覚悟を決めたは良いものの、今はこれと言って特にやることも無い。強いて言うのなら、本来の目的である金稼ぎをどうするか、と考えるくらい。と、思っていたら、携帯が振動した。しかも覚えのない番号。
おそらく依頼だろう。それにしても、考えでも読んだようにピッタリなタイミングだ。
『はい、もしもし。こちら人探し屋です。要件をお伝えください。』
『リゼ、私だ。今からノストラード
いや、誰だ?と言いかけた私は悪くないはずだ。誰だって聞き覚えのない声が私だ、と言ってくれば驚きもするだろう。なんなら一瞬詐欺師かと思う。まあ、私が忘れたであろう人物のことは放置して、とりあえずは依頼主の声に耳を傾けた。
『娘を、私の娘を探してくれ!金はいくらでも積んでやる!』
『承りました。娘さんの名前は何でしょうか?』
『ネオン=ノストラード、だ。探せるんだな?!』
『ええ、それは勿論。』
随分と切羽詰まった声が聞こえた。ボソボソと聞き取れない声で話されるよりは良いけれど、少し耳が痛い。
と、思いつつ発動した能力によって思い出した情報が頭を巡る。ノストラード組……百発百中の占いで名を上げているマフィアで、依頼主の慌てようからして、その占いをしているのが娘。もしくは単に親バカなだけか。なんにしても調べていて良かった。
『貴方の北側にある大きなオークション会場の中。移動はしてませんね。四階の東側、奥から二番目の部屋にいます。』
『金はネオンが確認できてからだが、いくら欲しい?先に言っておけ。』
『まあ、初回ですので安くしておきますけど……8000万ほど頂ければ。』
娘が大切ならこれくらいは払えるよな。本当は数億くらいぼったくりたいけれど。そうなると二度と利用しない気がするので自重しよう。その分、次に利用したときに多少色をつけてもらうけど。
『万が一、私が失敗していたときは料金はいりません。ですが、それ以外の場合は必ず指定の口座に振り込みをお願いします。』
『ああ、分かった。』
『……では、次回をお待ちしております。』
淡々と告げると、幾分か落ち着いた声で依頼主が返事をした。娘が生きていたからなのか、それによって自らがマフィアの中を生き残れることなのか、どちらにせよ安心したのに変わりはないだろう。
どこの家でも子どもは大変だな、とキルアを思い浮かべて思った。
そんなことよりオーラの消費が心配だ。旅団を尾行するのに一回、護衛のためにキルア相手に一回、ノブナガが追って来ていないかを調べるのに一回、今の依頼で二回。
結論を言うと、とても疲れた。絶で回復を促しているけれど、それでもまだまだ疲れた。もう一回依頼がきたら倒れるくらいには……と一人で考えていたときにふと疑問が湧いた。
ノブナガが何故私を利用しようとしなかったのか。ゴンとキルアを仲間にしたいのなら、二人が逃げたときに人探し屋である私を使えば、すぐに捕まえられていただろう。
まあ、二人の逃亡の手伝いをしていたのも私だけど。仕方ない、私だって帰りたかったんだ。それに、あのままだとゴンが爆発してトラブルを引き起こしそうだったし、色々な理由が重なったからだ。
で、何で私に依頼が来なかったのか。深追いする気はなかった?……それはノブナガの様子からしてなさそうだった。大分ゴンを気に入っていたし。車がなかったから?有り得るけど、念能力者なら走って追いつけるだろう。外へ逃げていることに気づいていなかった?……ゴンが敵意を素直に表していたから、逃げずに戦うと思われていたのかもしれない。考えついた中ではこれが一番有力だ。
……もう一つ、思い当たる節はある。
人探し屋が不要になった。鎖野郎を探せなかったから、他の私と似たような能力者を利用することにした、となってもおかしい話ではないのだ……実際には、落し物の探し方を使えば鎖野郎を探せるんだけど。
