人探し屋の少女は何を思う   作:旅たまご

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クリスマスも年末も吹っ飛ばして新年一発目……にしても遅すぎますね、本当すみません。


22 予言

「はぁ!?賞金が出なくても旅団を倒す?」

 

「リゼは納得出来ないかもしれないけど、それでもオレはアイツらのことが許せない!それにクラピカを手伝いたいんだ。」

 

「それなら仕方ないな……なんてそれで納得する筈ないでしょ。それに許せないって何の話?」

 

私が非難の声をあげているのは前述の通り、賞金が出ないことを承知の上で旅団を倒したいと、ゴンが言ったからだ。

とりあえずまずは理由を聞こうと、私は腕を組んだ。

 

私が旅団のアジトに突入する少し前、ゴンはノブナガと話をしていたらしい。ウボォーギンが死んだことと、殺した鎖野郎のことだ。そのときにノブナガが泣いていて、ゴンはそれが許せなかった。仲間が死んで泣くのなら、その気持ちを何故殺した人達に分けてやれなかったのだ、と思った……というのがゴンの話だ。

まあ、ゴンのような奴がそう思うのは仕方ないだろう。

 

私は、人なんて大抵そんなものだと思うんだけど。だって見知らぬ他人と親しい人、どちらが大切かなんて明白だろう。但し、殺しに身近な環境で生活したからか、一般的には少し歪に見えるのかもしれない。

それを言うと、またゴンと対立しそうだから黙っているが、ゴンの言い分はあまり受け入れられない。

 

「許せないのは分かったけど、それじゃあゲームの方はどうするの?」

 

「それについてはオレに考えがあるんだ。」

 

「考え?」

 

ゴンが自信満々に言うので、ゲームの方はそちらに任せる──本当にその策が通じるかは定かではないが──として。問題なのは、旅団との実力差である。強くなるのも一朝一夕にはいかないし、私も戦闘向きではないので主力は鎖野郎となる。果たしてその状態であの旅団を倒せるだろうか。可能性は低い。

 

「キルア、ゴンのこと止めれる?」

 

「無理に決まってんだろ。クラピカが断ってくんねーかなって思ってたところだ。」

 

「そうだよね……」

 

レオリオは……無理だな。ゴンには聞こえないように、二人して唸るようにして考えていたときに、一通のメールが来た。

 

『人探し屋、不要になったヨ♥』

 

ハートマークつきの連絡なんて送るやつ、一人しかいない。ヒソカだ。まあ内容が忠告だから読むけれど。不要……これはヒソカ単体ではなく、旅団にとって、と解釈すれば良いんだろうか。

とりあえず、久々にまともな連絡だったことに感謝して。それでも貸しが出来てしまったから、後で強者と戦闘する場を整える羽目になるだろう。だから嫌なんだ。

それはともかくヒソカからの情報を鵜呑みにするならば、旅団につくという選択肢は──元々薄かったが──完全に消えた。中立を破ったと解釈されてもおかしくないことをしたので、この行動は予想内だ。それを私が望んでいたかは別として。何だか手のひらの上で転がされるようでイラつくが、もし情報が真実だったときのことを考え、ここで私がとれる選択肢は一つ。

大きく溜息をついて、目の前のゴンと向き合った。

 

「……最初に言った条件はちゃんと覚えてるよね?仕方ないから協力するよ。」

 

喜ぶゴンを一瞥して、私は能力で記憶を少し変えた。鎖野郎……いや、クラピカを思い出して、その能力の制約を忘れた。これで捕まっても私から情報が漏れることはなくなる。まず捕まる気は全くないけれど。

 

 

♦ ♦ ♦ ♦

 

 

先日、ゴン達が訪れた旅団のアジト(仮)にて。先程まで使っていた携帯電話を手のひらで転がして、瓦礫の上にヒソカは口角を吊り上げた。

頭の中を巡るのは、真っ青な髪をした少女のこと。彼女もまた遊びたい玩具の一つである。信頼とも呼べないような薄い情を積み重ね、彼女とヒソカの関係は細く続いている。一方的に嫌われているが、ヒソカにとってそれは大したことではない。

遠くから長く見続けていたから、彼女の少しの変化に気づいた。何も一線を越えた関係を作らない彼女が、少しだけ雰囲気を柔らかくする瞬間があるのだ。どんなに性格が変化しようとも、不変だった筈のそれを変えたのは、ゴンとキルアだった。

 

