人探し屋の少女は何を思う   作:旅たまご

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毎回更新遅れててすみません。リアルの方の忙しさが落ち着いてきたので、次回はもう少し早く投稿できると思います。


20 鎖野郎

能力を頼りに移動して、着いた先は廃ビルのようにボロボロになった建物。車は少し離れた場所に停めて来た。

護衛の役割を全うするのなら、間違いなくこの建物に入るのが正解だ。そのことはリゼも分かっていた。けれど、ハイそうですかと入れるほど無謀な人間でもなかった。

数十秒迷って、ようやくリゼは決心した。ちなみに絶を本気でしており、ついでに幻影旅団(クモ)のメンバーが室内にいるゴンに注目していたため、リゼの存在はまだ気づかれていない。それももうすぐ気づかれることになるが。

 

「突然すみません、人探し屋ですけど。子ども二人、まだ生きてます?」

 

能力によって二人が生きていることは知っていたが、確認しないのも変だと思い、口から出た言葉はそれだった。

明るくした口調とともに入ったリゼの目に写ったのは、正に修羅場。真ん中にいるゴンは、小柄な男に腕を捻りあげられている状態で、また別のメンバーと向かい合っているし、キルアはヒソカに首元にトランプを突きつけられている。そしてゴンとキルアを除いた全員が、当然こちらを警戒している。

先日腕相撲をしたシズクと、付き添いをしていた男はリゼの顔を覚えていたらしく、目を少しだけ丸くしている。無視するのも後々面倒かなと思って、リゼは軽く目を合わせ会釈をした。

 

「その声は……リゼ?!」

 

「正解。来ないと思った?なんなら私も来たくなかった。」

 

「……じゃあ何で来たんだアイツ?」

 

「それは勿論仕事だから。」

 

リゼがいる方向を向けない──少しでも動けばまた腕でも折られるかもしれない──状況でも普段のように話せるゴンを見て、名前を呼ばれた本人は軽く引いた。旅団の誰かがこぼした言葉に反応してしまうくらいには混乱している。

 

自身の周りにいる幻影旅団のメンバーを見て、リゼはなんとか笑みを浮かべ、ヒラヒラと無害をアピールするために手を振った。余裕そうに見えるが、心の中は荒れ放題だ。顔に出していないことが奇跡である。

 

「人探し屋……いや、リゼって言ったわね?アンタはコイツらの仲間かしら?」

 

ゴンとキルアをさして話しかけて来たのは、大きく胸元が開いたスーツを着た女。警戒していると分かる視線が突き刺さってくる割には、近づいて肩に手を置くので一瞬リゼは面食らった。

 

「護衛対象と依頼主の間違い……と、言いたいところだけど……一時的な協力関係にあることは認める。」

 

あくまで一時的な、と改めてリゼが念押しすると、女は形のいい目を細めた。射抜くような視線が嫌で、思わずリゼは目を逸らした。

 

「へぇ……あっちの元気なコはそう思ってなかったみたいだけど?」

 

「ああ、まだそんな甘いこと言ってたの?ちゃんと話したと思ったんだけどな。」

 

リゼが嘆くように溜息をつくと、ほんの少しだけ警戒は薄くなった。嘘ではないと判断されたらしい。今度は肩を組まれて、本音を言えば暑苦しくて嫌だったが、初対面で名前も知らないので何とも言えず、ただ相手の目を見ていた。

 

「じゃあ、本当に鎖野郎は探せないんだな?」

 

「……鎖野郎?」

 

「とぼけてんじゃねーよ。ウボォーギンを殺しやがった野郎だ。」

 

今度話しかけて来たのはゴンの目の前にいた男。先日、電話にて話していた男だ。確か名前はノブナガだったはず……とリゼが思考を巡らせた。

そしてこの場で嘘をついたら駄目だということも、冷えた空気から察している。何なら既に殺気を飛ばしているメンバーがいることも確認済だ。その代表例が目の前にいるノブナガだ。

 

「人探し屋としては情けない話だけど、名前を知らない限りは無理だな。それを調べるのは私の仕事じゃないので。」

 

調べるのは旅団の方だと言外に伝えると、とりあえず旅団のメンバーは渋々納得したようだった。そして肩にのせられていた腕も外された。「とりあえずは信用してあげる。」という言葉と共に。

 