それを知らないなら私はただの約立たずで、用済みになっても仕方ない
どちらにせよ、旅団には暫く会いたくない。そう思いながら瞼を閉じた。
その私の願いが通じたのか、翌日私の耳には旅団が死んだという情報が入ってきた。とても驚いた。一瞬自分の耳を疑ったし、夢かと思った。悩みの種が一つ──そして依頼人が何人か──減ったと安堵したのもつかの間、それがガセネタだと知った。どうやったのかは知らないが、死体の画像も出回っているから本当かと期待したのに。一気に突き落とされた気分だ。
ちなみにそれを知ったのは、私の能力でだ。探し人は制約によって死人は探せない。つまり裏を返せば、
ちなみに私はそのことを誰にも伝えていない。だから……
「旅団が死んだなら、クラピカどうするんだろうな。無気力になってねーといいけど。」
「でも、やっと仲間の眼を集められるでしょ?」
「ま、それもそうか。つーか問題なのはこっちだよな。旅団が減ったってことは、賞金かけられてるターゲットも減ったってことだろ?」
「残りのメンバーを狙えば良いんじゃない?」
ゴンとキルア、ついでにレオリオの三人はその情報を鵜呑みにして、こうして今後について話し合っているわけだ。ちなみに私はことの成り行きを静観している。聞かれない限り、教える気もない。
「クラピカのことも心配だし、一旦集合するか。」
という一声で、どこかに集まることになった。それはそうとして、三人が誰を心配して集まるのかを全く覚えていないから、きっと私は誰かを忘れたんだろう。
♦ ♦ ♦ ♦
『落し物の探し方』はいくつか複雑な制約がある。以前説明したんだっけ?まあいいや。とりあえず、そうでもしないと常に物事を記憶するなんてオーラが足りない。
覚えていないと言ったのもその一つ。私は能力で忘れた物事を記憶できない。言葉で言うと簡単だが、実際色々とややこしい。
たとえば私がゴンを忘れたとしよう。その状態でキルアからゴンという名前や容姿について聞いたとして。それだと私はキルアから話をされた、ということだけを覚えて、話された内容は記憶から抜け落ちる。
それでゴンがその状態の私に話しかけたとして。勿論ゴンの声も顔も全く覚えられないが、話した情報は新しいから記憶出来る。但し誰から話されたのかを忘れたまま。
つまり私が鎖野郎のことをいつまでも鎖野郎と呼ぶのは、二人から聞かされただろう本当の名前を記憶できなかったからだ。
そして、その状態で本人に会うととても面倒なことが起きる。そう、ちょうどこういうふうに。
「で、私の目の前にいるらしい奴は結局誰なんだ?」
「だから、さっきも言った通りクラピカだよ。それがどうかしたの?」
「初対面だから誰か知らないのは当たり前でしょ?というか、名前はなんて言うんだっけ?」
「クラピカだよ、クラピカ!分かるか?つーかお前初対面じゃねーだろーが!」
「何が分かるかって?というか私は誰と初対面だって言ったんだ?この目の前にいる奴か?」
「……キルア、リゼは一体どうしたんだ?」
「知らねーよ……ここに来る途中はこんなんじゃなかった。」
事の発端は数分前。ゴンとキルアが集合場所となった私の家に──広いし移動する必要も無いという理由からだ──例の知人?と連れてきて、三人が話しているの見て私が『誰と話してるんだ?』と、尋ねたことが始まりだった筈だ。
とりあえずはゴンとキルア、レオリオ以外に人がいることは分かった。名前は分からない。見た目はさっき見た筈だが、今はもう忘れた。三人とソイツから見たら私はとても滑稽だろう。
「リゼ、お前の仕事は何だ?」
「勿論人探し屋兼(一応)ハンターだけど……当然どうしたの?」
「ただの確認だよ。やっぱクラピカ以外のことは正常に覚えてるんだよな。」
素直に心配してくれているゴンとレオリオには少し悪いが、暫くはその……誰だっけ、コイツを忘れたままでいようと決めた。旅団の死亡情報の真偽を確かめたから、オーラがやや心もとないのだ。