つまるところ彼女は絆されつつあるのだ。それなら二人を目の前で殺れば、彼女は本気で遊んでくれるだろうか、と……そう思ってその瞬間が来ることに期待していた。ただそれは、彼女が自分自身の気持ちを自覚した後ではないと意味がない。大切な者を奪っても、彼女はすぐに忘れて元(青い果実)に戻ってしまうはずだから。

今はまだ無自覚だろうが、いつか戻れなくなる(忘れられない)くらいの信頼関係を築いたとき、ヒソカはそのときを待ち望んでいる。

 

だから、人探し屋が不要になった、というのもヒソカの真っ赤な嘘である。確かに旅団のメンバーの中で、人探し屋への印象はそこまで良くはない。だが裏社会では、『人探し屋を利用するときは、対象の人物の情報──最低限、名前は必ず──を教えなければならない』というのは暗黙の了解のようになっているため、そもそも旅団は鎖野郎の名前を知らなければどうせ探せないだろう、と最初から期待されていないのである。

ただ、本人がそれを気づいていないだけで。気づいているなら、ダメ元で聞いたノブナガの言葉を本気にするわけがないし、ゴンとキルアと行動してもらうためのヒソカの嘘を鵜呑みにする筈がない。

そうやって自分の望み通りにいっているため、ヒソカは非常に上機嫌である。ただし、数分前の話ではあるが。

 

クロロの奪った能力は百発百中の占いだ。それにより、ヒソカがクラピカと取引していること、そして何よりそう遠くない未来で、人探し屋が旅団の邪魔をする──そうするように仕向けたのはヒソカ自身だが──ことが露見してしまう。そうすれば、すぐに旅団は人探し屋を始末するか、少なくとも妨害しようとするだろう。

それは拙い。どうしようかと思考を巡らせながら、ヒソカは紙に自身の名前を記入した。まだ薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)により、紙面上の占いを書き換えられるのがせめてもの救いだが、それにしても状況は芳しくない。

 

何故ならノブナガの占いには、既に人探し屋のことが書かれていたのだから。

 

『案内人が緋の目を導き

菊が葉もろとも涸れ落ちる

少女の偽りに気をつけろ

彼女もまた鎖に繋がれているのだから』

案内人と少女、どちらも人探し屋のことだろう。どうやら彼女は予定の未来におけるキーパーソンらしい。旅団が段々と真実へ近づくのを聞きながら、ヒソカは改竄した占いをパクノダに手渡した。

『赤目の客が案内人を従えて

貴方に物々交換を持ちかける

客は掟の剣を貴方に差し出して

月達の秘密を攫って行くだろう』

大きな博打だ。クロロが占いの意味に気づかなければ、ヒソカは殺される。全てはクロロと戦うため、そして人探し屋を自分以外に殺されないため。

鎖野郎の掟の剣が刺さっている、という虚偽の占いの真実を暴くのを見て、一層ヒソカの口角が上がった。

 

「──……繋がれている、というところが鍵だな。ただ協力しているなら繋がって、というべきだ。それに『導き』と『従えて』だとニュアンスにやや齟齬が生じる。人探し屋にも掟の剣が刺さっている可能性は高いな。」

 

全てがヒソカの想定通りにいっていることを、旅団はまだ知らない。

 

 

♦ ♦ ♦ ♦

 

 

消去法で協力することを決めた数時間後。私はキルアとともに、もう二度と来ることはないと思っていた旅団のアジトに向かっていた。旅団を見張る監視役に名乗り出たキルアに、私が一応護衛として嫌々ながら着いてきたからだ。

私の能力で旅団が動いているのか分かるのでは?という、最初にレオリオから出された意見も間違ってはいない……が、私が同時に探せるのは二人までだし、対象の人間がオークションを狙って外に出るとも限らないのにも関わらず、それに賭けるのはリスキーなので、実際に確認した方が確実……ということだ。流石に団長であるクロロ(面倒だから敬称略)には能力をかけているけれども、これ以上オーラは消費したくない。

 

雨が降りしきる中、わざわざ濡れるのにも関わらず走って──車だと少し目立ちやすいからだ──到着した……んだが、先日とは違う光景が広がっていた。明らかに廃ビルが増えているのだ。

誰かの能力で増えたものだということは分かるけど、それ故に無闇矢鱈と建物に入ることも出来ない。それに密集しているビルのせいで、遠くから見張るのは難しそうだ。クロロの場所だけは分かるけど、迂闊に近づいて旅団の団員に鉢合わせたら目も当てられない。