「そういうことで、私は仕事しに来ただけなので。そろそろそっちの二人は回収しても大丈夫?」

 

未だ男と対面するゴンと、動けないままのキルアを指さして、リゼは尋ねた。鎖野郎の仲間ではないのなら、捕らえていても仕方ないかと呟く旅団のメンバーを見て、帰れるのかと内心で胸を撫で下ろしていた……が、ノブナガがその希望を打ち砕く。

 

ゴンとキルアを旅団の一員にしようと言い出したのだ。そして、そのために団長に会わせると。

リゼ個人としては、二人が旅団になろうとなるまいと良かったが、護衛対象と依頼主なのだから話は変わってくる。死なれると色々困るので、死なせないなら良いと言って、見張りとなるノブナガに押し付けた。

 

二人は脱走するつもりだと言うのは、はたから見ても明確だった。ゴンに至っては旅団にはなりたくない、と激しく怒りを露わにして完全に拒否していたからだ。

あらかじめ抵抗しないでおけば、後々監視の目が緩むかもしれないのに、と苦言を呈しそうになったが、リゼは空気を読んで黙っていた。それで目をつけられても困るからだ。

二人はノブナガと共に上の階へ。リゼは脱走の手助けをするかもしれないという疑い──決してそんなつもりは本人にはないのだが──から、一階へと放置された。

 

そして数時間後が経過した今……

暇である。

好奇心は猫を殺す……のではなく、退屈こそが人をも殺すものだとリゼは確信していた。

二人が解放されるのを待っている反面、それなりに警戒されているので外に出るという選択肢は選びたくない。けれど暇である。

矛盾した考えがぐるぐるとリゼの頭を巡る。ちなみに旅団はノブナガ除く全員が外へ出ているので話し相手はおらず、ノブナガと二人がいる部屋──空気が張り詰めていると容易に予想される──に入る程の度胸は持ち合わせていない。そもそもほぼ初対面の旅団を話し相手にする──まだヒソカならなんとかなるかもしれない──ような明るい性格でもない。そしてこんな状況で寝られる程、命知らずでもない。

となれば残されているのは思考することのみ。

 

(無謀な脱走とか考えていないといいけど……)

 

当然頭を悩ませるのは二人のこと。

最後に見たキルアの顔は酷いものだったから、アイツなら死んでもゴンを逃がすとか考えていてもおかしくない。とりあえずゴンがキルアを上手いこと止めて、あわよくば脱出してほしい。

 

その考えが全て合っていることをリゼはまだ知らない。

そして二人が無事に階段を駆け下りるのを見るまで、あと数秒。

 

 

♦ ♦ ♦ ♦

 

 

走って逃走しようとする二人を、自身が持つ車に押し込めてホッと安堵したのも束の間、ふとした疑問が頭をもたげる。信号が赤になったのを見計らい、リゼは口を開いた。

 

「ちなみにどうやって脱出したの?見張りがいたのに。」

 

流石に真っ向から倒した訳じゃないはず、と付け足せば、後部座席にいた二人は得意気な笑顔を見せた。

 

「ゼパイルさんに教えてもらったヨコヌキっていう方法でね──」

 

「待って、そのゼパイルさん?誰だっけ……知り合い?」

 

疑問符を浮かべるリゼに、二人は話を掻い摘んで説明した。市場で商品を競り落としていたときに知り合った人物で、競りにおける色々なことを教えてもらったらしい。

 

「ドアを通れないなら、別の方法で出ればいい。」

 

「それで壁を壊して出て来た、と。確かに予想外だったけど、一歩間違えたらリスキーだな……まあ何はともあれ命拾いして良かったね。」

 

金を稼ぐという目標は達成していないが、旅団から逃げることが出来たのだから、とりあえずは安心か。とほぼ独り言のようにリゼが呟いていると、後部座席にいたキルアが不思議そうな顔をした。

 

「実際そうとも限らないんじゃねーの?」

 

不安を煽る台詞に、リゼはまだ見ぬトラブルを予想して固まる。ただし運転は続けながら。とりあえずはその根拠を聞いてみようと、訳が分かっていないゴンと共に尋ねた。

 

「アイツらの言う鎖野郎がクラピカだからだよ。まだ確信は出来てねーけど。リゼは何か知ってるか?」

 

「鎖野郎が……えっと、誰って言った?」

 

