面白いって何だ……!と考えて迷走した結果がこれです。ギャグセンスが欲しい。
黒のコートに、これまた黒い髪をオールバックにして、額には逆十字の刺青を入れた男。耳には大きめのピアスをつけて、遠目から分かる顔の良さ……まあ怖くて正面からは見れないけれど。
そのクロロと他の旅団のメンバーを先程から尾行しているが、心境は荒れまくりで、なんなら同じ電車で揺られている私の頭は、緊張で約立たずに成り下がっている気がした。
閉を完璧に行って、そこらへんの一般人に溶け込んでいる自信はあるが、如何せんこの髪色は普段から目立つものだから、いつバレるかとてもヒヤヒヤしている。帽子の中に押し込めてはいるけど、無難な茶色に染めれば良かった。
そんなことを考えながら駅のホームに降りて、そのままゆっくり追っていく。気づかれている素振りはない。現段階ではとても順調に事が進んでいる。
そう、順調に進んでいたはずなんだがな……
何故こうも後先考えない人間が多いのか。特にクラピカ。旅団相手に多対一で勝てるわけでもないのに、旅団を追っかけて走ってしまった。ついでにゴンもクラピカを追って。たとえ能力が旅団特効にしてもさすがに無謀すぎでは、と思った私は悪くないはずだ。
そしてバレた、と思ったときにはもう遅く、旅団の六人は二手に分かれ、一方は目的地へ、もう一方は私達尾行者に向き合った。咄嗟に二人は隠れたけど、それも見透かされていて、私はまだ距離があるので状況は未だ悪い。
ただ、一番拙いのはクラピカ……つまりは鎖野郎のことが露見すること。キルアがクラピカの代わりに姿を現したのを見て、思わずその場でガッツポーズした。旅団を追っていたのが、ゴンとキルアだけであると勘違いさせているのだ。護衛──ある意味保護者とも言うのか?──の私がいないことに旅団は疑問を抱いていたが、まあ良しとしよう。
まただ、二人の安否は確認しないといけないので、会話を聞けるであろうセンリツに尋ねた。
「……大丈夫。捕まってはいるけれど、二人に危害は加えないみたいだわ。」
「ま、とりあえずは一安心ってところかな。」
この先どうなるかは分からないので危険な状況ではあるけど、少し心に余裕はもてそうだ。
にしても……
「クラピカ、今の状況は分かってる?」
「……ああ。私の失態で二人が身代わりになった。」
「それを分かってるなら、私からは何も言わないよ。せいぜい私の分を含めてセンリツに叱られるといい。」
クラピカは前よりか冷静に動けるようになったが、今回は感情を優先してしまった。本人もそのことは分かっているらしく、多少の怒りはあれど今すぐ旅団のもとに飛び出すことはなさそうだ。
そしてタイミングが悪いのか良いのかは分からないが、携帯が音を立てて振動した。電話だ。ちなみに知らない番号。何だかここ最近仕事の話が多い気がする。
「もしもし、こちらは人探──」
『前置きはいい!依頼だ。人探し屋、鎖野郎を今度こそ探してもらうぜ。』
ノブナガの声が聞こえたときに、すぐさまスピーカーに切り替えたので鎖野郎という単語がクラピカにも聞こえた筈だ。念の文字──指に纏わせているオーラを文字の形に変化させたもの、中々に難しい──で旅団だというのも伝えた。
そしてノブナガに応答しつつも、文字で指示を出す。同時並行でやるのは中々に難しいので、鏡に映したみたいになってしまうのは許してほしい。
「……ということは、名前が分かったんですね。」
(。るすにとこたっあに撃襲 ろしをリフる殴を私)
翻訳としては『私を殴るフリをしろ 襲撃にあったことにする』だ。クラピカが戸惑っているが、それはとても読みにくい文字に対してか、指示に対してか。前者だったら謝る。ただし心の中で。
『ああ、名前は──』
(早く!)