「誰かの念とか?リゼ、心当たりはある?」
「ないことは無い、くらいかな。」
そう答えると、私の能力を知っているキルアからの冷たい視線が突き刺さった。黙ってろと目で訴えかければ、渋々理解はしてくれたようだ。物分りが良くて助かる。
「そのリゼに能力をかけた人を倒せば、元通りになるの?」
「いや、そうでもない。死後に強まる念ってのもあるし、そもそも候補が多すぎる……」
「じゃあ、お前一生そのままかよ?」
「さあ?とりあえず今はそういうことだから、私のことは別に気にしないでね。」
「……分かった。」
そうして、なんとも言えない空気のまま話は進んだ。
まあきっと、三人の表情を見るに楽しいんだろう。と静かに傍観してると、ゴンが何かを思い出したようにこちらを見てきた。
「リゼ、さっき言ってた死後に強まる念ってどういうこと?……さすがにこれは覚えてるよね?」
「ああ、大丈夫。でも死後に強まる念ってのは名前の通りなだけなんだけど。」
「うーん、クラピカの念の秘密を知るヒントにはならなそうかな?」
「念の秘密?」
「ほら、クラピカはどうやって旅団を倒せたんだろうと思って。」
「は、旅団を倒せた?鎖野郎のこと?」
「鎖野郎って言い方は覚えてるの?!」
「一応、というか今いる奴は鎖野郎なの?私としてはそっちの方が重要なんだけど。」
コクリと頷くゴンは私の驚きが分からなさそうだ。何とも会話が噛み合わないが……そうか、鎖野郎はここにいるのか。旅団に伝えたらどうなるんだろうか。少し気になるが試すのは止めておく。
「本人に直接聞いたら良いんじゃないの?」
「さっき聞いてみたんだけど、リゼの方がよく知ってると思うからって断られちゃった。確か制約と誓約?って言ってたんだけど……?」
「制約と誓約か、ハッキリ言うと今のゴン達が知っても意味ないと思うよ。」
「どうして?」
「制約と誓約は自分自身の能力につけるルールだから。まだ自分の能力も決めてないでしょ?」
私がそう言うとゴンは納得したが、それでも話は聞きたいようで私達以外の三人がいる場所まで引っ張られ、詳しく話してくれと頼まれた。特に急ぎの用事もないので、引き受けても良いだろう。私の説明で理解できるかは知らないが。
「制約と誓約。これは能力の中で、何をしないといけないとか何が出来ないとか、簡単に言うならルールだよ。リスクは大きいけれど、その分能力は強くなる。具体例が欲しいなら、そこにいる……鎖野郎さん?にでも聞いてみて。」
ぎこちなく話をふれば、多分返事をしてくれたと思う。鎖野郎曰く、自身の場合は能力を旅団以外には使えないらしい。これは私にとって初耳だったようでしっかりと記憶出来た。
ベラベラと長く話していて悪いが、この説明が合っているかは保証出来ない。だってこれは、昔に念能力者が話していたのを盗み聞きしただけだし、私にキチンとした師はいない。でも間違っていたら鎖野郎が訂正してくれる筈だから良いか。
なんて気楽に思っていたら、鎖野郎が爆弾となる情報を投下した。
どうやら鎖野郎は制約に自身の命をかけたらしい。つまりは旅団以外に能力を使ったら死ぬ。もう意味は無くなってしまったが、と鎖野郎は呟いた。
旅団が生きてると伝えたらどんな反応をするだろうか。興味が勝って、気づけば口角を上げていた。
「『死体は
その後聞いたのだけど私が放った台詞と、ヒソカが送ってきたメールの文面が一部被ったらしい。偶然とはいえ、言ったことを強く後悔した。
主人公の制約は、書いてて自分も頭がぐちゃぐちゃになったので、深く考えずに雰囲気で読んでもらえるとありがたいです。
また主人公の思考や話など、矛盾したりおかしくなっているかもしれませんが、能力で忘れたからということにしてください。お願いします。