八方塞がりでどうしたものかと悩んでいるとき、キルアの携帯が震えた。

 

『もしもし?』

 

スピーカーに切り替えてもらうと、電話の先にいるである奴の声が聞こえた。やや高い気がするので女性だろうか。

まあ会話の内容は割愛する。とりあえず電話をかけてきたのはクラピカの知人、というか仕事仲間で名前はセンリツ。クラピカから頼まれて助っ人として来たらしい。能力なのかは分からないが、とても耳が良い。雨音が響いていても、遠く離れたキルアの言葉を聞き取れるくらいには。

旅団の足音を聞けるので、見ずとも移動したか分かる。とても便利だ。正直私いらないんじゃ?とも思った。

 

「その、センリツ……さん?」

 

『慣れてないならセンリツで良いわよ。』

 

「じゃあお言葉に甘えて。単刀直入に聞くんだけど、足音って最長何m離れて聞こえる?」

 

『雨が降ってるから、明確には分からないけど……二〜三十m離れてても聞こえると思うわ。』

 

「私の能力があるから、それなら多分適度に距離を保ちつつ、尾行ができると思う。詳しく説明するためにもとりあえず合流するのが先かな?」

 

キルアの携帯を少しばかり拝借して、センリツと話をする。

要するに足音でクロロと他の団員がともにいる、ということさえ分かれば私の能力である程度遠くからでも尾行が可能になるということだ。大前提としてクロロが外に出てくることが条件なのだが、多少は尾行が安全に出来ると思う。

というのを合流して話したのだが、その直後に旅団が動き出した。それを伝えるとキルアは確認してくる、と建物を登って行った。だからセンリツと二人きりなのだが、正直言って話すことは特にない。黙って待っているのも気まずいので、自己紹介でもしようか。

 

「クラピカから聞いてるとは思うけど、ちゃんと名乗ってなかったな。私はエリーゼ、普段は人探し屋やってる。一応ハンターだ。あんまり名前は好きじゃないからリゼってよんでくれ。」

 

「分かったわ。さっき言ったと思うけど、私はセンリツ。ミュージックハンターをやってるわ。よろしくね。」

 

「こちらこそよろしく。」

 

真面目に返事をしてくる姿に好感が持てた。そしてまだキルアは帰って来ない。迷ってたりはしないよな?互いに口を開いたり閉じたりしているうちに目が合った。

 

「……何で名前が嫌いなのか、聞いても良いかしら?」

 

「笑い話にもならないくらい、つまらないけど?」

 

「大丈夫よ。」

 

特に隠している訳でもないが、本当に大した話でもない。それに理由のうち一つは忘れてしまったから、話せるのはもう一つの方だけだ。と念押ししてもセンリツの意思は変わらなかった。

 

「『エリーゼのために』……ミュージックハンターをやってるなら、私よりも詳しいか?どっかの誰か(ベートーヴェン)がつくった名曲。まあ、つまりはそれと名前が被ってるんだが……実際のところ、エリーゼは単なる間違いで、本当はテレーゼのためにという題名だ、と言われている。そうでしょ?」

 

「確かにその説が一番有力だけれど……」

 

「実際にそのエリーゼって奴がいたのかは知らないし、もしいたとしてもソイツと私は同じじゃない。馬鹿な考えだとは自分でも分かってるんだけどさ。自分()名前(存在)が間違いだった、なんてムカつくだろ?」

 

要するに気に食わないだけだが、それでも嫌いになる理由としては充分だ。予想以上に話が早く終わってしまったので、もう一つの理由を話せれば良いんだが、そちらは思い出さない方が良いと私の記憶が訴えかけてくる。それに──

 

「──キルア、いつまで盗み聞きするつもりだ?」

 

「げ、バレてる。」

 

建物の影から身を出すキルアの頭を叩いた。中々良い音がする。

 

「多分センリツには黙っておくように頼んだんだろうけど、無駄だよ。気配はなくても視線は感じる。というかそんな暇あったら報告してよ、対象がもう移動してるだろ!」

 

旅団の団員がクロロ(対象)と別々で行動していたとしても、私には気づけない。そう伝えながら三人とも違和感がない程度に急いで旅団を追った。





占いの文を考える時点で、作者の頭はこんがらがりました。
ああいう詩を上手くつくるってどうやるんでしょうか。

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