強く訴えかけると、漸く拳が飛んできた。その勢いに合わせて後ろへ強く飛ぶと、建物のガラスを突き破るのが分かった。空中で一回転して着地をすると、どうやら洋服店だったらしく、白いマネキンが近くに倒れている。
クラピカの拳と私の腕──勿論念でガードはした──がぶつかった音。ガラスが割れた音。この二つはバッチリ向こうに届いただろう。
そして何より店員の悲鳴、わざわざ殴られたのはこのためだ。私が自分で殴って壁やガラスを破壊するだけでは、音に違和感が出てしまう。
ちなみに携帯は途中で手放し、床に激突させた。バキバキにヒビが入っているが、辛うじてノイズ混じりのノブナガらしき声が聞こえた。半壊したそれを、私が割った窓から入ってきたクラピカが踏みつけて壊した。
「これで相手が勘違いしてくれると嬉しいんだけどね。」
「リゼ、それはいいんだが……」
「どしたの?」
「この店はどうするんだ?」
クラピカの言葉にあたりを見渡した。窓ガラスの破片が散乱した床と、近くには倒れた商品とマネキン。極めつけは怯える店員と客。腰を抜かしてる奴もいる。確かに酷い有様だ。
「今は時間がないから、とりあえず後で必ず弁償するよ。」
弁償にはさすがにハンターライセンスは使えないと思うし、財布にそんな何十万も入れてない。そう伝えながら荒れ果てた店を後にした。
というかヒソカ曰く、私は旅団にとって不要になったらしいのだが、つい先程の依頼は何だ。気が変わったか、ヒソカの嘘か。まあ、後で考えよう。
そして、急いで旅団と連れて行かれた二人を、途中で合流したレオリオとの四人で追っている最中、ふと思いついたことがあった。
「クラピカの名前はどこから旅団にバレたか知ってる?」
「記憶を探れる能力者が向こうにいるなら、おそらく私の同僚だろう。」
「同僚……だとすればクラピカの顔も知られているよな。それなら──」
「待て待て二人とも!オレにも分かるように説明してくれ!」
レオリオの言うことは尤もなのだが、旅団関係で神経をすり減らした私にはいささか面倒だ。分かりやすく面倒な顔を作りながらも、渋々口を開いた。
「ちょっと前に旅団が、鎖野郎の名前が分かるから探してくれって私のもとに電話をかけてきた。センリツが聞いていたけど、声の調子は嘘をついている雰囲気ではなかった。つまりは、クラピカの名前がどっかからバレてて、それがクラピカの同僚じゃないかって話をしていた。ここまでは良い?」
「ああ、分かったんだけどよ、リゼにかかった電話は、リゼにとったら客からの依頼だろ?断って良かったのか?」
「上手く誤魔化したから、私が暫く姿を見せない限りは大丈夫。まあ、携帯は壊れたけど。」
それはもう見事に粉砕させたので、データの復旧は無理そうだ。これを機に店を閉じてもいいかもしれない、と半ば冗談で考えるたら、意外にも良い案な気がした。その方が面倒事は確実に減るし……とりあえずそれは保留して、話を再開した。
「そして私に一つ思いついたことがある。旅団の注意を引き付けて、ゴン達を連れ戻せるかもしれない。上手くいく確率は……高い気はする。多分ね。」
「その言葉を聞くと不安が拭えないんだけど……本当に大丈夫かしら?」
三人は揃いも揃って呆れているが、自分でも名案だとは思うものを思いついたから安心してほしい。ただ、私のリスクが大きいという点を除いて。それで、と話を切り出すと、三人が注目するのが分かった。
「クラピカの同僚の記憶が探られたと仮定したとき、クラピカの顔は知られていると思う。」
「ああ、その可能性は高いだろうな。」
「そして、旅団の中にクラピカを恨んでいる奴は何人かいるでしょ。少なからずそいつらは、クラピカの外見を仲間から伝えられているだろうね。」
「そいつらがどうしたんだよ?勿体ぶらずにさっさと話せって。」
「分かったよ。つまり、クラピカの変装をして旅団の前に現れたら、注目は引き付けられるんじゃないってこと。」