「だから、クラピカだよ。」

 

まだ現実逃避でもしているのかと、キルアは呆れつつ言ったが、リゼの理解できないものを見る目を見て、言葉を詰まらせた。ちなみにゴンは鎖野郎がクラピカだという事実に驚いていて、自身の傍で繰り広げられる会話には気づいていない。

そして、リゼの口から衝撃の言葉が発せられる。

 

 

「いや、誰それ?」

 

「!?」

 

目を丸くして驚くゴンとキルアに、何か変なことでも言ったのかとリゼは不機嫌そうに眉をしかめた。

 

「ほら、ハンター試験を一緒に受けてて、金髪の……リゼ、本当に覚えてないの!?ヨークシンで会おうって約束もしたよね?」

 

「ヨークシンで会う約束を私がしたのは、ゴンとキルア、それにレオリオでしょ?」

 

それ以外に誰かいたか……?と悩むリゼを見てゴンとキルアの二人は戸惑い、顔を見合わせた。ただし正確に言えば、キルアはリゼがクラピカのことを忘れている理由に心当たりがあった。

おそらくクラピカが鎖野郎であることをいち早く知り、落し物の探し方によってそのことを忘れた。旅団にクラピカと繋がっていると思われないために。リゼならやりかねない。

 

(ゴンにこのことを伝えるべきか?)

 

一瞬悩み、旅団に情報を与えないことが第一だと、ゴンには悪いが黙っておくことにしたキルア。以前のリゼならば、この配慮を知った段階でそれはもう褒めちぎっていたことだろう。

残念ながら今のリゼはクラピカを忘れているので、そんなことは全く関係なくゴンと会話をしているのだが。

 

「もしかして頭でも打って、それで忘れてるとか?」

 

「いや、そんな簡単に記憶は飛ばないし、そんなヘマもしないよ。それに、それを言うなら二人の妄想って可能性も……?」

 

「絶対ない!レオリオだってクラピカのこと知ってるし、リゼだって同じなはずだよ。」

 

「分かってるよ。さすがに冗談だって。」

 

そして、リゼ自身も何故自分が忘れているかを理解している。その上であえて忘れたまま、無知を貫いているのだ。きっと思い出すべきときになったら思い出すだろうと、キルアは放置することを決めて、やたら真剣に忘れた原因を考える二人の意識をそらす言葉を言った。

 

「そういえばリゼ、お前ってまだ十四だよな?運転免許はどうしたんだ?」

 

「運転なんて勘でいけるよ。まだ事故はしたことないし。」

 

「まだ?」

 

「もし何かあっても、それこそ屋根でも蹴破って脱出すれば大丈夫だ。」

 

不安な顔をする二人を無視して、リゼはアクセルをグッと踏み込んだ。

 

 

♦ ♦ ♦ ♦

 

 

部屋の電気もつけずに隅で足を抱え込むと、ようやく安心出来た気がした。本音を言えば、ずっと神経を張り詰めていて疲れていたのだ。それこそ、レオリオとゼパイルとやらが、私の家で勝手に飲んでいても怒らないくらいには気力がなかった。

幻影旅団の前でこそ明るく振舞っていたが、声が震えていないか、上手く笑えているか、ずっと不安で仕方なかった。猫を被ることに長けていて、本当に良かった。

運転している最中でさえ追手が来るかが心配で、変にテンションが高かったし、ギリギリ二人には気づかれていなかったが、もう少しで事故を起こしそうになった。

極めつけは鎖野郎のこと。ゴンとキルア曰く私の知り合いらしいが、それは以前の私であり、現在の私にとっては全く関係がない……というのは暴論だろうか。

というか、以前の私に問いたい。何故鎖野郎のことを忘れたのかを。さっさと旅団に情報を売れば良かったはずだ。こうやって忘れてしまえば、それこそ庇っていると思われるのに。後始末に困るのは今の私なのだから、そこらへんをもう少し配慮してほしい。

それとも、鎖野郎のことを売ったら死ぬような状況だったのだろうか。旅団の一人を殺すような奴らしいので、その可能性は充分にある。

 

まあどれだけ考えても、以前の私の考えなんて理解出来ないのだけれど。そして考えても状況は変わらないので、とにかくやるしかない。未来を思って、ギュッと手を握りしめた。

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