら私も殺される。暗殺者の手で死ぬのは勘弁だ。
仲間だから、などとレオリオのような腑抜けたことは言わないけど、それもまあ私らしくはある。もう危険でも笑うしかないと、引き攣る頬を無理やり上げた。
誤字脱字報告ありがとうございます。