三人はまた揃って沈黙した。それもそのはず。この中にクラピカに変装出来るやつは、体格的に私しかいない。そして旅団を刺激するようなものなのだから、変装役には多少なりとも危険が付きまとう。そのことが分かっているから三人とも黙った。
「却下だ。リゼの負担が大きすぎる。」
「いや、まだ話は終わってないけど。それに思いついただけで実行するとも言ってないし。」
「は?」
「いや「は?」じゃなくて、私一人で旅団を相手に出来るわけないでしょ。そんなことしたくないし。あくまで作戦の一つってだけで……というかこれ以外の案ないの?」
「……そうだよな、リゼはこういうやつだよな!やけに協力的だったから驚いたぜ。」
「そうだね、レオリオはこういう失礼なやつだったね。」
気軽に笑っていたレオリオを睨んでいると、隣でクラピカとセンリツが笑っていて、何だか怒る気力がなくなった気がする。
私だって時には危険な役を引き受けることだってある。今回はキルアが危険な状況というのも理由の一つだが。十人と少しの人数である旅団と、使用人含めて何十人──何百人の間違いか?──のゾルディック家でいえば、前者の方が逃げ回れる気がする。きっと。
笑う三人を見つつ、自分の未来を憂いてため息をついた。
♦ ♦ ♦ ♦
作戦決行の時が近づく。旅団はホテルのロビーにいるらしく、ゴンとキルアの無事も確認した……センリツが。襲撃に合った設定の私(変装前)の姿も見られると不味いので仕方がないことだ。
金髪のウィッグを被り、目には茶色のカラーコンタクトを入れて、色々体型を調整しつつクラピカから貸してもらった服──民族衣装のようなもので、何枚か予備があるらしい──を着る。
鏡に映った顔は、遠目からなら違和感には気づかれないくらいだ。鎖はないが、まあ大丈夫だと信じたい。要はそれっぽく見せられればいいのだから。
作戦は、クラピカの格好をした私が旅団の前に現れたとほぼ同時に、センリツがホテルの電気を落として、その一瞬で旅団の団長であるクロロをクラピカが攫い、その後人質交換を行うらしい。
私は現れて余裕があるなら攻撃する。ただそれだけのことだが、意外とこれが難しい。なにせ私は戦闘向きじゃない。
ゴンとキルアに停電のタイミングをレオリオが暗号で伝える……自衛の手段がない分、一番危険なのはレオリオなのでは?
まあそれは置いといて、停電のタイミングは七時ピッタリ。そして今は六時五十九分四十秒。やたらめったら時間が経つのが速い。心臓がおかしくなりそうだ。
残り五秒。四、三、二、一、
「(ゼロ!!)」
「ッ鎖野郎!?」
本日二回目、窓ガラスを破った先にいたノブナガが刀を抜いたとき、一瞬にして光がなくなった。
暗闇に対応する前に、全力でノブナガを殴って吹き飛ばす。数mは先の壁に勢いよくぶつかったのだから、脳震盪くらいは起こしていてくれ。
驚きながらも旅団を攻撃するゴンとキルアを視界の端で捉えながら、近くにいた小さい男──相手が被っているフードで顔も見えないので、性別は確かではない──を蹴り飛ばす。が、さすがに念で軽く防御されてしまった。
小さく舌打ちをして、私の姿を旅団が見ていることを確認しながら、私は逃走した。
去り際につけられた針──おそらく追跡用──を近くに歩いていた一般人につけたのは、少し悪いなと思った。別に恨みがあったわけじゃないが、どうか暫く囮になってくれ。
そうしてなんとか全力で逃げ果せた。何故か追っ手も来なかったので傷一つない。ちなみに変装は続行中だ。
それはいいんだが……とてもいい事なんだが。しかし、攫ってきたクロロを車内に入れるのはやめてくれ。とても狭いし、近くにいるだけで威圧感があるから、本当にやめてほしい。
視線でそう訴えたのだが、私の願いは届かず、寧ろ隣に座っている。
どうか大人しくしてくれますように。心の中でそう願った私を乗せて、車は目的地へ走り出した。